乱交パーティー出禁の男

眠りん

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三章

二十一話 聞けない命令

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 数日後。近隣の二大学の試験期間が終了した。
 慰労会という事で、翠は大学のイベントサークルの飲み会に出席していた。
 それは伊吹の大学や、近隣の他大学も含めたインカレサークルでの飲みで、二十人が集まった。

 翠は学内に友達がいない。それはサークル内でも同じだ。最初に声を掛けられたものの、伊吹に近付く事に必死で、適当な返答をしていたところ、気付いたら空気扱いになっていたのだ。

 伊吹を見ると、以前と同じように女子に囲まれて酒を飲んでいた。その中には翠と喧嘩に発展した坂本夏鈴もおり、目が合うとバチバチと睨み合った。

 伊吹にも近寄れず、一人寂しくウーロン茶をちびちびと飲む。
 早く終わらないかなと憂鬱な気分になっていると、急に伊吹が立ち上がり、女子達に「ちょっとごめん」と謝りながら翠の近くまで来て、隣に座った。
 酔っぱらいが絡んできた。

「すーい! お前、何一人で飲んでんだよ? 友達いねーの?」

「……いませんよ。俺、嫌われ者なんですよ。昔から、人に好かれる事はほとんどありませんでしたから」

「よっし! じゃあ今日は、俺がぁ、友達の作り方ってもんを教えてやんよぉ」

「伊吹さん、飲み過ぎですよ!」

「そんな飲んでねぇよぉ! なぁ、君……なんだっけ……あ、佐藤君だ。ねぇ佐藤君!」

 伊吹が翠の隣に座っている男に声を掛けた。翠の大学の先輩にあたるが、翠は彼の名前を覚えていない。

「篠君。どうしたの?」

「ウチの翠が友達いないって、寂しそうにしてんだ。コイツ空気読めねーし、会話成り立たねぇ時あるし、全然周り見ないし、強引で、自己中なところあるけど、可愛いところあるし、イイ奴だから遊んでやってよ」

「伊吹さん、短所多すぎやしませんかね?
 ……すみません、伊吹さん酔ってるみたいで」

「いえいえ。確か、柳川君だよね? 一年の」

「はい。ちょっと人見知りなところがあって、克服したくて飲みサーに入ったのですが……やっぱり性格を直すなんて難しいですね」

 翠は面倒になって適当に流したが、佐藤は爽やかな笑顔を翠に向けた。

「それが柳川君の個性なんだよ、無理に変える必要ないと思うな。
 ねぇ、皆! 一年の柳川君が皆と友達になりたいって!」

 ワイワイした雰囲気のメンバーが翠を興味津々な目で見て、色々と話しかけてくる。
 対応に困惑している間に、伊吹はまた元の席に戻って会話を始めてしまった。
 翠は渋々自分と同じ大学の同期のメンバーとの会話に参加する事に。
 やはりこういう雰囲気は苦手だ。伊吹に近付く目的は果たせたし、もう辞めようか……と思った時だった。

 坂本が酔った勢いで伊吹の腕に絡みついていたのだ。伊吹も気にした様子もなく、仲良さげに話している。
 前に伊吹が夏鈴の告白を断り、普通の友達に戻ったと聞いているのに……。

「伊吹さんっ!」

 頭に血が上っている。分かっているが、止められず、同期のメンバーとの会話を無理に中断して伊吹の隣へと向かい、腕を引っ張った。
 夏鈴から引き離す。

「坂本さん、前も言いましたよね? 伊吹さんに近寄らないでください!」

「はぁ~? ウザッ! なんなの、コイツ? ねーぇ、篠はなんでコイツと付き合ってるの~?」

 酔っているのは夏鈴も同じらしい。苛立ちを隠さずに伊吹に詰め寄った。近くにいる者達にはやり取りが聞こえてしまっている。好奇の目が向けられた。

「えへへ。翠ってこんなだけど、可愛いところあるんだよ。それに……へへっ。可愛いから付き合ってるの。あはは」

「ねぇ、可愛いしか言ってないよ? てゆーか全然可愛げなくない?」

「俺の前だと可愛いところ見せてくれんだよ。なっ、翠!」

「伊吹さん……飲み過ぎです」

「翠は俺の初恋の人だから」

「伊吹さん! これ以上言わないで下さいよ!」

 翠は伊吹の口を手で塞いだ。周りが興味津々に翠に質問を投げかけてくる。

「二人って付き合ってるの?」

「嘘~! 篠君の事狙ってたのに! 男同士!?」

「いつから?」

「どっちから告白したの?」

 矢継ぎ早に質問をされると、翠は困ってしまう。夏鈴が見下すような嘲笑を翠に向けてきた。

「ほら柳川君。答えてあげなよ。良かったね? 友達いっぱい出来るね?」

「こんの……」

 怒りで震える。もう限界だった。嫌いな夏鈴と顔を合わせるのも、伊吹が夏鈴に触れられるのも。
 瑞希は百歩譲って、伊吹が大事にしている人で、翠にも深い繋がりがあるのでまだ許せる。
 だが夏鈴は別だ。

「俺たち、帰ります!」

 参加費は既に払っている。酔ってフラフラになっている伊吹の手を引き、飲み屋を出て行ったのだった。

 伊吹はされるがままに引っ張られている。酔いは深いようで足元がおぼつかない。
 小石に足を引っ掛けて転んでしまった。だが、伊吹は何も声をあげずにゴロンと前に転がった。
 翠も巻き込まれてよろける。

 地面に突っ伏して寝ようとしてしまった伊吹の身体を起こして、伊吹の右腕を肩に回して支えて歩く。
 どうにか伊吹も翠に合わせて足を交互に前に出した。

「伊吹さん、俺怒ってます」

「……坂本の事?」

「いーえ! 坂本さんもそうですが。軽率な行動が多いですよね。サークル、辞めてもらっていいですか?」

「そんな……なんで?」

 伊吹の声がワントーン低くなる。酔っていても悲しい事は分かるようだ。

「ていうか、なんであんなサークルに入ってるんです? イベントの企画した事あるんですか!?」

「春は花見したりぃ……夏休みに山行ったりぃ……文化祭で模擬店出したりぃ……皆で子供達が遊べるようなゲームも考案したっけ。冬はスキーかスケート行ったりぃ……色々楽しい」

「でも三年で引退しますよね? 少し引退が早くなるくらいいいじゃないですか?」

「あと少しだから、文化祭までいたいよ~。そしたら終わりなんだし」

「俺が嫌だって言ったら、辞めてもらえますか?」

 伊吹の足が止まる。少し酔いが醒めたようだ。顔は赤いままで、目も虚ろなままだが、真面目な顔をしている。

「それは、命令?」

 酔っ払いのはっきりとしない口調だが、翠には真剣な話だと気付く。

「伊吹さん……俺があなたの主人になったら、この命令、聞いてもらえますか?」

「うーんと。翠がご主人様なら仕方ない。本当は残りたいのに無理に辞めさせられてぇ、後悔が残る事に対して、俺の心は傷付くと思うけど、その痛みで気持ち良くイけると思う。

 今翠と主従契約は交わしてないし。翠の命令を聞く理由が……ないよなぁ。プレイ中でもないし。
 辞めさせるのにちゃんと理由さえあえば、仕方なくだけど、頷くんじゃないかなぁ。
 でも、不快に感じたら主従契約を交わしてたとしても契約破棄する。

 辞めろって言ってきたのがもし瑞希なら、プレイ後に辞めなくていいよ、伊吹の心を傷付けて、気持ち良くイかせただけだよ、って言ってくれるだろうなって思う。
 瑞希に辞めろって言われたら俺は百ぱー断れない。
 それを分かってるから、瑞希は無茶な命令は絶対しないの。だから信頼関係が成り立ってるんだよね。……ひっく。

 あっ、だからって今の翠にプレイ中にそんな命令されても頷かない。瑞希以外で俺のプライベートの事まで命令してくるご主人様はこっちから願い下げ。
 翠を大好きなのは変わらないし、ずーっと愛せる自信あるから恋人としてこのまま付き合うけど、SMの信頼関係はなくなる。もう翠とはSMプレイしたくなくなる。

 普通のエッチならいいけど、そん時はお前が受けな。
 理解出来た? あはは~。ごめん、酔ってて上手く言えたか分かんない」

 伊吹はまだボーッとした状態だが、呂律が上手く回らないながらも、一生懸命説明したという態度だ。

「分かりました。すみません、出しゃばり過ぎました」

「いいよいいよ。翠は俺の事になると必死で可愛いよな。そういうとこ、好きぃ」

 伊吹が翠の腕に絡んで寄りかかるように歩き出す。翠も伊吹の速さに合わせて歩き出した。
 そして電車に乗って移動し、ラブピーチに着いた。店長に伊吹を預けてから翠は自宅へと帰った。

 今回の件で理解した。瑞希がどれ程伊吹の心を支配しているか。
 伊吹と主従関係になったところで、無茶を通せば伊吹に嫌われる。

 瑞希とそこまで深い関係になったのは、瑞希へした事への罪悪感からだろう。
 それならば、伊吹が翠に対して取り返しのつかない過ちを犯せば……。

「二人の間に何が起こったのか聞いて、同等の罪を背負わせれば伊吹さんは俺に逆らえなくなる……か?」

 ブツブツと呟き、暗い夜道を歩いた。その姿は異様な変質者のようであり、すれ違う人から奇異の目を向けられていた。

 そんな時、翠のスマホに着信音が鳴った。ダークサイドへと落ちかけていた翠の意識が現実に引き戻される。
 着信画面を見た翠は少し目を丸くした。

「……瑞希さん?」



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※諸事情により、二日に一話投稿から不定期投稿になります。
 ちょっと小説書いてる場合じゃなくなってしまって……(>_<;)
 亀進行になるかと思いますが今後もよろしくお願い致します。
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