少年ペット契約

眠りん

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二十話 出来る事はなんでも

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 学校近くにある純喫茶店に須賀さんと入った。店内はアンティークな雰囲気で落ち着く。
 店内は人も疎らで、オレ達は人が周りにいない一番奥の席にしてもらった。
 半個室って感じだから、周りに会話を聞かれる心配がない。

 雪夜に続いてお母さんも逮捕されたから、最初はなんか一部のマスコミに追われて最悪だった。 オレは知らぬ存ぜぬで通したよ。
 今もたまーに記者の人に尾けられたり、取材を求められたりするんだ。

 お母さんはオレや拓音を除けば天涯孤独みたいなものだし、オレはもう「小山内」じゃないし、籍も雪夜に移してんのに。ああいう人達ってどこから情報得てきてるんだろう? 怖いんだけど。

 その点拓音はオレの同居人って事でたまに記者に捕まるんだけど、なんか上手く答えてるんだよね。記者と楽しそうに笑ってるし。
 オレもああなりたいよ。

「その後どう?」

 記者の存在を気にしていたら、須賀さんは心配そうにオレを見つめながらそう聞いてきた。

「あの、その節はありがとうございました」

「ううん。お母さん、助かって良かったよ」

「はい。この前、刑務所に面会に行ったら、スッキリした顔してて安心しました。
 でも拓音がオレのお母さんと結婚しちゃうなんて、ちょっと複雑な気分です」

「はは。僕も井上さんからその話を聞きました。本当、パワフルな人だよね」

「それは須賀さんもそうじゃないですか。ていうか、オレの事なんて放っておいて大丈夫ですよ。
 仕事忙しいんでしょう?」

「まぁ、ベンチャー企業だけど、社長として日々忙しくさせてもらってるから、暇ではないけどね」

 オレは目が丸くなった。丸くし過ぎて痛くなったから目をパチパチさせて元に戻す。

「えっ!? いや、人身売買の被害者を救う会みたいなのは? それの社長なんですか?」

「あはは、救う会って。ちゃんとした会社だよ。僕は在籍して調査はしてるけど、本業の合間にやってるんだよ」

「そうだったんですね。なんか忙しそうなのに……はっ! もしやオレに何か用ですか?
 わざわざオレに時間作る程暇じゃないですよね?」

「うん。実はね、今日は文和君に頼みたい事があってきたんだ」

「なんでも言ってください! 恩が返せるならなんでもします!」

 お母さんの事であれだけ迷惑かけて、助けてもらったんだ。須賀さんが困ってるなら助けたい。

「そんな仰々しい内容じゃないから。肩の力抜いて。
 文和君はさ、堂島さんが逮捕された時に、実家に帰られた金井栞さんと一緒に住んでたんだよね?」

 栞ちゃんの事? 栞ちゃんとは連絡は取ってないけど、前に雪夜の家に掃除に行ったら、郵便物が溜まってて、その中に栞ちゃんからの手紙が入ってた。
 今は家事代行の仕事をして、婚活パーティーに参加し始めてるとか。
 だからオレから、今拓音の家にペットとして居候している事とか自分の近況を手紙に書いて栞ちゃんに送った。

 折角実家に戻れたんだから雪夜やオレの事は忘れて自分の人生を送って欲しいと思って、こっちから連絡はしなかったんだけど。
 栞ちゃんからの手紙を見て、やっぱり今後も仲良くしたいから近々電話でもしようかなと思ってたんだよね。

「はい。雪夜の家で家政婦をしていて」

「家政婦? 堂島さんは最初から家政婦が欲しかったのか?
 それなら雇えばいいのに、なんでわざわざ子供を?」

「あの、雪夜の名誉を害する話ですけど、雪夜は栞ちゃんを性的対象として買ったんですよ。
 もちろんオレもその対象で」

 須賀さんの顔が不快感や嫌悪感といった感じで、気持ち悪いものを見たような顔に変わる。
 怖い!
 でもそれは事実だし、雪夜を擁護するわけじゃないけど、続けて話した。なるべく雪夜を守る方向で。

「って言っても、雪夜ってYESロリコンNOタッチの人だから、栞ちゃんは一度も手を出されてませんよ。
 栞ちゃんは雪夜に恋をしていたので、最後まで想いを伝えられなかったと後悔していました。
 どうして雪夜は一度も手を出してくれなかったんだろう? って悲しんでいたくらいです」

「そうか」

 須賀さんの顔が少し和らぐ。

「金井さんはいつから家政婦を? 売られてすぐ?」

「いえ。学生時代は普通に学校に通っていたそうですよ。本当の子供みたいに育ててくれたって、栞ちゃんが話してました。
 その頃はちゃんと雇った家政婦がいたらしくて、たまに家事を手伝っていたそうですよ。
 けど勉強が苦手で、高校卒業した後の就職活動もままならなかったみたいで、雪夜がそれなら家で家政婦をしたらどうかと、提案したそうです」

「雇用契約を結んだのかな?」

「そうみたいです。栞ちゃんは、月に結構な額もらってましたよ。ボーナスとお年玉ももらってましたし。
 週に二日休みもらってて、その時は雪夜が簡単な家事をしてましたね」

 掃除とか洗い物は放置だったけど、ご飯作ってくれたっけ。
 オレが作るようになってからは、その分のお小遣いもくれたりした。雪夜は良い人なんだ。それを須賀さんにも分かってもらいたい。

「そっか。堂島さんが良い人なのは分かっていたけど、そこまでとは。
 金井さんは、幸せだったのかな」

「幸せだったと思います。オレが買われてから三年くらい一緒にいましたけど、オレは栞ちゃんと雪夜と楽しくやってましたから。
 栞ちゃんの笑顔が嘘だとは思えません」

「その話が聞けて良かった」

 須賀さんは安心したみたいにホッとしていた。
 栞ちゃんの事が気になるなら、本人に聞けばいいのに。須賀さんなら栞ちゃんの居場所分かる気がするけどな。

「栞ちゃんの知り合いなんですか?」

「あぁ、うん。昔……」

「なんでオレに? 直接栞ちゃんに聞けばいいのに。その方が栞ちゃんも嬉しいと思いますよ」

「文和君は……金井さんが人身売買で売られた時の事は細かく聞いてたりする?」

 須賀さんは何故か言いにくそうに視線を下に落としている。

「はい。親の借金で泣く泣く売られたとか。
 でもどうしても家に帰りたくなって脱走計画を実行したそうです。
 檻の中に子供が何人かいて、五歳くらいの子? とかと一緒に。一度は逃げられたけど、捕まって、酷い目に遭ったって言ってましたね。
 雪夜が買ってくれなかったらどうなっていた事かって、思い出して怯えてました」

「そうか。実はね、檻から金井さんが子供達を連れて逃げた時に、僕も一緒にいたんだ」

「えっ!」

「僕はその時十歳で、十二歳だった金井さん……その時は名前を知らなかったけど、彼女に脱出しようって話を持ちかけられて。
 凄くしっかりしていて、頼りになるお姉さんだった」

「あぁ、栞ちゃんが一緒にいた男の子と逃げたって……それ須賀さんだったんですね」

 須賀さんの目から涙が一粒ポタッと落ちた。

「うん。僕のせいで彼女を不幸にしてしまったと思ってたんだ。凄く彼女に申し訳ないと思ってた。
 人身売買で売られた子供を助ける事業を手伝っていたのは、彼女を探す為だった」

「なんでそこまで須賀さんが気に病む必要があるんですか」

 そもそも逃げる計画したのは栞ちゃんだ。寧ろ責任は栞ちゃんにありそうなものなのに。
 当事者じゃないからオレには分からないけど。        栞ちゃんってちょっと無謀なところあったし、なんとなく想像つくんだよな。

「あの時僕がもっとしっかりしていたら逃げきれたんだ。僕達が売られた人身売買組織は、本当に酷いところだった。
 本当は金井さんは主犯格として、殺して臓器売買されるところだったけど、僕も主犯だから罪を半分にしてもらう事で、どうにか奴隷のランクを下げての売買になったんだ」

「それなら栞ちゃんは、須賀さんに助けられたんじゃないですか!」

「金井さんはそう思わないかもしれない。
 ランク落ちの子供が待っているのは、通常では購入出来ない問題のある客に購入されて、人間扱いすら受けられない未来だったんだ。
 死んだ方がマシだと思う人もいただろう。金井さんが苦痛を味わう事になるとしたら、それは僕のせいだ。
 不幸に生きていたらと思うと、気が気じゃなかった」

 須賀さんは目を擦ると、痛そうに顔を歪めた。本当に辛い思いをして生きていたんだろう。
 逆に栞ちゃんの方が心配だな。栞ちゃんが巻き込んだ須賀さんが不幸だったら、栞ちゃんだって同じように胸を痛めると思う。

「じゃあもうそんな事で悩む必要なくなりましたね。須賀さんがいたから、栞ちゃんは雪夜に買ってもらえて、幸せに育ったんですから」

「良かった。本当に良かった……」

「須賀さんは? 辛かったですか? 今も不幸なんですか?」

「子供時代はずっと辛かったよ。死にたいって何度も思ったし、自分が人間ではないんだと言い聞かせてどうにか息をしていただけだった。
 けど、僕も良い出会いをして今は凄く幸せなんだ。
 僕だけが幸せになっていたら申し訳ないって思ってた」

「それは、良かったです」

「ありがとう。文和君のお陰で心が軽くなったよ」

「いえ、こんな事恩返しの内にも入りません」

「じゃあ、あともう一つお願い。この話、金井さんには言わないで欲しい」

「はい。そのつもりです」

「これで文和君からは十分返してもらえたよ。ありがとう」

「何を言うんですか! 連絡先交換して下さい! これから須賀さんが困った時、オレが出来る事ならなんだってしますから!」

 こんな事くらいじゃ恩は全然返せてない。須賀さんは「困ったなぁ」なんて言いながらも、オレと連絡先を交換してくれた。
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