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一章 売られた少年
十四話 流れだした感情
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少年が目を覚ますとベッドの上だった。
わけが分からない状況に混乱した少年はベッドから急いで下りた。
いつもの定位置である部屋の隅で丸くなる。峰岸に買われた最初の頃、ベッドで寝るように言われたが、少年が拒んだ。
人間扱いをされたくなかったのだ。峰岸も理解しているようで、それ以降ベッドを使わせる事はなかった。
影井が勝手にそんな事をしたのだと少年はすぐに分かった。余計な事はして欲しくない、何故優しくするのかと思うと恨みに似た感情が芽生え──その感情を胸の奥にしまった。
もうどうなっても影井には関係ないのだから、恨む必要はない。
その時、ドアの隙間から二人の会話が聞こえた。峰岸と影井の声だ。
「とにかく、彼は俺が預かる。あんな子供に、あんな事して。お前のそれは病気だぞ? 精神科にでも行って治せよ」
「はっ、俺は昔からこうだよ。お前だって知ってて俺の友人でいるんじゃねぇのかよ?」
「知ってる。友人だからこそ止めてやってるんだろ。
そもそも安値で買ったんだろう? 二年も遊べば元は取れてるはずだ、このまま俺が連れて帰るぞ」
「元は取れてるけどな。十万、それで売ってやるよ」
「この悪徳商人め。分かったよ」
少年は会話の内容より自分の価値が五十万から十万に落ちた事に恐怖を覚えた。
次捨てられたら本当に終わりだと。それなら、今殺された方が楽だ。
もうこれ以上生き地獄を味わうのはこりごりだ。
震えていると寝室がガチャと開いた。顔を出したのは影井だ。
「また部屋の隅に! おい峰岸、本当に意地悪してベッド使わせてないんじゃないのか?」
「違うって! そいつが嫌がるんだっつの! 道具みたいに育てられたんだ、いきなり君は人間だから人間になれって言われて戻れるかよ。あの松山のところに六年もいたんだ、……なぁ影井よ、下手したら本当にそいつの心が死ぬかもしれない」
「分かったよ。お前なりにこの少年を大事にしていたらしい事も。俺は俺のやり方でこの子を救う」
「……」
少年は無言のまま困った顔で影井を見つめた。影井は何故か安堵する冷たい瞳を向けている。それが何故なのかを知ろうとじーっと見つめるが、理由は分からない。
「今から君は俺のところに来なさい」
「僕はあなたの道具になるのですか?」
「いいや。これから君は君らしく生きるんだ」
「でも、あなたはお金を払いましたよね?
僕という道具を買う為に。どうぞ、僕を使ってください」
影井に対して少年の胸はモヤモヤと不快な気持ちになっていた。
(早く、ご主人様に反抗して、殺してもらわなきゃ……)
だが、先程の会話で行動する意思が削がれる。峰岸なりに少年を大事にしていたらしいという事。
確かに、今更だが松山と比べれば雑な優しさがあった。
松山は完全に自分の思い通りにならなければ理不尽に少年の身体の事など気遣う事もせず暴力を振るった。
だが、峰岸は自分の性欲を発散させる時に身体を傷付けるだけであった。少年の身体に傷があまり残らないよう注意を払いながら。
「金を払ったのはそんなつもりじゃないんだ。峰岸は本当は君を手離したくないけど、俺が君を大事にしたいと思ったからで……お金は俺の我儘を通すケジメだよ」
「そういうのやめてください。僕は道具です。お金のやり取りで、所有者の気持ち次第で運命が全部変わる、ただの道具です。
殺して下さい。臓器とか全部売れば、多少お金も戻ると思いますから」
今までそんな事を言った事はなかった。こんなに長く言葉を繋げたのも数年ぶりだ。
その言葉が出た事に一番本人が驚いていた。
心が掻き乱されている。意を決して、死を決意して反論したからだろう。
流れ始めた感情は、胸を強く締め付け、苦しめた。感情がある事は痛いのだと改めて実感する。
そんな少年を影井は優しく抱き締めた。いつもは性処理や暴力でしか感じられない体温。
同じ皮膚から伝わる体温でも、感じ方が違う。影井の熱に、胸が張り裂けそうな程の痛みを感じた。
「今まで辛かったな。もう、怖い事はないんだ。これからは俺が君を守ろう。」
気付けば少年の目から涙が流れていた。痛みなどの生理的な涙ではなく、心から涙したのは道具となってから一度もなかった事だった。
少年にはその感情が何かは分からない。ただ、やはり人間として生きるのは、苦しい事なのだと感じていた。
───────────────────
※辛い時に慰められると、なんか報われたような気がして嬉しくてたまらないのに、胸が苦しくて痛くて涙出る事ってありますよね?
え、ないですか?
次回から二章です。
わけが分からない状況に混乱した少年はベッドから急いで下りた。
いつもの定位置である部屋の隅で丸くなる。峰岸に買われた最初の頃、ベッドで寝るように言われたが、少年が拒んだ。
人間扱いをされたくなかったのだ。峰岸も理解しているようで、それ以降ベッドを使わせる事はなかった。
影井が勝手にそんな事をしたのだと少年はすぐに分かった。余計な事はして欲しくない、何故優しくするのかと思うと恨みに似た感情が芽生え──その感情を胸の奥にしまった。
もうどうなっても影井には関係ないのだから、恨む必要はない。
その時、ドアの隙間から二人の会話が聞こえた。峰岸と影井の声だ。
「とにかく、彼は俺が預かる。あんな子供に、あんな事して。お前のそれは病気だぞ? 精神科にでも行って治せよ」
「はっ、俺は昔からこうだよ。お前だって知ってて俺の友人でいるんじゃねぇのかよ?」
「知ってる。友人だからこそ止めてやってるんだろ。
そもそも安値で買ったんだろう? 二年も遊べば元は取れてるはずだ、このまま俺が連れて帰るぞ」
「元は取れてるけどな。十万、それで売ってやるよ」
「この悪徳商人め。分かったよ」
少年は会話の内容より自分の価値が五十万から十万に落ちた事に恐怖を覚えた。
次捨てられたら本当に終わりだと。それなら、今殺された方が楽だ。
もうこれ以上生き地獄を味わうのはこりごりだ。
震えていると寝室がガチャと開いた。顔を出したのは影井だ。
「また部屋の隅に! おい峰岸、本当に意地悪してベッド使わせてないんじゃないのか?」
「違うって! そいつが嫌がるんだっつの! 道具みたいに育てられたんだ、いきなり君は人間だから人間になれって言われて戻れるかよ。あの松山のところに六年もいたんだ、……なぁ影井よ、下手したら本当にそいつの心が死ぬかもしれない」
「分かったよ。お前なりにこの少年を大事にしていたらしい事も。俺は俺のやり方でこの子を救う」
「……」
少年は無言のまま困った顔で影井を見つめた。影井は何故か安堵する冷たい瞳を向けている。それが何故なのかを知ろうとじーっと見つめるが、理由は分からない。
「今から君は俺のところに来なさい」
「僕はあなたの道具になるのですか?」
「いいや。これから君は君らしく生きるんだ」
「でも、あなたはお金を払いましたよね?
僕という道具を買う為に。どうぞ、僕を使ってください」
影井に対して少年の胸はモヤモヤと不快な気持ちになっていた。
(早く、ご主人様に反抗して、殺してもらわなきゃ……)
だが、先程の会話で行動する意思が削がれる。峰岸なりに少年を大事にしていたらしいという事。
確かに、今更だが松山と比べれば雑な優しさがあった。
松山は完全に自分の思い通りにならなければ理不尽に少年の身体の事など気遣う事もせず暴力を振るった。
だが、峰岸は自分の性欲を発散させる時に身体を傷付けるだけであった。少年の身体に傷があまり残らないよう注意を払いながら。
「金を払ったのはそんなつもりじゃないんだ。峰岸は本当は君を手離したくないけど、俺が君を大事にしたいと思ったからで……お金は俺の我儘を通すケジメだよ」
「そういうのやめてください。僕は道具です。お金のやり取りで、所有者の気持ち次第で運命が全部変わる、ただの道具です。
殺して下さい。臓器とか全部売れば、多少お金も戻ると思いますから」
今までそんな事を言った事はなかった。こんなに長く言葉を繋げたのも数年ぶりだ。
その言葉が出た事に一番本人が驚いていた。
心が掻き乱されている。意を決して、死を決意して反論したからだろう。
流れ始めた感情は、胸を強く締め付け、苦しめた。感情がある事は痛いのだと改めて実感する。
そんな少年を影井は優しく抱き締めた。いつもは性処理や暴力でしか感じられない体温。
同じ皮膚から伝わる体温でも、感じ方が違う。影井の熱に、胸が張り裂けそうな程の痛みを感じた。
「今まで辛かったな。もう、怖い事はないんだ。これからは俺が君を守ろう。」
気付けば少年の目から涙が流れていた。痛みなどの生理的な涙ではなく、心から涙したのは道具となってから一度もなかった事だった。
少年にはその感情が何かは分からない。ただ、やはり人間として生きるのは、苦しい事なのだと感じていた。
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※辛い時に慰められると、なんか報われたような気がして嬉しくてたまらないのに、胸が苦しくて痛くて涙出る事ってありますよね?
え、ないですか?
次回から二章です。
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