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二章 心を取り戻す為に
十六話 ほんの少し
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マスターと話していた影井は、何故そうなったのか経緯を知らない。
だが、女性達だけに任せるのではなかったと後悔した。
女性達で少年の取り合いになり、今は一人のキャバ嬢の盛りに盛ったおっぱいの谷間に顔を埋められており、その女性は少年をぎゅーっと抱き締めていた。
「う……く、苦し……」
「まだダメぇ。ほら喜びなさいよぉ、パフパフしてるのよ? 他の男はね、これしてもらうのに大金出すんだから~」
「ごめんなさい」
嫌がっているのに我慢をしている少年と、酔っ払って卑猥な行為に移そうとしている女性。
肝心の詩鶴は眠ってしまっていて、他の女性は次は誰が少年とイチャつくかで揉めていた。
「そろそろ交代して! 次は私がその子とチューするのよ? ね、下品なおっぱいより、私の唇の方がいいでしょ?」
「えっ、あ……」
「なによぅ、私のおっぱいの方がいいわよね。ねぇ?」
「ど、どっちも……」
「どっちも好きなんて欲張りな子ね。でもそういう子嫌いじゃないわよ」
少年は勢いよく首を左右に振った。嫌がっている事は伝わらないらしい。
女性達は最初こそ大人しく会話を繰り広げていたのだが、酒に酔い始め、暴露大会に恋愛話が進んできい、テンションは最高潮に上がっていた。
影井が少年をすぐに女性から引き離した。
「何をしている! この子が嫌がってるだろ」
「えー?」
「僕、嫌だったの?」
少年は勢いよく何度も頷いた。相当嫌だったようだ。影井の服を強く握っている。
「詩鶴起きてくれ。学生じゃないんだ、自分の加減くらい分かってるだろ」
「んー……ふぁ~あ。なに、どうした?」
「お前が寝ている間に、彼女達がうちの子に卑猥な事をだな」
「えー? 羽目外し過ぎるなって言ったじゃん。もー皆お酒禁止よ~……スー」
詩鶴はそれだけ言うと、また眠ってしまった。
結局そのままお開きとなり、詩鶴は影井が自宅へ連れて帰る事になった。
勿論、彼女のパトロンである組長にも一応連絡してからだ。
裏社会は女性関係で面倒になる事が多い。組長の女を寝取った等とおかしな誤解されるわけにはいかないのだ。
結局、後片付けと支払いは影井がして、更に詩鶴を背負って夜道を帰る羽目になったのだった。
「疲れてるのかな?」
隣から詩鶴を心配する声が聞こえた。
「どうだかな、普段何してるか知らないけど、気苦労は多いのかも……っえ?」
影井は普通に質問に答えたが、誰からの問いかと隣を見ると少年しかいない。
少年が、何もなしに自発的に問いかけたのはこれが初めての事だ。
影井は胸が熱くなるのを感じた。
「き、君。自分から話せるようになったんだな、良かった、良かった……」
少年はビクリと一瞬身体を揺らす。怖がらせてしまっただろうかと、影井は、詩鶴の足を片方だけプランと下ろして少年の頭を撫でる。
「これからもっと自分から話す事が増えるといいな。なんでもいい、思った事なんでも話してくれ」
「……僕が話すの、嬉しい……ですか?」
少年はたどたどしく問いかける。怯えているようだ。
自分から話しかける事が怖くない事だと分かれば、きっともっと話せるようになる。
そんな希望が胸に溢れる。今までの苦労が報われるような気持ちだ。
詩鶴へどれだけ感謝を伝えていいのだろうか。
「ああ! こんなに嬉しい事はないよ」
笑顔を向けると、少年からは安堵したような表情が返ってきた。
「今日はどうだった? また彼女達と飲み会を開こうか?
次はアルコールなしにするから」
「はい」
「はい以外で答えてくれ。無理しない範囲でいいから」
「あの……き、綺麗なお姉さん達は、最初、ちょっと怖かったけど、少しだけ、楽しかった……です」
「君が楽しいと思う事をしよう。楽しみだな」
「……はい。たのしみ、です」
上手く笑顔が表現出来ないようで、引き攣ってはいるが、確かに少年は笑おうとしている。
また一歩、影井の目標に近づきつつあると、喜んだのだった。
──────────────────────
※あと一話で二章が終わります。
三章から少年視点に戻ります。
だが、女性達だけに任せるのではなかったと後悔した。
女性達で少年の取り合いになり、今は一人のキャバ嬢の盛りに盛ったおっぱいの谷間に顔を埋められており、その女性は少年をぎゅーっと抱き締めていた。
「う……く、苦し……」
「まだダメぇ。ほら喜びなさいよぉ、パフパフしてるのよ? 他の男はね、これしてもらうのに大金出すんだから~」
「ごめんなさい」
嫌がっているのに我慢をしている少年と、酔っ払って卑猥な行為に移そうとしている女性。
肝心の詩鶴は眠ってしまっていて、他の女性は次は誰が少年とイチャつくかで揉めていた。
「そろそろ交代して! 次は私がその子とチューするのよ? ね、下品なおっぱいより、私の唇の方がいいでしょ?」
「えっ、あ……」
「なによぅ、私のおっぱいの方がいいわよね。ねぇ?」
「ど、どっちも……」
「どっちも好きなんて欲張りな子ね。でもそういう子嫌いじゃないわよ」
少年は勢いよく首を左右に振った。嫌がっている事は伝わらないらしい。
女性達は最初こそ大人しく会話を繰り広げていたのだが、酒に酔い始め、暴露大会に恋愛話が進んできい、テンションは最高潮に上がっていた。
影井が少年をすぐに女性から引き離した。
「何をしている! この子が嫌がってるだろ」
「えー?」
「僕、嫌だったの?」
少年は勢いよく何度も頷いた。相当嫌だったようだ。影井の服を強く握っている。
「詩鶴起きてくれ。学生じゃないんだ、自分の加減くらい分かってるだろ」
「んー……ふぁ~あ。なに、どうした?」
「お前が寝ている間に、彼女達がうちの子に卑猥な事をだな」
「えー? 羽目外し過ぎるなって言ったじゃん。もー皆お酒禁止よ~……スー」
詩鶴はそれだけ言うと、また眠ってしまった。
結局そのままお開きとなり、詩鶴は影井が自宅へ連れて帰る事になった。
勿論、彼女のパトロンである組長にも一応連絡してからだ。
裏社会は女性関係で面倒になる事が多い。組長の女を寝取った等とおかしな誤解されるわけにはいかないのだ。
結局、後片付けと支払いは影井がして、更に詩鶴を背負って夜道を帰る羽目になったのだった。
「疲れてるのかな?」
隣から詩鶴を心配する声が聞こえた。
「どうだかな、普段何してるか知らないけど、気苦労は多いのかも……っえ?」
影井は普通に質問に答えたが、誰からの問いかと隣を見ると少年しかいない。
少年が、何もなしに自発的に問いかけたのはこれが初めての事だ。
影井は胸が熱くなるのを感じた。
「き、君。自分から話せるようになったんだな、良かった、良かった……」
少年はビクリと一瞬身体を揺らす。怖がらせてしまっただろうかと、影井は、詩鶴の足を片方だけプランと下ろして少年の頭を撫でる。
「これからもっと自分から話す事が増えるといいな。なんでもいい、思った事なんでも話してくれ」
「……僕が話すの、嬉しい……ですか?」
少年はたどたどしく問いかける。怯えているようだ。
自分から話しかける事が怖くない事だと分かれば、きっともっと話せるようになる。
そんな希望が胸に溢れる。今までの苦労が報われるような気持ちだ。
詩鶴へどれだけ感謝を伝えていいのだろうか。
「ああ! こんなに嬉しい事はないよ」
笑顔を向けると、少年からは安堵したような表情が返ってきた。
「今日はどうだった? また彼女達と飲み会を開こうか?
次はアルコールなしにするから」
「はい」
「はい以外で答えてくれ。無理しない範囲でいいから」
「あの……き、綺麗なお姉さん達は、最初、ちょっと怖かったけど、少しだけ、楽しかった……です」
「君が楽しいと思う事をしよう。楽しみだな」
「……はい。たのしみ、です」
上手く笑顔が表現出来ないようで、引き攣ってはいるが、確かに少年は笑おうとしている。
また一歩、影井の目標に近づきつつあると、喜んだのだった。
──────────────────────
※あと一話で二章が終わります。
三章から少年視点に戻ります。
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