離宮の愛人

眠りん

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三章

二十話

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「イリーナ!」

 バルコニーに行くと、イリーナは靴を脱いで景色を眺めていた。

「あら、フリード。どうしましたの?」

「どうしたはこっちのセリフです。すみません、俺が変な顔してたんですよね?
 だから靴擦れなんてしていないのに、気遣って……」

「私の演技力もまだまだですわねぇ」

「演技なんてしなくていいです。イリーナには、私に気遣って欲しくありません。
 皇后陛下として、堂々として下さい」

「……それは難しい事ですわ」

 イリーナはフリードに顔を向けて、困ったように笑うと、また景色を見つめた。

「わたくし……」

 イリーナが何かを言いかけて止めた。フリードが「なんでしょう?」と聞き返すと、イリーナはニコッと笑い、

「私ってさ、実は父が外で作った子供なんだよね。母が亡くなって、三年前に城に引き取られたんだけど、そこに私の居場所なんてなかった。
 私は常に誰かの機嫌を取らなければならなくて……」

 急な言葉遣いに、フリードは少し驚いた。イリーナも元は平民の育ちだとすれば、皇族としての喋り方は堅苦しいだけだろう。
 イリーナは続きを言わず、俯いてしまった。

「そうしなければ、そこで生きていけなかったんだな?」

 フリードはイリーナに倣い、普段の話し方に変えた。その事にイリーナは少し喜んでくれたようだ。
 フリードに微笑みを向けた。

「そうなの。機嫌を取らなければ暴力を受けるし。恥ずかしい話、私の身体は、本当は陛下に見せられないくらい傷だらけなんだ。
 ルーベリア皇帝は、ヘイリア帝国を下に見ている節があってさ、私のような傷モノをここに送ったんだって。最悪でしょ?」

 それが事実だとしたら国際問題だ。当然ウェルディスは怒るべきであり、戦争が起こってもおかしくない事態でもある。
 それを放置していては、ヘイリア帝国の名に傷が付く。
 だが、ウェルディスがルーベリア帝国に怒りを示さなかったのは、イリーナを守る選択をしたからだろう。

「陛下は私にとても優しくしてくれた。傷だらけの身体を見て、辛い思いをしたんだねと慰めてくれてさ。
 私が隠そうとすると、フリードの方がもっと傷が多いから気にしなくていいって。そこかよって思ったね。
 その時はさ、陛下を愛する未来なんか想像出来なかったなぁ。
 フリードの事知って、正直陛下に引いたし」

 フリードは苦笑いをした。そんなイリーナの実情を知らず、フリードはただ逃げていただけだった。
 少し恥ずかしさを覚えた。

「俺の事は引かなかったの?」

「うん。フリードは被害者だと思ってた。陛下に無理矢理愛人にさせられた可哀想な男の子。
 陛下は男の子相手に欲情する変態かな?って」

「それ誰かに聞かれたら……」

「あはは。それもそうだね。こんな喋り方聞かれた時点で、皇后に相応しくないって言われそうだけど」

「それでもこの国の皇后はイリーナだけだよ」

「ありがと。全部私の勘違いだったね。フリードは陛下の事大好きで、私には最初から陛下に付け入る隙はなかったわけだ」

「イリーナ…?」

 イリーナは空を見上げた。何を考えているかは、分からない。目を瞑り、風を受けた後に、大きな瞳をフリードに向けた。

「フリード。本当にごめんね。こんな事になるとは思ってもみなかったんだけどさ。
 少しだけ、陛下への思いを内に秘める事を許して欲しい。
 絶対に陛下には打ち明けないと約束する。フリードが望むなら、どんな罰だって受けるよ。
 心の奥で陛下を思う事を許して欲しい」

 イリーナの切実な願いだった。押さえつける事が誰に出来ようか。
 フリードは覚悟した。これからもイリーナに対して不快な気持ちになるだろう。
 それを全て受け入れると、今の瞬間に決断した。

「それはイリーナの大事な心だろ。陛下に打ち明けるもイリーナの自由だ
 もちろん、俺は嫉妬するだろうな。嫌な気持ちになる。イリーナを恨むかも。
 でも、だからなんだっていうんだ。大事なのは、自分の気持ちだろ。
 イリーナが人を好きになる事に、俺の気持ちなんか関係ないんだ。
 陛下は心が広い。イリーナが思いを打ち明けたら絶対に真摯に受け止める筈。
 ここはルーベリアじゃないんだ、もう誰かの感情を気にして自分を抑えるな」

 フリードがそう言うと、イリーナは目に涙を溜めていた。

「そう言ってもらえるのは、故郷にいた頃以来だよ。国の道具として嫁がされて、陛下には優しくされても思いを隠さなきゃで、ずっと辛かった……。
 それでフリードを苦しめたとしても、許してくれる?」

「もしかしたらドロドロの喧嘩とかするかもな?
 でも、その方が気が楽ってもんだよ。俺もイリーナに嫉妬して悩むのは今日でやめだ。
 イリーナとは仲良くしたいからな」

「私も!」

 それから、しばらく二人で景色を眺めて談笑した。
 そこにウェルディスがやってきて「二人とも仲良くなったみたいだね」と、喜んだ様子だったので、フリードとイリーナは二人して頷いたのだった。


 その日の夜。ウェルディスが久々に離宮にやってきた。

「ウェル、いらっしゃい」

「フリードぉっ! 会いたかったよ!」

 ウェルディスは両手を上げてフリードに駆け寄り、抱きついてきた。
 そして有無を言わさずにフリードを部屋に連れ込んだ。

「あぁ、ずっとフリードに触れたかった。この肌に触れられない事は不幸でしかないよ。愛しのフリード~」

 スリスリと頬ずりをして、ベッドに押し倒してくるウェルディスに身の危険を感じたフリードは、一度落ち着かせようと頑張ってみた。

「待てって。また鼻血出したら大変だろ? 落ち着けよ。俺、ゆっくりやりたい。久々なんだから優しくしろよ」

 そこまで言ってようやくウェルディスは大人しくなった。だが、次におかしな事を言い始めた。

「ごめん。本当は、フリードは嫌なんだろう? 僕みたいな汚らわしい奴と、愛し合えないと思っているんじゃないか?」

「何言ってんだよ? いきなりどうした?
 ウェルが求めてくれる限り、俺はウェルに全てを捧げるって何度でも言うよ」

「ううぅ。フリードぉぉ」

 ウェルディスはフリードに抱きついたまま動かない。さすがに何かあったのだろうかと心配になる。

「何があったんだよ? 話してくれないか? ウェルが辛いと俺も辛いよ」

「この話をして、フリードを傷付けたくない」

「いいよ、傷付けても」

「そう言ってくれるのは有難い事だよ。
 でも、皇后の事なんだし、聞きたくないだろ?
 僕はフリードを悲しませたくないんだ。僕の気持ちも分かって欲しい」

 夜の義務の話だと分かった。フリードは首を横に振った。

「俺の前でもイリーナって呼んでいいよ。彼女、凄く良い人だよな。謙虚で、人の事ばっかで、それでいて自分に素直なところもちゃんとあってさ。
 どんな話をしてもいいよ。俺が嫌な気持ちになったっていいんだ。
 それよりも、ウェルの事を知れない方が辛いから」

 フリードが微笑むと、ウェルディスはフリードを抱き締めた。それだけでフリードの顔は緩む。
 世界で一番、この腕の中が安心出来る場所だ。

「ありがとう。イリーナは僕にもったいないくらいの人だ。けど……僕には国を守る義務がある。
 イリーナとの間に子供をもうける義務が。イリーナは男子が産まれたら、もう義務はしなくていいと言ってくれているんだが……」

「最近、離宮に来れなかったのは、イリーナと寝てたからなんだな?」

「うっ。そうなんだけど、僕のここが勃たないんだ。どうにか、薬の力を借りて最後まで出来たけど……。
 僕、きっとイリーナを傷付けてる。勃たない事もそうだけど、行為をしながらフリードの事を考えてるってイリーナには伝わってると思う」

 だとしたら、イリーナは傷付いているだろう。ウェルディスを愛してしまったのに、いざ身体を重ねるとウェルディスはフリードの事を考えている。
 人の感情に敏感なイリーナなら、すぐに気付いたであろう。そして、イリーナ自身傷付いている事が想像出来た。

「そうだな。イリーナは人の気持ちがすぐに分かる人だし。
 俺の事は抜きにして、その時は相手を思いやれよな。じゃないとイリーナに失礼だろ」

「フリードはイリーナの味方もしてくれるんだな」

「全面的にウェルの味方だよ。だからこそ、イリーナはウェルが大事にすべき人だ。
 皇后陛下なんだから。その相手を大事に出来ないっていう事は、国を大事に出来てないって事だろ。
 それが俺のせいだっていうなら、俺はここから出ていく」

 フリードがそう言うと、ウェルディスはフリードの肩を掴み、必死の目で見つめてきた。

「それはダメだよ!
 確かにフリードの言う通りだ。自分の感情ばかり優先すると、国の為にならない。
 イリーナとの事、真剣に向き合うよ」

 その言葉にフリードは大きく頷き、ウェルディスの頬にキスをした。

「ウェル、来て。ずっと寂しかった」

 服を脱いでみせると、ウェルディスに抱き締められ、二人でベッドに横になる。
 既にウェルディスの肉棒は固くなっていて、フリードは手で優しく擦ってから、口に含んだ。

「フリード、それ、気持ち良い」

 熱い肉棒の全体を舐め、口に含んで舌や頬肉で擦った。その度にウェルディスはビクビクと身体を震わせて感じていた。

「いつもは俺が感じさせれてばかりだけど、俺だってウェルを気持ち良く出来るんだからな」

「フリード、そろそろ君の中に入りたいよ」

「もうちょっと待って」

 フリードは喉の奥にまで肉棒を押し込んだ。嘔吐きそうになりながらだが、少し慣れると問題なく喉での愛撫が出来る。

(ウェルに気持ち良くなって欲しい)

 一生懸命舐めたり、喉でしごいたりしていると、

「待って、フリード、イキそう」

 肉棒から発射された精液が、フリードの喉に注がれた。フリードはそのまま飲み込んだ。

「フリード、吐き出して。飲んじゃダメだよ?」

「なんで? ウェルの飲めて嬉しいよ?」

「じゃあ僕も」

 ウェルディスがガバッと起き始めたので、フリードは制止して、キスをした。
 それだけでウェルディスは大人しくなる。

「それより、早くしよ?」

 次はフリードが横になり、ウェルディスがフリードの身体を味わうように舐めていく。

「ウェル、愛してる」

「僕も……」

 指を絡めるように繋ぎ合い、抱き合った。フリードはいつものように、ウェルディスの乳首を舐めたくなったが、今日はいつものように甘えず、ウェルディスを甘やかしたいと思ったのだった。
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