乱交パーティー出禁の男

眠りん

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二章

十話 翠の怒り

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「負けた方が今日の夜ご飯奢るって事でどうですか?」

 翠は伊吹に提案した。すると、伊吹は目を輝かせて頷いた。

「いいぜ! ぜってー負けねぇ!」

 少し驚く。伊吹はクールな方だと思っていたが、勝負事は好きらしい。
 右腕をクルクルと回してやる気満々だ。

「ははっ、じゃあ俺も伊吹さんには負けませんよ」

 交互でボールを投げ続け、伊吹は慣れているのか何度かストライクを出した。翠はボーリングは数える程しかした事がなく、ガターを出す事も多い。

「伊吹さん、俺不利じゃないですか?」

「勝負に持ち込んだの翠じゃん。文句言わせないぜ」

 負けは確定している翠だが、それ以上に感動していた。伊吹は屈託のない笑顔で笑っているのだ。
 それが見れただけで、夕飯くらい何度でも奢りたくなる位喜ばしい。

 だが、翠の幸せな時間は突如として終わりを迎えた。十フレーム目だ。翠が二回投げ終わり、振り向くと、伊吹が知らない女性と話していた。
 セミロングの茶髪が特徴の女性だ。ウェーブのかかった髪は、右サイドで結かれていて右耳を隠している。
 眼鏡を掛けているが、そのせいか吊り目がキツく見える。

 女性は伊吹の横に立っており、伊吹は座ったまま女性に顔だけ向けている。

「なんでここにいるの?」

 と、その女性は目を丸くして伊吹に問いかけた。

「友達と遊んでてさ」

「へぇ~。私達と遊ぶの断って、他校の友達とねぇ?」

 女性が翠にチラっと目を向けた。翠は彼女に見覚えがあった。イベントサークルの飲み会で見掛ける顔だ。
 伊吹と同じ大学なのだとすぐ分かった。

「そりゃあ……翠との約束の方が先だったし。何? ジェラシー?」

「バカな事言わないでよ。篠君が来ないから、参加しなかった子とかいたんだからね」

「だーよな。モテ過ぎて困るわ~」

「モテ過ぎては言い過ぎよ。ふふっ」

 二人は喋りながら無邪気に笑っていた。翠は、はらわたが煮えくり返る思いだ。
 彼女に対する怒りが、憎悪が、溢れて止まない。

 ここで「イイ人」を演じるメリットはないと判断した翠は、怒りを表面に出したまま、二人に近付いた。
 それに気付かない伊吹は、手を挙げて翠を手招いた。

「あ、翠! 彼女、最近俺が仲良くしてる……──翠? お前、どうした?」

 翠は二人がどうしてそんな顔をしているのか、自覚がない。
 伊吹は困惑の表情をして身体を硬直させており、彼女は顔色を青くさせて怯えた目をしている。

「その人、誰です? 伊吹さんのお友達?」

「そっ、そうだよ。同じ学科の友達。同じサークルで、お前も顔合わせた事あっただろ?」

「知りませんね。俺、伊吹さん以外の人どうでもいいから視界に入れてないですし」

「何言ってんだよ。コイツ変なところあるんだよ、気にしないでくれよ」

「う……うん。随分ユニークな人ね。篠君の事、本当に好きなんだね?」

 彼女は困惑気味に伊吹に同調したが──。

「好き? そんな軽々しい言葉でまとめないで下さい。あなたは伊吹さんの事が好きなんでしょうが、その好きは俺とは重みが違うんだ」

 翠は彼女を見下ろすように睨み付けた。怯える彼女は、翠から視線を逸らして伊吹に助けを求めていた。
 そのSOSに伊吹はすぐに気付いて、立ち上がると彼女を守るように前に立ち、翠と向き合う。

「翠、どうしたんだ? なんか変だぞ。夏鈴が怖がってるだろ?」

「か……りん?」

「そうだよ。坂本夏鈴さんっていうの。先輩なんだから、少しくらい敬えよな」

 翠は徐々に怒りが加速していく事を自覚していたが、止められなかった。
 わなわなと震え、今にも怒鳴りたくなる衝動に駆られた。爆発しそうな怒りを抑える事しか出来ない。

「なんで下の名前で呼んでるんです?」

「べ、別にいいだろ。友達なんだから」

「そういう態度が相手を勘違いさせるんですよ。坂本さん、あなた伊吹さんの事好きですよね?」

 夏鈴の手は震えていた。顔を真っ青にして、冷や汗を流しながら頭を左右に揺らす。

「……好きじゃないです」

「嘘つくなよ。あなたの目は、伊吹さんを金ヅルにしようとする軽薄な女とは違う。
 好きじゃないって言うなら、今すぐここで、今後一切伊吹さんに近付かないって誓ってください」

「お前! 言っていい事と悪い事があるだろ!」

 伊吹は翠の胸ぐらを掴んで、怒鳴った。翠の目を真っ直ぐ睨み付ける。
 伊吹はすぐに冷静になって掴んだ手を離した。

 お互い少し落ち着くと、翠は伊吹にだけ聞こえる声で話す。

「伊吹さん……俺、浮気とか色々許すって言いましたけど、それは身体だけの関係だからです。
 こんな、伊吹さんに特別な感情を持ってる人との浮気は許しませんよ?」

「だからっ、浮気じゃねぇって言ってるんだよ」

「じゃあ何です?」

「ただの友達だ」

「伊吹さんはあの人が自分に好意を向けてるって分かってた筈ですよね?
 それでお友達? バカ言わないで下さいよ」

 伊吹の返答を待っていると、夏鈴が近付いて伊吹の隣に立った。毅然な目には涙が浮かんでいる。

「……もう、やめて下さい」

「それはこっちのセリフです。もう伊吹さんに近寄るのやめてもらえませんか?」

「嫌よ」

 今まで怯えた目をしていた夏鈴だったが、何かを決意したらしい、キッと意思の強い目で翠を睨み返してきた。

「私は、篠君が好き。だからあなたの要望には応えたくない」
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