乱交パーティー出禁の男

眠りん

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一章

十五話 信頼関係

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 説明はその後も続いた。伊吹は翠や瑞希に相談などせず、一日の内に流れの説明を全てやってしまう事にしたのだ。
 何度も来てもらうよりは、一度に一気に推し進め、後は二日ばかり練習に来てもらったら本番に望めるようにすれば、時給換算で普通のバイトよりは稼げる計算だ。

 一気に情報を詰め込まれるので、人によっては別の不満が出そうだが、伊吹はそこまで考えていなかった。
 それを分かっているのは瑞希だけだ。「どうせ長話でしょ。僕寝てるね」と、怠そうに広いキングベッドに一人で潜ってしまった。

 反対に翠はそもそもSMについて何も分からない為、一からの説明となる。
 伊吹はホワイトボードを部屋に入れ、ペンで書きながら説明、翠は椅子に座って話を聞いていた。
 
「SMショーの一応の流れとして、まず挨拶、縛り、慣れたら吊り、鞭、蝋燭、その他プレイ……縄を外して挨拶で大体の流れは終わり。
 まぁSMショーは自由度高いから、今言った流れを絶対やらないといけないわけじゃない。
 何か質問は?」

「その他プレイって、針とかディルドを使ったりですか?」

「針はあるかもな。この前みたいに不意打ちで刺したりはないけど、肌の上をなぞるだけで十分プレイになるんだよ。
 後は乳首責めとか、鼻フックとか、くすぐりプレイとか色々だよ」

「結構軽いんですね? 前みたいにアソコを鞭で打ったりとか、」

「それはしない。陰部……性器や肛門の露出は禁止だから」

「えっ!? そうなんですか!?」

 翠は驚きの顔を見せた。それはそうだろう。前回や前々回と同じようにアナル拡張等の事をされると思ったようだ。

「いいか、今まではルール違反者への罰という事であんなプレイをしたけど、普通はしない」

 それを聞いた翠は分かりやすくホッとしていた。

「法律的な問題で局部を出すのはダメなんだよ。この前のSMショーは完全に違法行為。きちんとしたショーでは局部を出さないのが基本なんだ。
 まぁ他のところでSMショーとか緊縛ショーで女性の下半身出してたりするけど、とにかくウチではしない」

「分かりました。とりあえずチンコ出さなければ良いって事ですね。じゃあアナル拡張とかはしないって事ですか?」

「さてねぇ、客に見せなくてもディルド入れてやるのもいいよな」

「えっ」

 翠はそれが嫌な様子だ。拒否されれば伊吹も翠の意思を尊重するしかないのだが、それを言わずに翠の反応を楽しんでいる。

「どうしようかなぁ、前に直径五センチ入ったじゃん。次は直径七センチからスタートさせるか。
 脱肛したりしてな。一生オムツ手放せなくなったらウケるけど」

「そんなっ! でも伊吹さんに言われたら拒めません、どうしたら……」

 翠は困った様子でオロオロしていた。だが、邪魔者というのはどこにでも現れるものだ。
 眠っていた瑞希が起き上がってきて、翠の後ろから現れた。翠の背中に寄りかかり、翠の両肩から自身の両腕を垂らしている。

「すーい君。心配しなくても大丈夫だよ。
 NGプレイがあったら言ってね、それを聞いたら伊吹も僕もそのプレイは絶対しないから」

 瑞希ののんびりとした甘い口調に、翠は安心したように力を抜いた。

「そ、そうなんですか?」

「お前、それ言うなよな。翠にアレもコレもNG出されたらどうすんだよ! ショーにならなくなる!」

 伊吹は怒るが、瑞希が反論した。

「そもそも、翠君はSM未経験でしょ。無理に舞台に出してSMさせるなら、NGは全部聞き入れなきゃ駄目だよ。
 それでお客さん楽しませられなかったら、伊吹の力不足だよ。ねー翠君?」

「でも……俺、伊吹さんの言う事だと拒めなくて」

「それは駄目。拒むところはちゃんと拒む。それはM側のマナーだよ」

「マナー……ですか」

「そっ。無理して我慢されてさ、そのまま死んじゃいました~ってなったら君のご家族が悲しむでしょ。
 S側はいきなり懲役刑にはならなくても、過失致死で罰金刑になるだろうけどね。
 それだとしてもね、何より殺してしまう方が一番辛いんだよ」

「そんなに事故で死ぬ人多いんですか?」

 瑞希の説明に翠は顔を青くさせた。死ぬ可能性までは考えていなかったようだ。

「ううん。皆気を付けてるから、普通にやっていれば死なないよ。
 怖いのは死にたがりかな。そういう人は僕も警戒するよ。伊吹みたいなのは本当タチ悪い」

 自分の事を言われると思っていなかった伊吹は、バッと瑞希に視線を向けた。

「俺!?」

「自覚ない? プレイ中の伊吹って、脳が死んでるもんね。昨日も僕がペニス切ろうかって、言葉責めで言ってるだけなのに、ご主人様に切ってもらえるなら抵抗しません、とかマジ顔で言ってきたじゃん。
 しないからやめてね。本当、僕が死ねって言ったら死にそうで怖いよ」

「命令で死ねって言われたら……ハァ、ハァ」

 想像したら心臓がドクドクと強く脈打つ。それだけで興奮してしまっているのだ。
 瑞希はやれやれと呆れて、翠に向き直った。翠は伊吹を心配しながらも瑞希に視線を向ける。

「伊吹さん?」

「ほっといていいよ。あんなNGなしの変態ドM。人に迷惑かけてばっか」

「そうなんですか?」

「SMってさ、お互いの信頼関係が大事なんだよ。あんなの信頼出来ると思う? 僕は出来ないね。NGなしってSによっては喜ぶ人もいるんだけど、自分がプレイ中死にそうになっても、喜んで死のうとするから本当に怖いんだよ。
 SがMに対する信頼がなくても成り立たないから、翠君は無理な事はちゃんと言うようにね」

「……分かりました」

 翠が頷くと、瑞希はにっこりとした笑顔で「よし」と言った。
 二人の会話を聞いている伊吹は、自分の悪口を言われて内心複雑なような、それすらも喜んでしまうような、どっちつかずの感情に心が揺れていた。 

「とりあえずNG聞くけど、前回と前々回の公開処刑で嫌だったのは?」

「あの、浣腸されてずっと我慢させられてたの、キツかったです」

「慣れないと厳しいよね。僕もイチジク浣腸入れて、プラグとか付けずに我慢させたまま鞭打ちとかするけど。喜ぶのは伊吹くらいのドMだけだよ」

「俺を引き合いに出すなよ」

「そういえば、伊吹さんってMなんですね。ネットとかの情報で鬼畜なドSって聞いてました」

 翠が乗り出して伊吹を見つめた。今までされた仕打ちを思えば、伊吹がドMだとは思わないだろう。
 だが、ネットで情報を得たとはなんだろうか。一年前に知り合ったと言っていたが、そこからネットを駆使して調べのだろう事は理解出来る。

 だが、乱交パーティーの存在がどこから漏れたのだろうか?
 翠はソラを騙したと言っていた。騙されたからといって、ソラが迂闊に乱交パーティーの情報を漏らすとは思えない。
 確実にどこか別のところで知ったに違いない。

 そんな伊吹の思考は関係なく、翠と瑞希の会話は進んでいく。

「伊吹は僕の為に表向きSって事にしてあるの」

「瑞希さんの為?」

「僕って何故か人に狙われやすいみたいでね。悪い人に拉致監禁されたり、意地悪な事されたりするの。
 そういう時に伊吹が僕の代わりに制裁を与えてくれる。僕に手を出せば伊吹が黙ってないぞ~って牽制の意味もあって。
 乱パの常連さんとか、悪ノリで伊吹がドSって公言してるよ」

「そうだったんですね。公開処刑された時もこれが伊吹さんのドSなところかって思ってましたよ」

「あれでも手加減したんだからな」

 乱交パーティーの存在が漏れているなら、伊吹がドMという情報も漏れてないとおかしい事になる。
 乱交パーティーの開催理由は「輪姦願望のある瑞希の為に、瑞希のドM奴隷の伊吹が命令されて開催した」と、参加者に説明しているからだ。
 実際その通りだが、その事実を知らないというのもおかしな話だ。

 少し思考を巡らせると、すぐに二人の会話は進んでしまう。伊吹は二人の会話を優先させた。
 また翠が何か情報を漏らさないか期待した。

「あはは。伊吹はドMだよ。Sの時にするプレイは自分がして欲しい事か、もしくは自分がギリ耐えられるプレイ」

「それであんなにキツかったんですね」

「翠君、他に嫌だったプレイは?」

「目隠しで乳首を針で刺されたのと、チンコを鞭で打たれたのは、辛かったです」

「伊吹、初心者相手にやり過ぎだよ。可哀想に」

 瑞希は翠の頭をいいこいいこと撫でて、伊吹に冷たい目を向けた。
 今後はそんな無茶はしないという流れで、話はまとまった。乱交パーティーのない日にSMショーに向けて練習する約束をして、解散したのだった。
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