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二章
十二話 頼れる相手
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夏鈴の手を掴んでボーリング場を出た伊吹は、ある程度離れた場所で夏鈴の手を離した。
そして、困惑している夏鈴に頭を下げて謝罪をする。
「悪かった。翠はたまにおかしいところがあって、感情的になったんだと思う。許してくれとは言わない。
こんな事を頼むのは烏滸がましいけれど、今回の件は胸の内に隠してくれないか?」
頭を下げている伊吹には、夏鈴の顔は見えない。怒っているのかも、悲しんでいるのかも分からない。怖くて見れない。
「篠君がそんな真面目な対応するなんて、あの人の事、本当に大事なんだね?」
「……え?」
伊吹は頭を上げた。そこには、やれやれといった感じで半ば諦めたような顔をしている夏鈴が、伊吹を見つめていた。
「私の告白の返事は?」
「……ごめん。君と付き合う事は出来ない。
あの、誰にも言わないで欲しいんだけど……えっと……」
「言わないから、何が言いたいのかハッキリして」
「俺、ゲイなんだ。アイツと付き合ってる」
夏鈴は鼻からフーっと息を吐く。少し怒っている様子だ。
「それなのに、私にあんな思わせぶりなラインしてきたわけ?」
「夏鈴の反応を見て楽しんでた。ごめん」
伊吹がそう言った瞬間、パシンッと夏鈴の平手が伊吹の左頬を打った。
「サイッテー! もう話しかけてこないで」
夏鈴は怒った顔をして、伊吹の前から立ち去ろうとした。
「俺が……普通に女性を愛せたら、多分、夏鈴……坂本さんを好きになってた、と思う」
「だから? 実際そうじゃないんだから、そんな事私に言われても困るよ!」
「いや、だから! 恋愛は出来なくても、友人関係くらい続けてくれても……」
「無理!」
「君が望む事は出来るだけ叶えるから。欲しいものとかあれば何だって買ってあげるし」
夏鈴は深く溜息をついた。
「……篠君は最低な人だね」
そして夏鈴は伊吹の前から立ち去った。悔しさが込み上げる。恋愛は出来なくても、良い友達としてやっていけると本気で思っていた。
そう思えるくらい魅力的な人だった。
付き合えないからなんだというのだ。と、夏鈴の伊吹への気持ちは全て無視した考えで、夏鈴に苛立ちを感じた。
無責任な涙が流れて地面を濡らす。伊吹は目を擦りながらスマホの画面を操作した。
「どうしたら良かったんだよ……」
瑞希にラインを送った。助けて欲しいと──。
ラブピーチの七階。乱交パーティーがない日はただの広々とした自室となっている。受付のバイトに瑞希が来たら七階に上げるよう頼んで、瑞希を待っていたのだが。
「やっほー! 伊吹、元気~? じゃなさそうだねぇ」
何やらニヤついて楽しそうな瑞希と、その後ろから諸悪の根源である翠が現れた。
「瑞希……つか、なんで翠がいんだよ? お前、誰が翠呼んで来いって言ったよ!?」
伊吹は瑞希の両肩を掴んで前後に揺らした。
「あははは~。伊吹、待て!」
命じられると逆らえない。伊吹は瑞希の肩から手を離してピシッと直立した。まるで犬のようだ。
「いい子。僕の命令は聞けるね?」
「……は、はい」
瑞希は伊吹をそのままにして、振り返って翠に笑いかけた。
「翠君、とりあえずどこか座ったら?」
「えっ、でも……いいです、立ってます」
翠は困惑気味に拒否すると、瑞希は溜息をつく。
「今この部屋は僕の部屋と言っても過言じゃないよね? 伊吹」
「はい」
「ほら、この部屋の持ち主である僕が座れって言ってんだよ。早く座りなさい、翠」
一瞬、瑞希がご主人様としての顔を見せた。それだけで伊吹のペニスは熱くなってくるのだからいけない。
それが伊吹相手ではなく、翠に命じた事だとしても、身体が反応してしまう。
「分かりました」
翠はベッドに座った。
「伊吹も。翠の隣に座って」
「え゛?」
伊吹は分かりやすく嫌そうな顔をした。
「伊吹、命令」
だが、瑞希にそう言われると逆らえないという悲しい性がある伊吹は、渋々翠の隣に座る。
瑞希は椅子を持ってきて二人の前に座った。
「まず、話を整理したいから順を追って聞いていくね。伊吹はどうしたの?」
「翠が、デート中おかしくなった。二人でボーリングしてる時、俺が仲良くしてる女子と偶然会って、喋ってたら翠がその女子に喧嘩売ってきたんだよ」
「翠君が嫉妬の余り、関係のない女の子に迷惑かけたのね? それで、どうして僕にわざわざ連絡してきたの?
僕の知ってる伊吹ならこういう時、その女の子に謝りつつも内心責任転嫁して終わりだと思うんだけど」
「うぐっ……どうして分かった?」
「そりゃあね。伊吹の事なら大体分かるよ。それで?」
「瑞希に相談っていうのは、どうしたら夏鈴と仲直り出来るかな? って事なんだ。
告白されて断ったけど、ちゃんとゲイって事も、翠と付き合ってる事も話したよ」
「バカ」
やれやれと瑞希は嘆息する。
「だって、話しておいた方がいいだろ。ゲイで翠と付き合ってるって言えば、恋愛感情なしに友達付き合い出来るだろうし」
「ほんと、バカなの? 伊吹ってつくづく成長しないよね。僕を裏切った時と変わらない。
自分に都合よく相手の心を変えられると思わないでよ。まぁそれが伊吹らしいって言えばらしいんだけど。その子との関係修復はもう不可能だから、その話はもう終わりね。
で、翠君は? 何用?」
「終わりって……」
伊吹は愕然とした。
そして、次が本題だったのだろう、瑞希はいつになく真面目な目を翠に向けていた。
そして、困惑している夏鈴に頭を下げて謝罪をする。
「悪かった。翠はたまにおかしいところがあって、感情的になったんだと思う。許してくれとは言わない。
こんな事を頼むのは烏滸がましいけれど、今回の件は胸の内に隠してくれないか?」
頭を下げている伊吹には、夏鈴の顔は見えない。怒っているのかも、悲しんでいるのかも分からない。怖くて見れない。
「篠君がそんな真面目な対応するなんて、あの人の事、本当に大事なんだね?」
「……え?」
伊吹は頭を上げた。そこには、やれやれといった感じで半ば諦めたような顔をしている夏鈴が、伊吹を見つめていた。
「私の告白の返事は?」
「……ごめん。君と付き合う事は出来ない。
あの、誰にも言わないで欲しいんだけど……えっと……」
「言わないから、何が言いたいのかハッキリして」
「俺、ゲイなんだ。アイツと付き合ってる」
夏鈴は鼻からフーっと息を吐く。少し怒っている様子だ。
「それなのに、私にあんな思わせぶりなラインしてきたわけ?」
「夏鈴の反応を見て楽しんでた。ごめん」
伊吹がそう言った瞬間、パシンッと夏鈴の平手が伊吹の左頬を打った。
「サイッテー! もう話しかけてこないで」
夏鈴は怒った顔をして、伊吹の前から立ち去ろうとした。
「俺が……普通に女性を愛せたら、多分、夏鈴……坂本さんを好きになってた、と思う」
「だから? 実際そうじゃないんだから、そんな事私に言われても困るよ!」
「いや、だから! 恋愛は出来なくても、友人関係くらい続けてくれても……」
「無理!」
「君が望む事は出来るだけ叶えるから。欲しいものとかあれば何だって買ってあげるし」
夏鈴は深く溜息をついた。
「……篠君は最低な人だね」
そして夏鈴は伊吹の前から立ち去った。悔しさが込み上げる。恋愛は出来なくても、良い友達としてやっていけると本気で思っていた。
そう思えるくらい魅力的な人だった。
付き合えないからなんだというのだ。と、夏鈴の伊吹への気持ちは全て無視した考えで、夏鈴に苛立ちを感じた。
無責任な涙が流れて地面を濡らす。伊吹は目を擦りながらスマホの画面を操作した。
「どうしたら良かったんだよ……」
瑞希にラインを送った。助けて欲しいと──。
ラブピーチの七階。乱交パーティーがない日はただの広々とした自室となっている。受付のバイトに瑞希が来たら七階に上げるよう頼んで、瑞希を待っていたのだが。
「やっほー! 伊吹、元気~? じゃなさそうだねぇ」
何やらニヤついて楽しそうな瑞希と、その後ろから諸悪の根源である翠が現れた。
「瑞希……つか、なんで翠がいんだよ? お前、誰が翠呼んで来いって言ったよ!?」
伊吹は瑞希の両肩を掴んで前後に揺らした。
「あははは~。伊吹、待て!」
命じられると逆らえない。伊吹は瑞希の肩から手を離してピシッと直立した。まるで犬のようだ。
「いい子。僕の命令は聞けるね?」
「……は、はい」
瑞希は伊吹をそのままにして、振り返って翠に笑いかけた。
「翠君、とりあえずどこか座ったら?」
「えっ、でも……いいです、立ってます」
翠は困惑気味に拒否すると、瑞希は溜息をつく。
「今この部屋は僕の部屋と言っても過言じゃないよね? 伊吹」
「はい」
「ほら、この部屋の持ち主である僕が座れって言ってんだよ。早く座りなさい、翠」
一瞬、瑞希がご主人様としての顔を見せた。それだけで伊吹のペニスは熱くなってくるのだからいけない。
それが伊吹相手ではなく、翠に命じた事だとしても、身体が反応してしまう。
「分かりました」
翠はベッドに座った。
「伊吹も。翠の隣に座って」
「え゛?」
伊吹は分かりやすく嫌そうな顔をした。
「伊吹、命令」
だが、瑞希にそう言われると逆らえないという悲しい性がある伊吹は、渋々翠の隣に座る。
瑞希は椅子を持ってきて二人の前に座った。
「まず、話を整理したいから順を追って聞いていくね。伊吹はどうしたの?」
「翠が、デート中おかしくなった。二人でボーリングしてる時、俺が仲良くしてる女子と偶然会って、喋ってたら翠がその女子に喧嘩売ってきたんだよ」
「翠君が嫉妬の余り、関係のない女の子に迷惑かけたのね? それで、どうして僕にわざわざ連絡してきたの?
僕の知ってる伊吹ならこういう時、その女の子に謝りつつも内心責任転嫁して終わりだと思うんだけど」
「うぐっ……どうして分かった?」
「そりゃあね。伊吹の事なら大体分かるよ。それで?」
「瑞希に相談っていうのは、どうしたら夏鈴と仲直り出来るかな? って事なんだ。
告白されて断ったけど、ちゃんとゲイって事も、翠と付き合ってる事も話したよ」
「バカ」
やれやれと瑞希は嘆息する。
「だって、話しておいた方がいいだろ。ゲイで翠と付き合ってるって言えば、恋愛感情なしに友達付き合い出来るだろうし」
「ほんと、バカなの? 伊吹ってつくづく成長しないよね。僕を裏切った時と変わらない。
自分に都合よく相手の心を変えられると思わないでよ。まぁそれが伊吹らしいって言えばらしいんだけど。その子との関係修復はもう不可能だから、その話はもう終わりね。
で、翠君は? 何用?」
「終わりって……」
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