少年ペット契約

眠りん

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十四話 面会

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 拓音との生活も一ヶ月が経った。オレは学校に行きながら家事したり、拓音の世話をしたり、友達と遊んだりも自由にさせてもらってる。

 拓音もペット契約の内容を律儀に守ってくれて、帰ってきた時にオレが起きてたら可愛がってくれる。
 朝目が覚めて、学校に行くまでの時間は拓音のベッドに潜り込んだり、やりたい放題でも怒らないで頭撫でてくれるの。
 ほんと、オレ幸せ者!

「ねぇ拓音! オレ、雪夜のところに面会行きたい! 連れてってよ!」

 確か今日は拓音はお休みだって言ってたよね。
 けど、拓音はオレをジト目で見てくる。どうしたんだろう? 機嫌悪いのかな? 体調悪い?

「……フミ、本当、お前、俺のペット?」

「うん、そうだよ? なんで?」

「なんか俺がフミの召使いにでもなった気分になるからだよ」

「そんな! 拓音はオレの主人でしょ!」

「そうだよ、俺はフミの主人で、レンタルだがフミに金を払って従事させている立場だ。
 だが、何故か女王様気質のネコ飼ってるみたいに思えてくるんだよな」

「って事は、オレ、ペットとして合格してる?」

「俺、ペットはうさぎ派なんだよ。うるせー時点で不合格だわ」

 けど拓音はブーブー文句言いだした。不満に思うなら今までの自分の言動を思い出して欲しい。
 それはオレのせいだけじゃなくて、拓音にも原因があるんだから。

「完全な主従関係を求めるなら、拓音を呼び捨てで呼ばせないとか、オレに敬語を使わせるとか、自室以外では仕事着を着させるとか、変な契約書に同意しないとか、色々方法があった筈だけど。
 それを全部放棄したのは拓音だよ?」

「それを言われちゃ反論できないけど」

「オレはペットにしてくれる人限定で、ご主人様を募って、紹介されたのが拓音だったんだよ。
 嫌なら結城さんに言ってお金返してもらうなりしてよ。オレだって別の人に変えてもらうから」

「そこまで言って……」

「でも! オレでも良いよって言ってくれるなら、オレだってその方が良い。
 態度デカいかもしんないけど、それは拓音の事気に入ってるからなんだから。
 拓音はオレにどうして欲しい? お金を払ったのは拓音だから、なるべく要望には応えるよ」

「……」

 答えは聞けなかった。
 けど、拓音は無理に話を変えてから、オレを刑務所まで連れて行ってくれた。
 車の中では普通に雑談したし、気まずい雰囲気みたいなのはない。
 拓音が何を考えてるのか分からないけど、これ以上何も言わないんなら、オレが口出す事じゃないね。
 どうしたいかはお金を払った拓音が決める事だから──。


 面会室は透明なアクリル板を挟んで雪夜と面会した。拓音もオレについてきてくれた。

 久々に見た雪夜は疲れた顔をしていて、頬が痩けてた。辛そう。オレが代わってあげられたらいいのに。

「雪夜、ちょっと痩せた? 大丈夫?」

「大丈夫だよ。フミは元気そうだね。そちらは?」

 雪夜はオレに心配かけまいとしてるのかな、にっこりと優しい微笑みを浮かべた。
 寧ろ心配するよ。

「初めまして、俺はユウヒ。夜に咲く一輪の薔薇さ」

 拓音はキラキラした笑顔で、ホストさながらのイケメン顔を見せてきた。だからその挨拶笑うんだってば。
 それで女性が喜ぶのかな? ドン引きしそうな気がするけどなぁ……って、雪夜が少しときめいてるじゃん! だめ!!

「拓音、ここでそういうノリはいいから!」

「なんだよ。自慢の挨拶を否定しやがって」

「するよ! ここは店じゃないし、雪夜は客じゃないよ!」

「ふふふ……はははは」

 雪夜が肩を震わせて笑い始めたから、オレも拓音もびっくりして雪夜を見た。

「ゆ、雪夜?」

「二人のやり取りが面白くてね。こんなに笑ったの久しぶりだな」

 雪夜の顔が少し明るくなった。良かった。雪夜にはやっぱり笑顔が一番似合うよ。
 オレより先に拓音が雪夜に話しかけた。

「あの、堂島さん」

「なんだい?」

「今、俺がフミを預かってます。フミはあなたが出てくるまでウチで待ってるって言っているんですが、正直ワガママだし、うるさいし、相手するの疲れるし大変なので、早く出所してください」

「そんな言い方なくない? 雪夜の前なんだから嘘でも褒めてよ!」

「褒める……。家事はよく出来てるかなと。家事代行頼んだ方が楽なようにも思えます」

「拓音ぉっ!!」

 ショック。拓音にそんな風に思われてたなんて。やっぱり捨てる方向で考えてるよね?

「でも、一人でいた時より賑やかだし、一生懸命なコイツ見てると、俺も仕事に張りが出てくるんで、そういう面はプラスかなって。
 責任もって預かりますよ」

 雪夜はガバッと台に頭を付けるようにして伏せた。

「ありがとうございます。フミをよろしく頼みます。出所したらお礼は必ず致します」

「それはいいです。俺もフミから貰ってるものの方が多いですから。
 俺はフミを預かれて、心から良かったと思ってます」

 それは本心かな? 雪夜の前だから嘘ついてくれたのかな?
 どっちにせよ、雪夜が安心した顔を見せてくれて良かった。今後の事は、オレと拓音の問題だしね。

 面会時間はあっという間だった。雪夜は扉の奥へと行っちゃった。
 拓音に頼めばまたここに来させてくれるかな?
 ううん。これからは一人で来なきゃ。電車とバスで来れるかな?

「また来よう。だから、泣くなよ」

「……なっ、泣いて、ない、もんっ」

 鼻を啜ると泣いてるとか言われそうで、顔に力を入れたまま何も出来なくなる。
 もうすぐ十六歳になるんだよ。泣くわけないじゃん。

「はは。そういう事にしておくわ」

 帰りは拓音がオレの手を握って車まで歩いた。子供扱いされてる感が否めない。

 拓音が仕事用の服を新しく買うって言って、スーツを売ってる店に入った。オーダーメイドで、落ち着いた色合いなのに色気があるようなデザインを依頼していた。
 ちょっとブランドとか詳しくないから分からないけど、拓音がすごーくカッコイイって思ったよ。

 だから帰りの車の中で聞いてみた。

「ナンバーワンホストのペットになれたオレって幸せ者?」

「間違いなく幸せ者だろ」

「だよね。少しの間でも、拓音のペットになれて嬉しかったよ」

 返事がない。やっぱり終わりなんだね。
 拓音に捨てられたらどうしようかな。あ、政が家に置いてくれるって言ってたな。
 そこで家の事して、迷惑かけないようにして、たまにペット扱いしてもらえたらいいんだけど。

 オレはこのまま帰るんだと思ってたんだけど、拓音はまだ寄り道するみたいで、車をコインパーキングに停めると、駅チカのショッピングモールに入っていった。

「フミの好きな服、好きなだけ買えよ。金は出してやる。フミはこういう店の方が買いやすいだろ?」

「餞別?」

「ちげーよ。そりゃあ想像してた生活とは真逆になったけど。
 服買うって言えば伝わると思ったのに……」

「拓音?」

「さっき堂島さんに言った事覚えてるか?」

「うん。あれは雪夜の手前嘘ついてくれたんでしょ。もう子供じゃないし、それくらい分かるよ」

「バカ。全部本心だ。
 これからも頼んだよ。家事だけやって、他は好きにしてくれたらいい。
 俺にして欲しい事があれば、遠慮なく甘えていいよ。フミはうるさいけど、いなきゃ寂しい。
 フミが嫌じゃなきゃ期間満了までいて欲しいと思ってる」

「全然嫌じゃない! 分かったよ」

 やった!! 嬉しくて嬉しくて、遠慮なく色々な店を巡って、色んなタイプの服を五着買ってもらったよ。それなのに、

「金額は別として、今まで女性にプレゼントは何度もしてきたが、その中でお前が一番図々しい」

 って、拓音が言ってきた。
 好きなだけ買えって言ってきたの拓音じゃん。オレはその通りにしただけなのにね。
 でも、拓音は不満を言いながら楽しそうなんだ。本当に嫌がってたらオレも態度改めるけどさ。

 本当に良いんだよね?

 でも不満を言ってるのは明らかなわけで。
 とりあえず、拓音の迷惑にならないように、自重しよう。
 それからあんまり拓音にワガママ言わないようになった。
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