あなたに誓いの言葉を

眠りん

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一章

十話 直人の核心

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 翌日、海斗の世話を終えて会社に着くと、正嗣に早速相談をした。

「えっ。会社内の人間がストーカーなんですか?」

 正嗣は訝しむ顔を一樹に向ける。一樹は正嗣の納得がいくように説明をした。

「そうです。犯人は、この会社内にいて、尚且つ海斗を知っている人です」

「あぁ、彼氏さんにメールが送られてきたんでしたっけ?」

「よく覚えてましたね。そうです、俺と先輩が歩いているところを写真に撮って、あたかも俺が浮気しているという体でメールが送られたんです!
 お陰で、まだ俺が浮気してるっていう疑惑が晴れてないんですよ!」

「まだ彼氏さん、好きなんですね」

「当たり前ですよ。とりあえず、社内の人間って分かった事は収穫です」

 一樹はフロア全体を見渡した。怪しい人物がいればすぐに問い詰めるつもりで視線を巡らすと、ある人物と目が合う。
 だが、その人物は一樹と目が合うと立ち去ってしまった。

「え?」

「どうしたんですか?」

 正嗣は一樹に心配そうな目を向けた。一樹は一点を見つめたまま答える。

「……今、直人が」

「直人?」

「直人、です。経理部の俺の幼馴染み。まさか」

「心当たりでもあるんですか?」

 一樹は頷いた。思い返すと、直人が怪しいと思う場面があった。
 
「海斗に送った、俺と先輩が写ってる写真。あの時撮れる人がいたとしたら、直人なら近くにいたからいつでも撮れたと思います。
 それに、休日に外で声を掛けられたんですけど、あれが偶然じゃなかったら……?」

「まぁ、その直人さんって人って決まったわけじゃないですし。話を聞いてみましょうよ」

「ああ……」


 一樹は直人に昼休憩の時に「退社後に話がある」と、その日は早々に仕事を片付けて二人で会社の屋上へ行った。

「もう梅雨だってのに、今日は良い天気だねぇ」

 直人は呑気に笑いながら空を仰ぎ見ている。そんな直人に不信感を隠せない一樹は、返事をせずに無言のままだ。

「一樹、どうしたんだ? 今日なんか変だぞ。昼もなんか睨まれてた気もするし。俺、何かしたかな?」

「あのさ。俺に何か言う事ない? 俺の勘違いなら良いんだけど、もしそうなら……怒るかも」

「えっ」

 直人は急に挙動不審になった。眼球がキョロキョロ動き回り、手持ち無沙汰となった両手をモミモミと握って指が忙しなく動く。

 隠し事をしてバレた子供のようである。一樹は、やはり直人が犯人かと覚悟する。

「ごめん。今までずっと……」

「なんでだよ、正直に言ってくれれば許したのに」

「うん。でもさ、言えるわけないよね。一樹は彼氏さんいるし、言っても迷惑になるだけだと思って」

「言わなくても迷惑だったけど。まぁこれからは変な事するなよ」

「そ、そんなに分かりやすかった?」

「アピールしてたんじゃないの?」

「そうだよな。うん、もうそういう事はしない。悪かった」

「俺も気付かなくてごめん」

 そこで会話は終了し、それぞれ帰路についた。

 犯人は直人だったのだ。これで後は海斗との問題だけが解決すれば幸せになれる。そう信じて一樹は駅からアパートまでの道を歩いた。

 だが……。
 アパートに近付くにつれ、後ろを誰かが着いてきている気配を感じた。
 いつものストーカーだ。振り返っても姿を見せないのに歩き出すと距離を詰めてくる。

 一樹はスマホを手に取りすぐに直人に電話をした。直人はすぐに電話に出たが、電話口からは騒がしい音がしている。

「も、もしもし? 直人、今、どこにいる?」

「え? 居酒屋だけど。振られたから傷心を癒そうと思ってね」

「振られたって、さっきの話?」

「それ以外に何があるんだよ。まぁ分かってたけどさ。もう一樹の部署覗いたり、昼食誘わないから安心して」

 一樹の額から汗が流れた。直人はストーカーではなかったのだ。
 悪寒を感じて、早歩きになる。

「さっきの話さ、俺と直人の話食い違ってたかも」

「どういう意味?」

「とりあえず直人がストーカーじゃないって事は分かった」

「はあ!? 俺ストーカー疑われてたの!? しないよそんな事!! そもそもそんな暇ねぇって。仕事終わったらジムか遊びに行ってたし」

「はは……。ありがと。明日からも昼飯くらいは一緒に食べるのはいい、かな?」

「いいよ。じゃ、明日な」

 電話を切ると、一樹は走って部屋に帰った。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 こんな時、海斗に悩みを相談出来たら少しは気持ちが軽くなるのに、と悲しくなった。

 ストーカーの事は忘れて家事をしなければ、そう思いながら靴を脱ごうとした時、玄関にはいつもはこの時間には無い海斗の靴があった。
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