乱交パーティー出禁の男

眠りん

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一章

二話 サークルの飲み会

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 乱交パーティーの翌日、伊吹は大学へ登校していた。
 桜慈おうじ大学経済学部経済学科の三年生である。Fランク大学であり、ホテル経営や乱交パーティー、様々なイベントに忙しい毎日だ。
 大学の専門的な勉強をしている暇は無いが、大卒の称号は欲しい事から、ほぼ遊ぶ為に通っている。

 その日の放課後はサークル活動がある。
 伊吹が参加している「イベント交流サークル」は連携のある他大学生も混ざっている大きなインカレサークルだが、蓋を開けてみればただの飲みサーである。
 月に二回のペースで参加している。

 目的の時間まで大学で大人しく講義を受けるのだ。遊ぶ為に通っているとはいえ、卒業はしなければならない。きちんとやるべき事はやっている。

 伊吹が講義室に入り、席に着くと、そこを中心に様々な男女が集まってくる。
 伊吹は大学内では、イケメンの部類だ。夜のホストのような風体とは違い、昼はどちらかというとチャラ男のように見える。

 周囲に集まってくる者達は伊吹の財力に集まっている者が多い。彼らを友人であると思ってはいないが、伊吹の自己承認欲求を満たす為にはなくてはならない存在だ。

「篠君、それまた新しい時計?」

 濃い化粧で派手さを演出している女性が、目敏く伊吹の持ち物の変化に気付いた。

「うん、一昨日だったかな。知り合いの時計屋さんで」

 時計は有名なハイブランドのロゴが付いている。身に付けているものは高級品ばかりだが、シンプルなデザインの落ち着いたものが多い。
 それでも、目敏い人はすぐに気付くようだ。

「スゴーイ! いくらだったの?」

「三十万だったっけ、覚えてないけど」

 伊吹は優越感に浸りながら嘘をついた。本当は覚えている。三十一万五千円(税別)だ。
 値段を見て買わない事をアピールしている。
 確かに伊吹にとって高い買い物ではないし、金銭感覚は他の学生とは違うのだろうが。
 気持ちの面では一般庶民と変わらない。本当に気に入った物だし、一生大事にするつもりで買っている。

「さすが金持ちだな~」

「なぁ、今日は飲み会来るだろ?」

 目を輝かせているのは、女性達だけでない。お零れをもらおうとしている少し意識の高めな男性達も伊吹と近付こうとしている。

「うん行くよ」

 伊吹はそんな彼らに笑顔で頷いたのだった。
 大学生活は充実している。寄ってくる友人達に、聞いていれば大体は単位の取れるぬるい講義。
 この時間が一番大事なのだ。学生生活は嫌な事や、悩みを忘れて楽しめる。
 そんな学生生活もあと二年程で終わりを迎えてしまう。恐怖があった。
 学生でなくなり、ホテルの経営者としての立場だけが残ったら……そう考えると身震いする。
 まだぬるま湯に浸かっていたいのだ。


 学校が終わり、大学近くの飲み屋に二十名程が集まった。
 桜慈大学の近くにある他大学二校も参加していおり、今日は特に人数が多い。宴会のような盛り上がりようである。
 うるさくなるので、予め個室を予約している。

「かんぱーい!」

 と、全校をまとめているリーダーが大声で言うと、皆でグラスを鳴らした。
 わいわいと盛り上がっており、伊吹の周りにも人が集まってきて、伊吹が話す事を聞いては煽てるように盛り上げる。

「篠ってさ、なんかの経営者なんだよな? いいよなぁ。それで荒稼ぎしてるんだろ?」

「まぁまぁ稼げてるよ。周囲になくて需要のあるサービスだからさぁ、でも淘汰されないように毎日イベント考えたりして大変なわけよ」

「へぇ、さすが~」

「篠君、カッコイイ」

 伊吹は自信ありげに自慢話を始める。成功している話は食い付きが良い。
 男女関わらず、伊吹の話を興味深そうに聞いている。

 伊吹はゲイだが、女性が恋愛対象ではないというだけで、女性から好かれる事自体は喜んで受け入れている。
 ゲイだという事を隠しているのは、女性から嫌われない為だ。恋愛の可能性を持たせた方が伊吹にとってメリットがあるという事である。

「でもさぁ篠君、なんの事業かは絶対言わないよね? もしかして怪しい事でもしてるんじゃないの?」

 一人の女性が意地悪そうな顔で言った。伊吹の同期、坂本夏鈴さかもとかりんだ。
 茶髪の髪を肩下まで下ろし、キツそうな吊り目が更にキツく見えるような眼鏡を掛けている。 

「さてね、教えてあげようか? ベッドの上でさ」

 伊吹が低い声で言うと、周りの女性は「キャー」と黄色い声を上げた。

「はぁ!? バッカじゃないの!?」

 だが、夏鈴は怒ってその場から離れて別のグループの所へ行ってしまった。それが照れ隠しであると伊吹は知っている。好意を向けられている事に優越感を感じている。

「はい皆さんちゅ~も~く!」

 サークルのリーダーの男が下座の方で全員に呼びかけた。

「今日から我がイベント交流サークルに入部した子が一人います! ウエーイ!」

 と、リーダーの後ろから現れた男に伊吹は驚愕した。冷や汗が滲む。

「ささ、なんでもいいから一言言っちゃって!」

 その男は、少し照れた様な顔をしてキョロキョロ見渡すと、伊吹を見付けて微笑んできた。

「あ、あの……恋桃こいもも大学文学部の柳川翠やながわすいといいます。盛り上げるのあんまり得意じゃないですが、仲良くしてください」

 伊吹は驚愕し、身体が強ばった。
 彼が昨夜乱交パーティーに参加していたスイだったからだ。
 稀にある事だ。伊吹がホテル経営を初めて一年、乱交パーティーに参加した者と外で会ってしまい、互いに微妙な空気になった事を思い出していた。
 その時はお互いが知らない人のフリを通し切り、なるべく距離を離した。

 あの時と同じように近寄らずに喋らなければいい、そう思って翠から視線を外した。
 だがおかしい。スイは二十三歳と聞いている。浪人したのだろうか。大学三、四年生がサークルに途中入会するとは考えにくい。一、二年生なのだろうか──と、伊吹は思考を巡らせた。

「なんかさっきから元気なくない? 新しい子入ってから……あっ、分かった! あの子イケメンだから自分の人気取られちゃうって思ったんでしょ~?」

 甘い香りをさせた甘いメイクの女性がキャピキャピと言ってきた。そもそも名前すら知らない女だ。
 こういうタイプの女性は苦手だが、いつもの通りに答える。

「ははっ、そんなとこ」

「ダメだよ~。同じサークル仲間同士仲良くしなきゃね!」

 何故かその女はわざわざ翠を連れてきて伊吹の隣に座らせた。
 何を勝手なことを……と怒りそうになるが、押さえる。彼女は伊吹と翠の関係も乱交パーティーの事も知らないのだ。

「あ、あの……初めまして」

「初めまして、柳川君だっけ?」

「はい。よろしくお願いします」

「よろしく~」

 伊吹がサラッと流そうとすると、またも甘い女が無理に会話をさせようとしてきた。

「もー伊吹君! ダメだよ、男の子にも優しくしないと。この人は篠伊吹君、二十一歳だよ。
 あ、柳川君何歳?」

「……十八……です」

 伊吹はこの時点で彼女の言葉は耳に入らなくなっていた。その後何か喋った気はするが内容は覚えていない。

 飲み会が終わり、伊吹は翠を呼び止めた。
 二次会に行く雰囲気だったが、到底そんな気にはなれない。
 もう翠に昨日のような好感や、少し芽生えた信用は一切なくなった。
 伊吹は翠と二人で飲み直すと言って、サークルメンバー達とは真逆の方向へ向かったのだった。
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