少年ペット契約

眠りん

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十七話 ペット契約第六条

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 須賀さんの車に乗って件の金融会社まで向かった。案内されたのは人気の少ない路地の奥に建っている古びたビルだ。
 須賀さんが先にビルへと入っていき、階段を昇っていき、薄暗い二階の廊下を進んだ先の扉の前で立ち止まった。

 扉の横には「にこにこ金融」なんて看板が貼られてるけど、絶対にこにこ出来そうにない。

「こんなところに会社が……」

「うん。怖くないから、安心していいよ」

 怖くないわけがない。須賀さんはオレの緊張を解く為だろうか、ニッコリと余裕の笑みを見せた。
 拓音も堂々としながら、オレの肩を抱き寄せた。少し安心する。

 それでもドキドキしていると、須賀さんはチャイム等押さずに勝手に扉を開いて中に入っていった。

「ちょっ、須賀さん!?」

 オレと拓音は焦って須賀さんを追いかけた。
 中は普通のオフィスみたいだ。パソコンが置かれたデスクが三つと、奥に仕切りで区切られた応接室があった。

「お疲れ様です」

「おう、春哉! どうした? ん? そいつらは?」

 須賀さんが挨拶をした相手は、大柄な男だった。ストライプのスーツに赤いシャツ、威圧感のある顔は立っているだけで恐怖を覚える。
 多分道で擦れ違ったら、端に避けてこの人に道を譲ってしまうだろう。
 どこからどう見てもカタギじゃない。

 須賀さん、この人と知り合いなの? ほんと、何者?

「峰岸さん。借金して逃げてた女性を捕まえたらしいって情報を聞いたんだけど……」

「おう。長い事逃げ回りやがって。探すの大変だったが、苦労の甲斐があって捕まえたぜ」

「百万円の借金の為にご苦労様でした」

「なんで知ってんだよ? 五百万に膨れ上がったから、身体で売らせようかと思ってよ」

「その人、この堂島文和君のお母さんなんだって。元金だけ返すから、その人自由にしてもらえない?」

「ははは。じゃあ別人だ。その債務者の名前は小山内美智子ってババアだからな!」

「小山内美智子は、オレの母親です!!」

 オレはたまらず、峰岸さんって人の前に出た。怖い……けど、負けたくない!
 怖い顔で睨まれる。でも結城さんの事務所のヤクザさん達で慣れてるよ。

「なんだ? お前は?」

「初めまして、オレは堂島文和! 旧姓は小山内です! お母さんの借金は百万じゃないんですか?」 

「元本は五十万だ。利息が膨れ上がって百万になったんだよ。俺は小山内を見つけるまでに相当金を掛けた。
 手間賃と迷惑料込で五百万だ。全額一括で払えばお前の母親なんぞくれてやる」

「二百万までなら払えます。それで許してもらえませんか?」

「は? そんな金で許したところで俺になんのメリットもないんだが?」

「峰岸さん! 子供相手に何を言ってるんだよ。この子は百万を自分で払うって言ってここまで来たんだ。
 それを二百万も出すって言ってるんだぞ!
 本当に五百万も払う必要があるのか疑問だね。捜索にかかった額が分かるもの出してよ」

 須賀さんがオレを守るように峰岸さんと対峙している。

「チッ。んなもんねぇよ! せめて三百万だな。それ以上はまけるつもりねぇ! お前に何を言われてもこれだけは譲らねぇ。
 言っておくが警察や弁護士には頼れねぇからな。母親が逮捕されるだけだ」

 峰岸さんはニヤっと意地悪そうな笑みをオレに向けてきた。
 お母さんが逮捕されるのって、アレだよね? お母さんと結城っちだけの秘密じゃなかったの?

「お母さんが保険金殺人したの、なんで知ってるんですか? お母さんから聞いたんですか?」

「へぇ~。保険金殺人ねぇ? 知らなかったけど? 俺が言ってんのは、二年前に俺の指示で結婚詐欺やってた時の事を言ってんだ。
 逮捕されたら最悪だな? 騙された男達へ金を返還出来るとも思えねぇし。
 しかも殺人までしてんのかよ。ヤベー女だな」

 お母さんっ、結婚詐欺までしてたの!? それは罪を償うべきだけど……。

「分かりました。三百万、払います。そしたらお母さんをもう苦しめないでくれますか?」

「おい、フミ! お前にそんな金あるのかよ?」

 オレの肩を掴んで止めてきたのは、拓音だ。

「一応あるよ。雪夜がオレの為に貯めてくれた貯金だけど。結城っちから二百万振り込んでもらえる事になったし。
 オレはもう高校生だから、生活費はバイトで稼げはいいだけの話だよ」

「ダメだろ。堂島さんがどんな思いでお前に金を貯めたと思ってんだ。
 母親の借金返済に使って欲しいわけないだろ?」

「拓音は雪夜の事何も知らないじゃん!」

「少しは知ってるさ。その金は、フミが不自由しないようにと思って残してくれたんだろ?
 そんな事に使っちゃいけない!
 あの! 峰岸さん!」

 拓音は後ろから両手でオレの両肩を掴んで、峰岸さんを呼んだ。少し緊張してるみたい、手が震えてる。

「テメェはなんだ?」

「俺? 俺は夜に咲く一輪の薔薇、ナンバーワンホストのユウヒだ。んでもって、この堂島文和の飼い主でもある。
 俺とフミはペット契約を交わしているからな。ペットの責任は俺の責任だ」

「ほう?」

「本当に三百万でいいんだな?」

「おう。このガキの面と、春哉に免じて三百万で手打ちにしてやる」

「分かった。全額俺が払う。その代わり、フミの母親を解放しろ。結婚詐欺だか保険金殺人の事は口外しないと約束しろ」

「いいぜ」

「拓音!?」

 いきなりの拓音の言葉に、オレは驚愕して口が開いてしまった。

「なんで!? 拓音は関係ないじゃん! オレとお母さんの問題なんだよ?」

「バカ! ペット契約書の第六条、言ってみろ」

「……なんだっけ?」

「いやほんとバカ! 自分で作った癖に何忘れてんだ! 拓音は文和が困っていたら助けること、だろうが」

 逆になんで拓音がちゃんと覚えてんの!? 一条の文和は拓音のペットであることだっけ? それ以外はふんわりとしか覚えてないよ。
 
「そんな。ふざけて書いたやつ守る必要なんてないのに」

「契約しただろ。守るのは当然だ」

 拓音に後ろから包むように抱き締められた。オレ、拓音のペットで良かったよ。
 嬉しいよ。すごく嬉しくて涙が……。
 だからオレは大人なんだってば。泣いちゃいけないんだってば。なんで勝手に流れてくんの?

「拓音……ありがとう」

 ふざけて書いた契約書なのに。これじゃあ一生拓音に頭上がらないね。
 これから先、拓音が困ったらオレが助けられるように強くなりたいな。
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