あなたに誓いの言葉を

眠りん

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一章

九話 ストーカーの犯人

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「なんでそれ……」

 一樹は正嗣を睨み付けた。だが、正嗣は人畜無害そうな顔のままだ。
 何故か正嗣は海斗の存在を知っている。まさかストーカーは正嗣だったのではないかと警戒した。

「怒らないで下さいよ。一樹さん、俺マサです。毎晩会ってるじゃないですか」

「……ま、マサ? あ、あーなんか……よく夢で話す子供?」

「そうですそうです! やっぱり夢の記憶って残ってないですか?」

「うーん。殆ど覚えてないです。大体の流れは覚えてますけど、細かい内容までは……すみません。マサさんの事はぼんやり覚えてます」

 本来、夢とは記憶の整理である。経験した記憶を脳の倉庫から引き出し、まとめる作業が夢なのだ。

 人間は短期記憶に優れていない。寝起きの直前の夢であれば覚えているが、眠り始めてから見る夢は覚えていないものだ。
 覚えていたとしても、時間が経てば大まかには覚えていても、詳細は忘れてしまうものである。

「特に残っている記憶は、彼との誓いの話をした時の事ですかね」

「そうですね。あなたにあの話をして、お陰で俺は迷いなく海斗を愛していると言えるようになりました」

 もう警戒心は解けている。一樹は正嗣に親しみの笑みを向けた。

「まさか夢の中で会っている人と、現実でも会えて、しかも一緒に仕事をするなんて、凄い偶然ですね~」

「そうですね。最初一樹さんを見て驚きました」

「マサさん、いつも子供の姿だから。リアルだと全然違うんですね、言われなきゃ分からないですよ」

「言ってみて良かったです」

「あはは」

 二人は長年付き合いがある友人かのように、お互いの距離感が近くなった。

「そういえば、もうDV受けてないんですか?」

「えっ? はい、なんか海斗に避けられているようで……最近は近くにいてくれません」

 お陰で顔の傷は殆ど残っていない。だが一瞬、正嗣に対して不信感が湧いた。

「あれ、なんでDV受けてないって分かったんですか? 俺、夢の中で顔痣だらけでしたかね?」

「そうですよ。ご自分では気付いていなかったんですね」

「見た目とかあんまり気にしないしなぁ。ていうか、マサさんは夢の内容覚えてるんですか?
 起きた時疲れません?」

「それが、起きると身体がスッキリしてるんですよねぇ。夢の内容はほぼ覚えてるのに、疲れてないというか。不思議ですね!」

 正嗣本人にしか分からない事だ。一樹は不思議に思いながらもうんうんと頷いて聞いた。
 話している間に駅に着いた。正嗣と別れて電車に乗って帰った。


 それからは正嗣も会社に慣れてきて、一ヶ月経つ頃に一樹は正嗣を正しく評価して、仕事上での一人立ちをさせた。

 仕事も順調で、夢の中でも正嗣とは仲良く話している。後は海斗との関係だけだが、概ね順調なので、仕事が終わった後の家事も鼻歌交じりで片付けていた。

 海斗の為ならどんなに大変な事でもやり遂げてみせる、という意気込みもある。
 夜ご飯の準備までし終えて海斗を待った。

 その時、ピンポーンと部屋のチャイムが鳴った。海斗であればチャイムは鳴らさないので、来客かとインターフォンに出た。

 カメラが付いている訳では無いので、声だけで判断しなければならない。

「はい?」

「……スー……ハー……スー……ハー」

 荒い息だけが聞こえた。

「あ、あのー?」

「……」

 声はせず、走り去る音が聞こえた。
 子供のピンポンダッシュかと思い、すぐにドアを開けてみる。──と、外側のドアノブに袋が吊るされていた。

「なんだ?」

 袋を開けてみると、そこには朝から夕方までの一樹の写真が大量に入っていた。

「ひっ……!」

 写真に写る一樹は、どれもカメラ目線ではない。隠し撮りをしたと分かるものだ。
 会社の中の一樹の姿もあり、余計に動揺する。

(犯人は社内の人間……? マサさんは俺の横にいたし、一体誰が?)

 今日一日の自分の行動を振り返るが、怪しい人はいなかった。写真は、どれも遠くから撮られたもので、同じ部署の人間とは思い難い。

「……違う、部署で、俺に気がある……まさか」

 一樹は写真を、個人のプライバシーを守る棚に隠した。

 海斗と同居して、寝室も衣装部屋も同じ場所を使っている。お互い手を出してはいけないプライベートを守る棚というのを二人分置いているのだ。

「明日、マサさんに相談しようかな……」

 夢の中では、起きた時に肝心の記憶が無くなっている場合が多いので、明日にしようと決めた一樹だった。
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