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二章
小倉君①
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昔から引っ込み思案な性格だった。
そんな俺が小学一年生の時に緑に恋をして、一生懸命アピール……は出来なかったけど、莉紅とはよく牽制しあっていた。
反対に莉紅は積極的に緑に愛を告げていて、緑も満更じゃなさそうだった。だから二人はいつか付き合うんだろうなぁって考えていた。
それが嫌だから、僕は莉紅に嫌がらせをしていたんだ。
「永瀬なんかあっち行けよ、オレと緑の邪魔!」
「そんな事ないよ。莉紅も一緒に行こう」
「うん! 緑君大好き」
莉紅はよく緑に好きだと言っていた。緑へなんの感情も口に出さない俺より、ストレートに好意を示す莉紅を好きになったのは、当然だったと思う。
だから俺はよく莉紅に意地悪な事を言ってた。でもそれで莉紅が怒った事はなかった。いつもニコニコ笑って、緑だけでなく俺にも笑顔を向けるような奴で。
よく三人で走り回っていた。
小学三年生になった時だ。莉紅と俺は、緑とだけクラスが変わってしまった。
「なんでお前と同じクラスなんだよ」
クラス替えの時、むかむかして莉紅にそう言ってしまった。嫌な気分にさせたかな、とか、さすがに怒ってくるかな、と思ったけど、莉紅は想像に反して俺に悲しそうな顔を向けていた。
「ごめんね」
あれは何に対する謝罪だったのか。それは今も分からない。
三年生になってしばらくして。悪さばかりするクラスの男子達が莉紅をイジメ始めた。
一番身体も小さかったし、大人しそうに見えていたというのもある、成績が良いから先生に贔屓もされていた。
あと、莉紅はなんかよく分からない存在感があった。悪目立ちしていたというか。
そういうのが重なったんだと思う。
俺は見て見ぬふりをした。心の中で良い気味とも思っていた。でも、ある時。
「なぁ小倉。悪いんだけど、莉紅がイジメられてるみたいなんだ、守ってやって欲しい」
緑にお願いをされた。
「じゃれ合ってるだけだろ」
「小倉! 君が莉紅を良く思っていない事は知ってるよ。でも、俺らは一年の時からの友達じゃないか。
違うクラスで悔しい。だから教室内の事は君が見てあげてくれ」
この時、俺は緑を振り向かせる事を諦めた。
緑は莉紅の方が好きなんだって分かってしまったから。
でも、緑が頼んできた事を断る事が出来なくて。結局、莉紅を俺の近くに置く事でイジメはなんとか回避させられた。
この頃の俺は変な妄想をずっとしていた。緑の言う事を聞いて、緑の好む自分になれば、緑に愛されるんじゃないかって。
俺の家は母子家庭で、よくお母さんが彼氏を家に連れてきていた。大人は苦手だった。人見知りでもあったし、お母さんを好きでない自分に罪悪感を抱いていた。
あんまり良い家庭環境ではなかった。お母さんの彼氏は、俺と二人きりになると俺をいじめるから。
莉紅が羨ましかった。緑に愛されて、俺に守られてさ。
俺は……俺は誰も守ってくれる人なんていなかったよ。
毎日ガリガリと削るように心がすり減っていくんだ。でも、緑がいたから。彼に弱いところを見せたくなくて、強がってた。
ころころと変わるお母さんの彼氏。たまに結婚したり離婚したりもしていた。
でも小学六年生の頃、お母さんが当時一番長く付き合っていた彼氏だけが俺に優しくしてくれた。
学校から帰ると頭を撫でてもらって、ご飯とか全部用意してくれる。お母さんは夜仕事に行ってるから、いつも彼と二人きりだった。
見た目は不細工だけど、笑顔が優しくて、その人といると安心出来た。
だから、その人のチンコを舐めさせられた時、疑う事なく指示に従ったんだ。
「この事は二人だけの秘密だよ」
その言葉は、俺を好きなだけ性の道具にする為だったんだと思う。でもその時は言う事を聞いて褒められたかったから、絶対に秘密にした。
その人が喜んでくれる事が嬉しかった。莉紅ばかり大事にする緑より、その人を好きになりたかった。
その頃から男性器が好きになった。舐めると優しくしてもらえる。その時だけは幸せだと思えた。
でもその人もお母さんと別れるとうちに来なくなった。俺はまた一人になった。
学校で仲良くしているのは、緑と莉紅しかいなかったんだ。
緑への恋心は失くせず、莉紅を恨む事もやめられないまま中学生になった。
さすがに中学では皆クラスが変わ……ったら良かったけど、俺はまた莉紅と同じクラスになった。
そしてまた緑とだけクラスが分かれる。緑はクラスで友達とそれなりに仲良くやってたみたい。
莉紅へのイジメは小学生の頃よりタチが悪くなった。今までは悪口を言ってきたりだとか、突き飛ばしたりだとか、その程度だったが。
中学になると、校舎裏に連れていかれて殴る蹴るの暴行をされるようになった。
莉紅を守ろうと思ったわけじゃない。莉紅を助ければ、緑が喜ぶと思ったんだ。
俺は莉紅をいじめていた奴らの主犯の奴を殴った。今まで人を殴った事なんてなかった。
そういう事をする人間というのは、お母さんの彼氏のような、子供を人だと思っていない人がする事だと思っていた。
でも、俺は緑の為という大義名分だけで彼らを殴ったんだ。
手に残る感触が気持ち悪かった。もう殴りたくない。莉紅さえイジメを受けなければ殴らずに済むと考えた俺は、俺がいじめっ子になった。
莉紅は俺のターゲットだからいじめるなって。莉紅をいじめるフリというのは嘘だ。俺は確かに莉紅をいじめていた。
大嫌いだった。憎かった。恨めしかった。
いじめるフリをして他のいじめっ子から守る、という事にして、俺が莉紅をいじめてたんだ。
そんな俺に莉紅は、
「いつもありがとね。僕の為にごめん」
なんて言ってきて。それが更にイライラさせた。
ずっと嫌いだった。でも緑が死んだ後、初めて莉紅が必要だと思った。
緑が亡くなっても、俺は家にいるより学校に行く方が気が楽だから学校に行った。つくづく俺は自分の為にしか動けない人間なのだと悟った。
莉紅は何日も学校に来なくなった。こんな事じゃ緑が悲しむと思って、俺は学校帰りに莉紅の家に寄った。
その頃は、まだ莉紅のお母さんが昼間家にいて、チャイムを鳴らしたら出迎えてもらえた。
莉紅は部屋からずっと出てこないそうだ。最愛の人を失くしたんだ。もし緑が俺と付き合っていたら、俺は莉紅のようになっていたのかな。
扉を開けると、莉紅がベッドの隅に丸まって座っていた。頭から布団を被ってなんか暑そうだなって、そんなどうでもいい事を考えていた。
「永瀬。そんなところで丸まってても仕方ないだろ。学校来いよ」
莉紅は布団から出てきて、ベッドの上で膝を崩して座った。白い顔をしていてまるで病人のようだった。
「誰かと思ったら小倉か。僕の事、大嫌いなのによく来たね?」
「大嫌いなんて言ったかよ」
「顔にそう書いてある」
「まぁ間違いじゃないけど」
知られてたんだ。俺が莉紅を嫌いな事。
「今お前の顔一番見たくない。帰って」
「嫌だ。俺だって、緑が死んで悲しいのにさ、なんでお前一人だけが悲しいって顔してんだよ。ざけんな! ざけんなよっ! お前なんかいらなかったのに!!」
「馬鹿みたい。僕さえいなければ緑が自分のものになっていたとでも?
勘違いオツ。緑がお前みたいな陰キャ好きになるわけねぇだろ」
「そんなの自分が一番よく分かってるよ」
「不快だろ? もう僕に近寄んな」
俺にはすぐ分かった。わざとそんな言い方をして俺を自由にしてくれようとしてるって。
だってさ、今までたったの一度も莉紅が俺に怒りを向けた事なんてなかったんだ。
俺はその優しさに、余計に苛立ちが募った。
「嫌だって。なぁ、俺ら付き合わないか?」
多分嫌がらせのつもりだったんだ、そんな言葉を言ってしまったのは。少し困らせてやりたかった。
「俺が緑の代わりになるからさ」
なんて、余計な一言まで付け足して。
この後、予想外の出来事が起こった。
莉紅がベッドから降りてきたと思った瞬間。
ドカッという鈍い音と共に、俺は尻もちをついて床に倒れ込んでいたんだ。
そんな俺が小学一年生の時に緑に恋をして、一生懸命アピール……は出来なかったけど、莉紅とはよく牽制しあっていた。
反対に莉紅は積極的に緑に愛を告げていて、緑も満更じゃなさそうだった。だから二人はいつか付き合うんだろうなぁって考えていた。
それが嫌だから、僕は莉紅に嫌がらせをしていたんだ。
「永瀬なんかあっち行けよ、オレと緑の邪魔!」
「そんな事ないよ。莉紅も一緒に行こう」
「うん! 緑君大好き」
莉紅はよく緑に好きだと言っていた。緑へなんの感情も口に出さない俺より、ストレートに好意を示す莉紅を好きになったのは、当然だったと思う。
だから俺はよく莉紅に意地悪な事を言ってた。でもそれで莉紅が怒った事はなかった。いつもニコニコ笑って、緑だけでなく俺にも笑顔を向けるような奴で。
よく三人で走り回っていた。
小学三年生になった時だ。莉紅と俺は、緑とだけクラスが変わってしまった。
「なんでお前と同じクラスなんだよ」
クラス替えの時、むかむかして莉紅にそう言ってしまった。嫌な気分にさせたかな、とか、さすがに怒ってくるかな、と思ったけど、莉紅は想像に反して俺に悲しそうな顔を向けていた。
「ごめんね」
あれは何に対する謝罪だったのか。それは今も分からない。
三年生になってしばらくして。悪さばかりするクラスの男子達が莉紅をイジメ始めた。
一番身体も小さかったし、大人しそうに見えていたというのもある、成績が良いから先生に贔屓もされていた。
あと、莉紅はなんかよく分からない存在感があった。悪目立ちしていたというか。
そういうのが重なったんだと思う。
俺は見て見ぬふりをした。心の中で良い気味とも思っていた。でも、ある時。
「なぁ小倉。悪いんだけど、莉紅がイジメられてるみたいなんだ、守ってやって欲しい」
緑にお願いをされた。
「じゃれ合ってるだけだろ」
「小倉! 君が莉紅を良く思っていない事は知ってるよ。でも、俺らは一年の時からの友達じゃないか。
違うクラスで悔しい。だから教室内の事は君が見てあげてくれ」
この時、俺は緑を振り向かせる事を諦めた。
緑は莉紅の方が好きなんだって分かってしまったから。
でも、緑が頼んできた事を断る事が出来なくて。結局、莉紅を俺の近くに置く事でイジメはなんとか回避させられた。
この頃の俺は変な妄想をずっとしていた。緑の言う事を聞いて、緑の好む自分になれば、緑に愛されるんじゃないかって。
俺の家は母子家庭で、よくお母さんが彼氏を家に連れてきていた。大人は苦手だった。人見知りでもあったし、お母さんを好きでない自分に罪悪感を抱いていた。
あんまり良い家庭環境ではなかった。お母さんの彼氏は、俺と二人きりになると俺をいじめるから。
莉紅が羨ましかった。緑に愛されて、俺に守られてさ。
俺は……俺は誰も守ってくれる人なんていなかったよ。
毎日ガリガリと削るように心がすり減っていくんだ。でも、緑がいたから。彼に弱いところを見せたくなくて、強がってた。
ころころと変わるお母さんの彼氏。たまに結婚したり離婚したりもしていた。
でも小学六年生の頃、お母さんが当時一番長く付き合っていた彼氏だけが俺に優しくしてくれた。
学校から帰ると頭を撫でてもらって、ご飯とか全部用意してくれる。お母さんは夜仕事に行ってるから、いつも彼と二人きりだった。
見た目は不細工だけど、笑顔が優しくて、その人といると安心出来た。
だから、その人のチンコを舐めさせられた時、疑う事なく指示に従ったんだ。
「この事は二人だけの秘密だよ」
その言葉は、俺を好きなだけ性の道具にする為だったんだと思う。でもその時は言う事を聞いて褒められたかったから、絶対に秘密にした。
その人が喜んでくれる事が嬉しかった。莉紅ばかり大事にする緑より、その人を好きになりたかった。
その頃から男性器が好きになった。舐めると優しくしてもらえる。その時だけは幸せだと思えた。
でもその人もお母さんと別れるとうちに来なくなった。俺はまた一人になった。
学校で仲良くしているのは、緑と莉紅しかいなかったんだ。
緑への恋心は失くせず、莉紅を恨む事もやめられないまま中学生になった。
さすがに中学では皆クラスが変わ……ったら良かったけど、俺はまた莉紅と同じクラスになった。
そしてまた緑とだけクラスが分かれる。緑はクラスで友達とそれなりに仲良くやってたみたい。
莉紅へのイジメは小学生の頃よりタチが悪くなった。今までは悪口を言ってきたりだとか、突き飛ばしたりだとか、その程度だったが。
中学になると、校舎裏に連れていかれて殴る蹴るの暴行をされるようになった。
莉紅を守ろうと思ったわけじゃない。莉紅を助ければ、緑が喜ぶと思ったんだ。
俺は莉紅をいじめていた奴らの主犯の奴を殴った。今まで人を殴った事なんてなかった。
そういう事をする人間というのは、お母さんの彼氏のような、子供を人だと思っていない人がする事だと思っていた。
でも、俺は緑の為という大義名分だけで彼らを殴ったんだ。
手に残る感触が気持ち悪かった。もう殴りたくない。莉紅さえイジメを受けなければ殴らずに済むと考えた俺は、俺がいじめっ子になった。
莉紅は俺のターゲットだからいじめるなって。莉紅をいじめるフリというのは嘘だ。俺は確かに莉紅をいじめていた。
大嫌いだった。憎かった。恨めしかった。
いじめるフリをして他のいじめっ子から守る、という事にして、俺が莉紅をいじめてたんだ。
そんな俺に莉紅は、
「いつもありがとね。僕の為にごめん」
なんて言ってきて。それが更にイライラさせた。
ずっと嫌いだった。でも緑が死んだ後、初めて莉紅が必要だと思った。
緑が亡くなっても、俺は家にいるより学校に行く方が気が楽だから学校に行った。つくづく俺は自分の為にしか動けない人間なのだと悟った。
莉紅は何日も学校に来なくなった。こんな事じゃ緑が悲しむと思って、俺は学校帰りに莉紅の家に寄った。
その頃は、まだ莉紅のお母さんが昼間家にいて、チャイムを鳴らしたら出迎えてもらえた。
莉紅は部屋からずっと出てこないそうだ。最愛の人を失くしたんだ。もし緑が俺と付き合っていたら、俺は莉紅のようになっていたのかな。
扉を開けると、莉紅がベッドの隅に丸まって座っていた。頭から布団を被ってなんか暑そうだなって、そんなどうでもいい事を考えていた。
「永瀬。そんなところで丸まってても仕方ないだろ。学校来いよ」
莉紅は布団から出てきて、ベッドの上で膝を崩して座った。白い顔をしていてまるで病人のようだった。
「誰かと思ったら小倉か。僕の事、大嫌いなのによく来たね?」
「大嫌いなんて言ったかよ」
「顔にそう書いてある」
「まぁ間違いじゃないけど」
知られてたんだ。俺が莉紅を嫌いな事。
「今お前の顔一番見たくない。帰って」
「嫌だ。俺だって、緑が死んで悲しいのにさ、なんでお前一人だけが悲しいって顔してんだよ。ざけんな! ざけんなよっ! お前なんかいらなかったのに!!」
「馬鹿みたい。僕さえいなければ緑が自分のものになっていたとでも?
勘違いオツ。緑がお前みたいな陰キャ好きになるわけねぇだろ」
「そんなの自分が一番よく分かってるよ」
「不快だろ? もう僕に近寄んな」
俺にはすぐ分かった。わざとそんな言い方をして俺を自由にしてくれようとしてるって。
だってさ、今までたったの一度も莉紅が俺に怒りを向けた事なんてなかったんだ。
俺はその優しさに、余計に苛立ちが募った。
「嫌だって。なぁ、俺ら付き合わないか?」
多分嫌がらせのつもりだったんだ、そんな言葉を言ってしまったのは。少し困らせてやりたかった。
「俺が緑の代わりになるからさ」
なんて、余計な一言まで付け足して。
この後、予想外の出来事が起こった。
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