乱交パーティー出禁の男

眠りん

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二章

十九話 瑞希との約束

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 それは約二年半前の事だった。
 伊吹と共に約六年もの間、二人で暮らしてきた祖父が亡くなった。
 祖父は九十歳という高齢で、病院に入院していた。
 皆が受験勉強をし始める頃だった。お見舞いに訪れた時、眠るように亡くなっていた。

 本当に悲しい時、声も出なくなるのだと伊吹は知った。泣く事も慌てる事も出来ず、祖父の横に座ったまま動けなかった。
 医者からの死亡確認後、しなければならない事は頭の中では分かっているのに、動けない。一緒に過ごしてきた日々を何度も思い返しては、動かなくなった祖父の顔を見つめていた。

「じいちゃん……」


 その後、葬儀には伊吹の父と、乳の兄や姉の家族、そして瑞希が顔を出した。祖父の友人や兄弟姉妹はは既に他界しており、少人数だけが集まった。

 父には一切近寄らず、瑞希が傍でずっと伊吹を支えていた。
 茫然自失となっている伊吹を瑞希が甲斐甲斐しく伊吹の世話を焼いていたが、その記憶は殆ど残っていない。
 

 伊吹の今後を親戚達は心配していたが、高校を卒業するので一人で生きていけると親戚に話した。
 もう伊吹の生活を支える祖父はいない。大学は諦めて就職を考えていたのだが、祖父は遺言を残しており、財産の殆どを伊吹に与えた。

 お陰で大学に進学する事が出来ただけでなく、余った金で何か事業を始める事にしたのだ。
 その話を真っ先に瑞希にした。
 昼休みに、誰もいない屋上で伊吹は瑞希に相談をした。

「ゲイ専用のラブホでも経営しようかと思ってるんだけど、どう思う?」

 伊吹は親の目を窺うような子供のような目を瑞希に向けた。

「いいんじゃない。やりたいようにすればいいじゃん」

「うん……でも、瑞希の許可がないと、俺、どうしたらいいか分からないんだ」

「も~! 伊吹は困った子だなぁ! そんなところが可愛いんだけどね。
 じゃーあ、そのラブホを利用して僕に乱パ出来る場所を提供するっていうのはどうかな?」

「えっ……! 高校出た後も、この関係続けるの?」

「そりゃ~そうでしょ。もしかして、卒業したら自由って思ってた? 残念でした。
 僕の気が許すまで、伊吹を利用し倒してあげるよ。僕の奴隷なんだから」

「そ、そうだよな……」

 伊吹の顔は暗くなった。高校を卒業して、それぞれの人生が動き出せば、瑞希も他人を憎んでる暇などなくなり、自然にこの関係は消滅するものだと、心のどこかで期待していた。

「ま、伊吹の逃げ道を用意してあげなくもないけど」

「本当?」

「うん。あんまり追い詰めて反撃されるのも嫌だしねぇ。乱パの場所提供してくれるんなら、プライベートの伊吹には一切近寄らないし、関わらないよ。どう?」

「うん。それなら、安心……って、そんな事したら、瑞希が俺に復讐する機会がなくなるんじゃないのか?」

「いいのいいの。その代わり、乱パの時は今と同じように、仲良い親友でいて欲しいなぁ」

 瑞希の言葉に心が揺らぐ。

「でも、もし瑞希が約束破ったら……?」

「その時は、伊吹がSになって僕にどんな酷い事してもいいよ」

「そこまでして乱パしたいの?」

「だってさ、外で乱パしようとすると危ないじゃん。参加者にヤバい人いるかもしれないし、警察に捕まっちゃうかもしれない。
 それなら、伊吹が安全に乱パ出来るシステム作ってくれたら問題解決でしょ?
 んじゃ、よろしく~」

 瑞希は軽々しい口調で、大変な注文を突きつけてきた。乱交パーティーを開く事は犯罪だ。
 いかにバレずに運営していくかが問題だ。

 現在その問題は、完全紹介制にして厳しいルールを設ける事でどうにか良いバランスを保っている。
 参加者はほぼ瑞希の紹介だ。ホテルに従事する者か、参加者の内の誰か告発でもしない限りは捕まる事はない。
 関わっている者全員が同罪だ。

 そして、一番大事な準備。誰をラブホテルの店長にするかだ。伊吹が店長をすると自由な時間がなくなってしまう。
 折角、瑞希がプライベートに干渉しないなら、自由にサークル活動がしたいと思った。
 業務にかかりきりになる事は避けたかったのだ。そして、ホテル内で瑞希から自分を守る人が必要だった。

 店長と副店長は、民間の会社でボディガードをしていた者をスカウトした。店の運営業務を兼ねた伊吹だけのボディガードだ。
 ホテル内で瑞希に襲われた時に守ってもらえるよう、伊吹が自室に使っている七階の部屋には至る所に非常ボタンが設置されている。
 ボタンを押すと、裏の事務所でブザーが鳴るので、すぐに駆けつけられるというものだ。

 瑞希対策をしっかりした事により、安心して大学生活を満喫出来た。瑞希との関係も表向きは良好で、二年もの間、幸せだと思える日々を送れていたのだ。
 翠と出会うまでは。

 正確には、翠が伊吹より瑞希を優先して守るまでは──。
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