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三章
十一話 見てこなかったもの
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翠は電車に乗ってラブピーチの最寄り駅で降りた。もう時刻は二十一時だ。遊んでいる若者がガヤガヤと街中を彷徨いている。
そんな喧騒は視界にも入っていないかのように、翠はラブピーチへと走り出した。伊吹との電話の奥でかすかに聞こえた翠を呼ぶ声。
あれは兄の声に似ているような気がした。
周りも見ずに走っていたからか、すれ違う人とぶつかった。ドンッと身体の半分が重なるようにぶつかり、翠はバランスを崩してよろける。
その時、腕を掴まれて体勢を立て直した。咄嗟に相手に謝る。
「すみません」
「こちらこそ、前が見えていなかったもので……」
と、お互いの目が合った。
「……兄さん」
「翠っ……!」
ぶつかった相手は柊だった。焦燥の色を顔に浮かべ、何やら慌てた様子だ。
このような様子の兄を見るのは初めてだ。翠は驚きのあまり声も出せずにまじまじと柊を見つめた。
「翠。私は今後一切お前に近寄らない。父さんと母さんにも、お前に近付くなと念を押しておく」
「い、いきなり何だよ?」
急な心変わりに翠は戸惑いを隠せない。だが、兄が変わった原因が何か、瞬時に理解出来た。ここに戻ってきたのは間違いではなかったのだ。
「とにかく! お前が家に戻りたいと思ったらいつでも歓迎はするが、冠婚葬祭以外では関わらない。
好きなだけ底辺の生き方でもすればいい」
「……底辺って、そういう兄さんは何だよ!? 自分は大学首席卒業で、一流企業勤めで、人生勝ち組のつもりだろうけどな!
俺なんかほぼ毎日好きな人と一緒にいられるんだ! 兄さんの何百倍も幸せなんだからな! 俺の方が勝ち組だっ!」
堂々と宣言すると、柊がポカンと口を開いた。そして、何かを思案した後に首を傾げた。
「幸せ……?」
「そうだよ。人生は幸せだって思えなきゃ負け組なんだからな。兄さんはそういうの分かってなさそうだから……最後に教えとくよ」
だが、柊はよく分かっていないような様子だ。両親から刷り込まれた「幸福」の概念が、翠とは違う。
柊は自分が幸せな部類であると認識しているのだろうが、翠からはそうは見えない。
両親に反抗した事すらなく、ただ言いなりになっている。どんなに社会的地位が高くてもそれは幸せとは呼べないだろう。
「よく分からないが……弟から何かを教わるなんてな。俺も落ちぶれたものだ」
「落ちた先でしか見えないものもあるよ。兄さんはもっと周りを見るべきだ。きっと見過ごしていた事の方が多いと思う」
「そうかもしれない。ずっと大事な弟を見放していた。お前を気にしていたが、親を気にして助ける事が出来なかった。
もっと周りを見れば、違ったのかもしれない」
翠は目をパチクリと瞬かせた。今まで会話する事自体がなかった為、本当のところ柊の性格はよく知らない。
何を思って、どう生きてきたのか、知らない事の方が多過ぎる。
「俺の事、本当は気にしてくれてたの?」
「多少は」
「兄さんとちゃんと会話するのって何気に初めてだよな。少しでいいから兄さんとちゃんと話がしたい」
「すまないが、もう出来ない。そういう決まりだ。私と今会って話した事は、あの、篠伊吹には絶対に……絶対に言わないでくれないか?」
「なんで?」
「詳しくは言えない。もしバレたら困るんだ。兄からの最後の頼みだ、言う通りにして欲しい」
「ふーん? 兄さんが俺に頼み事なんてな。槍でも降るんじゃないか?
いいよ、絶対に口外しないって約束する」
「助かる。では、私は行く。元気でな」
「うん。兄さんも、元気で」
去っていく柊の背を見つめた。今までは感情表現を一切せず、翠が両親から受ける虐待も静観していた兄に、何の興味も関心も持てなかった。
憑き物が落ちたように清々しい顔をしている柊ならば、少しは歩み寄ってもいいのではないかと思えたのだった。
その後、翠はすぐにラブピーチに戻った。受付には、見知ったスタッフが座っていた。
出る時に会釈をした覚えはあるので、翠が戻ってきたら驚くかもしれない。
(確か、高橋さんだっけ)
高橋は翠を見ると驚いた顔をした。
「あれ、翠さん? 帰ったんじゃ?」
「ちょっと、さっき伊吹さんとの電話で変なところがあって」
「へっ、変? 変って何がですかね? 伊吹さんは変なのが普通かな~って思わなくもないですよ~あはは」
高橋の様子も少しおかしい。
「あの、俺の兄が迷惑かけていたらすみません」
「いえ。迷惑じゃないですよ」
翠が事情を知っていると判断したのか、高橋は安心したようで翠に笑いかけた。
「伊吹さん、七階にいますか?」
「はい。あ、でも今は……。上に通していいか聞きますね、待合所でお待ちください」
「分かりました」
高橋が電話の受話器を持ったところで、翠は待合所に移動し、ソファーに座った。
半透明の仕切りがあり、他の客の存在を気にせず待てるのだ。雑誌等も置いてあるので読みながら待てる。
高橋はすぐに翠を呼びに来た。
「翠さん、入っていいそうです」
「ありがとうございます」
翠はエレベーターに乗り、七階へと向かった。小さな廊下があり、三歩程進めば部屋の扉がある。
コンコンとノックをするが、扉が分厚いのであまり中にノック音が響いている気がしない。
ゆっくりと扉を開いて、愛する人の名を呼んだ。
「伊吹さん」
「……あ、翠……あっ」
ブブブブ……という激しいバイブ音と、伊吹の艶やかな声に、ただならぬ様子を感じた翠は、身を躍らせるように一気に部屋に突入した。
「伊吹さん、どうしたんですか!?」
翠は唖然とした。伊吹は全裸でベッドの上に横になっており、ベッドヘッドから繋がれた紐が伊吹の首に括られていた。
自分で調整はしているのだろうが、首を絞めながら自慰行為に及んでいるようだった。
伊吹の男性器は天井に向かって、大きく勃ちあがっている。その鈴口に、電マを擦り付けていたが、翠の顔を見るとスイッチを止めた。
「何やってるんですか!?」
「オナニー」
「下手したら死にますよ」
翠は慌てて伊吹の首から紐を外した。首には紐が擦れた跡が赤く腫れている。
「こんな俺の事、翠はどう思う?」
「どんな伊吹さんも綺麗で、素敵で、愛しいですが……、さすがにアホかと思いますよ」
「アホ……それだけ?」
「破天荒だとは思ってましたけど」
「違くてぇ……こんな俺、頭悪くて、最低で、ふしだらで、情けないでしょ? 低劣な人間以下の存在だと思わない?」
翠はギョッとした。やはり柊と何かあったのだと確信する。低劣という言葉は両親がよく使う単語だ。
「あの家は低劣だからその子供に関わるな」「そんな成績だとお前も低劣な人間になるぞ」と何度も言われた事を思い出す。
それは柊も同じように言われていた事だ。
「そこまで思いませんよ」
「分かってない! 翠は分かってない。いじめて、もっと罵倒して、俺を……この世で一番憎んでる人だと思って、罵詈雑言をぶつけてくれよ!」
「それは俺には無理ですよ! あぁ、なんとなく理解しました。伊吹さんを憎んでいた瑞希さんから、どうして距離を置いたり、許してもらおうとしていなかったのか……伊吹さん、瑞希さんからの言葉責め、楽しんでいたんでしょう?」
きっとそうでなければ納得がいかない。瑞希と和解するまでの伊吹は、瑞希に利用されてその結果死んだとしても本望という様子だった。
それがドM根性からきていたとすれば、全て納得がいく。
「うん。瑞希に嫌われてるの、怖かったけど、気持ち良かった。今は、もう……本気の憎悪は向けてもらえない」
翠が悲しんでいる伊吹の頭を撫でると、伊吹がガバッと翠の腰にしがみつくように抱きついた。
「瑞希さんが少し哀れに思えてきましたよ。そこまで言うなら、伊吹さんの嫌いなプレイをしましょうか」
「翠の意地悪。俺の恋人なら俺を気持ち良くさせろよ。いじめて、身体も心も痛くしろよ!」
「いえ、俺の好きに伊吹さんを甘やかします」
「は? それなんて拷問だよ?」
「そもそもっ! 初のSMショーで、成功したら俺が好きなプレイしていいって言ったんですよ! 好きにさせてもらいますから!」
一ヶ月以上前の話である。翠と伊吹と瑞希で初めてSMショーをやる二日前。
その頃は二日に一回、SMショーの練習がある日に翠は伊吹と身体の関係を持っていたのだが、本番二日前、忙しそうな伊吹が性行為をしない代わりと言わんばかりに「無事成功したらお前の好きなプレイをしていいし」と言っていたのだ。
だが、その約束は伊吹が刺傷させられた事件により、忘れ去られていた。
翠はしつこく覚えており、機会を窺っていたのである。
「そ、そんな事言ったか?」
「言いました! 絶対言いました! 今から瑞希さんに確認の電話してもいいんですよ?」
「その時瑞希もいたのか……」
「はい! 伊吹さんはホテルの責任者なんですよね? その割に発言は軽率なものが多いと思うんですよ。
自分の発言に責任持つべきじゃないんですか?」
「そういう責め方はやめてくれ。善処するから」
伊吹でも責任を求められるのは頭が痛くなるようだ。右手で額を押さえて嫌そうに顔を顰めた。
「なら、迅速果断にお願いします」
「あぁもう分かったよ! 約束だからな! 俺を好きにしていい。但し、我を失うなよ! 俺も止められる保証はないんだからな」
翠は両手に拳を作って頷いた。自分を見失わないようにすると誓って。
そんな喧騒は視界にも入っていないかのように、翠はラブピーチへと走り出した。伊吹との電話の奥でかすかに聞こえた翠を呼ぶ声。
あれは兄の声に似ているような気がした。
周りも見ずに走っていたからか、すれ違う人とぶつかった。ドンッと身体の半分が重なるようにぶつかり、翠はバランスを崩してよろける。
その時、腕を掴まれて体勢を立て直した。咄嗟に相手に謝る。
「すみません」
「こちらこそ、前が見えていなかったもので……」
と、お互いの目が合った。
「……兄さん」
「翠っ……!」
ぶつかった相手は柊だった。焦燥の色を顔に浮かべ、何やら慌てた様子だ。
このような様子の兄を見るのは初めてだ。翠は驚きのあまり声も出せずにまじまじと柊を見つめた。
「翠。私は今後一切お前に近寄らない。父さんと母さんにも、お前に近付くなと念を押しておく」
「い、いきなり何だよ?」
急な心変わりに翠は戸惑いを隠せない。だが、兄が変わった原因が何か、瞬時に理解出来た。ここに戻ってきたのは間違いではなかったのだ。
「とにかく! お前が家に戻りたいと思ったらいつでも歓迎はするが、冠婚葬祭以外では関わらない。
好きなだけ底辺の生き方でもすればいい」
「……底辺って、そういう兄さんは何だよ!? 自分は大学首席卒業で、一流企業勤めで、人生勝ち組のつもりだろうけどな!
俺なんかほぼ毎日好きな人と一緒にいられるんだ! 兄さんの何百倍も幸せなんだからな! 俺の方が勝ち組だっ!」
堂々と宣言すると、柊がポカンと口を開いた。そして、何かを思案した後に首を傾げた。
「幸せ……?」
「そうだよ。人生は幸せだって思えなきゃ負け組なんだからな。兄さんはそういうの分かってなさそうだから……最後に教えとくよ」
だが、柊はよく分かっていないような様子だ。両親から刷り込まれた「幸福」の概念が、翠とは違う。
柊は自分が幸せな部類であると認識しているのだろうが、翠からはそうは見えない。
両親に反抗した事すらなく、ただ言いなりになっている。どんなに社会的地位が高くてもそれは幸せとは呼べないだろう。
「よく分からないが……弟から何かを教わるなんてな。俺も落ちぶれたものだ」
「落ちた先でしか見えないものもあるよ。兄さんはもっと周りを見るべきだ。きっと見過ごしていた事の方が多いと思う」
「そうかもしれない。ずっと大事な弟を見放していた。お前を気にしていたが、親を気にして助ける事が出来なかった。
もっと周りを見れば、違ったのかもしれない」
翠は目をパチクリと瞬かせた。今まで会話する事自体がなかった為、本当のところ柊の性格はよく知らない。
何を思って、どう生きてきたのか、知らない事の方が多過ぎる。
「俺の事、本当は気にしてくれてたの?」
「多少は」
「兄さんとちゃんと会話するのって何気に初めてだよな。少しでいいから兄さんとちゃんと話がしたい」
「すまないが、もう出来ない。そういう決まりだ。私と今会って話した事は、あの、篠伊吹には絶対に……絶対に言わないでくれないか?」
「なんで?」
「詳しくは言えない。もしバレたら困るんだ。兄からの最後の頼みだ、言う通りにして欲しい」
「ふーん? 兄さんが俺に頼み事なんてな。槍でも降るんじゃないか?
いいよ、絶対に口外しないって約束する」
「助かる。では、私は行く。元気でな」
「うん。兄さんも、元気で」
去っていく柊の背を見つめた。今までは感情表現を一切せず、翠が両親から受ける虐待も静観していた兄に、何の興味も関心も持てなかった。
憑き物が落ちたように清々しい顔をしている柊ならば、少しは歩み寄ってもいいのではないかと思えたのだった。
その後、翠はすぐにラブピーチに戻った。受付には、見知ったスタッフが座っていた。
出る時に会釈をした覚えはあるので、翠が戻ってきたら驚くかもしれない。
(確か、高橋さんだっけ)
高橋は翠を見ると驚いた顔をした。
「あれ、翠さん? 帰ったんじゃ?」
「ちょっと、さっき伊吹さんとの電話で変なところがあって」
「へっ、変? 変って何がですかね? 伊吹さんは変なのが普通かな~って思わなくもないですよ~あはは」
高橋の様子も少しおかしい。
「あの、俺の兄が迷惑かけていたらすみません」
「いえ。迷惑じゃないですよ」
翠が事情を知っていると判断したのか、高橋は安心したようで翠に笑いかけた。
「伊吹さん、七階にいますか?」
「はい。あ、でも今は……。上に通していいか聞きますね、待合所でお待ちください」
「分かりました」
高橋が電話の受話器を持ったところで、翠は待合所に移動し、ソファーに座った。
半透明の仕切りがあり、他の客の存在を気にせず待てるのだ。雑誌等も置いてあるので読みながら待てる。
高橋はすぐに翠を呼びに来た。
「翠さん、入っていいそうです」
「ありがとうございます」
翠はエレベーターに乗り、七階へと向かった。小さな廊下があり、三歩程進めば部屋の扉がある。
コンコンとノックをするが、扉が分厚いのであまり中にノック音が響いている気がしない。
ゆっくりと扉を開いて、愛する人の名を呼んだ。
「伊吹さん」
「……あ、翠……あっ」
ブブブブ……という激しいバイブ音と、伊吹の艶やかな声に、ただならぬ様子を感じた翠は、身を躍らせるように一気に部屋に突入した。
「伊吹さん、どうしたんですか!?」
翠は唖然とした。伊吹は全裸でベッドの上に横になっており、ベッドヘッドから繋がれた紐が伊吹の首に括られていた。
自分で調整はしているのだろうが、首を絞めながら自慰行為に及んでいるようだった。
伊吹の男性器は天井に向かって、大きく勃ちあがっている。その鈴口に、電マを擦り付けていたが、翠の顔を見るとスイッチを止めた。
「何やってるんですか!?」
「オナニー」
「下手したら死にますよ」
翠は慌てて伊吹の首から紐を外した。首には紐が擦れた跡が赤く腫れている。
「こんな俺の事、翠はどう思う?」
「どんな伊吹さんも綺麗で、素敵で、愛しいですが……、さすがにアホかと思いますよ」
「アホ……それだけ?」
「破天荒だとは思ってましたけど」
「違くてぇ……こんな俺、頭悪くて、最低で、ふしだらで、情けないでしょ? 低劣な人間以下の存在だと思わない?」
翠はギョッとした。やはり柊と何かあったのだと確信する。低劣という言葉は両親がよく使う単語だ。
「あの家は低劣だからその子供に関わるな」「そんな成績だとお前も低劣な人間になるぞ」と何度も言われた事を思い出す。
それは柊も同じように言われていた事だ。
「そこまで思いませんよ」
「分かってない! 翠は分かってない。いじめて、もっと罵倒して、俺を……この世で一番憎んでる人だと思って、罵詈雑言をぶつけてくれよ!」
「それは俺には無理ですよ! あぁ、なんとなく理解しました。伊吹さんを憎んでいた瑞希さんから、どうして距離を置いたり、許してもらおうとしていなかったのか……伊吹さん、瑞希さんからの言葉責め、楽しんでいたんでしょう?」
きっとそうでなければ納得がいかない。瑞希と和解するまでの伊吹は、瑞希に利用されてその結果死んだとしても本望という様子だった。
それがドM根性からきていたとすれば、全て納得がいく。
「うん。瑞希に嫌われてるの、怖かったけど、気持ち良かった。今は、もう……本気の憎悪は向けてもらえない」
翠が悲しんでいる伊吹の頭を撫でると、伊吹がガバッと翠の腰にしがみつくように抱きついた。
「瑞希さんが少し哀れに思えてきましたよ。そこまで言うなら、伊吹さんの嫌いなプレイをしましょうか」
「翠の意地悪。俺の恋人なら俺を気持ち良くさせろよ。いじめて、身体も心も痛くしろよ!」
「いえ、俺の好きに伊吹さんを甘やかします」
「は? それなんて拷問だよ?」
「そもそもっ! 初のSMショーで、成功したら俺が好きなプレイしていいって言ったんですよ! 好きにさせてもらいますから!」
一ヶ月以上前の話である。翠と伊吹と瑞希で初めてSMショーをやる二日前。
その頃は二日に一回、SMショーの練習がある日に翠は伊吹と身体の関係を持っていたのだが、本番二日前、忙しそうな伊吹が性行為をしない代わりと言わんばかりに「無事成功したらお前の好きなプレイをしていいし」と言っていたのだ。
だが、その約束は伊吹が刺傷させられた事件により、忘れ去られていた。
翠はしつこく覚えており、機会を窺っていたのである。
「そ、そんな事言ったか?」
「言いました! 絶対言いました! 今から瑞希さんに確認の電話してもいいんですよ?」
「その時瑞希もいたのか……」
「はい! 伊吹さんはホテルの責任者なんですよね? その割に発言は軽率なものが多いと思うんですよ。
自分の発言に責任持つべきじゃないんですか?」
「そういう責め方はやめてくれ。善処するから」
伊吹でも責任を求められるのは頭が痛くなるようだ。右手で額を押さえて嫌そうに顔を顰めた。
「なら、迅速果断にお願いします」
「あぁもう分かったよ! 約束だからな! 俺を好きにしていい。但し、我を失うなよ! 俺も止められる保証はないんだからな」
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