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四章
八話
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村に着くと食料品を調達して、宿で休んだりしながら次の村へと向かう。
首都から離れれば離れる程、村の規模は小さくなっていき、次第に宿屋すらない村も出てきた。
そういう時は野宿するしかなく、全員で野営をするのだが、フリードが何かしようとする度にアグリルが、
「ふ、フリード。
そういうのは俺がやるから……」
と、止めるので、フリードはアグリルを離れた場所へと連れて行った。
「アグリル、今は俺を平民だと思ってくれ」
「そういう訳にはいきません!
俺は、あなたの騎士なんですよ」
「少人数なんだから、個々の力を尽くすべきだろうが」
フリードがそう説得するも、アグリルには伝わらないのか、
「やっぱりトートの存在が邪魔なんじゃないですか?」
と言い出す始末だ。
フリードはハァと溜息をつく。
「あのさ、俺はそもそも卑しい生まれだし」
「でも、皇帝陛下に選ばれた方です」
「今は、一応任務中って事になってる。
陛下も、任務中は俺の身分は忘れていいって言ってくれた」
「任務中なら、俺は同行しないと思うんですけどね」
ああ言えばこう言うアグリルに、フリードは再び深い溜息をつく。
「なら、こう言えばいいか?
アグリルに命令する、ヘイリアに帰るまで俺を皇族扱いしない事。
あんまりこういう命令すんの好きじゃない。
これ以上、嫌な事させんな」
「分かりました。すみません……」
アグリルはショボンと肩を落としており、頭には犬の耳が垂れ下がっているように見えたフリード。
フッと少し笑みを零したものの、既にアグリルに背を向けており、表情を戻すと、さっさとジールやトートの元へと戻ったのだった。
そして、フリード達はその後、険しい山道を超えて、山の中で七日を過ごし、ようやく目的地であるスティラ村へと辿り着いたのだった。
村の中は静かなもので、入口から覗いて見ても家がポツポツ見えるだけで、人は誰も見えない。
家は木と藁でできた、時代に遅れた造りとなっており、その数も10個から20個ほどの少なさだ。
「一昔前の村って感じだねぇ」
ジールはそう呟きながら、村の中へと入っていった。
時刻は日が真上に掛かっている頃で、周囲は森に囲まれているが、陽の光が眩しい。
奥へと進むと、一際大きな木造建築の家があり、そこが村長の家かとジールは扉をノックした。
その時だった。
ジャキ、と金属の音がした瞬間、アグリルが剣を抜き背後から向けられた槍を叩き斬った。
「フリード様!俺の後ろに!」
アグリルが声を上げたが、襲ってきた筈の40代程の男性は、両手を上にあげてブルブルと震え出した。
半袖半ズボンといった服装で、全体的に薄汚れている。
「すっ、すみません!すみません!
そこは、巫女様の家なんです、荒らさないで下さいとお願いをしようとしただけで、あなたがたを襲うつもりはなかったんですっ!!」
男性が今にも泣きそうになっていると、ジールが彼の前に出て、彼に尋ねた。
「イリーナ様の使いで来た。
村長はいるか?」
「はい!すぐ呼びます!」
それからしばらくして、先程の男に連れられて、いかつい男がやってきた。
50代程に見える外見で、上裸に薄汚れたズボンにブーツといった姿だ。
今まで農作業でもしていたのか、鍬を肩に担いだままで、フリード達にギロリと鋭い視線を送ってきた。
「私がこのスティラ村の村長、エドガだ。
イリーナの父親代わりみたいなもんだな。
話は聞いてる、とりあえずこの家の中に入ってくれ」
エドガがフリード達の横を通り抜け、大きな木造建築の扉に手をかけて開くと、パラパラと砂が落ちてきた。
先にジールとアグリルが入り、フリード、トートと後に続いて中に入る。
家の中は掃除がされていないのか、床は砂埃で茶色に汚れており、壁の隅には蜘蛛の巣が張っている状態だ。
全体的に埃臭くて、トートが少し咳き込んでいる。
さすがにジールは不快感を覚えたようで、エドガに抗議した。
「この建物は長年使われていませんよね?
立派な建物とは思いますが、まさかこの状態で我々を中に招くとは、どういうおつもりで?」
「不敬罪で処罰されますか?
ここでは、国が作り上げた肩書きは存在しません。
王族だろうが貴族だろうが、その村に入ったら我々村人と立場は同じです。
それでも、あなた方がイリーナの知り合いだから、特別にこの家で過ごす事を許可するのです。
ここはイリーナが母親と過ごした家であり、2人が神の御言葉を授かっていた場所でもあります。
それが不満だというのであれば、私を切り捨てるがよろしいでしょう」
そう言い切るエドガに、これ以上ジールは何も言えず、口を閉ざした。
そこでフリードが前に出て、真っ直ぐエドガに視線を向けて口を開いた。
「無礼を詫びます。
大事な場所を貸してくださり、感謝の気持ちしかありません。
しばらく、ここに置かせていただきたいのですが、村でやるべき事は私達もしますので、遠慮なく仰ってください」
するとエドガの堅かった表情が一気に緩み、フリード達を見る目が穏やかなものになる。
「イリーナの紹介で来た者だから、さぞ高貴な人達だと思っていましたが、私の思い込みだったようです。
ここは村のルールさえ守れば、いつまでいても構いません。
イリーナの大事な人に仕事はさせられませんから、ごゆっくりお過ごし下さい」
「ルール?」
フリードの言葉に、エドガは頷いた。
「ええ、まぁ法律と言っては拙いものですが、みんな仲良くする事がルールの1つです。
人を傷付けたり、殺したりしない、盗まないなど、あって当然なルールもありますが、人を害する事をしなければ問題ありません。
破った場合は、すぐに村から立ち去ってもらいます」
その場の全員がその言葉に頷くと、エドガは家から出て行こうとしたが、その時、トートが彼を引き止めた。
「あ、あの!」
「お嬢さん、何か分からない事でも?」
エドガから見ても、女装しているトートは女性にしか見えないようだ。
トートはお嬢さんと言われて、少し恥ずかしげに頬を赤くさせた。
「い、いえ……。
僕は彼らの仲間ではないのですが、実はここへは目的があって来ました」
「ふむ、してその目的とはなんだね?」
「僕は生まれてすぐに両親と引き離されてしまったのですが、もしかしたら両親がこのスティラ村にいる可能性があると思い、ここまで来ました」
トートは縋る思いなのだろう、必死さを窺わせる表情をエドガに向けていた。
「両親の顔は分かるか?」
「いえ、生まれてすぐ離れ離れになったと聞いております。
ただ、僕の身体的特徴を知っている人がいたら、その人が僕の親である筈なんです。
十八年前から現在までの間に、子供を失った親が、もしこの村に来ているのであれば、会わせていただけませんか?」
すると、エドガは上を向き、少し悩む様子を見せた後、
「もし村の中に、子供を失った親がいたら、会わせると約束しよう。
なに、村人は五十人程度しかいないから、少し待っていなさい」
と言って、家から出て行った。
埃と砂まみれの家に取り残された四人。
まずは掃除が必要だが、その前にトートが口を開く。
「あのさ……皆。
村長さんが言ってたイリーナって方、まさかヘイリア帝国に嫁がれたイリーナ皇女殿下の事じゃないよね?」
恐らく誤魔化す事も出来ただろうが、ジールはトートに頷いた。
「その、イリーナ皇女殿下の事だよ。
今はヘイリア帝国の皇后陛下だけど。
どうせ君は、親が見つからなかったとして、もうこの村の外には出ないんだろうから言うけど。
もし、村の外で口外したら……」
「しない!しないよっ!
もしかして、皆って皇族に仕えているとか?
僕、やっぱり敬語使った方がいいかなぁ?」
トートは困惑した様子で、視線をあちこちに動かしている。
すると、フリードがトートの手を掴んだ。
「落ち着いて。俺達は友達だろ?
今はお互い敵対している国の人間だとしても、俺はトートとの関係を変えたくない。
トートは違う?」
トートはフリードの目を真っ直ぐ見つめて頷く。
「ううん、僕にとってフリードは初めてできた友達だ。
君がどんな人だって、僕は友達でい続けるよ」
その答えを聞いて、フリードがホッと胸を撫で下ろした時だった。
「へぇー、じゃあフリードが皇帝の愛人だとしても?」
と、ジールが無表情のままそう言い放ったのだ。
トートは目を丸くして、
「えっ!?
あの、ヘイリア皇帝を狂わせて、離宮で寵愛されているっていう噂の!?」
そう大声を出した瞬間、シャッ!という音と共に、瞬時にトートの首に剣の切っ先が向けられた。
首都から離れれば離れる程、村の規模は小さくなっていき、次第に宿屋すらない村も出てきた。
そういう時は野宿するしかなく、全員で野営をするのだが、フリードが何かしようとする度にアグリルが、
「ふ、フリード。
そういうのは俺がやるから……」
と、止めるので、フリードはアグリルを離れた場所へと連れて行った。
「アグリル、今は俺を平民だと思ってくれ」
「そういう訳にはいきません!
俺は、あなたの騎士なんですよ」
「少人数なんだから、個々の力を尽くすべきだろうが」
フリードがそう説得するも、アグリルには伝わらないのか、
「やっぱりトートの存在が邪魔なんじゃないですか?」
と言い出す始末だ。
フリードはハァと溜息をつく。
「あのさ、俺はそもそも卑しい生まれだし」
「でも、皇帝陛下に選ばれた方です」
「今は、一応任務中って事になってる。
陛下も、任務中は俺の身分は忘れていいって言ってくれた」
「任務中なら、俺は同行しないと思うんですけどね」
ああ言えばこう言うアグリルに、フリードは再び深い溜息をつく。
「なら、こう言えばいいか?
アグリルに命令する、ヘイリアに帰るまで俺を皇族扱いしない事。
あんまりこういう命令すんの好きじゃない。
これ以上、嫌な事させんな」
「分かりました。すみません……」
アグリルはショボンと肩を落としており、頭には犬の耳が垂れ下がっているように見えたフリード。
フッと少し笑みを零したものの、既にアグリルに背を向けており、表情を戻すと、さっさとジールやトートの元へと戻ったのだった。
そして、フリード達はその後、険しい山道を超えて、山の中で七日を過ごし、ようやく目的地であるスティラ村へと辿り着いたのだった。
村の中は静かなもので、入口から覗いて見ても家がポツポツ見えるだけで、人は誰も見えない。
家は木と藁でできた、時代に遅れた造りとなっており、その数も10個から20個ほどの少なさだ。
「一昔前の村って感じだねぇ」
ジールはそう呟きながら、村の中へと入っていった。
時刻は日が真上に掛かっている頃で、周囲は森に囲まれているが、陽の光が眩しい。
奥へと進むと、一際大きな木造建築の家があり、そこが村長の家かとジールは扉をノックした。
その時だった。
ジャキ、と金属の音がした瞬間、アグリルが剣を抜き背後から向けられた槍を叩き斬った。
「フリード様!俺の後ろに!」
アグリルが声を上げたが、襲ってきた筈の40代程の男性は、両手を上にあげてブルブルと震え出した。
半袖半ズボンといった服装で、全体的に薄汚れている。
「すっ、すみません!すみません!
そこは、巫女様の家なんです、荒らさないで下さいとお願いをしようとしただけで、あなたがたを襲うつもりはなかったんですっ!!」
男性が今にも泣きそうになっていると、ジールが彼の前に出て、彼に尋ねた。
「イリーナ様の使いで来た。
村長はいるか?」
「はい!すぐ呼びます!」
それからしばらくして、先程の男に連れられて、いかつい男がやってきた。
50代程に見える外見で、上裸に薄汚れたズボンにブーツといった姿だ。
今まで農作業でもしていたのか、鍬を肩に担いだままで、フリード達にギロリと鋭い視線を送ってきた。
「私がこのスティラ村の村長、エドガだ。
イリーナの父親代わりみたいなもんだな。
話は聞いてる、とりあえずこの家の中に入ってくれ」
エドガがフリード達の横を通り抜け、大きな木造建築の扉に手をかけて開くと、パラパラと砂が落ちてきた。
先にジールとアグリルが入り、フリード、トートと後に続いて中に入る。
家の中は掃除がされていないのか、床は砂埃で茶色に汚れており、壁の隅には蜘蛛の巣が張っている状態だ。
全体的に埃臭くて、トートが少し咳き込んでいる。
さすがにジールは不快感を覚えたようで、エドガに抗議した。
「この建物は長年使われていませんよね?
立派な建物とは思いますが、まさかこの状態で我々を中に招くとは、どういうおつもりで?」
「不敬罪で処罰されますか?
ここでは、国が作り上げた肩書きは存在しません。
王族だろうが貴族だろうが、その村に入ったら我々村人と立場は同じです。
それでも、あなた方がイリーナの知り合いだから、特別にこの家で過ごす事を許可するのです。
ここはイリーナが母親と過ごした家であり、2人が神の御言葉を授かっていた場所でもあります。
それが不満だというのであれば、私を切り捨てるがよろしいでしょう」
そう言い切るエドガに、これ以上ジールは何も言えず、口を閉ざした。
そこでフリードが前に出て、真っ直ぐエドガに視線を向けて口を開いた。
「無礼を詫びます。
大事な場所を貸してくださり、感謝の気持ちしかありません。
しばらく、ここに置かせていただきたいのですが、村でやるべき事は私達もしますので、遠慮なく仰ってください」
するとエドガの堅かった表情が一気に緩み、フリード達を見る目が穏やかなものになる。
「イリーナの紹介で来た者だから、さぞ高貴な人達だと思っていましたが、私の思い込みだったようです。
ここは村のルールさえ守れば、いつまでいても構いません。
イリーナの大事な人に仕事はさせられませんから、ごゆっくりお過ごし下さい」
「ルール?」
フリードの言葉に、エドガは頷いた。
「ええ、まぁ法律と言っては拙いものですが、みんな仲良くする事がルールの1つです。
人を傷付けたり、殺したりしない、盗まないなど、あって当然なルールもありますが、人を害する事をしなければ問題ありません。
破った場合は、すぐに村から立ち去ってもらいます」
その場の全員がその言葉に頷くと、エドガは家から出て行こうとしたが、その時、トートが彼を引き止めた。
「あ、あの!」
「お嬢さん、何か分からない事でも?」
エドガから見ても、女装しているトートは女性にしか見えないようだ。
トートはお嬢さんと言われて、少し恥ずかしげに頬を赤くさせた。
「い、いえ……。
僕は彼らの仲間ではないのですが、実はここへは目的があって来ました」
「ふむ、してその目的とはなんだね?」
「僕は生まれてすぐに両親と引き離されてしまったのですが、もしかしたら両親がこのスティラ村にいる可能性があると思い、ここまで来ました」
トートは縋る思いなのだろう、必死さを窺わせる表情をエドガに向けていた。
「両親の顔は分かるか?」
「いえ、生まれてすぐ離れ離れになったと聞いております。
ただ、僕の身体的特徴を知っている人がいたら、その人が僕の親である筈なんです。
十八年前から現在までの間に、子供を失った親が、もしこの村に来ているのであれば、会わせていただけませんか?」
すると、エドガは上を向き、少し悩む様子を見せた後、
「もし村の中に、子供を失った親がいたら、会わせると約束しよう。
なに、村人は五十人程度しかいないから、少し待っていなさい」
と言って、家から出て行った。
埃と砂まみれの家に取り残された四人。
まずは掃除が必要だが、その前にトートが口を開く。
「あのさ……皆。
村長さんが言ってたイリーナって方、まさかヘイリア帝国に嫁がれたイリーナ皇女殿下の事じゃないよね?」
恐らく誤魔化す事も出来ただろうが、ジールはトートに頷いた。
「その、イリーナ皇女殿下の事だよ。
今はヘイリア帝国の皇后陛下だけど。
どうせ君は、親が見つからなかったとして、もうこの村の外には出ないんだろうから言うけど。
もし、村の外で口外したら……」
「しない!しないよっ!
もしかして、皆って皇族に仕えているとか?
僕、やっぱり敬語使った方がいいかなぁ?」
トートは困惑した様子で、視線をあちこちに動かしている。
すると、フリードがトートの手を掴んだ。
「落ち着いて。俺達は友達だろ?
今はお互い敵対している国の人間だとしても、俺はトートとの関係を変えたくない。
トートは違う?」
トートはフリードの目を真っ直ぐ見つめて頷く。
「ううん、僕にとってフリードは初めてできた友達だ。
君がどんな人だって、僕は友達でい続けるよ」
その答えを聞いて、フリードがホッと胸を撫で下ろした時だった。
「へぇー、じゃあフリードが皇帝の愛人だとしても?」
と、ジールが無表情のままそう言い放ったのだ。
トートは目を丸くして、
「えっ!?
あの、ヘイリア皇帝を狂わせて、離宮で寵愛されているっていう噂の!?」
そう大声を出した瞬間、シャッ!という音と共に、瞬時にトートの首に剣の切っ先が向けられた。
応援ありがとうございます!
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皇帝の肉便器に続き、こちらも読ませて頂いております!
続き楽しみにしております!
皇帝とのいちゃらぶも楽しみにしております!
ありがとうございます!
二章はたまにですがイチャラブしてますので楽しみにしていてください。