離宮の愛人

眠りん

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二章

十三話

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「フリードが嫌ならば頷く必要はない!」

 普段は優しい声で話すウェルディスが、初めて厳しい声を上げた。見ると、彼はザハード国王を睨んでいる。

「ほう。フリードというのか。余はただ二人きりで話がしたいだけだ。
 ヘイリア皇帝はそれすら許してくれぬと申すか」

 国王は楽しそうに笑った。まるで子供を相手にしているようだ。
 ウェルディスは平然としようとしているが、苛立ちが表に出てしまっている。
 フリードは二人の攻防を無視して少し考える。

(ザハード国王と話して情報を得るのもいいな。女性のように色仕掛けの訓練はした事はないが、俺をそういう目で見ているのならこの身体を使うのも手だ)

「フリードはどうだ? 少しだけ二人で話がしたいだけだ。一緒に来てはくれぬか?」

「良いですよ。私でよければ、陛下のお相手になりましょう」

「フリード!」

「大丈夫です。少し話すだけです」

 ニッコリとウェルディスに笑顔を見せた。その顔を見た瞬間、ウェルディスの眉間の皺は深くなる。
 サマエルのアジトでボスやアンナに言われた、作り笑顔が下手という言葉を思い出した。

(俺の笑顔ってそんなに下手なのか)

「では話はこれまでにする。皇帝一行を別室へ案内せよ。フリード、こちらへ来い」

 ザハード国王が立ち上がった。早く来いと急かしていると分かる。ウェルディスが制止するが、フリードも立ち上がって国王の後に続く。

「お待ちを! ザハード国王! フリード!」

「陛下。ご心配なさらずお待ちください」

「フリード様! 私が護衛に……」

 と、フリードの後ろに控えていたアグリルが前に出た。護衛として一緒に行くと名乗り出たが、それもフリードが拒否をする。

「いいえ。アグリル卿も待っていて下さい。
 国王陛下が私に害をなす筈がありませんから」

 フリードは再度、ウェルディスを安心させるように笑顔を作った。上手くいってはいないが、ウェルディスはそれ以上止めなかった。

 護衛騎士二人を引き連れた国王の後に付いていく。奥に行けば行くほど人の影は殆どいなくなる。
 そして、城の中で今までに見ない豪華な扉の前までやってきた。

「ここから先は余の寝室だ。分かっていて付いてきただろう?」

「はい」

「ふっ、ヘイリア皇帝にもそうやってたらしこんだか?」

「いえ。私は男です。色仕掛けの訓練は一切受けておりません」

「だとしたら才能か? 余にもその身体、味わわせてもらおうか」

「ええ」

 寝室の扉が開かれ、中に入る。護衛は扉の前で止まった。二人きりになる。

「さて、余がヘイリア皇帝の味方になるかどうかはお前にかかっているぞ?
 余をその気にさせてみろ」

 フリードはジャケットを脱ぎ、スカーフを外した。シャツを脱ぐと白い肌が露わになる。
 男を誘惑するには不向きな傷が多い身体だ。

「性技の訓練を受けていないのは本当のようだな。脱ぎ方が男そのものだ」

「申し訳ありません」

「いや、気にするな。寧ろ喜ばしい事だ。初々しい方が良いからな」

「はい」

「お前も随分と修羅場をくぐり抜けてきたようだな。
 なんでも一年間も拷問を耐えきったと聞く。噂とは面白いものだ。拷問で一言も声を発しなかった等という有り得ない話が出回るのだから」

「事実か試してみますか?」

 フリードは腰に隠していた暗器を取り出した。持ち手も刀身も細く短い短剣だ。

「どうする気だ?」

「こうします」

 その短剣を自身の腕に突き刺そうとした──その瞬間、国王が短剣を持ったフリードの腕を掴んだ。
 手から短剣が滑り落ちる。音も立てずに絨毯の上て軽く一回だけバウンドした。

「分かった、信じよう。そこまでする必要はない。
 痛みを感じない身体ということか?」

「痛みは感じます。クレイル公国のスパイは訓練で痛みの耐性を得ます。
 この身体は駒であるというのが共通認識ですから、痛みで情報を吐くなどあってはならない事です」

「それは脅威だな。余の国にもスパイはいるが、金で動く奴しかおらん。
 金さえ出せば何でもするが、命の危機があれば逃げるのが普通よ」

「それが人間として当然の判断です。クレイル公国のスパイは人間扱いはされません。
 大公陛下と神の教えに反する事のない生物兵器ですから。ですが俺は──」

「お前はその呪縛から逃れたか?」

「はい」

「そうだ。余のものにならないか?
 余であればヘイリアよりも良い待遇でお前を迎えられる。余に忠誠を誓い、余の為に働くのはどうだ? 命を懸けろとも言わん」

「…申し訳…ありません」

「はは。無理にとは言わん。残念だがな。それより、こちらへ来なさい」

 国王に促され、ベッドに誘われる。ズボンも下着も脱ぎ、傷だらけの裸体を見せた。

「そのような身体でも美しさは変わらない。いや、寧ろその傷がお前をより美しく引き立たせる」

 国王も上半身の服を脱ぎ、裸体を見せる。剣で受けた傷ばかりの筋骨隆々の逞しい身体。

(確かにウェルよりも頼りがいありそうだな)

 そんな逞しい腕に抱き締められる。不快感はないが、ウェルディスの身体と比べてしまう。

(けど、ウェルの手の方が優しい。ウェルの方が甘えたくなるし、胸がドキドキして痛くなる。
 身体も、ウェルの方が……)

 彼がその気になればフリードの身体などあっという間に潰されてしまいそうだ。

「──む?」

 ベッドに寝かされようという時、国王はフリードの身体を離した。

「国王陛下?」

「いや、お前を抱くのは止めておこう」

「何故ですか?」

「一瞬、背筋に寒気が……。お前を抱くと悪い事が起きる。そんな予感がした。
 余はそういう直感が当たるのだ。
 今まで戦争に勝ち続けてこれたのもその直感のお陰なのだ。無視は出来ん」

 フリードは首を傾げる。このまま放置されたままでいても仕方がないので服を着直した。
 国王はそのままベッドにドカッと座ったまま、腕を組んで悩んでいる様子だ。
 色仕掛けが出来ないのならこれ以上ここにいる必要はない。

 部屋を出ていく前に一つだけ確認する。

「今後のヘイリアとザハードの関係ですが……」

「ああ。公爵の事が片付けば元通りだ。
 そして、もし彼がマルレーテを死に追いやったとしたら余が直接殺してやりたいところだが、立場上難しい。
 誰かが成敗してくれたら良いがの」

「そうですね。こちらも捜査に力を入れております。しばらくすれば結果は出るかと」

「うむ。期待しているぞ」

 その後、国王はウェルディスと二人での会合を開き、正式にザハード王国での話し合いがまとまった。
 帰りの際ウェルディスはザハード国王と握手を交わしていた様子から、両国の関係は持ち直したようだ。
 そしてまた三日かけて帰国した。


 六日ぶりに皇城に帰り、ウェルディスは執務室で久々のフリードの身体を堪能していた。急いで繋がろうとしたからか、上の服は着たままだ。
 今回は机の上ではなく、ソファーの上で交じわう。

「あっ、だから……ここでするのはぁ」

「今日くらい良いだろう。近くにいながら触れる事も出来ず、僕がどれほど我慢したか。
 フリードは僕に触れられなくて辛くなかったのか?」

「それは俺もだけど。でもせめて寝室で……」

 肉棒で貫かれ、今更場所の移動など出来ない。フリードは外にいる近衛兵に喘ぎ声を聞かれたくないだけなのだが、ウェルディスには伝わらない。
 「無駄か」と内心嘆いていると、急にウェルディスの腰の動きが止まった。

「国王としたのか?」

「してない。する前に国王に断られた」

「しようとしていたのか!? フリード!」

 ウェルディスの顔がみるみる怒りを含んだものに変わる。握り合う手が、ウェルディスの指がフリードの皮膚に食い込むのではないかという程強くなる。

「そ、その方がウェルの助けになると思って」

「君はそうやって自分の身体を道具のように扱う。これからは二度とそんな真似をするな。
 はぁ。お前がザハード国王と行った後、絶対に身体を繋げるなと怨念を送っていたのだ。
 未遂で良かった……」

「俺はあなたの駒なんだ。ザハードを敵に回すより味方に引き込んだ方が良い。それがいずれはヘイリアの、ひいてはあなたの為になる。
 何度も言っているが、俺はウェルの為なら何でもする。出来る」

「なら君に命じよう。これはいつものお願い等ではない。勅命だ。
 僕以外に抱かれるな、分かったな」

「……はい」

 フリードは素直に頷いた。顔は赤く染まっており、そんな怒りをぶつけられた事が嬉しく感じてしまう。

(あんなに俺に命令したくないと言っていた癖に。いざされた命令がそんな内容なのに、どうしてこんなに嬉しいんだろう)

 ウェルディスへの気持ちがどんどん強くなっていくのを感じながら、アナルに彼の精液を受けた。嬉しくてたまらない。

「ウェル。心配かけてごめん」

「いい。君が元気で僕の傍にいてくれたらそれでいいから」

 ウェルディスは終えるとソファーに座った。フリードは向かい合うようにして膝に座り、ウェルディスの乳首をしゃぶる。

(あーこの瞬間が幸せ)

 理由は分からないが、本能的にウェルディスの乳首を求めて止まない。この瞬間を味わう為に、処刑から逃れられたのだ、と最近はそう信じている。

 その時、コンコンというノックと共に扉が開かれた。

「失礼しますよ、陛下」

「待ってくださいっ! 今入られては……」

 近衛兵の慌てる声。すぐには取り繕えない体勢でフリードは乳首をしゃぶりながら硬直した。
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