少年売買契約

眠りん

文字の大きさ
上 下
51 / 67
三章 彼に向かう想いは

二十話 気付いた想い

しおりを挟む
「ねぇ、柳瀬はさ。僕のどんなところが好きなの? いつから好きだった?」

 春哉は不躾にそんな事を聞くと、柳瀬は分かりやすく嫌そうな顔をした。何も目的もなく公園を歩いているので、話題に困ってそんな事を聞いた。

「お前、その話終わったのかと思ったのに、蒸し返すなよ」

「ごめん。今後の参考までに教えてよ。僕、恋愛した事ないからどういう心理状態なのか知りたい」

「入学式の次の日、お前が山下怒らせた時あったじゃん。あの時は面倒な奴入ってきたな~って」

「ん? その口ぶりからすると、柳瀬って内部?」

「そうだよ。周りの連中が、変な子入ってきちゃったねって遠巻きにお前の事見てて。なんか可哀想になって声掛けた」

「そうだったんだ。柳瀬いなかったら暗い学生生活になってたかも。ありがとね!」

 春哉がパッと笑顔になると、柳瀬は少し照れた顔をした。

「いや。で、放課後にサッカー部の練習見学したじゃん。それで、あの時、お前が俺に向けた笑顔が可愛くて。気付いたら好きになってた」

「へぇ。笑顔ねぇ」

「一生、こいつの笑顔見て生きていけたら幸せになれるんだろうなって思ったんだよ。
 なんか胸が締め付けられるの、今までにそういう相手いなかった?」

 そう問われて、春哉は過去の記憶を思い起こした。確かに春哉の心は、締め付けられるように痛かった事があった。その人の顔を見つめていると、ずっと見つめていたいような気持ちに。

 だが──。

「…………あ。いる」

「いんのかよ。その人が初恋の相手じゃないの?」

「どうだろ。でも、その表現しっくりくるなぁ。でもさ笑顔じゃないんだよ」

「まぁ笑顔が見たいって思うのだけが正しいわけじゃないからな。他の理由の奴だって沢山いる。
 どういう感情を恋愛感情って名付けるか、それは人それぞれだ」

「その人を思い浮かべるとね、本当は毎日一緒にいたいとか、悲しそうな顔しているなら、僕が悲しみを取り除いてあげたいとか、あの人の隣に立ちたいって思うの。
 あの人の傍にいられるなら幸せじゃなくてもいいって」

 そう語りだした春哉の顔は、優しい笑顔を浮かべており、柳瀬はすぐに悟った。恋をしている顔だと。

「なんだよ、好きな奴いるんじゃねーか! とっとと告っちまえよ」

「まだしない。でも決めた! 告白する日!」

「うん?」

「僕はあと二ヶ月頑張ると自由になれるんだ」

「自由? 今は自由じゃねぇの? お前程自由に振舞ってる奴、なかなかいないけど」

「柳瀬からしたらそう見えるかもだけど、僕、あと二ヶ月したら自由になるんだよ。そしたら告白する」


 春哉はそう断言した後、柳瀬と別れてとあるマンションへと足を運んでいた。

 今まで出入りしたのは、入る時が一回、出る時が一回のみだ。だが二年は住んでいた部屋でもある。チャイムを鳴らすと、すぐに男が出てきた。

「よぉ、早かったな」

 出てきたのは峰岸だ。元々会う約束をしており、快く出迎えている。

「こういう事は後回しにしたくなくてさ」

「影井にはまだ言ってないのか」

「うん。あと二ヶ月は言わないよ。それまでに決着はつけるつもり。あの様子だと売買契約書は僕に見せてくれなさそうだし」

「とりあえず上がれよ」

 峰岸に言われるがまま部屋に上がり、テーブルに座った。

「懐かしいな。部屋の配置変わらないんだ?」

「まぁな。お前がいなくなってからは寂しいもんだ。ほらよ」

 春哉の前に冷たい麦茶の入ったグラスが置かれた。綺麗なガラス細工だ、春哉は少し魅入った。

「ありがとね。峰岸さんって意外と美的センスあるよね」

「うるせぇよ。で、本題に入るぞ。これがお前を売った売買契約書だ。友人同士のやり取りで金額は十万だが、こういう契約書はきちんとしておかないと、上がうるさい」

「気軽に売買出来る商品じゃないもんね」

「そうだ。だが、この契約書はただじゃやらない」

「もう不要のものでしょ? 僕はその契約書から解放されている筈。だから発信機付きのピアスを取って実家に帰れる事になったって聞いたけど」

「はっ。だから底辺バカは商売もまともに出来ねぇんだよ。いいか、この書類はお前にとって価値があるものだ。お前はこれにいくら払うんだ?」

 長年金融会社を経営してきている峰岸は、取引で意地悪をする事はない。いち取引相手として春哉を見ている。

 取引相手に上下もない。上下があるとしたら、足元を見られた時だ。今の春哉のように。

「い、一万……」

「それはお前の懐が痛くない金額ってところだろ。ダメだぞ、弱味を見せたら食い物にされて終わりだ」

「じゃあ峰岸さんはいくら出せって言うの?」

 峰岸はニヤリと笑った。そして、傲慢に上から目線で春哉に言いつけた。

「五十万だ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...