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一章
三話 束の間の安心
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「どうしたの?」
踏まれる事は慣れているので、まず用件だけ聞いてしまう。
「今何時か分かってんのかよ。朝飯はどうした? なんで俺がテメーを起こさなきゃならねぇんだ?」
「ごめん」
髪を鷲掴みにされて強制的に上を向かされる。髪は全部引き抜かれるのではないかと心配になる程強く引っ張られ、痛みに歯を食いしばった。
「起きる、今起きるから!」
「遅せぇよ、次こんな事があったら殴るからな。この愚図が」
「ごめんなさい。もうこんな事は二度としません」
「ふんっ。当然だ」
海斗は一樹の髪から手を離すと、見向きもせず家を出ていった。
一樹ものんびりしている場合ではないので、すぐにスーツに着替えた。完全に寝坊であるが、仕事には間に合う時間だ。朝食を食べる間もなくすぐに家を出た。
「おはよう、今日は大丈夫か?」
職場に着くと、先輩の山崎が一樹に開口一番に聞いてきた。
「おはようございます。大丈夫とは?」
「殴られてないか?」
「先輩には関係ないです」
「よし、説教だ。こっちきなさい」
「嫌です。パワハラですか」
「久々に仁科の口からそのネタ聞いたわ。今日は少し元気みたいだな」
その言葉は、新入社員歓迎の飲み会で出てきた言葉だった。即打ち解けた山崎が「裸踊りするか?」と聞いた時に、一樹が「パワハラですか?」と笑いながら聞き返した事があった。
それから、山崎が無茶振りを言ったら一樹が「パワハラですか」と突っ込むようになったのだ。
「またふざけて笑えるようになると良いけどな」
「すみません」
「謝んなって。でも勇気が出せたら俺に言えよ。先輩が守ってやるよ」
「ありがとうございます」
「よーし! 今日の昼は外食行こうぜ、奢ってやるから」
「でも昼は直人が……」
「じゃあ直人も一緒にだな!」
その日は外へ連れられて外食をした。なかなか動かない一樹を山崎が手を引いて歩いた。
その後ろを直人がついて行こうとした時だった。直人は足を止めた。
「ちょっと待って、俺電話してから行くわ」
そう言って、後からやってきたのだった。
その日の帰りは珍しくストーカーの陰がなかった。男がストーカー被害を訴えるのも情けないし、警察は被害がないと動かないから、と一人胸に抱えていた問題だったので、胸を撫で下ろした。
「明日以降も来なきゃいいけど」
ストーカー行為がないだけで気分は明るくなった。部屋に入り、家事を始める。ストーカーがいないだけで、こんなにも気分が楽になるとは。
一樹は意気揚々と料理を作り海斗を待った。
だが、海斗は帰ってくるなり一樹の頬を殴った。
勢いで床に背中を打ちつけてしまった。一樹はなかなか起き上がれずに、じっと海斗に視線を向けた。
「俺、何かした? 直すよ、言って」
「てめぇ、一丁目に浮気か? 本当は俺と別れたいんだろう!?」
「なんの事?」
「これだよ!!」
海斗はスマホの画面を見せてきた。それはちょうど昼休憩の時、動きの悪い一樹を見兼ねた山崎が一樹の手を引いて歩いている写真だ。
真横から撮ってあるが、結構至近距離にも見える。
一樹は一瞬直人の顔が浮かんだ。
ちょうど手を引かれていた時、直人は電話があると言って二人から離れた。
「それがどうしたの?」
「こんな写真がメールに添付されてきたんだよ! お前の彼氏は尻軽のビッチだってな!!」
「違うよ。その人は会社の先輩。俺が浮気なんて、しないよ」
「ざけんな! 俺は騙されねぇ!! いいか、お前が何をしようと絶対別れないからな! 死ぬまでコキ使ってやる!」
海斗は一樹の胸ぐらを掴むと、寝室へ引っ張っていった。そして、衣服を破る様に脱がされ、乱暴に抱かれたのだった。
犯されながら殴られる。痛みと疲れから一樹は気絶するように眠りに落ちた。
踏まれる事は慣れているので、まず用件だけ聞いてしまう。
「今何時か分かってんのかよ。朝飯はどうした? なんで俺がテメーを起こさなきゃならねぇんだ?」
「ごめん」
髪を鷲掴みにされて強制的に上を向かされる。髪は全部引き抜かれるのではないかと心配になる程強く引っ張られ、痛みに歯を食いしばった。
「起きる、今起きるから!」
「遅せぇよ、次こんな事があったら殴るからな。この愚図が」
「ごめんなさい。もうこんな事は二度としません」
「ふんっ。当然だ」
海斗は一樹の髪から手を離すと、見向きもせず家を出ていった。
一樹ものんびりしている場合ではないので、すぐにスーツに着替えた。完全に寝坊であるが、仕事には間に合う時間だ。朝食を食べる間もなくすぐに家を出た。
「おはよう、今日は大丈夫か?」
職場に着くと、先輩の山崎が一樹に開口一番に聞いてきた。
「おはようございます。大丈夫とは?」
「殴られてないか?」
「先輩には関係ないです」
「よし、説教だ。こっちきなさい」
「嫌です。パワハラですか」
「久々に仁科の口からそのネタ聞いたわ。今日は少し元気みたいだな」
その言葉は、新入社員歓迎の飲み会で出てきた言葉だった。即打ち解けた山崎が「裸踊りするか?」と聞いた時に、一樹が「パワハラですか?」と笑いながら聞き返した事があった。
それから、山崎が無茶振りを言ったら一樹が「パワハラですか」と突っ込むようになったのだ。
「またふざけて笑えるようになると良いけどな」
「すみません」
「謝んなって。でも勇気が出せたら俺に言えよ。先輩が守ってやるよ」
「ありがとうございます」
「よーし! 今日の昼は外食行こうぜ、奢ってやるから」
「でも昼は直人が……」
「じゃあ直人も一緒にだな!」
その日は外へ連れられて外食をした。なかなか動かない一樹を山崎が手を引いて歩いた。
その後ろを直人がついて行こうとした時だった。直人は足を止めた。
「ちょっと待って、俺電話してから行くわ」
そう言って、後からやってきたのだった。
その日の帰りは珍しくストーカーの陰がなかった。男がストーカー被害を訴えるのも情けないし、警察は被害がないと動かないから、と一人胸に抱えていた問題だったので、胸を撫で下ろした。
「明日以降も来なきゃいいけど」
ストーカー行為がないだけで気分は明るくなった。部屋に入り、家事を始める。ストーカーがいないだけで、こんなにも気分が楽になるとは。
一樹は意気揚々と料理を作り海斗を待った。
だが、海斗は帰ってくるなり一樹の頬を殴った。
勢いで床に背中を打ちつけてしまった。一樹はなかなか起き上がれずに、じっと海斗に視線を向けた。
「俺、何かした? 直すよ、言って」
「てめぇ、一丁目に浮気か? 本当は俺と別れたいんだろう!?」
「なんの事?」
「これだよ!!」
海斗はスマホの画面を見せてきた。それはちょうど昼休憩の時、動きの悪い一樹を見兼ねた山崎が一樹の手を引いて歩いている写真だ。
真横から撮ってあるが、結構至近距離にも見える。
一樹は一瞬直人の顔が浮かんだ。
ちょうど手を引かれていた時、直人は電話があると言って二人から離れた。
「それがどうしたの?」
「こんな写真がメールに添付されてきたんだよ! お前の彼氏は尻軽のビッチだってな!!」
「違うよ。その人は会社の先輩。俺が浮気なんて、しないよ」
「ざけんな! 俺は騙されねぇ!! いいか、お前が何をしようと絶対別れないからな! 死ぬまでコキ使ってやる!」
海斗は一樹の胸ぐらを掴むと、寝室へ引っ張っていった。そして、衣服を破る様に脱がされ、乱暴に抱かれたのだった。
犯されながら殴られる。痛みと疲れから一樹は気絶するように眠りに落ちた。
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