乱交パーティー出禁の男

眠りん

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三章

十話 翠の為

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 伊吹は脅迫中に店長に無理を言って制作させた書類を、柊の前に置いた小さな机の上に広げた。
 柊は意気消沈した様子で、全裸のまま拘束されていた椅子に座っている。
 両手足の拘束は解かれたが、柊は四肢の力を抜いてだらんと放り出している。
 
「では柊君。この書類に住所の記入とサインをしていただけますか? 印鑑なんて無いでしょうから拇印でいいですよ」

 書類には、契約書タイトルと約束事の内容が記されている。

 柳川家から翠への物理的接近及び重要な内容でない場合のメールや電話等での接触は今後一切禁止する旨。

 翠の学費と生活費は伊吹が負担する旨。

 冠婚葬祭等の止むを得ない場合以外で翠が望んで柳川家に戻った場合この契約書は無効とする旨。

 伊吹はこの件を口外しない旨。

 契約違反した場合一億円の罰金を相手に支払う旨。

 これらが、仰々しく記載されている。
 既にホテルの住所記載の上、伊吹の署名と捺印は済んでいる。

「あ、これ契約書なので、ちゃんと読んでくださいね。エリートの柊君ならお分かりですよね?」

「くっ……この……外道が……。あなたに有利な内容ではないか」

「そんな事ないですよ。寧ろ俺の方が厳しいくらいです。
 ちゃんとコピーをお渡ししますから、ご両親にもきちんと見せて下さいね。翠君の今後を話し合わないといけませんから。
 距離を置いていただく限り、金銭面をご両親に頼るのは筋違いなので、俺が責任を持って翠を養います」

「私は同意していないが。なんだこの罰金が一億円というのは?」

「だって、あんまり低い数字だと、罰金支払って翠を無理矢理連れて帰りそうな勢いじゃないですか。
 俺が契約違反した場合あなた方に支払う事になるので、条件はイーブンですよ。
 同意しなければさっきの続きをするまでです」

 伊吹はニヤニヤと嘲笑いながら、再度スーツケースを開いて大人の玩具一式を見せた。
 それだけで柊の身体はビクリと揺らぐ。

「ただで済むと思うなよ」

 柊は嫌々ながらも契約書に署名と拇印を押した。それでもまだ柊の目は反抗的だ。まだ希望があるとでも言いたいようだが、その希望は伊吹が打ち砕く。

「あぁ、もしかして。柊君の上着のポケットに入ってたボイスレコーダーの事言ってます? これを証拠に弁護士にでも頼るつもりでしたか? 残念、中身は全て削除済みです」

「……なっ、なんで……」

「あなた程のエリートが何の準備もなく乗り込んでくるわけない事くらい俺でも分かりますよ。
 でも柊君は、俺が底辺大学通いで、低俗なホテルを経営する低劣な人間だと思って油断していたから、こんな簡素な準備しかしてこなかったんですよね?」

「クッ……下劣な人間が……。お前は人間ですらない、理解の及ばない未知の宇宙人みたいだ。普通の人間と意思疎通が出来るのが不思議なくらいだ」

「ふふっ……あなたから見ればそうなんでしょうね?」

 低レベルの罵倒だ。伊吹は嬉しそうに笑っているので、まるでダメージを与えていないように見える。
 柊の眉間には深く皺が寄った。

「この、異常者が!」

「頑張ってるところ悪いんですけど、その罵倒は俺が喜ぶだけですよ。あー、やっぱり翠のお兄様だけあって良いですね。良い。その言葉責め……心が感じます」

「はぁ?」

「酷い事いっぱい言われて、胸がズキズキ痛むんですよ。気持ちいい……気持ちいいです。もっと痛みを下さい」

 存在を否定され、理解の出来ない人外の存在であると人間としての人権を否定され、精神を患っているかのような異常者扱いをされる。

 その罵倒は柊にとっては負け犬の遠吠えであり、伊吹の立場であれば自分が優位であると鼻で笑う事も出来るのだが、伊吹はわざとその言葉をストレートに受け止めている。
 その結果、メンタルに大きな打撃を与えていた。

 まるで心臓をナイフでグサグサと刺されているような想像をしそうになる衝撃を受けているのだが。
 それが気持ち良い伊吹は、柊には理解の出来ない微笑を浮かべた。
 そんな姿を見た柊は青ざめて引いていた。

「お、俺、そんなにおかしい人間ですかね? ふふっ」

「き……キチガイ。お前は気違いだ」

 差別用語を使われての罵倒は、更に伊吹の心を抉り、感じさせる。既に勃起している程だ。
 特に翠と似た顔つきで、言われたのが大きいのだろう。翠に言われたら……と思うだけで興奮は最高潮だ。

「えへへ、ありがとうございます。今度、翠に同じ事言わせようかな。えへへ」

「弟におかしな事をさせるな! 私の言葉で勃起したと思うと身の毛がよだつ」

「もー柊君は喜ばせ上手なんだから。でも、もうこれからは柊君は翠が俺に何をされようと、何も出来ないんですよ?
 俺が翠に何をさせようが、俺の勝手なんです」

「まだ分からないだろう。翠が家に帰ってくれば、その契約は無効だ」

「そうですねぇ」

 伊吹がニヤニヤしていると、柊はキッと睨みつけてきた。

「どうせ翠にこの契約書の事を話すんだろう? 契約書に書いてあろうが、翠に知らないフリをさせれば済む。
 そうすれば、アイツはお前の為に実家に帰らなくなる。お前は最低で卑怯な人間だ」

「あんまり感じさせないで下さいよぉ。でも柊君は勘違いしてます。俺は絶対に翠にこの事は言いません。絶対です。誓いますよ」

「口では何とでも言える」

「それもそうなんですけどね。
 でも、俺のせいで実家に帰りたいのに帰れなくなったら翠の為にならないので言いません。俺は翠の幸せを第一に考えてますよ。だから、安心して俺に任せてください」

 柊は何も言い返さなかった。黙ったまま俯いてしまったので、伊吹は話を終了させて柊にシャワーを貸した。
 尻と男性器はローション塗れだ。そのまま放置すれば柊が辛い事になる。
 身体を綺麗にし、スーツに着替えた柊を一階まで誘導し、契約書のコピーを渡して外に送った。

「ばいばーい。近い内にご両親に会いに行きますから。その時に」

 伊吹が手を振ると、柊はわざとらしく顔を背けて去っていった。

 自動ドアが閉じると、伊吹は疲れた顔で暇そうに受付に座っている高橋に話しかけた。

「ふー、なんか疲れたなー。チンコいてーし。誰かに命令されて、射精管理されたいよー」

「伊吹さん、お疲れ様です」

「高橋君は俺とヤるのどう? 普段の鬱憤を晴らしてくれてもいいよ。俺を罵倒して、足蹴にして、抵抗出来ないように拘束とかしてさ、タダマン使ってヤリ捨てて欲しい」

「要望多過ぎですよ。つか、雇用主にそんな事出来るわけないじゃないですか」

「じゃー雇用主の命令です。命令違反はクビですよ」

「セクハラにパワハラっすか? 確かここの防犯カメラって、音声録音もされてますよね? 証拠残ってますよ」

「ちぇー」

 伊吹が残念そうにすると、高橋は声を上げて笑った。

「なんか最近、伊吹さんのそういう姿見せてくれるようになりましたね。前は業務連絡だけだったのに」

「何? 前の方がいい?」

「いーえ。今の方が面白いし断然良いですよ。そんなに性欲溜まってるなら瑞希さん呼びましょうか?」

「いや、いいよ。瑞希はSMデリヘルの仕事中だろうし」

「じゃあ翠さんを……」

「翠はもう自宅帰ってるだろうしなぁ。セルフSMでオナるわ。じゃーねぇ、仕事頑張って~」

 高橋に手を振ると高橋も振り返した。柊に手を振った時は無視されてしまったので寂しかったのだ。振り返してもらえると嬉しい。
 伊吹は満足気に七階へと戻っていった。
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