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二章 心を取り戻す為に
十四話 説明書
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翌日。峰岸からメールにて、パソコンのアドレス宛にに書類を送った旨を受け取った。
峰岸は午前中に山城浩二に影井に少年の情報を送っていいか聞いたところ、譲渡してるのに何故送っていないのかと、逆に峰岸が怒られたらしい。
少年は甲斐甲斐しく掃除をしている。彼に見られる前に確認しようと、早速パソコンを開く。
ダウンロードする時間が落ち着かない。
ファイル圧縮されていたテキストを展開する。するとパスワード入力画面が出てきた。
影井は峰岸が作りそうなパスワードを何度か入力してみる。五回目で開く。
分からなければ聞けば良いだけの話なのだが、それも面倒だった。
峰岸の思考回路が理解出来てしまう事に自己嫌悪しながらページを開く。
氏名:*****
年齢:16歳
身長:155cm
体重:43Kg
……と、基本的な身体測定の結果や、傷病履歴や身体検査の結果、アレルギーなど、知っておかなければならない身体の事、売られるに至った経緯等が詳細に記されている。
名前が記載されていないのは峰岸の気遣いだ。
といっても二年前の情報だ。この頃からまた変わっているだろう。
「本当にこれが全部の内容か? 峰岸のヤツ、抜けてるのに気付いてないとかじゃないよな?」
影井は峰岸への不満を垂れながら読み進めた。だが、やはり肝心な事は書かれていない。六年前に販売された時の情報は一切残っていないのだ。
少年に関する情報量が少なすぎる。
きっと、組織側が六年前の情報を載せれば売られない、もしくは返品されてしまう危険性を考慮して載せなかったのだろうが。
松山に購入されて、精神面に難ありという情報があれば、その時点で誰もが購入を躊躇する。
それなら全て載せてくれた方が助かったのに──。影井は歯噛みした。
すぐに山城に電話をかける。
「あ、お久しぶりです。影井です」
「おお! 影井か! 元気にしてるか?」
嗄れた壮年男性、浩二の声だ。彼に電話する時は幾ばくがの緊張を強いられる。
少しでも浩二が気に触る発言をすれば、連絡を断たれてしまう。そして、影井を破滅に追いやるための何かしらの手段を講じてくる可能性がある。
「はい。親父さんもお元気そうで……」
「ははは。病気知らずだよ。
何か困った事でもあるのか? 何でも言ってみなさい」
「あの、峰岸から預かった少年の事ですが……六年前、少年の身に何があったのか知りたいのです。
組織側に確認してみても構わないでしょうか?」
「あの少年か……。まぁいいだろう。
影井。お前の事は信用している。俺から影井のパソコンアドレスに送るよう伝えておくから待っていろ」
「ありがとうございます!
あと、一つワガママを申し上げるのですが……」
「お前のワガママなら一つくらい聞いてやるさ」
「少年の名前を隠して貰えますか? 少年が自分から名前を教えてくれる事を、俺に対する信頼度の秤にしたいので」
「分かった、伝えておこう。あぁ、それとな。詩鶴の事だが、手を出したら……分かってるな?」
「もちろんでございます」
内心ヒヤヒヤしながら電話を切った。
その数分後にデータが送られてきた。
「番犬の仕事を目撃し、身柄を組織が拘束したが……監禁場所から、一緒に監禁されていた子供達全員と逃げ出したのか。
主犯の女児一人が責任を負うところ、少年が自分も半分責任を負うと申し出たのか。
それで、男を覚えさせてランク下げか……」
そこまで知り、少年は心が優しく、正義感が強かったのだろうと想像をする。
きっと、本当は強い人間だったのだろう。
元の少年に戻すのは骨が折れそうだと苦笑する。
「少年とコミュニケーションを取っていくしかない。後は、詩鶴に任せるか……」
そして、待ちに待った土曜日となった。
夕方までする事がなかった為、影井は少年と二人でソファーにゴロゴロ寝転がってテレビを見ていた。
面白そうな内容のテレビが無いので、暇潰し程度だ。
午後になると少年は掃除を始めようとした。
「休みの日くらいのんびりしよう」
影井はそう言って、少年を寝室に連れていった。二人でベッドに横になる。
「君は良い匂いがするな」
「……?」
「落ち着くというか……このまま寝てしまいそうだ」
「……はい」
影井は眠るつもりはなかったのだが、宣言した通りそのまま眠ってしまった。目覚めると午後三時を過ぎており、慌てて飛び起きる。
「す、すまない。一人で寝てしまって……」
少年の事だ。身動き取れずに困っているだろうと思ったのだが、少年はスヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。
あどけない顔だ、本当に十八歳なのか疑う程である。
「……さん」
「うん?」
「おかあ……さん」
寝言だった。初めて、少年の心をほんの少しだけ覗けたような気分になった。
「お母さんに会いたいよな」
だが、少年を両親に会わせるわけにはいかない。今そんな事をしてしまえば、たちまち番犬に殺されるだろう。
少年の右耳のピアスが組織と少年を縛っている。
影井が浩二に頼めば少年と組織の関わりを断つ事は可能だ。
だが、それは全て少年の心を治してからだと考えている。このままの状態の彼を親元に帰すのは酷だと。
「ん……」
しばらくして目を覚ました少年に、影井は優しく頭を撫でた。
「おはよ。これから出掛けるから着替えてきなさい」
「はい」
命令をしなければ、自発的な行動が出来ない少年。影井は詩鶴に一縷の希望を託した。
峰岸は午前中に山城浩二に影井に少年の情報を送っていいか聞いたところ、譲渡してるのに何故送っていないのかと、逆に峰岸が怒られたらしい。
少年は甲斐甲斐しく掃除をしている。彼に見られる前に確認しようと、早速パソコンを開く。
ダウンロードする時間が落ち着かない。
ファイル圧縮されていたテキストを展開する。するとパスワード入力画面が出てきた。
影井は峰岸が作りそうなパスワードを何度か入力してみる。五回目で開く。
分からなければ聞けば良いだけの話なのだが、それも面倒だった。
峰岸の思考回路が理解出来てしまう事に自己嫌悪しながらページを開く。
氏名:*****
年齢:16歳
身長:155cm
体重:43Kg
……と、基本的な身体測定の結果や、傷病履歴や身体検査の結果、アレルギーなど、知っておかなければならない身体の事、売られるに至った経緯等が詳細に記されている。
名前が記載されていないのは峰岸の気遣いだ。
といっても二年前の情報だ。この頃からまた変わっているだろう。
「本当にこれが全部の内容か? 峰岸のヤツ、抜けてるのに気付いてないとかじゃないよな?」
影井は峰岸への不満を垂れながら読み進めた。だが、やはり肝心な事は書かれていない。六年前に販売された時の情報は一切残っていないのだ。
少年に関する情報量が少なすぎる。
きっと、組織側が六年前の情報を載せれば売られない、もしくは返品されてしまう危険性を考慮して載せなかったのだろうが。
松山に購入されて、精神面に難ありという情報があれば、その時点で誰もが購入を躊躇する。
それなら全て載せてくれた方が助かったのに──。影井は歯噛みした。
すぐに山城に電話をかける。
「あ、お久しぶりです。影井です」
「おお! 影井か! 元気にしてるか?」
嗄れた壮年男性、浩二の声だ。彼に電話する時は幾ばくがの緊張を強いられる。
少しでも浩二が気に触る発言をすれば、連絡を断たれてしまう。そして、影井を破滅に追いやるための何かしらの手段を講じてくる可能性がある。
「はい。親父さんもお元気そうで……」
「ははは。病気知らずだよ。
何か困った事でもあるのか? 何でも言ってみなさい」
「あの、峰岸から預かった少年の事ですが……六年前、少年の身に何があったのか知りたいのです。
組織側に確認してみても構わないでしょうか?」
「あの少年か……。まぁいいだろう。
影井。お前の事は信用している。俺から影井のパソコンアドレスに送るよう伝えておくから待っていろ」
「ありがとうございます!
あと、一つワガママを申し上げるのですが……」
「お前のワガママなら一つくらい聞いてやるさ」
「少年の名前を隠して貰えますか? 少年が自分から名前を教えてくれる事を、俺に対する信頼度の秤にしたいので」
「分かった、伝えておこう。あぁ、それとな。詩鶴の事だが、手を出したら……分かってるな?」
「もちろんでございます」
内心ヒヤヒヤしながら電話を切った。
その数分後にデータが送られてきた。
「番犬の仕事を目撃し、身柄を組織が拘束したが……監禁場所から、一緒に監禁されていた子供達全員と逃げ出したのか。
主犯の女児一人が責任を負うところ、少年が自分も半分責任を負うと申し出たのか。
それで、男を覚えさせてランク下げか……」
そこまで知り、少年は心が優しく、正義感が強かったのだろうと想像をする。
きっと、本当は強い人間だったのだろう。
元の少年に戻すのは骨が折れそうだと苦笑する。
「少年とコミュニケーションを取っていくしかない。後は、詩鶴に任せるか……」
そして、待ちに待った土曜日となった。
夕方までする事がなかった為、影井は少年と二人でソファーにゴロゴロ寝転がってテレビを見ていた。
面白そうな内容のテレビが無いので、暇潰し程度だ。
午後になると少年は掃除を始めようとした。
「休みの日くらいのんびりしよう」
影井はそう言って、少年を寝室に連れていった。二人でベッドに横になる。
「君は良い匂いがするな」
「……?」
「落ち着くというか……このまま寝てしまいそうだ」
「……はい」
影井は眠るつもりはなかったのだが、宣言した通りそのまま眠ってしまった。目覚めると午後三時を過ぎており、慌てて飛び起きる。
「す、すまない。一人で寝てしまって……」
少年の事だ。身動き取れずに困っているだろうと思ったのだが、少年はスヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。
あどけない顔だ、本当に十八歳なのか疑う程である。
「……さん」
「うん?」
「おかあ……さん」
寝言だった。初めて、少年の心をほんの少しだけ覗けたような気分になった。
「お母さんに会いたいよな」
だが、少年を両親に会わせるわけにはいかない。今そんな事をしてしまえば、たちまち番犬に殺されるだろう。
少年の右耳のピアスが組織と少年を縛っている。
影井が浩二に頼めば少年と組織の関わりを断つ事は可能だ。
だが、それは全て少年の心を治してからだと考えている。このままの状態の彼を親元に帰すのは酷だと。
「ん……」
しばらくして目を覚ました少年に、影井は優しく頭を撫でた。
「おはよ。これから出掛けるから着替えてきなさい」
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