櫻家の侵略者

眠りん

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二話 バイト探し

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 諭は大学の授業を終えて校舎の外に出た。古い建物ばかりの校舎が並ぶキャンパスは歴史を重んじる校風である事か窺える。
 歩道は両端に桜並木があり、春はピンク色に染める木々は葉で緑に染まっている。

 そんな景色には目もくれず、諭は走って校門を出て行った。歩く速さを緩める事なく向かっているのは、アルバイトの面接だ。
 両親に「一人暮らしをする場合、生活費は五万まで送るが、それ以上は自分でバイトをして稼ぐように」と言われているのだ。

 今まではファミレスでバイトをしてきたのだが、半年前に人間関係で問題を起こしてクビになってからバイトをしていない。
 職場で一緒に働いていた男性スタッフを彼氏にした後、女性スタッフと浮気していたのだが、その彼氏も別の女性スタッフと浮気をしていた。
 四人での言い合いになり、揉めに揉めた結果、全員クビになったのである。

 陽翔と出会ったのはその後だった。ムシャクシャして森川に慰めてもらおうとバーに寄った時に、新しいスタッフとして入ってきたー陽翔と出会った。
 一目で恋に落ちた。それから猛アタックを繰り返し今に至る。

 付き合ってからすぐに家賃五万のアパートを引き払い、陽翔のアパートに転がり込んだ。
 陽翔は「一応のケジメとして」と、家賃三万分を入れれば同居していいと許したのだ。

 ──なのだが。
 同棲して二ヶ月。諭は未だにバイトを見付けられずにいた。今までは貯金でどうにかなったが、本当にピンチだ。
 飲食店以外のバイトをしたいと思っているが、正直やってみたいと思えるバイトがなかった。

「ねぇ、諭。そろそろ家賃払おっか?」

 と、ニコニコとした怒り顔の陽翔が急かしてきた。初めて見る怒り顔だ。諭はすぐにバイト探しを始めた。
 陽翔が怖かった事もあるが、嫌われる事が怖かった。今までの恋愛でそう感じた事は一度もなかった。陽翔は特別なのだ。


 なんでもいいから何かバイトをと思い、申し込んだのは集団授業のある塾の教師だった。数日前に小学生のテストを受けて面接をしたが、落ちてしまった。
 テストは問題なかったので、面接に問題があったのだ。

 諭は前回の反省を踏まえ、今回はまた別の個別指導塾に面接に来た。
 先に学力テストを受けた。小学生や中学生向けのテストだ。学力は問題ないので、前回の失敗を踏まえて面接に臨む。

「何故、弊社で働きたいと思ったのですか?」

 塾長である初老の男が問う。頭の毛は薄いので、そこに目がいきそうになるが、厳しい眼光の方が存在感を放っており、頭には目を向けられない。

 前回は家の事情を話した上で「稼げると思ったんで」とヘラヘラしながら言ったら怪訝な顔をされたのだ。

「昔、別の教室ですが、通っていた事があり……──その時の先生が……──今回仕事を探すにあたって……──」

 諭は嘘八百を並べ、納得してもらえるように説明をした。
 面接の受け答えは殆ど嘘をついた。


 その数日後。個別指導塾の採用が決まったのである。昼休憩中に塾から電話がかかってきたのだ。
 大学の講義が終わると、すぐに胸を踊らせながら部屋に帰った。ドアを開くと、キッチンから顔を覗かせた陽翔がいた。
 どうやら今日は仕事が休みのようだ。

「お帰りなさい」

「あぁ、家で起きている君に会えるのは何日ぶりか。麗しの眠りヒm……」

「休みだからね」

 陽翔は諭の言葉を遮った。
 諭のポエマーでも言わないような恥ずかしいセリフに、最初こそ恥ずかしそうに照れていた陽翔だったが、今や遮る事でスルーしている。

「へへっ、バイト決まった!」

「おおっ! おめでとう~! 金欠だから今月の家賃払わなくてもいい? って聞かれた時は、コイツヒモにでもなる気かな? って思ったけど。ちゃんと見付けられて良かったね」

 バイトが決まった事で一番喜んでいるのは陽翔だ。家賃の問題があるので当然と言えば当然だが、諭の事を思って喜んでいる事は、恋人である諭が一番よく分かっている。

「本当なら陽翔のヒモになりたいよ~」

「俺だって、そんなに収入良いわけじゃないんだから、アテにしないでね?」

「分かってるよ。就職したら経済面でも陽翔を支えるしさ」

「ありがとう。楽しみにしてるね」

 陽翔の天使の微笑みでお礼を言われるだけで、デレデレして鼻の下が伸びる。そのテンションでキスをすると、陽翔がキスを返してくれる。
 幸せだった。何もかも順調にいくと、未来への不安がない。

「テスト終わったら夏休みだし、沢山稼いで陽翔に何か高いものプレゼントでもしてあげるよ」

「そんな、いいよ! 諭は学生なんだからさ。そういうのは社会人になってからね。
 気持ちだけで十分だし。僕が欲しいものは、諭と一緒にいられる時間、だよっ」

「陽翔~!! マジ天使! 愛してる!」

 二人が抱き合うと、背景がハートに埋め尽くされたように甘い雰囲気になった。諭が陽翔の手を引いた。

「あ、ちょっと。今夜ご飯作ってるから……」

「そんなの、あとあと! ご飯より陽翔が欲しいよ」

「もうっ」

 陽翔は不満気だが、文句を言わずに寝室に入った。
 寝室は六畳程の洋室で、木製のナチュラルテイストのシングルベッドを二つ並べている。
 部屋はほぼベッドで埋まっている為、寝るだけの部屋である。

 諭はそのベッドに陽翔を押し倒した。生活リズムがズレている為、なかなかこういった行為は出来ない。

 諭はゴクリと喉を鳴らし、陽翔にキスをした。これまで遊びの相手にふざけてキスする事はよくあったが、陽翔とのキスは特別だ。
 すぐに陽翔が両手を諭の首に回した。それだけで心臓は爆発しそうにドクドク脈打っている。

「陽翔、脱がしていい?」

 勝手に陽翔の服を触っていいものなのか、触った瞬間壊れてしまうのではないかと、ありもしない恐怖心が芽生える。
 まるで童貞に戻ったかのようだ。陽翔相手だと、強引に行けない。

 顔をポーっと赤くしている陽翔は、じっと諭の目を見つめて言った。

「脱がせて?」

 諭は自分の鼻を押さえた。鼻血が出るかと思ったのだ。だが出ている筈もなく、顔が熱い事を確認しただけとなった。

 恐る恐る陽翔のシャツに手を掛け、ボタンを外していき、ズボンのベルトを外し、ファスナーを開いた。
 ジーという、ファスナーの繋ぎ目が一つ一つ開いていく様を見つめる。その隙間から下着が見えた。
 色は紫だ。何の変哲もないボクサーパンツだというのに、今の諭には刺激的に感じられた。

 諭の股間を締め付けている服が苦しい。先に自分の衣服を全て脱ぎさり、全裸になった。
 ペニスは硬く上を向いており、触ると熱かった。自慰行為では感じられない熱さ。

「俺の心は君の美しさで燃え尽きてしまいそうだ」

「はい?」

 陽翔が素に戻った。それでも諭はまだ夢の世界の住人である。

「燃え尽きそうなくらい愛してる」

「あはは、なにそれ。諭ってたまに変な事言うよね。外ではあんまり言わない方が良いと思う」

「陽翔は俺をこうさせるんだよ。あんまり愛らしさを振り撒かないでくれ」

「ははは。変なの。僕は普通にしてるだけなのに。でも……」

 陽翔は起き上がると、諭のペニスを優しく握った。それだけで諭の身体はビクリと震える。

「……そこまで愛されるの嫌じゃないよ」

 陽翔は目を閉じて諭の唇にキスをした。頭上から噴火でもしそうな程ボルテージの上がった諭は、再び陽翔を押し倒した。
 まだ脱がしている途中のズボンと下着を全て脱がせてしまい、両脚を大きく開かせる。

 興奮し過ぎている諭の目には何も見えていない。ただ熱く滾った自身のペニスを、陽翔の赤く熟れた果実のようなアナルに擦り付けた。

「待って、まだ準備出来てない……」

 陽翔の声で一瞬我に返り、既にベッドボードに用意されていたローションを取り、冷たいジェル状の液体を指に濡らし、陽翔のアナルに塗りつけた。

「ひぁ……」

 陽翔の感じている声に我慢が出来ない。アナルに人差し指を入れて前後に動かしたり、中で回転させたりする。その度に陽翔は、

「あっ、んっ……やぁ、そこ、もっと奥……」

 と、ねだり始める。中指も入れ、少し解れると薬指も入れて同じように動かした。
 その度に漏れる陽翔の喘ぎ声に、諭のペニスは爆発寸前だ。
 だが、陽翔の中に入らない内に、精を出すわけにはいかない。
 必死に我慢をし、ようやく先端をアナルに押し付け、ゆっくりと挿入していった。

「あぁっ! これ、これがいいの。諭の、好き」

「陽翔の中……あったかくて、癒される。好き。好き」

「僕も諭が好き」

「好きだ」

 お互い両手を握り合い、愛の言葉をぶつけ合った。幸せだと感じる瞬間。諭は中に精を吐き出した。

「ご、ごめん……俺、こんな早く……」

 早過ぎる発射に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にして泣きそうになっている諭の頭を、陽翔はよしよしと撫でた。

「もーいっかいしよ?」

「は……陽翔ぉぉっ!!」

 諭はすぐに臨戦状態になったのだった。
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