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一章
七話 痴漢
しおりを挟む「お疲れさん。これに懲りたらもう俺に近寄るなよ」
と、伊吹は裏口から翠を解放した。
「その……胸、傷付けて悪かったな。やり過ぎた。もし治りが遅いとか、心配な事があったら病院行って、診断書もらって俺のところに持ってこいよ。医療費は支払うから」
傷を付けた胸は消毒と軟膏、包帯も巻き、一応の処置はした。傷は付けないと言った手前、責められる覚悟はしていた。
だが、翠は予想外の言葉を放った。
「いえ、これくらい大丈夫ですよ。伊吹さんが興奮してくれていたみたいで良かったです」
「なっ……俺の様子見る余裕があったって事かよ」
「へへっ」
翠は一度頭を下げて帰っていった。少しの喪失感と、まだ余裕があった事に気付かずぬるいプレイで終わらせてしまった後悔。
伊吹の心には複雑な感情が残ったのだった。
それから二日後。普段通りの毎日に戻りった。
今日はスタッフが普段より多く出勤している事もあり、今晩の乱交パーティーの準備はスタッフ達に任せた。
伊吹はというと、学校が終わってからプライベートジムに行った。週に一日ペースで運動をしている。
伊吹の毎日に必要なのは体力だ。乱交パーティーにせよ、地下イベントにせよ、ある程度の持久性がなければ疲れ果ててしまう。
ジムからラブピーチへの帰り、伊吹は電車に乗った。電車内は混みあっており、会社帰りのサラリーマンや、下校中の学生、何故この時間帯にいるのかよく分からない年配者等でごった返していた。
降りる駅まではあと三駅もある。混み過ぎてスマホも取れないので、ボーッと揺られていると尻に何かが当たった。
これだけ混雑していれば誰かの鞄や手が当たってもおかしくないと、一瞬の快感を無視する事にしたのだが、どうもおかしい。
右の尻に手らしきものが当たっており、下から上へ動いたかと思うと、割れ目を上下に擦り、次に左へと移動していく。
さすがに偶然当たったとは考えられない。伊吹の身体は感じやすい。だからといってこんなところで痴漢されて喜ぶ筈がない。
痴漢男を睨みつけようと頭だけを後ろに向けた。
「なっ……おまっ……!」
伊吹は驚きのあまり声を出してしまった。少し注目を浴びて恥ずかしくなる。
だが、彼へ睨む目は弱めない。
「スイ……お前」
「伊吹さんが俺の名前、呼び捨てで呼んでくれるなんて……光栄です」
「何してやがる?」
「なーんにもしてないですよ? 伊吹さん、何かあったんですか?」
翠の右手は伊吹のズボンの隙間から下着の中へと入っていき、尻を撫でた。割れ目に手を入れ指で尻穴を擽る。
「……っ、お前……」
「どうしたんですか?」
「この前の仕返しか?」
翠が周りに聞こえないくらいの小声で伊吹の耳元で囁くように返事をした。
「何の事です? 俺は俺がしたい事しかしてませんよ」
「次の駅で降りろ」
「伊吹さんが降りる駅は三つ先ですよね?」
「話がしたい。だから次で降りろ」
「そんな事言ったら……これどうしようかな?」
翠は伊吹のズボンを下げて、固くなってしまったペニスを外に晒した。伊吹の前は扉の為、人目に付きづらいが、いずれ誰かに見られてもおかしくない。
「ひっ……お前……」
「暴れたらバレますよ? 降りる駅まで耐えるというならしまってあげます」
「分かった、分かったから。最後まで乗るから……!」
翠は伊吹のペニスをしまうと、また尻穴を責め始めた。普段から柔らかくなっている穴は、濡らさなくても、指一本くらいなら入れられる程に緩い。
伊吹が抵抗出来ないのを良いことに、指の第二関節まで入れて、中でクルクルと左右に回したり、上下に擦った。
「……っ」
その間伊吹はただ耐えていた。微妙に与えられる快楽に発情してしまうのは必至で、許される事なら今すぐにでも喘いで、男の身体を求めたくなる。
特に翠とは相性が良かった。ルール違反さえしていなければ、こちらからセックスの誘いをしたというのに。
こんな無礼で不躾な男は願い下げである。
伊吹が抵抗出来ずにいると、翠は次に左手をシャツの中に入れ、乳首を弄ってきた。
「はぁ……」
足の力が抜けそうになる。乳首と尻穴へ執拗に責められる快楽。我慢しなければならない状況に歓喜しながらも、それを受け入れるわけにはいかない。
既に勃ってしまっている男根は下着の中で締め付けられて痛みを発しているが──足りない。
もっと強い快楽が必要なのに、すぐに得られない事に伊吹の身体は欲求不満を訴えている。
ようやく電車が伊吹の降りる駅へ停車し、すぐに翠の手を引っ掴んで電車を降りた。
人が改札口へと向かって行く方向と逆方向へ向かう。周囲に誰もいなくなってから、伊吹は翠の胸倉を掴んで問い質した。
「お前どういうつもりだよ? また罰を与えてやるからな」
「だって……俺、伊吹さんとお近付きになりたいんですよ」
「だからって、こんな迫り方があるかよ!! 次の日曜、また公開処刑してやるから覚悟しておけよ!」
掴んでいた胸倉を離すと、翠は余裕綽々と胸襟を正した。
「また六時にラフピーチですか?」
と、バカにしたような態度に伊吹の怒りは最高潮に達した。
「はあー!? マジキレたわ。前のが甘かったって事だもんな。もう二度と俺に関わりたくないって思わせる程の責め苦を味わわせてやる!」
「受けて立ちます」
翠の笑顔は眩しい程明るい。罰を受ける者の態度ではなかった。伊吹はそんな態度をした事を後悔させてやると、手帳を出して日曜日の予定を見ていたが……。
「絶対泣かす。とりあえず次は夕方の六時半に来てくれりゃ~……って何してんだ!!」
少し目を離した隙に、翠は先程まで伊吹の尻穴に入れていたであろう指を舐めていたのだ。
すぐに翠の腕を掴んで止めさせた。
「汚いから!!」
「伊吹さんの身体で汚いところなんて一ミリたりともありませんよ」
「何バカ言ってんのお前? 気持ち悪い奴だな! とにかく、次の日曜の夕方六時半にウチ来いよ。分かったな?」
「はい」
罰を与えるだけでは意味はないのだろうか。だが次こそはSMで屈服させ、二度と近寄らないよう誓わせると決めた。
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