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番外編
⑪虐待
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広夢は小学生の頃はそこまで良い成績ではなかった。小学校の成績というものはテストの点数だけがものをいうわけではない。
授業中の積極性や、先生の主観も入り交じった評価だ。授業中に友達と遊んだり、先生からは問題児扱いされていた広夢は、通知表では中くらいの成績だった。
だからだろう。翠は広夢が成績が悪いものだと思い込んでいたのだ。広夢の真価が発揮されたのは、中学受験の時だった。
翠が通っている塾に広夢がやってきた。中学受験をする為に入塾したようだった。
翠自身、広夢を下に見ていたのでライバル視をしていなかったのだが……。
全国模試の結果が返ってきて騒然した。塾では模試の順位が十位まで掲示されるのだが、一位に広夢の名前が載っていた。
常に一位だった翠は、二位に落ちていたのだ。
「──!」
翠はその順位表を見て、言葉を失った。
「あれっ、僕一位じゃーん。やった!」
いつの間にか翠の隣に立っていた広夢がはしゃいでいた。
「毎日あんなにお勉強してるのに、抜かしてごめんな? 柳川」
広夢はあからさまに翠を侮辱するような目でニヤリと笑っていた。翠は顔を真っ青にさせた。
翠には広夢に抜かされた事より、何より恐れている事がある。それを考えたら、広夢の挑発など毛ほども興味を持てない。
「別に。偶然だろ」
と強がりを言いながら、翠は茫然自失のまま自宅へ帰った。真っ先に母親が翠に駆け寄ってくる。
「翠、お帰りなさい。模試の順位どうだった?」
一瞬、嘘をつこうかと考えた。──だが、以前嘘をついてしまった時、バレた後が酷かった。
翠の両親は、教育の為なら暴力を惜しまない人物だ。
一番痛みが少なく済む方法は、嘘をつかない事である。
「…………あ、あの……」
「ん? どうしたの?」
「に……二位……でした」
瞬時に母親が醸している空気が変わった。ゾクリと恐怖を感じ取った瞬間、母親に腕を捕まれて今に引きずられた。
リビングに入ると、突き飛ばされて床に倒れ込む。
「おにいちゃんは一度も一位から落ちた事はなかったのよ? それなのに、あなたときたら!」
「ごめんなさい! ごめんなさい! もう一位より下に落ちません! ごめんなさい!」
「いい? お母さんもお父さんもおにいちゃんも、みんな一位が当たり前なの!
あなただけ、なんでそれが出来ないの!?」
母親は部屋の隅に立て掛けられてある竹刀を手に取り、思い切り翠の身体を目掛けて叩いた。
バンッ! と鈍い音が響く。
「ひっぐ……ごめん、なさい。尊敬するお母さん、お父さん、お兄さんのように、一位になれなくてごめんなさい」
懺悔の言葉を言う間も、母親は竹刀を何度も何度も翠の身体に打ち込んだ。
肩、背中、腹、尻、など服で隠れるような場所を狙っている。特に背中を何度も叩いた。
「おれは出来損ないです。柳川家の一員の資格はありません」
「よく分かっているわね。一位になれないとこうなるの!」
最後に大きくバチン! と尻に大きな音がして母親の虐待は終わった。
「いっ……! ……二度とこのような失態はしません」
「その言葉、前も聞いた気がするけど?」
「本当です。許してください」
「とりあえず、家族の資格ないんだから、次一位に戻るまであなたのご飯は作らないから」
「はい」
一位を取れないといつもご飯を用意して貰えなくなる。次の模試の結果で一位を取るまで、翠は自分の分の食事は自分で作った。
家族所有のパソコンを見て、料理の作り方をメモして、家の冷蔵庫にある食材で作っていたのだ。それに関して文句を言われる事はなかった。
翠に一切見向きしなくなった母親、仕事ばかりで家庭を顧みない父親、出来が良くいつも母親から褒められている兄。その中での生活は居心地が良いものではない。
母親が翠を無視すると、兄も翠を無視する。
寝る時間以外は今まで以上に机に向かって勉強をしていた。そして、次の実力テストでまた一位に戻れたのだ。
一位でいる内は家族と認めてもらえる。もう二度と二位に落ちる訳にはいかなかった。
翠が警戒していた広夢も、小学校を卒業してしまえばもう関係がなくなると思っていた。
だが、受験日。第一志望校に広夢がいたのだ。
「あれぇ、柳川もここ受けるんだ? じゃあ中学生になっても同じ学校なんだね。
仲良くしてくれよ~」
広夢は呑気に翠に近寄ってきた。
「まだ受かってもいないだろ。つか、受験が終わるまでお前は敵なんだ。俺に近寄るんじゃねぇよ」
「……はぁ。柳川っていつもそうだよな。まぁいいよ、僕は僕で好きにやるから。じゃ」
翠は悔しかった。いつも呑気で、楽しそうに友達と遊びながらも、塾では成績の良い広夢が。
広夢にだけは負けたくないと、ペンを握ったのである。
授業中の積極性や、先生の主観も入り交じった評価だ。授業中に友達と遊んだり、先生からは問題児扱いされていた広夢は、通知表では中くらいの成績だった。
だからだろう。翠は広夢が成績が悪いものだと思い込んでいたのだ。広夢の真価が発揮されたのは、中学受験の時だった。
翠が通っている塾に広夢がやってきた。中学受験をする為に入塾したようだった。
翠自身、広夢を下に見ていたのでライバル視をしていなかったのだが……。
全国模試の結果が返ってきて騒然した。塾では模試の順位が十位まで掲示されるのだが、一位に広夢の名前が載っていた。
常に一位だった翠は、二位に落ちていたのだ。
「──!」
翠はその順位表を見て、言葉を失った。
「あれっ、僕一位じゃーん。やった!」
いつの間にか翠の隣に立っていた広夢がはしゃいでいた。
「毎日あんなにお勉強してるのに、抜かしてごめんな? 柳川」
広夢はあからさまに翠を侮辱するような目でニヤリと笑っていた。翠は顔を真っ青にさせた。
翠には広夢に抜かされた事より、何より恐れている事がある。それを考えたら、広夢の挑発など毛ほども興味を持てない。
「別に。偶然だろ」
と強がりを言いながら、翠は茫然自失のまま自宅へ帰った。真っ先に母親が翠に駆け寄ってくる。
「翠、お帰りなさい。模試の順位どうだった?」
一瞬、嘘をつこうかと考えた。──だが、以前嘘をついてしまった時、バレた後が酷かった。
翠の両親は、教育の為なら暴力を惜しまない人物だ。
一番痛みが少なく済む方法は、嘘をつかない事である。
「…………あ、あの……」
「ん? どうしたの?」
「に……二位……でした」
瞬時に母親が醸している空気が変わった。ゾクリと恐怖を感じ取った瞬間、母親に腕を捕まれて今に引きずられた。
リビングに入ると、突き飛ばされて床に倒れ込む。
「おにいちゃんは一度も一位から落ちた事はなかったのよ? それなのに、あなたときたら!」
「ごめんなさい! ごめんなさい! もう一位より下に落ちません! ごめんなさい!」
「いい? お母さんもお父さんもおにいちゃんも、みんな一位が当たり前なの!
あなただけ、なんでそれが出来ないの!?」
母親は部屋の隅に立て掛けられてある竹刀を手に取り、思い切り翠の身体を目掛けて叩いた。
バンッ! と鈍い音が響く。
「ひっぐ……ごめん、なさい。尊敬するお母さん、お父さん、お兄さんのように、一位になれなくてごめんなさい」
懺悔の言葉を言う間も、母親は竹刀を何度も何度も翠の身体に打ち込んだ。
肩、背中、腹、尻、など服で隠れるような場所を狙っている。特に背中を何度も叩いた。
「おれは出来損ないです。柳川家の一員の資格はありません」
「よく分かっているわね。一位になれないとこうなるの!」
最後に大きくバチン! と尻に大きな音がして母親の虐待は終わった。
「いっ……! ……二度とこのような失態はしません」
「その言葉、前も聞いた気がするけど?」
「本当です。許してください」
「とりあえず、家族の資格ないんだから、次一位に戻るまであなたのご飯は作らないから」
「はい」
一位を取れないといつもご飯を用意して貰えなくなる。次の模試の結果で一位を取るまで、翠は自分の分の食事は自分で作った。
家族所有のパソコンを見て、料理の作り方をメモして、家の冷蔵庫にある食材で作っていたのだ。それに関して文句を言われる事はなかった。
翠に一切見向きしなくなった母親、仕事ばかりで家庭を顧みない父親、出来が良くいつも母親から褒められている兄。その中での生活は居心地が良いものではない。
母親が翠を無視すると、兄も翠を無視する。
寝る時間以外は今まで以上に机に向かって勉強をしていた。そして、次の実力テストでまた一位に戻れたのだ。
一位でいる内は家族と認めてもらえる。もう二度と二位に落ちる訳にはいかなかった。
翠が警戒していた広夢も、小学校を卒業してしまえばもう関係がなくなると思っていた。
だが、受験日。第一志望校に広夢がいたのだ。
「あれぇ、柳川もここ受けるんだ? じゃあ中学生になっても同じ学校なんだね。
仲良くしてくれよ~」
広夢は呑気に翠に近寄ってきた。
「まだ受かってもいないだろ。つか、受験が終わるまでお前は敵なんだ。俺に近寄るんじゃねぇよ」
「……はぁ。柳川っていつもそうだよな。まぁいいよ、僕は僕で好きにやるから。じゃ」
翠は悔しかった。いつも呑気で、楽しそうに友達と遊びながらも、塾では成績の良い広夢が。
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