乱交パーティー出禁の男

眠りん

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番外編

⑰ストーカー

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 家に帰ると両親が激怒していた。

「どこに行ってたんだ!?」

「受講料、払ってないんですってね? 十万返しなさい!」

 リビングで翠が一人、その向かいに両親が立った。
 父親が怒鳴り、母親がヒステリックに喚く。そんな姿が背景の一部のように感じられた。
 今までであれば、嫌われたくない一心であっただろう。

 だが、破天荒な伊吹を見てしまった。そんな彼に憧れた。彼ならこの局面をどう乗り切るだろうかと考えると笑みが零れた。

「何を笑ってるんだ!!」

 父親の平手が翠の顔に飛んできた。所詮は初老で、デスクワークが主な運動不足の男の暴力、女性ならともかく若い翠には恐怖すら感じない。
 平手を打とうとする父親の手を掴み、ギリギリと握力を強めると、父親は痛そうに手を弾いた。

「ち……父親に何をする!?」

「父親、ね。お前の事を父親だと認めていた事が間違いだった。それはお前もだよ」

 翠は母親に指をさした。お前を母親と認めない、と。
 母親の顔は恐怖の色に染まっていた。今まで一度も反抗をした事のない息子の、初めて見る憎悪の目に萎縮している。

「翠? 何があったの? お母さん、翠の事ちゃんと見れていなかったわ。ごめんなさい」

「謝らなくていいよ。
 俺、国立大とか行かないし。予備校もやめる。もちろん、今後も一位とか取るつもりないからさ。お母さんも、お父さんも、今までと同じように俺を無視してていいよ? 十万は返さない代わりに今までの事は責めない」

 翠は努めて無表情を作った。そうでなければ、睨みつけてしまう。感情論ではないのだとアピールしなければと、怒鳴ったり暴れたい気持ちを理性で押さえる。

「なんで……翠……」

 母親は泣き崩れ、父親も何も言わない。こっそり廊下から扉を少しだけ開けて覗いていた兄と目が合う。

「あ、兄さん! 兄さんも、今まで通り俺の事無視していいからね!」

 翠がそう言うと、兄は扉を閉めた。今まで恐れていた家族はこんなにも弱かったのだ。
 もっと早く反抗をすれば良かったと悔やんだ。


 それから翠は一切勉強をしなくなった。授業を聞いていれば大体すぐに理解出来るし、宿題は学校にいる内に終わらせた。
 家にいたくないので、アルバイトを二つ掛け持ち、帰ったら部屋に籠ってひたすら伊吹の事を調べた。

 伊吹の通っている大学、出身校、人間関係等。
 春休みや、夏休み、冬休み、ゴールデンウィーク等の連休には、貯めたバイト代で伊吹の跡をつけた。
 完全にストーカーだ。分かっていて続けた。伊吹を手に入れる為なら、危険な行為も厭わなかった。

 調べていく内に点だった情報が線になっていく。
 大学付近では伊吹は好印象だが、ホテル付近では何故か怖がられている。その悪評は伊吹の親友が原因である事を知った。
 翠は、親友が瑞希という名前だという事までの情報を得られた。
 ラブピーチの常連客は頑なに何かを隠しており、その実態が見えなかったが、その秘密を暴く時はすぐにやってきた。


 それは高校三年生の夏休み。本来であれば大学の受験勉強をしなければならないのところだが、翠の第一志望校は余裕で合格出来るレベルの大学だ。
 遊んでいても問題がなかった。

 最初に希望した志望校は伊吹と同じ大学にしていたのだが、その大学はいわゆるFランク大学と呼ばれる底辺大学だ。
 両親にそれだけは思い留まって欲しいと懇願された。世間体の為だった。両親にとって親戚からバカにされる事が何より嫌な事なのだ。

 翠は仕方なく妥協し、伊吹の大学近くにあるCランクの大学に志望校を変えた。その代わり、高校卒業後、大学生の間は生活費を全て払うよう約束させた。
 模試の結果はいつもA判定だ。指定校推薦で入れる大学でもある。
 勉強をしなくなったとはいえ、成績が上位である事には変わりない。大学への心配は一切なかった。

 翠は連日ホテル前で張り込み、様子を見ていた。すると、不思議な事に気付いた。
 特定の曜日、一人客が何人か入っていくのだ。地下にあるというイベントであれば受付近くにある階段で降りていくのだが、彼らはエレベーターで上がっていく。
 満室で待合室で待っている人がいても関係なくだ。

 デリバリーヘルス利用の客ももちろんいるだろうが、その特定の曜日だけは違う。しかも、彼らは必ず二十三時を超えてからそれぞれ二人組になって出ていき、少し歩いたところで別れる。
 不思議に思わないわけがなかった。
 そして、その時に必ず入っていくのが翠より年下に見えるような男の子だ。

 二十三時頃、大人しそうな三十代くらいの男性が強面の初老の男とホテルを出てきたところを、後をつけた。
 その二人はすぐに別れたので大人しそうな男に話しかける。

「あの……そこのホテルに子供みたいな子が出入りしてるみたいなんですけど。ここって十八歳未満は出入り出来ませんよね?」

 利用客はハハハと笑いながら答えた。

「彼は成人してるよ。このホテルのオーナーの友達なんだよ」

「なっ……伊吹さんの!? 恋人とか?」

「伊吹君の事知ってるんだ? 恋人じゃないよ。まぁいつ付き合い始めてもおかしくなさそうな感じだけど」

 翠はハッと気付く。彼こそが伊吹の悪評の元凶である瑞希なのだと。
 
「あのっ! 俺、伊吹さんとある約束をしていまして! お礼はしますので、色々と教えてもらえませんか!?」

 翠は深々と頭を下げた。男は仕方ないなぁとニッコリと笑って即答した。

「おけおけ~」
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