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二章
佐々木君⑥
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篠田事件も一応解決して、俺は一つ自分の中でルールを作った。
莉紅の為に行動をする、という事。
ナッキーに言われなければ、俺は莉紅に盲目になっていたと思う。
莉紅がする事には疑問を持たずに全て従って、きっと人を殺したとしても莉紅が正しいと思っただろう。
それは間違いだと気付かされた。
大事なのは莉紅の幸せだ。怒りに任せてその場の感情で動いてしまえば、その時は良いだろうが絶対に幸せにはなれない。
莉紅の生活と、人生と、未来を守る事。そのルールを守れば不幸にはならない……と思う。
その為には俺自身を守る必要があるとも考えた。
ナッキーの言う通り、俺は莉紅の為なら共犯にも身代わりにもなると思っていた。
けど、そのせいで俺が莉紅から離れる事になってしまったら? そうなれば莉紅は絶対に悲しむ。
だから莉紅の中の狂気みたいなものをどうにかしないと。うーん、難しい……。
そういう感情のコントロールは大谷が得意そうだ。だから莉紅と大谷の相性が良いのも分かってる。
俺にはどうにも出来ない。
そんな悩みを抱えていた時だ。
もうすぐ体育祭もあるし、その後には文化祭もある。学校全体がソワソワした空気に包まれていて、俺も少し楽しい気分。
中学時代は友達もいなくてイベント楽しめなかったし。高校では満喫したいなぁ、なんて考えていた時。
「佐々木君、今いいかい?」
声を掛けてきたのは大谷だった。
「えっ。まぁいいけど」
本当はこれから莉紅の家に行くつもりだったんだけど。
最近はSMプレイもお休みしているから、わざと遅刻していってお仕置きプレイを受ける事がない。
早く行ってのんびりしようと思っていたのに。
「あ、ちょっと待ってて」
大谷を置いて莉紅の元へ向かった。莉紅は教室で俺の事を待ってくれていた。
「莉紅~ちょっと用事があるから先に帰っててくれる?」
「用事? って何?」
「うん、ちょっと……」
「それって僕に言えない内容なの?」
あからさまにムッとした顔になった。可愛い。
思い通りにならないとすぐ拗ねるんだから。
莉紅は隠し事と嘘をつかれるのを異様に嫌がる。前に葵唯が「莉紅の為だから騙されてくれ」って言ったらしいけど。やっぱり不満みたい。
「うん、言えないかな。俺の事信じられない?」
「そういう言い方、卑怯だ。多分さ親以外で一番信用してるのは和秋なんだよ。早く戻ってきてね」
莉紅は不満そうに口を尖らせて帰っていった。俺は途中葵唯と合流したのを見届けてから大谷の元へ戻った。
「お待たせ!」
「ごめん……永瀬君と帰るつもりだったのか」
大谷は申し訳なさそうに眉を八の字にした。
二人で誰にも話を聞かれなさそうな場所へ向かった。
「大丈夫だよ。後で莉紅の家に行くから」
「仲良いんだね」
「そりゃあね」
階段の踊り場に着いて、一段目の階段に腰をかけた。階段の上は化学室や生物室しかないので、人の出入りがない。静かで落ち着いて話が出来る。
「で、大谷君はどうしたの?」
「どうしたらいいんだろう。永瀬君に謝りたい、けどどの面下げて謝ればいいのか。
それに折角永瀬君から告白してもらったのに、返事をしていない。返事をしたら、きっと告白の件は無かった事にされるんじゃないかって怖いんだ」
「大谷君らしくないね」
「そうだよ。俺、こんな事初めてて、どうしていいか分からないんだ。
佐々木君はどう思う? 永瀬君は何か言ってるか?」
「俺は……。つか、悩んでる暇があったらさっさと謝れば? 莉紅はさ、大谷君の真っ直ぐなところに惚れたんだよ。
正直、今の君を莉紅は好きじゃないと思う」
「そ、そうなのか……?」
「うん。あと、君の事に関して莉紅は何も言ってない。あの黒板事件があった後泣いてたけど、君のせいじゃなくて篠田のせいだ。
いつもイジメのターゲットにされる事に泣いてたんだ」
「泣いてた……。そんな時に俺は永瀬君を支える事すら出来ない。やっぱり俺は告白を受ける資格はない」
「どうして。どうしてお前が勝手に資格があるかどうかを決めてんだよ。莉紅がお前に恋したんだ。
ずっと愛した人の死を抱えていたのを乗り越えようとして! よく考えてくれ、資格がどうのは別としてお前が莉紅の事どう思っているのか」
「どうしたらいいか分からないんだよ 佐々木君、君も俺を軽蔑するかい?」
その問いには答えられなかった。イエスでもありノーでもある。
「俺が大谷君をどう見ているかなんて、関係ないと思う」
冷たいだろうがそれだけ言って、大谷を残して下校した。
外はもう夕陽が沈んでいる真っ只中で、オレンジ色に染まる空を見ると眩しい。
莉紅の家に着くと、莉紅はリビングに座っていた。ずっと何もせずに俺を待っていたのか。
大谷君との会話を教えるべきか、少し悩んだ。
「ごめんね、遅くなって……」
「和秋は、僕から離れないよね?」
気のせいかもしれないけど、莉紅はなんだか縋るような目をしていた。
「当たり前だろ。莉紅に恋人が出来ても、俺は愛人のままいさせてくれるって言ってくれた」
「うん、そうだね」
「俺こそ。もし大谷でも他の人でも、恋人が出来て、俺が邪魔になったらちゃんと言って欲しい。
君の重荷にはなりたくないんだ」
少しでも莉紅を安心させたくて言った言葉だ。
「そんなの! 絶対有り得ない。僕が和秋を手放すなんて……。和秋を要らない人は要らないよ」
「そこまで言ってもらえると嬉しいなぁ。最初はどんなにお願いしても愛人にしてくれなかったのに」
意地悪のつもりじゃなかった。でも、その言葉で莉紅は少し泣きそうな顔していて、悪い事言ったなぁなんて思いながら莉紅の頭を撫でた。
それだけ大事にしてもらえている事が幸せだ。
これ以上何も望まない……って言うのは嘘だけど、そうありたい。莉紅にとって都合のいい人でいいんだ。
「ごめん。冗談のつもりだったんだけど」
「ううん。和秋が僕の中でこんなに大きい存在になるなんて思いもしなかった。
あの時監禁陵辱してくれてありがとね」
「いやっ、それは、俺が謝らないといけないやつ!」
「結果オーライでしょ。現に君はその行動をしたから僕の愛人になって、僕の支えになってくれてる。
君だけと付き合えたら、きっと良いんだろうね」
「莉紅……それは違うと思う。だって、莉紅は俺に恋してるわけじゃないよね」
「愛情はあるよ」
「でもさ、大谷君の事好きでしょ?」
そう聞いた途端、莉紅の目から光るものが落ちた。
──涙だ。ポタポタと落ちると、莉紅は袖で目を擦る。
「どうしてだろうね。大谷君なんか、篠田に俺の事話しちゃうし、嫌いになれたら楽なのに。なんで好きなんだろ」
「嫌なところも嫌いになれないのが恋とか愛なんじゃないのかな。明日、大谷君と話しておいで。
俺は何があっても莉紅の味方だから、もし駄目だったら俺と付き合うか? ……なーんて」
「うん」
え? 莉紅が頷いた事に驚く。だって、俺、付き合うか? なんて言ったんだぞ。
本気じゃないよ。大谷君と上手くいかなかったら、このまま葵唯とナッキーと俺を愛人にしたままでいいじゃないか。
物凄く嬉しいのに、悲しい……。なんでだろう。
「嘘だよ、莉紅は俺と付き合わない」
「和秋……」
「俺の事ちゃんと好きになってくれたらいいよ」
俺、ちゃんと笑えてるかな? 莉紅に辛い思いをさせたくないんだ。
胸が痛い。君を愛している証拠だ。耐えろ、例え莉紅の近くにいられなくなっても、俺は莉紅の幸せを祈るって決めたじゃないか──。
なのに、どうして……。
「和秋、ごめん」
どうして、俺は莉紅に悲しい顔をさせているんだ。
莉紅の為に行動をする、という事。
ナッキーに言われなければ、俺は莉紅に盲目になっていたと思う。
莉紅がする事には疑問を持たずに全て従って、きっと人を殺したとしても莉紅が正しいと思っただろう。
それは間違いだと気付かされた。
大事なのは莉紅の幸せだ。怒りに任せてその場の感情で動いてしまえば、その時は良いだろうが絶対に幸せにはなれない。
莉紅の生活と、人生と、未来を守る事。そのルールを守れば不幸にはならない……と思う。
その為には俺自身を守る必要があるとも考えた。
ナッキーの言う通り、俺は莉紅の為なら共犯にも身代わりにもなると思っていた。
けど、そのせいで俺が莉紅から離れる事になってしまったら? そうなれば莉紅は絶対に悲しむ。
だから莉紅の中の狂気みたいなものをどうにかしないと。うーん、難しい……。
そういう感情のコントロールは大谷が得意そうだ。だから莉紅と大谷の相性が良いのも分かってる。
俺にはどうにも出来ない。
そんな悩みを抱えていた時だ。
もうすぐ体育祭もあるし、その後には文化祭もある。学校全体がソワソワした空気に包まれていて、俺も少し楽しい気分。
中学時代は友達もいなくてイベント楽しめなかったし。高校では満喫したいなぁ、なんて考えていた時。
「佐々木君、今いいかい?」
声を掛けてきたのは大谷だった。
「えっ。まぁいいけど」
本当はこれから莉紅の家に行くつもりだったんだけど。
最近はSMプレイもお休みしているから、わざと遅刻していってお仕置きプレイを受ける事がない。
早く行ってのんびりしようと思っていたのに。
「あ、ちょっと待ってて」
大谷を置いて莉紅の元へ向かった。莉紅は教室で俺の事を待ってくれていた。
「莉紅~ちょっと用事があるから先に帰っててくれる?」
「用事? って何?」
「うん、ちょっと……」
「それって僕に言えない内容なの?」
あからさまにムッとした顔になった。可愛い。
思い通りにならないとすぐ拗ねるんだから。
莉紅は隠し事と嘘をつかれるのを異様に嫌がる。前に葵唯が「莉紅の為だから騙されてくれ」って言ったらしいけど。やっぱり不満みたい。
「うん、言えないかな。俺の事信じられない?」
「そういう言い方、卑怯だ。多分さ親以外で一番信用してるのは和秋なんだよ。早く戻ってきてね」
莉紅は不満そうに口を尖らせて帰っていった。俺は途中葵唯と合流したのを見届けてから大谷の元へ戻った。
「お待たせ!」
「ごめん……永瀬君と帰るつもりだったのか」
大谷は申し訳なさそうに眉を八の字にした。
二人で誰にも話を聞かれなさそうな場所へ向かった。
「大丈夫だよ。後で莉紅の家に行くから」
「仲良いんだね」
「そりゃあね」
階段の踊り場に着いて、一段目の階段に腰をかけた。階段の上は化学室や生物室しかないので、人の出入りがない。静かで落ち着いて話が出来る。
「で、大谷君はどうしたの?」
「どうしたらいいんだろう。永瀬君に謝りたい、けどどの面下げて謝ればいいのか。
それに折角永瀬君から告白してもらったのに、返事をしていない。返事をしたら、きっと告白の件は無かった事にされるんじゃないかって怖いんだ」
「大谷君らしくないね」
「そうだよ。俺、こんな事初めてて、どうしていいか分からないんだ。
佐々木君はどう思う? 永瀬君は何か言ってるか?」
「俺は……。つか、悩んでる暇があったらさっさと謝れば? 莉紅はさ、大谷君の真っ直ぐなところに惚れたんだよ。
正直、今の君を莉紅は好きじゃないと思う」
「そ、そうなのか……?」
「うん。あと、君の事に関して莉紅は何も言ってない。あの黒板事件があった後泣いてたけど、君のせいじゃなくて篠田のせいだ。
いつもイジメのターゲットにされる事に泣いてたんだ」
「泣いてた……。そんな時に俺は永瀬君を支える事すら出来ない。やっぱり俺は告白を受ける資格はない」
「どうして。どうしてお前が勝手に資格があるかどうかを決めてんだよ。莉紅がお前に恋したんだ。
ずっと愛した人の死を抱えていたのを乗り越えようとして! よく考えてくれ、資格がどうのは別としてお前が莉紅の事どう思っているのか」
「どうしたらいいか分からないんだよ 佐々木君、君も俺を軽蔑するかい?」
その問いには答えられなかった。イエスでもありノーでもある。
「俺が大谷君をどう見ているかなんて、関係ないと思う」
冷たいだろうがそれだけ言って、大谷を残して下校した。
外はもう夕陽が沈んでいる真っ只中で、オレンジ色に染まる空を見ると眩しい。
莉紅の家に着くと、莉紅はリビングに座っていた。ずっと何もせずに俺を待っていたのか。
大谷君との会話を教えるべきか、少し悩んだ。
「ごめんね、遅くなって……」
「和秋は、僕から離れないよね?」
気のせいかもしれないけど、莉紅はなんだか縋るような目をしていた。
「当たり前だろ。莉紅に恋人が出来ても、俺は愛人のままいさせてくれるって言ってくれた」
「うん、そうだね」
「俺こそ。もし大谷でも他の人でも、恋人が出来て、俺が邪魔になったらちゃんと言って欲しい。
君の重荷にはなりたくないんだ」
少しでも莉紅を安心させたくて言った言葉だ。
「そんなの! 絶対有り得ない。僕が和秋を手放すなんて……。和秋を要らない人は要らないよ」
「そこまで言ってもらえると嬉しいなぁ。最初はどんなにお願いしても愛人にしてくれなかったのに」
意地悪のつもりじゃなかった。でも、その言葉で莉紅は少し泣きそうな顔していて、悪い事言ったなぁなんて思いながら莉紅の頭を撫でた。
それだけ大事にしてもらえている事が幸せだ。
これ以上何も望まない……って言うのは嘘だけど、そうありたい。莉紅にとって都合のいい人でいいんだ。
「ごめん。冗談のつもりだったんだけど」
「ううん。和秋が僕の中でこんなに大きい存在になるなんて思いもしなかった。
あの時監禁陵辱してくれてありがとね」
「いやっ、それは、俺が謝らないといけないやつ!」
「結果オーライでしょ。現に君はその行動をしたから僕の愛人になって、僕の支えになってくれてる。
君だけと付き合えたら、きっと良いんだろうね」
「莉紅……それは違うと思う。だって、莉紅は俺に恋してるわけじゃないよね」
「愛情はあるよ」
「でもさ、大谷君の事好きでしょ?」
そう聞いた途端、莉紅の目から光るものが落ちた。
──涙だ。ポタポタと落ちると、莉紅は袖で目を擦る。
「どうしてだろうね。大谷君なんか、篠田に俺の事話しちゃうし、嫌いになれたら楽なのに。なんで好きなんだろ」
「嫌なところも嫌いになれないのが恋とか愛なんじゃないのかな。明日、大谷君と話しておいで。
俺は何があっても莉紅の味方だから、もし駄目だったら俺と付き合うか? ……なーんて」
「うん」
え? 莉紅が頷いた事に驚く。だって、俺、付き合うか? なんて言ったんだぞ。
本気じゃないよ。大谷君と上手くいかなかったら、このまま葵唯とナッキーと俺を愛人にしたままでいいじゃないか。
物凄く嬉しいのに、悲しい……。なんでだろう。
「嘘だよ、莉紅は俺と付き合わない」
「和秋……」
「俺の事ちゃんと好きになってくれたらいいよ」
俺、ちゃんと笑えてるかな? 莉紅に辛い思いをさせたくないんだ。
胸が痛い。君を愛している証拠だ。耐えろ、例え莉紅の近くにいられなくなっても、俺は莉紅の幸せを祈るって決めたじゃないか──。
なのに、どうして……。
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