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番外編
⑲持つべきものは
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翠は広夢から服を借りた。肉体労働で筋肉質になった翠には、スポーツで多少鍛えているだけの平均身長の広夢の服は小さい。
文句を言いたいのを押さえて、広夢に礼をした。
「広夢、ありがとう」
「いいって事よ! ダチだろ」
「ああ」
話しながら、広夢の部屋にあるダブルベッドに、仲良く二人並んで横になった。
「翠は要領は良いんだから、人間関係もさ、上手くやれそうだと思うんだけどな」
「俺の何を知ってるんだよ。スゲー嫌われてたんだぞ? 広夢の言う通り、周囲に合わせて不用意な発言しなくなったら大分嫌われなくなったけどな」
「その方が楽だろ。わざわざ敵を増やす必要なんてないんだ。翠の場合、自分の感情を少し押えれば、多少生きやすくなるかと思って」
「そこは感謝してる。でも、俺……演技するの嫌い」
「僕の前で素出せばいいじゃん。僕は素の方が好きだよ」
「皆に嫌われているこの性格が好きだって?」
「うん。翠は自分に素直で、飾らないじゃん。意志を曲げずに自分を持ってるところとか、僕からしたら羨ましいよ。
翠の良さは、深く付き合ってみなきゃ分からないんだから」
広夢が翠を羨ましがる意味が分からなかった。常に明るく、周りに好かれて、誰にでも平等に優しい。
そんな広夢の方が翠にとっては羨ましく思える。
「ないものねだりだろ。俺の立場になってみたら分かると思う。情けない思いばっかだって。
人に信用してもらうのもどうしていいか分からないし……」
「何か悩みでもあるのか?」
広夢の優しい声に、翠は完全に心を開いた。
「うん、まぁ……」
「僕で良ければ聞くぜ? 一人で抱える事ないって」
「じゃあ。広夢にだけ言うんだけど。俺、好きな人が出来てさ」
「へぇ! 翠が恋愛なぁ?」
「それで、今ストーカーしてるところなんだけど。なかなかあっちの情報が入らなくて困っててさ。
今日、何か知ってそうなオッサンに色々聞いたんだけど、なんか怪しまれて深いところまでは黙秘されちゃって……って、広夢?」
翠は普通のようにペラペラと犯罪行為を話していたが、広夢は相槌を打つ事も忘れて固まっていた。
「お前……それ、犯罪だろ」
「うん、そうだね? でもストーカーって非親告罪になったとはいえ、相手が気付いていなかったら誰が起訴するっていうの?
ようはバレなきゃいいんだよ」
「お前……なんか、変わったな。クソ真面目で、自分に素直すぎる、不器用な奴だったじゃん」
「それだと生きにくいだろうからって、お前が処世術を教えてくれたんだろ?」
「好きな人が出来たらストーカーしろって教えてねぇよ!! 何やってんだよ!?」
広夢の声がどんどん刺々しくなった。翠を軽蔑しているような言い方だ。だが、翠は気にも留めずに話を続けた。
「俺の好きな人はちょっと特殊なんだよ。事前調査なしに簡単に近寄れないっていうか」
「どこの誰? 僕の知ってる人?」
「いや、広夢の知らない人。東京の人でさ、通ってる大学はFランで、そっちだと広夢みたいに友達多い感じの女子にモテモテのチャラ男なんだけど……」
翠は続きを言いづらそうに言葉を止めたのだが、その前に広夢が驚愕の反応を示した。
「チャラ男? 男!?」
「え? うん。そうだけど、何か問題でもあった?」
「え? いや……同性だと思ってなくて」
「恋愛に性別なんて関係ないだろ?」
「マジかよ。まぁ偏見とかはないけどさ」
勿論、翠も最初は男が恋愛対象になるなど微塵も考えた事がない。だが、伊吹に恋をしてから、今までの常識が覆った。
男と恋愛など想像つかなかった頃の自分など忘れてしまっている。
「どうせ相手は広夢が知らない人だよ。どうでもいいだろ、で、続きだけど。彼、ラブホテルを経営してるんだ。ゲイ専用の」
「はぁ!?」
広夢は素っ頓狂な声を上げて驚いた。
「そう。でもそっちだと、大学周辺の評判とは一転。かなり鬼畜なドSって話」
「マジかよ……。やめとけよ、そんな相手」
「でも、好きになってしまったんだ。伊吹さん以外の人は多分好きになれない。本気なんだ。
彼の為なら、俺死んでもいい」
「お前メンヘラっぽいな。その人伊吹さんって言うのかぁ」
「そう。俺を助けてくれたんだ。広夢に似た人だよ。一見バカみたいな態度なんだけど、計算してバカやってるみたいな。本当は頭良い人だと思う」
「僕、そんなにバカっぽい?」
「なんか教室で皆とバカ騒ぎしてる時はバカっぽい。最初会った時も、バカだと思ったし」
「ひでぇ……」
翠は素直故に、思った事を全て口に出してしまう。そこが他人から嫌われる所以でもあるのだが。
広夢が多少心が傷付いても許しているので、友人関係が成り立っている。
「それで? 悩みってなんだよ?」
広夢は本題に戻した。
「親との約束もあって、俺は伊吹さんのいるFラン大学に入れない。
だから、今まで得た情報から近付くなら近くの大学に入って、伊吹さんが入ってる飲みサーと同じ飲みサーに入るのが近道かなって。
俺の志望大学と伊吹さんの大学のサークルがよく合同で飲んでるって情報を得たんだ」
「答え出てるじゃん。じゃあ悩む必要なくね?」
「いや。だが、それだと弱い。俺はホテル経営してる伊吹さんに近付きたいんだ。
伊吹さんには高校卒業したら来いって言われたけど、俺はその他大勢の一人になりたくない!」
「お前の気持ちは分かった。
でもそれって、つまり、そのホテルを利用したいって話か? まさか僕と一緒に入って欲しいとか言わないよな?」
「あはは。俺が伊吹さん以外の人と、ホテルに入るわけないだろ。
そのホテルでは、定期的に男子会を開催してるらしい」
「男子会?」
「火曜と木曜と土曜。おそらく二十時から二十三時まで。参加費は不明。
二十歳以上しか入れない上、参加者の紹介に、伊吹さんの同意がなければ参加出来ない」
広夢はすぐに翠と同じ考えに至ったのか、眉間に皺を寄せてあからさまに嫌そうな顔をした。
「なんだそりゃ。めちゃくちゃ怪しいじゃん。それ絶対乱交パーティーだよ。参加しない方がいい。
男子会とか言った奴、絶対翠が子供だと思って見下したんだろ?」
翠はギクリとした。その通りだ。
「まぁ、そこに参加して伊吹さんに近寄って、目立つ事しようと思ってるんだ。
ネットの掲示板で伊吹さんのファンがいるから、そこから近付けないか探ってるんだけど、なかなか難しくて」
「掲示板で話題になるような人なのか?」
「一部では有名らしいよ。ホテルの地下でよく緊縛ショーとか開催しててさ。俺も何度か見に行ったけど、伊吹さんはたまにしか出てこなくて、基本的に他から来た演者さんがショーをやってる。
SM界隈で有名な話だと、なんでも伊吹さんの友人に危害を加える人には容赦なく制裁を下すとか」
「やっぱ怖くね?」
「怖いところも好きなんだよ。なぁ、どうしたらいいと思う?」
広夢はうーんと悩ませた後、答えを出した。
「とりあえず明日考えようぜ。もう眠いや、お休み……ZZz」
「ちょっ、広夢!」
翠は諦めて目を閉じた。
文句を言いたいのを押さえて、広夢に礼をした。
「広夢、ありがとう」
「いいって事よ! ダチだろ」
「ああ」
話しながら、広夢の部屋にあるダブルベッドに、仲良く二人並んで横になった。
「翠は要領は良いんだから、人間関係もさ、上手くやれそうだと思うんだけどな」
「俺の何を知ってるんだよ。スゲー嫌われてたんだぞ? 広夢の言う通り、周囲に合わせて不用意な発言しなくなったら大分嫌われなくなったけどな」
「その方が楽だろ。わざわざ敵を増やす必要なんてないんだ。翠の場合、自分の感情を少し押えれば、多少生きやすくなるかと思って」
「そこは感謝してる。でも、俺……演技するの嫌い」
「僕の前で素出せばいいじゃん。僕は素の方が好きだよ」
「皆に嫌われているこの性格が好きだって?」
「うん。翠は自分に素直で、飾らないじゃん。意志を曲げずに自分を持ってるところとか、僕からしたら羨ましいよ。
翠の良さは、深く付き合ってみなきゃ分からないんだから」
広夢が翠を羨ましがる意味が分からなかった。常に明るく、周りに好かれて、誰にでも平等に優しい。
そんな広夢の方が翠にとっては羨ましく思える。
「ないものねだりだろ。俺の立場になってみたら分かると思う。情けない思いばっかだって。
人に信用してもらうのもどうしていいか分からないし……」
「何か悩みでもあるのか?」
広夢の優しい声に、翠は完全に心を開いた。
「うん、まぁ……」
「僕で良ければ聞くぜ? 一人で抱える事ないって」
「じゃあ。広夢にだけ言うんだけど。俺、好きな人が出来てさ」
「へぇ! 翠が恋愛なぁ?」
「それで、今ストーカーしてるところなんだけど。なかなかあっちの情報が入らなくて困っててさ。
今日、何か知ってそうなオッサンに色々聞いたんだけど、なんか怪しまれて深いところまでは黙秘されちゃって……って、広夢?」
翠は普通のようにペラペラと犯罪行為を話していたが、広夢は相槌を打つ事も忘れて固まっていた。
「お前……それ、犯罪だろ」
「うん、そうだね? でもストーカーって非親告罪になったとはいえ、相手が気付いていなかったら誰が起訴するっていうの?
ようはバレなきゃいいんだよ」
「お前……なんか、変わったな。クソ真面目で、自分に素直すぎる、不器用な奴だったじゃん」
「それだと生きにくいだろうからって、お前が処世術を教えてくれたんだろ?」
「好きな人が出来たらストーカーしろって教えてねぇよ!! 何やってんだよ!?」
広夢の声がどんどん刺々しくなった。翠を軽蔑しているような言い方だ。だが、翠は気にも留めずに話を続けた。
「俺の好きな人はちょっと特殊なんだよ。事前調査なしに簡単に近寄れないっていうか」
「どこの誰? 僕の知ってる人?」
「いや、広夢の知らない人。東京の人でさ、通ってる大学はFランで、そっちだと広夢みたいに友達多い感じの女子にモテモテのチャラ男なんだけど……」
翠は続きを言いづらそうに言葉を止めたのだが、その前に広夢が驚愕の反応を示した。
「チャラ男? 男!?」
「え? うん。そうだけど、何か問題でもあった?」
「え? いや……同性だと思ってなくて」
「恋愛に性別なんて関係ないだろ?」
「マジかよ。まぁ偏見とかはないけどさ」
勿論、翠も最初は男が恋愛対象になるなど微塵も考えた事がない。だが、伊吹に恋をしてから、今までの常識が覆った。
男と恋愛など想像つかなかった頃の自分など忘れてしまっている。
「どうせ相手は広夢が知らない人だよ。どうでもいいだろ、で、続きだけど。彼、ラブホテルを経営してるんだ。ゲイ専用の」
「はぁ!?」
広夢は素っ頓狂な声を上げて驚いた。
「そう。でもそっちだと、大学周辺の評判とは一転。かなり鬼畜なドSって話」
「マジかよ……。やめとけよ、そんな相手」
「でも、好きになってしまったんだ。伊吹さん以外の人は多分好きになれない。本気なんだ。
彼の為なら、俺死んでもいい」
「お前メンヘラっぽいな。その人伊吹さんって言うのかぁ」
「そう。俺を助けてくれたんだ。広夢に似た人だよ。一見バカみたいな態度なんだけど、計算してバカやってるみたいな。本当は頭良い人だと思う」
「僕、そんなにバカっぽい?」
「なんか教室で皆とバカ騒ぎしてる時はバカっぽい。最初会った時も、バカだと思ったし」
「ひでぇ……」
翠は素直故に、思った事を全て口に出してしまう。そこが他人から嫌われる所以でもあるのだが。
広夢が多少心が傷付いても許しているので、友人関係が成り立っている。
「それで? 悩みってなんだよ?」
広夢は本題に戻した。
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だから、今まで得た情報から近付くなら近くの大学に入って、伊吹さんが入ってる飲みサーと同じ飲みサーに入るのが近道かなって。
俺の志望大学と伊吹さんの大学のサークルがよく合同で飲んでるって情報を得たんだ」
「答え出てるじゃん。じゃあ悩む必要なくね?」
「いや。だが、それだと弱い。俺はホテル経営してる伊吹さんに近付きたいんだ。
伊吹さんには高校卒業したら来いって言われたけど、俺はその他大勢の一人になりたくない!」
「お前の気持ちは分かった。
でもそれって、つまり、そのホテルを利用したいって話か? まさか僕と一緒に入って欲しいとか言わないよな?」
「あはは。俺が伊吹さん以外の人と、ホテルに入るわけないだろ。
そのホテルでは、定期的に男子会を開催してるらしい」
「男子会?」
「火曜と木曜と土曜。おそらく二十時から二十三時まで。参加費は不明。
二十歳以上しか入れない上、参加者の紹介に、伊吹さんの同意がなければ参加出来ない」
広夢はすぐに翠と同じ考えに至ったのか、眉間に皺を寄せてあからさまに嫌そうな顔をした。
「なんだそりゃ。めちゃくちゃ怪しいじゃん。それ絶対乱交パーティーだよ。参加しない方がいい。
男子会とか言った奴、絶対翠が子供だと思って見下したんだろ?」
翠はギクリとした。その通りだ。
「まぁ、そこに参加して伊吹さんに近寄って、目立つ事しようと思ってるんだ。
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「掲示板で話題になるような人なのか?」
「一部では有名らしいよ。ホテルの地下でよく緊縛ショーとか開催しててさ。俺も何度か見に行ったけど、伊吹さんはたまにしか出てこなくて、基本的に他から来た演者さんがショーをやってる。
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「やっぱ怖くね?」
「怖いところも好きなんだよ。なぁ、どうしたらいいと思う?」
広夢はうーんと悩ませた後、答えを出した。
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翠は諦めて目を閉じた。
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