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番外編
⑳プランA
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翌日。翠と広夢は、広夢の部屋で作戦を練った。テーブルの上には開かれた真っ白なノートがあり、その上で広夢がペンをクルクルと回している。
「失敗する事を前提で考えていこう」
「ああ」
計画というものはスムーズに上手くいけば問題ないが、その通りに進まない可能性の方が高いのだと広夢は言った。
「さてと……まず、俺も伊吹さんやラブホの情報が知りたいんだけど」
「俺がよく使ってる掲示板見せるよ」
翠は広夢の部屋のノートパソコンから、ゲイ専用のSMサイトを開いた。パートナーを探すような書き込みが多く、メールアドレスが添付されてあれば直接メールが出来るようになっている。
「この書き込みなんだけど……」
翠が過去の書き込みを遡った。約一年近く前に投稿されたものだ。
翠自身が書き込んだ内容である。『○○にあるゲイ専用ラブホとオーナーについて知りたい』と書かれている。
その書き込みの返信がいくつか来ており、利用客が感想を書いているものが多い。
下にスクロールしていくと『僕、そのホテルのオーナーの知り合いだよ』という書き込みが出てきた。その書き込みに対し更に返信がされている。
『伊吹君でしょ、俺も知ってる』
『さすがに個人名書くなよ』
『彼、有名だし大丈夫じゃないかな。本人は気にしてなさそう』
『俺伊吹君と寝た事ある』
『俺も。ここ穴兄弟多そう』
と、伊吹の話で盛り上がっていたが、話もそこそこに会話は途中で終わっていた。
翠はこの内容を広夢に見せた後に、自分のスマホを見せた。
「それで、何も知らずにメアド添付してたせいで、身体の関係を求めるメールがたくさん来たんだけど。
そのお陰で、伊吹さんに詳しいソラさんと知り合えたんだ。ほら、最初にオーナーの知り合いって返信くれた人」
「へぇ、詳しい話聞けたんだ?」
「いや。昨日会った柏田さんよりソラさんの方が口堅い。男子会の存在も教えてくれなかったし」
「ソラさんも知らない可能性は?」
「ないと思う。伊吹さんとはどこで知り合ったのか聞いたら、瑞希さんって人の紹介だって。
瑞希さんは伊吹さんの友人で男子会の常連なんだよ」
「知り合ったとしたら十中八九その男子会か」
「多分。男子会は紹介制だし、可能性は高い」
「もし違う場合も考えて計画を立てようか」
広夢はノートにペンを走らせた。プランAと書き、「ソラさんから攻略」と書く。
「ソラさんからの情報だと、伊吹さんがドSで、あの地域付近じゃ周りから怖い人って認識されてるんだって。
でもなんだか、誰もが知ってる表面上の情報しか発信してくれない感じなんだよな」
「後暗い情報だから隠してるのか、それともソラさんが用心深いのか」
「真面目そうな人だから用心深いのかも」
「そうだ。そのソラさんに恩を売るのはどうかな?」
「恩を……?」
「不良に絡まれてるところを翠が助けるんだよ。カツアゲでもいいし、美人局を仕掛けてもいい」
広夢の提案に翠は納得しかかったが、首を横に振った。
「いや、ソラさんがどんな人か知らないんだよ。会った事ないから、その案は難しいな」
そして広夢はまた考え込む。すぐに案を思いついたようで、「ちょっとパソコン使うね」とパソコンの前の翠を移動させ、広夢はパソコンの操作を始めた。
「ソラさんに僕のフリーアドレスでメールを送るんだよ。今、遊び相手探してませんか? って」
「あ、それなら。自分のスリーサイズと、どこに住んでるかと、年齢、タチかネコか詳しく書いて送らないとスルーされるよ」
「なにそれ? まぁテキトーに入れるか。住んでるところは、そのラブホ近くでいっか。年齢は十九くらいにしておいて……」
「ソラさんタチっぽいから、ネコって書いた方がいいよ」
「りょーかい」
広夢は本当に適当に思いついた内容で送った。すると、数十分後にソラから返信がきた。
「なになに? 連絡ありがとうございます……めっちゃ律儀だなこの人」
ソラからの返事には、ソラの年齢が五十三である事や、住んでいる地域、太った見た目のオジサンである事、それでも良いのか? というこちらを案じた内容が書かれていた。
広夢は「見た目は気にしません」と送り、それから少しメールで雑談をしていた。そして数時間が経過し──。
「翠、やったぞ。ソラさんと会う約束を取り付けた」
「マジ!? 早くね?」
「へへっ」
「じゃあ早く誰か不良役の人探さないと」
「いや、この日は何もしない。
ソラさんには申し訳ないけど、この日は彼の外見を確認してバックれる。ソラさんがどんな人かを確認するだけだ」
「その後は?」
「僕はその後ソラさんと連絡取らない。
何か事を起こすのは卒業してからでいいよ。犯罪行為をするわけだし。最悪、バレて問題になったら高校卒業出来なくなるかもしれないし」
「高校の退学処分か大学の入学取消かなら、入学取消の方がまだマシって事?」
「そういう事。男子会から帰るソラさんを、僕が不良役を用意して襲わせる。
そしたら、翠がソラさんを助けるんだ」
「それで恩を売るって訳か」
「翠はソラさんの前で二十歳以上のフリをして、男子会の探りを入れる。バカ正直に柏田の話はするなよ。
伊吹さんのファンなんです~くらいでいい」
「うん、分かった」
「あっそうだ、成人のフリするんならお兄さんの身分証……免許証とかあるかな? それ見せれば信じてもらえるよ。
翠とお兄さん、顔立ち似てるし」
「マジで言ってる?」
「おう、マジマジ。男子会に参加したいんだろ? 徹底的にやるぞ」
「なんか怖いな……」
「良い人ぶってたら、お前はただのセフレ止まりだろ。この掲示板にいる奴らみたいに。
それを打破するには、伊吹さんに刺激が必要だ」
広夢は他人事だからか軽い口調だ。
寧ろ刺激が強過ぎて、不安になっているのは翠の方だ。更に伊吹に刺激を与えるとなると、身が持たない。
翠は無理だと首を横に振る。
「刺激って……伊吹さんの毎日は刺激的なんじゃないか?」
「何言ってんだ。似たような刺激を頻繁に受けてりゃ慣れてくるもんだ。
大学生で、ゲイ専用のホテル経営に、SMショーや乱交パーティーの主催までしてるんなら尚更。
だから、それを上回る刺激が必要なんだ」
「刺激を上回る刺激って言われてもな」
「まぁ聞けよ。翠から得た情報と、掲示板から得た情報から推測しか出来ないけど。今のところ、伊吹さんには自分の言う事を聞いてくれる相手が多いんじゃないか?」
「ドSで怖い人らしいしな」
ふむ、と一度悩む広夢だが、すぐに案を出した。
「それなら、伊吹さんの言う事を一切聞かなかったらどうだ? 例えば、皆が一生懸命守ってるルールを破るとか」
「嫌われないかな?」
「最初は嫌われていいんだって。炎上商法然りだ。いいか、最初から好感度高い奴はそれ以上上がらない。悪いところを見られて勝手に幻滅されるのがオチだ。
だけど、最初の好感度が低いとその後は上がるしかない」
「そう上手くいくかな」
「大丈夫。昔の偉い発明家が言ってたろ。
私は失敗した事はない、上手くいかなかった一万通りの方法を発見したんだってな」
「それ、失敗する前提の話じゃないか」
広夢は今までの内容をノートに書いていった。翠が見て分かるように、いつ、誰が何をするのかを丁寧に時系列に纏める。
「そりゃあ立てた計画が上手くいくとは限らないからな。失敗するものだと思って行動するのが成功の秘訣だ。他のプランも練るぞ」
「うん。……ありがとな」
最初に広夢が立てた計画をプランAとし、その後B、C、Dまで計画を練った。
そして幸運にもプランAは順調に進んだ。ソラを助けた流れで仲良くなれたのだ。翠はソラに兄の名前を告げており、ネットで知り合った時に名乗った「田中」である事を伏せた。
盗んだ兄の免許証は乱交パーティーに参加する為にコピーを提出する時にも役に立った。
二十三歳と偽って男子会と呼んでいた乱交パーティーに参加が出来た。そこでは「スイ」というハンドルネームを名乗った。
伊吹に名前で呼んで欲しかったからというのもあるが、一年半前に出会った時の「ヤナガワスイ」であると気付いて欲しい気持ちも大きかった。
だが、伊吹は本人が言っていた通り覚えていないようだった。
プランAは着実に進んでいった。
翠は伊吹が入っているサークルと同じサークルに入り、飲みの席で伊吹と再会した。
ルール違反をしてプライベートで近寄ったにも関わらず、伊吹は年齢を偽った事にしか怒っていなかった。
サークルで偶然にも会ってしまったので、プライベートで接近した事に対して、逆に謝られてしまった程だ。
翠は焦った。伊吹はネットで聞くより意外と優しい人なのかもしれないと。そもそも、レイプ未遂犯を助け、優しく諭された経験があるのだ。
ネットから得た情報での伊吹への怖さは一気になくなった。
そして、翌日から翠は伊吹が嫌がる事を進んで始めた。それで何度制裁を与えられようと構わなかった。
母親が打つ竹刀の痛みより、伊吹があの手この手で与えてくる苦痛の方が耐え難く、辛かった。
それでも翠を痛めつける伊吹の目には、少しの憐れみと優しさを感じられた。だからこそ耐えられたのだ。
そして、伊吹の恋人になれた日の夜。翠は意気揚々と広夢に電話をかけた。
大学が違う為、最近は殆ど連絡を取らなくなっていた。
「久しぶり、広夢!」
「おー翠。久しぶりだな。元気? プランAは上手くいってるか?」
「元気元気! 実は俺、伊吹さんと──」
───────────────────
番外編はここで終わりです。次回から本編に戻ります。
「失敗する事を前提で考えていこう」
「ああ」
計画というものはスムーズに上手くいけば問題ないが、その通りに進まない可能性の方が高いのだと広夢は言った。
「さてと……まず、俺も伊吹さんやラブホの情報が知りたいんだけど」
「俺がよく使ってる掲示板見せるよ」
翠は広夢の部屋のノートパソコンから、ゲイ専用のSMサイトを開いた。パートナーを探すような書き込みが多く、メールアドレスが添付されてあれば直接メールが出来るようになっている。
「この書き込みなんだけど……」
翠が過去の書き込みを遡った。約一年近く前に投稿されたものだ。
翠自身が書き込んだ内容である。『○○にあるゲイ専用ラブホとオーナーについて知りたい』と書かれている。
その書き込みの返信がいくつか来ており、利用客が感想を書いているものが多い。
下にスクロールしていくと『僕、そのホテルのオーナーの知り合いだよ』という書き込みが出てきた。その書き込みに対し更に返信がされている。
『伊吹君でしょ、俺も知ってる』
『さすがに個人名書くなよ』
『彼、有名だし大丈夫じゃないかな。本人は気にしてなさそう』
『俺伊吹君と寝た事ある』
『俺も。ここ穴兄弟多そう』
と、伊吹の話で盛り上がっていたが、話もそこそこに会話は途中で終わっていた。
翠はこの内容を広夢に見せた後に、自分のスマホを見せた。
「それで、何も知らずにメアド添付してたせいで、身体の関係を求めるメールがたくさん来たんだけど。
そのお陰で、伊吹さんに詳しいソラさんと知り合えたんだ。ほら、最初にオーナーの知り合いって返信くれた人」
「へぇ、詳しい話聞けたんだ?」
「いや。昨日会った柏田さんよりソラさんの方が口堅い。男子会の存在も教えてくれなかったし」
「ソラさんも知らない可能性は?」
「ないと思う。伊吹さんとはどこで知り合ったのか聞いたら、瑞希さんって人の紹介だって。
瑞希さんは伊吹さんの友人で男子会の常連なんだよ」
「知り合ったとしたら十中八九その男子会か」
「多分。男子会は紹介制だし、可能性は高い」
「もし違う場合も考えて計画を立てようか」
広夢はノートにペンを走らせた。プランAと書き、「ソラさんから攻略」と書く。
「ソラさんからの情報だと、伊吹さんがドSで、あの地域付近じゃ周りから怖い人って認識されてるんだって。
でもなんだか、誰もが知ってる表面上の情報しか発信してくれない感じなんだよな」
「後暗い情報だから隠してるのか、それともソラさんが用心深いのか」
「真面目そうな人だから用心深いのかも」
「そうだ。そのソラさんに恩を売るのはどうかな?」
「恩を……?」
「不良に絡まれてるところを翠が助けるんだよ。カツアゲでもいいし、美人局を仕掛けてもいい」
広夢の提案に翠は納得しかかったが、首を横に振った。
「いや、ソラさんがどんな人か知らないんだよ。会った事ないから、その案は難しいな」
そして広夢はまた考え込む。すぐに案を思いついたようで、「ちょっとパソコン使うね」とパソコンの前の翠を移動させ、広夢はパソコンの操作を始めた。
「ソラさんに僕のフリーアドレスでメールを送るんだよ。今、遊び相手探してませんか? って」
「あ、それなら。自分のスリーサイズと、どこに住んでるかと、年齢、タチかネコか詳しく書いて送らないとスルーされるよ」
「なにそれ? まぁテキトーに入れるか。住んでるところは、そのラブホ近くでいっか。年齢は十九くらいにしておいて……」
「ソラさんタチっぽいから、ネコって書いた方がいいよ」
「りょーかい」
広夢は本当に適当に思いついた内容で送った。すると、数十分後にソラから返信がきた。
「なになに? 連絡ありがとうございます……めっちゃ律儀だなこの人」
ソラからの返事には、ソラの年齢が五十三である事や、住んでいる地域、太った見た目のオジサンである事、それでも良いのか? というこちらを案じた内容が書かれていた。
広夢は「見た目は気にしません」と送り、それから少しメールで雑談をしていた。そして数時間が経過し──。
「翠、やったぞ。ソラさんと会う約束を取り付けた」
「マジ!? 早くね?」
「へへっ」
「じゃあ早く誰か不良役の人探さないと」
「いや、この日は何もしない。
ソラさんには申し訳ないけど、この日は彼の外見を確認してバックれる。ソラさんがどんな人かを確認するだけだ」
「その後は?」
「僕はその後ソラさんと連絡取らない。
何か事を起こすのは卒業してからでいいよ。犯罪行為をするわけだし。最悪、バレて問題になったら高校卒業出来なくなるかもしれないし」
「高校の退学処分か大学の入学取消かなら、入学取消の方がまだマシって事?」
「そういう事。男子会から帰るソラさんを、僕が不良役を用意して襲わせる。
そしたら、翠がソラさんを助けるんだ」
「それで恩を売るって訳か」
「翠はソラさんの前で二十歳以上のフリをして、男子会の探りを入れる。バカ正直に柏田の話はするなよ。
伊吹さんのファンなんです~くらいでいい」
「うん、分かった」
「あっそうだ、成人のフリするんならお兄さんの身分証……免許証とかあるかな? それ見せれば信じてもらえるよ。
翠とお兄さん、顔立ち似てるし」
「マジで言ってる?」
「おう、マジマジ。男子会に参加したいんだろ? 徹底的にやるぞ」
「なんか怖いな……」
「良い人ぶってたら、お前はただのセフレ止まりだろ。この掲示板にいる奴らみたいに。
それを打破するには、伊吹さんに刺激が必要だ」
広夢は他人事だからか軽い口調だ。
寧ろ刺激が強過ぎて、不安になっているのは翠の方だ。更に伊吹に刺激を与えるとなると、身が持たない。
翠は無理だと首を横に振る。
「刺激って……伊吹さんの毎日は刺激的なんじゃないか?」
「何言ってんだ。似たような刺激を頻繁に受けてりゃ慣れてくるもんだ。
大学生で、ゲイ専用のホテル経営に、SMショーや乱交パーティーの主催までしてるんなら尚更。
だから、それを上回る刺激が必要なんだ」
「刺激を上回る刺激って言われてもな」
「まぁ聞けよ。翠から得た情報と、掲示板から得た情報から推測しか出来ないけど。今のところ、伊吹さんには自分の言う事を聞いてくれる相手が多いんじゃないか?」
「ドSで怖い人らしいしな」
ふむ、と一度悩む広夢だが、すぐに案を出した。
「それなら、伊吹さんの言う事を一切聞かなかったらどうだ? 例えば、皆が一生懸命守ってるルールを破るとか」
「嫌われないかな?」
「最初は嫌われていいんだって。炎上商法然りだ。いいか、最初から好感度高い奴はそれ以上上がらない。悪いところを見られて勝手に幻滅されるのがオチだ。
だけど、最初の好感度が低いとその後は上がるしかない」
「そう上手くいくかな」
「大丈夫。昔の偉い発明家が言ってたろ。
私は失敗した事はない、上手くいかなかった一万通りの方法を発見したんだってな」
「それ、失敗する前提の話じゃないか」
広夢は今までの内容をノートに書いていった。翠が見て分かるように、いつ、誰が何をするのかを丁寧に時系列に纏める。
「そりゃあ立てた計画が上手くいくとは限らないからな。失敗するものだと思って行動するのが成功の秘訣だ。他のプランも練るぞ」
「うん。……ありがとな」
最初に広夢が立てた計画をプランAとし、その後B、C、Dまで計画を練った。
そして幸運にもプランAは順調に進んだ。ソラを助けた流れで仲良くなれたのだ。翠はソラに兄の名前を告げており、ネットで知り合った時に名乗った「田中」である事を伏せた。
盗んだ兄の免許証は乱交パーティーに参加する為にコピーを提出する時にも役に立った。
二十三歳と偽って男子会と呼んでいた乱交パーティーに参加が出来た。そこでは「スイ」というハンドルネームを名乗った。
伊吹に名前で呼んで欲しかったからというのもあるが、一年半前に出会った時の「ヤナガワスイ」であると気付いて欲しい気持ちも大きかった。
だが、伊吹は本人が言っていた通り覚えていないようだった。
プランAは着実に進んでいった。
翠は伊吹が入っているサークルと同じサークルに入り、飲みの席で伊吹と再会した。
ルール違反をしてプライベートで近寄ったにも関わらず、伊吹は年齢を偽った事にしか怒っていなかった。
サークルで偶然にも会ってしまったので、プライベートで接近した事に対して、逆に謝られてしまった程だ。
翠は焦った。伊吹はネットで聞くより意外と優しい人なのかもしれないと。そもそも、レイプ未遂犯を助け、優しく諭された経験があるのだ。
ネットから得た情報での伊吹への怖さは一気になくなった。
そして、翌日から翠は伊吹が嫌がる事を進んで始めた。それで何度制裁を与えられようと構わなかった。
母親が打つ竹刀の痛みより、伊吹があの手この手で与えてくる苦痛の方が耐え難く、辛かった。
それでも翠を痛めつける伊吹の目には、少しの憐れみと優しさを感じられた。だからこそ耐えられたのだ。
そして、伊吹の恋人になれた日の夜。翠は意気揚々と広夢に電話をかけた。
大学が違う為、最近は殆ど連絡を取らなくなっていた。
「久しぶり、広夢!」
「おー翠。久しぶりだな。元気? プランAは上手くいってるか?」
「元気元気! 実は俺、伊吹さんと──」
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番外編はここで終わりです。次回から本編に戻ります。
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