71 / 139
番外編
⑯逃避行
しおりを挟む
「あぁん!? この野郎がよ! ウチの嬢をキズ物にしてくれたんじゃ!! 無理矢理押し倒されて、レイプされかけたって女の子が泣いてたんだよ!! 邪魔すんな!!」
怖いお兄さんがヘラヘラした男に怒鳴った。だが、男は怯える様子もなく笑顔のままだ。
金髪に色黒。これが噂に聞くチャラ男か、と翠はビクビクしながら男を見つめた。
「へぇ、何しちゃったの? 可愛いおにーさん?」
男は翠を見るとニコニコと問いかけた。
「え……エッチ出来ると思って……。童貞卒業したくてこの店入ったら、女の子に拒否されたんです!」
「ったりめぇじゃボケ! ウチは本番NGのクリーンな店なんだよ。知らねぇで入ったのかよ!?」
「分からないです。俺、家出して、楽しい事、何かないかなって……ぐすっ……ずっと勉強ばっかで、何も分からなくて……うぅ……」
話し出すと涙が零れてきた。あまりの情けなさに、今すぐ消えたくなる思いで泣いた。
「あ、お兄さん、もしかして彼に惚れちゃって、犯そうとしてた?
和姦ならウチのホテル利用します?」
「お前話聞いてたか!? バカ言うんじゃねぇ!! 俺は女好きなんだよ、男なんて相手にするか!!
つーかお前、最近出来たとかいうゲイ向けのラブホの奴かよ?」
「はい! オーナーの伊吹です!
今利用者増やそうと思って、男同士でイチャイチャしてる人見掛けたら声掛けてるんですよ」
「イチャイチャ!?」
「はい~。可愛い喧嘩だなぁって。仲直りは当ホテルを利用して下さいね」
伊吹がホテルの名刺を怖いお兄さんに渡すが。その名刺は破かれて捨てられてしまった。
「誰が利用するかー!!」
「あはははっ」
叫ぶお兄さんをよそに、伊吹は笑いながら翠の手を掴むと走って逃げた。翠は困惑したままの状態だ。
会話を聞く限り、伊吹という目の前のよく分からない男は、男同士の喧嘩ですらゲイの痴話喧嘩に見えてしまうという事だ。
頭のおかしい男に連れ去られている。襲われるかもしれないと少しゾッとしたが、それが恐怖と感じなかった。
それ以上に、このよく分からない男相手に欲情していた。先程の可愛らしい女の子よりも魅力的だ。
まるで無人島に流れ着いた先で見つけた甘い果実のように、伊吹に目が釘付けになってしまう。
「ちょっと待ってください!」
「えー? なーに? 聞こえなーい!」
彼と話したくて声を掛けるも、聞こえないふりをされてしまった。強引に引っ張られながら走って、走って、ようやく駅前に辿り着いた。
「ふー。ここまでくれば大丈夫だろ。お前もさぁ、風俗利用するならマナーやルールをきちんと勉強してから、適度に遊ばないとな。
お勉強、得意なんだろ?」
「話……ちゃんと聞いてたんですか?」
翠は伊吹の言葉を額面通りに受け取り、ホテルを利用させたいが為に、話を聞かずに無理に利用を勧めてきたのだと思っていた。
「あったりまえだろ。お前、俺が本気でホテル勧めたと思ってんの!? 純粋過ぎるっつーか、アホ過ぎるっつーか……」
伊吹はやれやれという表情を浮かべた。
「あの、伊吹さんはゲイなんですか?」
「いきなりなんだよ? ゲイだけど、あ、もしかしてお前ホモフォビアとかいうやつ?
だったら悪かったな。もう絡まないから、お前も早く家帰りな」
「違います! 俺……男が性の対象になるなんて事、考えた事なくって……。なのに俺、伊吹さんの事……」
「ん? 興味あるの?」
「少し……」
「あはは。どんだけ性欲溜めてんの。女の子レイプ未遂したばっかじゃん、俺にまで発情するとか、逆に憐れに思えてきたわ」
「だって……俺、本当に今まで親の締め付けもあって、本当に勉強ばっかで、エッチな事何も経験ないんです。興味持つのおかしいですか?」
「普通なんじゃね? 男に興味あるんならゲイが多い界隈行けば相手なんていくらでも見つかるだろ。君、カッコイイ方だと思うし」
「え、カッコイイ? 俺が?」
「あれ、自覚なし? 髪とかちゃんとして、顔もケアすれば素材は良いと思うんだけどなぁ。
なにより若いしさ、相手には困らないんじゃね?」
「でも俺、伊吹さんとしたいです! 伊吹さんにしか勃ちそうにないです!」
「残念だね。俺、十八歳未満は相手にしない主義なんだよね」
「俺、年齢言ってませんよね?」
「普通に考えてさ、親に縛りつけられて勉強ばっかって事は高校生以下だろ。
高校卒業してまだ俺に興味あったら来いよ。
俺はリバ……受けも攻めもどっちでも出来るからさ。お前がしたいようにすりゃいいし?」
「分かりました」
伊吹がホテルの名刺を差し出して、翠は受け取った。
「俺、篠伊吹。お前は? 名前なんて言うの?」
「柳川翠です」
「ふーん? ヤナガワスイね。俺、人の名前と顔覚えるの苦手なんだ。一時間後には忘れてる自信あるくらい。
だから、もし俺に連絡する時は、今日の話をしてくれよ? 風俗嬢をレイプしようとして、男性スタッフにボコられたところを伊吹さんに助けられたヤナガワですぅってな! はははっ」
「分かりました」
翠は受け取った名刺を大事に財布にしまった。伊吹がどんな女性よりも綺麗に見えた。
彼と一緒にいれば楽しそうだとも思えたのだ。
それが翠の初恋だった。
───────────────────
一章十八話で翠が伊吹に話した内容は八割嘘です。
嘘をついた理由ですか?
それは翠君のみぞ知るですね。
番外編明けの三章で分かるかもしれません。
怖いお兄さんがヘラヘラした男に怒鳴った。だが、男は怯える様子もなく笑顔のままだ。
金髪に色黒。これが噂に聞くチャラ男か、と翠はビクビクしながら男を見つめた。
「へぇ、何しちゃったの? 可愛いおにーさん?」
男は翠を見るとニコニコと問いかけた。
「え……エッチ出来ると思って……。童貞卒業したくてこの店入ったら、女の子に拒否されたんです!」
「ったりめぇじゃボケ! ウチは本番NGのクリーンな店なんだよ。知らねぇで入ったのかよ!?」
「分からないです。俺、家出して、楽しい事、何かないかなって……ぐすっ……ずっと勉強ばっかで、何も分からなくて……うぅ……」
話し出すと涙が零れてきた。あまりの情けなさに、今すぐ消えたくなる思いで泣いた。
「あ、お兄さん、もしかして彼に惚れちゃって、犯そうとしてた?
和姦ならウチのホテル利用します?」
「お前話聞いてたか!? バカ言うんじゃねぇ!! 俺は女好きなんだよ、男なんて相手にするか!!
つーかお前、最近出来たとかいうゲイ向けのラブホの奴かよ?」
「はい! オーナーの伊吹です!
今利用者増やそうと思って、男同士でイチャイチャしてる人見掛けたら声掛けてるんですよ」
「イチャイチャ!?」
「はい~。可愛い喧嘩だなぁって。仲直りは当ホテルを利用して下さいね」
伊吹がホテルの名刺を怖いお兄さんに渡すが。その名刺は破かれて捨てられてしまった。
「誰が利用するかー!!」
「あはははっ」
叫ぶお兄さんをよそに、伊吹は笑いながら翠の手を掴むと走って逃げた。翠は困惑したままの状態だ。
会話を聞く限り、伊吹という目の前のよく分からない男は、男同士の喧嘩ですらゲイの痴話喧嘩に見えてしまうという事だ。
頭のおかしい男に連れ去られている。襲われるかもしれないと少しゾッとしたが、それが恐怖と感じなかった。
それ以上に、このよく分からない男相手に欲情していた。先程の可愛らしい女の子よりも魅力的だ。
まるで無人島に流れ着いた先で見つけた甘い果実のように、伊吹に目が釘付けになってしまう。
「ちょっと待ってください!」
「えー? なーに? 聞こえなーい!」
彼と話したくて声を掛けるも、聞こえないふりをされてしまった。強引に引っ張られながら走って、走って、ようやく駅前に辿り着いた。
「ふー。ここまでくれば大丈夫だろ。お前もさぁ、風俗利用するならマナーやルールをきちんと勉強してから、適度に遊ばないとな。
お勉強、得意なんだろ?」
「話……ちゃんと聞いてたんですか?」
翠は伊吹の言葉を額面通りに受け取り、ホテルを利用させたいが為に、話を聞かずに無理に利用を勧めてきたのだと思っていた。
「あったりまえだろ。お前、俺が本気でホテル勧めたと思ってんの!? 純粋過ぎるっつーか、アホ過ぎるっつーか……」
伊吹はやれやれという表情を浮かべた。
「あの、伊吹さんはゲイなんですか?」
「いきなりなんだよ? ゲイだけど、あ、もしかしてお前ホモフォビアとかいうやつ?
だったら悪かったな。もう絡まないから、お前も早く家帰りな」
「違います! 俺……男が性の対象になるなんて事、考えた事なくって……。なのに俺、伊吹さんの事……」
「ん? 興味あるの?」
「少し……」
「あはは。どんだけ性欲溜めてんの。女の子レイプ未遂したばっかじゃん、俺にまで発情するとか、逆に憐れに思えてきたわ」
「だって……俺、本当に今まで親の締め付けもあって、本当に勉強ばっかで、エッチな事何も経験ないんです。興味持つのおかしいですか?」
「普通なんじゃね? 男に興味あるんならゲイが多い界隈行けば相手なんていくらでも見つかるだろ。君、カッコイイ方だと思うし」
「え、カッコイイ? 俺が?」
「あれ、自覚なし? 髪とかちゃんとして、顔もケアすれば素材は良いと思うんだけどなぁ。
なにより若いしさ、相手には困らないんじゃね?」
「でも俺、伊吹さんとしたいです! 伊吹さんにしか勃ちそうにないです!」
「残念だね。俺、十八歳未満は相手にしない主義なんだよね」
「俺、年齢言ってませんよね?」
「普通に考えてさ、親に縛りつけられて勉強ばっかって事は高校生以下だろ。
高校卒業してまだ俺に興味あったら来いよ。
俺はリバ……受けも攻めもどっちでも出来るからさ。お前がしたいようにすりゃいいし?」
「分かりました」
伊吹がホテルの名刺を差し出して、翠は受け取った。
「俺、篠伊吹。お前は? 名前なんて言うの?」
「柳川翠です」
「ふーん? ヤナガワスイね。俺、人の名前と顔覚えるの苦手なんだ。一時間後には忘れてる自信あるくらい。
だから、もし俺に連絡する時は、今日の話をしてくれよ? 風俗嬢をレイプしようとして、男性スタッフにボコられたところを伊吹さんに助けられたヤナガワですぅってな! はははっ」
「分かりました」
翠は受け取った名刺を大事に財布にしまった。伊吹がどんな女性よりも綺麗に見えた。
彼と一緒にいれば楽しそうだとも思えたのだ。
それが翠の初恋だった。
───────────────────
一章十八話で翠が伊吹に話した内容は八割嘘です。
嘘をついた理由ですか?
それは翠君のみぞ知るですね。
番外編明けの三章で分かるかもしれません。
0
お気に入りに追加
309
あなたにおすすめの小説



体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる