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二章
二十二話 家を出た経緯
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中学一年生の時。何度目かの乱交の後、瑞希は伊吹への恨み言と共に、手首をカッターで切って見せた。
急に先輩の家に連れて行かれ、瑞希は先輩達に陵辱されたのだ。一番傷付いたのは
「瑞希は俺を大事にしてくれるけど、俺は先輩達の方が良いです」
と言った伊吹の言葉だ。丁寧な調教をする瑞希と、乱暴に暴行をする先輩達を比べられた挙句、先輩達を選んだ。
瑞希自身を全否定された気分になった。
騙されて先輩達の玩具にされただけなら、伊吹に罰を与えて終わっただろう。その後、約八年も拗れる事になったのは、全てその言葉が原因だった。
その事件から伊吹への想いを自覚してしまう事になり、瑞希の恋心を歪ませたのだ。
瑞希が手首から血を流しながら家に帰ると、まず親に心配された。
「瑞希、それどうしたの!?」
母親が駆け寄って、瑞希の手を売り物の硝子製品を手にするように、怖々と両手で握った。
「それって……あぁ、リスカした」
「どうして!? それより、早く手当しなくちゃ!」
母親は大慌てで救急箱を持ってきて、瑞希の手首の手当をした。
「どうしてこんな事をしたの?」
「……なんとなく」
「なんとなくでそんな事しないでしょう!?」
「聞かないで。僕にも色々あるんだ」
瑞希はその件があってから、家に居づらくなった。ここから、両親が気を使ってか、瑞希を腫れ物のように扱い始めた。
弟の航も、それ以前はよく遊んでいたのだが。
「にぃちゃん、ここ教えて欲しいんだけど……」
と、近寄ってきた航に、
「これからは自分で調べて。僕の部屋に勝手に入るな。僕に近寄るな」
「なんで?」
瑞希は答えずに無視をした。その後も拒絶してから会話は最低限となり、航もあまり近寄ってこなくなった。
そして家族と距離を置き、夜遅くまで帰らなくなった。その為、何度も補導された。
それでも両親も航も瑞希を支えようとしていたのだが、全員に見限られてしまう事件が起こった。
高校生になった頃だ。ある秋の事、瑞希のクラスである噂話が囁かれた。
「隣のクラスにさぁ、篠って奴いるんだけど……」
「あ~、あのカッコイイ? 友達が伊吹君好きって言ってたっけ……」
「アイツ、オッサンと援交してるらしいぜ」
「うっそ~」
「噂だから本当かは知らないんだけどさ~」
特に証拠があるわけではない、根拠の無い噂話だ。瑞希は知っていた。伊吹が大人の男と密会して、SMプレイをしていると。
その情報は、瑞希が援助交際をしている内の一人の男性から聞いた。その男性は伊吹と会った事があり、SMプレイをしたと言っていた。
「あの子、凄いドMだったよ~」
と、プレイ内容も聞かせてくれるので、その男性をスパイに、その後も伊吹の様子を聞いていたのだ。
だがその後、実害を被ったのは瑞希だった。
そんな噂を聞いた翌日、瑞希の援助交際と思われてもおかしくなさそうな写真が学校に送られたのだ。
瑞希は親と共に校長に呼び出された。突きつけられたラブホ街を腕を組んで歩いている時の写真。
「援交じゃありません。たまたまです。
ここにいたのは、近くにゲーセンがあって立ち寄ったからです。たまたま道に迷ってコケて足を怪我した僕を、この人が助けてくれただけなんです。
しかも、これ五ヶ月は前の話ですよ」
と、上手く言い逃れをした。学校側は不問にしてくれたが、両親はより一層、瑞希の扱いに困ったのか、家での会話は最低限から無に近くなった。
学校では、
「援交してたの篠じゃなくて佐々木なんだってよ」
「見間違えられたの? 二人って全然見た目違くない?」
「よく分かんないけど、篠は違うらしい」
そんな話だけが広まってしまい、瑞希に近寄る者はいなくなった。
その後、伊吹は上手く隠れて男性と会うようになり、見つかる事はなくなったのだが、何故か瑞希の援助交際の写真はその後も二度ほど学校に送られた。
学校側はその度に瑞希と親を呼び出し、厳重注意をされた。援交をしたという決定的な証拠はないので、何か処分を下される事はなかったが。
両親や弟に顔向けできる筈もなく、なるべく家に寄り付かなくなった。
瑞希は知っていた。そんな事をした犯人が伊吹であると。
伊吹は写真を送った後、決まって瑞希の反応を見るかのような怪しい動きをしていたのだ。伊吹で間違いないと判断した。
そんな伊吹に腹が立ち、憎悪も募る一方だったが、やり返そうとは思わなかった。
許さないと怒りに燃えている反面、伊吹がした事なら許してしまいたい、という気持ちもあったのだ。
高校三年生になり伊吹と同じクラスになって、伊吹に復讐する事が瑞希の全てとなった。時に優しくして、時に過去のネタを元に脅す。
伊吹は笑える程に瑞希に従順だった。
だが高校卒業も間近という時、伊吹の祖父が亡くなった。葬儀中、ずっと放心状態だった伊吹を支えた。
やはり、瑞希の中で伊吹は庇護すべき相手なのだ。守ってあげたい、そんな気持ちが強くなる。
そんな大きな出来事の後、瑞希は両親に呼ばれた。和風の部屋で、両親が並んで座布団に正座し、木製のテーブルを挟んで、瑞希が二人の真ん中に対するように座布団に正座した。
「瑞希……本当に大学進学はしないのか?」
まず父親が一家の大黒柱らしい、真面目な目を瑞希に向けた。
「しない。どうせ知ってるんでしょ。僕が援交してるって。
オッサン相手にするの、僕に向いてるみたい。天職だと思うし、このまま身体を売って生活するよ」
「お願い、教えて。何があったの? 何か悪い事が起きて、それでそんな風になってしまったのよね?」
「父さんも母さんも、航も、お前の味方だ。話してくれるなら、支えてやりたいと思ってるんだ。
怒らないから、話してくれ」
母親も父親も、真剣な眼差しで瑞稀を見つめている。どうしても話せなかった。
話すという事は、大事な家族が伊吹を憎悪の対象として見る可能性があるという事だ。
この期に及んで、伊吹の体裁を案じてしまう。
「何も! ネットでエロサイトにハマってさ。試しにやってみたら楽しかったんだよ。それだけ。
今後の人生、楽しくセックスしながら生きたいんだよねぇ。進学するだけ無駄だよ。
あ、ヤリ目的でもいいなら大学進学してもいいけど?」
両親は沈黙した。そして、絶縁宣言をした。
「それなら、瑞希……あなたはもう私達の子供じゃないわ」
「高校を卒業したら、出ていけ。勘当する」
「……分かった」
瑞希は表情を変える事なく立ち上がり、部屋を出た。後ろからは母親のすすり泣く声が響いていた。
近くで話を聞いていたらしい航が瑞希に近寄り、心配そうに見つめた
「にぃちゃん……本気? これから真っ当になるなら、父さんも母さんも兄ちゃんを追い出さないよ?」
「真っ当になるつもりないから」
航に冷たく言い放ち、その後は殆ど家に寄り付かなくなった。そして、卒業式を迎えた日。瑞希は家を出た。
急に先輩の家に連れて行かれ、瑞希は先輩達に陵辱されたのだ。一番傷付いたのは
「瑞希は俺を大事にしてくれるけど、俺は先輩達の方が良いです」
と言った伊吹の言葉だ。丁寧な調教をする瑞希と、乱暴に暴行をする先輩達を比べられた挙句、先輩達を選んだ。
瑞希自身を全否定された気分になった。
騙されて先輩達の玩具にされただけなら、伊吹に罰を与えて終わっただろう。その後、約八年も拗れる事になったのは、全てその言葉が原因だった。
その事件から伊吹への想いを自覚してしまう事になり、瑞希の恋心を歪ませたのだ。
瑞希が手首から血を流しながら家に帰ると、まず親に心配された。
「瑞希、それどうしたの!?」
母親が駆け寄って、瑞希の手を売り物の硝子製品を手にするように、怖々と両手で握った。
「それって……あぁ、リスカした」
「どうして!? それより、早く手当しなくちゃ!」
母親は大慌てで救急箱を持ってきて、瑞希の手首の手当をした。
「どうしてこんな事をしたの?」
「……なんとなく」
「なんとなくでそんな事しないでしょう!?」
「聞かないで。僕にも色々あるんだ」
瑞希はその件があってから、家に居づらくなった。ここから、両親が気を使ってか、瑞希を腫れ物のように扱い始めた。
弟の航も、それ以前はよく遊んでいたのだが。
「にぃちゃん、ここ教えて欲しいんだけど……」
と、近寄ってきた航に、
「これからは自分で調べて。僕の部屋に勝手に入るな。僕に近寄るな」
「なんで?」
瑞希は答えずに無視をした。その後も拒絶してから会話は最低限となり、航もあまり近寄ってこなくなった。
そして家族と距離を置き、夜遅くまで帰らなくなった。その為、何度も補導された。
それでも両親も航も瑞希を支えようとしていたのだが、全員に見限られてしまう事件が起こった。
高校生になった頃だ。ある秋の事、瑞希のクラスである噂話が囁かれた。
「隣のクラスにさぁ、篠って奴いるんだけど……」
「あ~、あのカッコイイ? 友達が伊吹君好きって言ってたっけ……」
「アイツ、オッサンと援交してるらしいぜ」
「うっそ~」
「噂だから本当かは知らないんだけどさ~」
特に証拠があるわけではない、根拠の無い噂話だ。瑞希は知っていた。伊吹が大人の男と密会して、SMプレイをしていると。
その情報は、瑞希が援助交際をしている内の一人の男性から聞いた。その男性は伊吹と会った事があり、SMプレイをしたと言っていた。
「あの子、凄いドMだったよ~」
と、プレイ内容も聞かせてくれるので、その男性をスパイに、その後も伊吹の様子を聞いていたのだ。
だがその後、実害を被ったのは瑞希だった。
そんな噂を聞いた翌日、瑞希の援助交際と思われてもおかしくなさそうな写真が学校に送られたのだ。
瑞希は親と共に校長に呼び出された。突きつけられたラブホ街を腕を組んで歩いている時の写真。
「援交じゃありません。たまたまです。
ここにいたのは、近くにゲーセンがあって立ち寄ったからです。たまたま道に迷ってコケて足を怪我した僕を、この人が助けてくれただけなんです。
しかも、これ五ヶ月は前の話ですよ」
と、上手く言い逃れをした。学校側は不問にしてくれたが、両親はより一層、瑞希の扱いに困ったのか、家での会話は最低限から無に近くなった。
学校では、
「援交してたの篠じゃなくて佐々木なんだってよ」
「見間違えられたの? 二人って全然見た目違くない?」
「よく分かんないけど、篠は違うらしい」
そんな話だけが広まってしまい、瑞希に近寄る者はいなくなった。
その後、伊吹は上手く隠れて男性と会うようになり、見つかる事はなくなったのだが、何故か瑞希の援助交際の写真はその後も二度ほど学校に送られた。
学校側はその度に瑞希と親を呼び出し、厳重注意をされた。援交をしたという決定的な証拠はないので、何か処分を下される事はなかったが。
両親や弟に顔向けできる筈もなく、なるべく家に寄り付かなくなった。
瑞希は知っていた。そんな事をした犯人が伊吹であると。
伊吹は写真を送った後、決まって瑞希の反応を見るかのような怪しい動きをしていたのだ。伊吹で間違いないと判断した。
そんな伊吹に腹が立ち、憎悪も募る一方だったが、やり返そうとは思わなかった。
許さないと怒りに燃えている反面、伊吹がした事なら許してしまいたい、という気持ちもあったのだ。
高校三年生になり伊吹と同じクラスになって、伊吹に復讐する事が瑞希の全てとなった。時に優しくして、時に過去のネタを元に脅す。
伊吹は笑える程に瑞希に従順だった。
だが高校卒業も間近という時、伊吹の祖父が亡くなった。葬儀中、ずっと放心状態だった伊吹を支えた。
やはり、瑞希の中で伊吹は庇護すべき相手なのだ。守ってあげたい、そんな気持ちが強くなる。
そんな大きな出来事の後、瑞希は両親に呼ばれた。和風の部屋で、両親が並んで座布団に正座し、木製のテーブルを挟んで、瑞希が二人の真ん中に対するように座布団に正座した。
「瑞希……本当に大学進学はしないのか?」
まず父親が一家の大黒柱らしい、真面目な目を瑞希に向けた。
「しない。どうせ知ってるんでしょ。僕が援交してるって。
オッサン相手にするの、僕に向いてるみたい。天職だと思うし、このまま身体を売って生活するよ」
「お願い、教えて。何があったの? 何か悪い事が起きて、それでそんな風になってしまったのよね?」
「父さんも母さんも、航も、お前の味方だ。話してくれるなら、支えてやりたいと思ってるんだ。
怒らないから、話してくれ」
母親も父親も、真剣な眼差しで瑞稀を見つめている。どうしても話せなかった。
話すという事は、大事な家族が伊吹を憎悪の対象として見る可能性があるという事だ。
この期に及んで、伊吹の体裁を案じてしまう。
「何も! ネットでエロサイトにハマってさ。試しにやってみたら楽しかったんだよ。それだけ。
今後の人生、楽しくセックスしながら生きたいんだよねぇ。進学するだけ無駄だよ。
あ、ヤリ目的でもいいなら大学進学してもいいけど?」
両親は沈黙した。そして、絶縁宣言をした。
「それなら、瑞希……あなたはもう私達の子供じゃないわ」
「高校を卒業したら、出ていけ。勘当する」
「……分かった」
瑞希は表情を変える事なく立ち上がり、部屋を出た。後ろからは母親のすすり泣く声が響いていた。
近くで話を聞いていたらしい航が瑞希に近寄り、心配そうに見つめた
「にぃちゃん……本気? これから真っ当になるなら、父さんも母さんも兄ちゃんを追い出さないよ?」
「真っ当になるつもりないから」
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