紡ぐ、ひとすじ

伊東 丘多

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中学校の話

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 あたたかくて、寝てしまったようだ。 
 トントンと肩を叩かれているような気がして、薄目を開ける。
 目の前には、ふわふわと小さな生き物が揺れていて、それは汚いと言われているのに、光に当たると、とてもかわいらしい。
 風で、カーテンについていた埃が飛び出たのだろう。
 ふよふよと塵が舞い、光キラキラしている、この一瞬を、絵に描きたいなと、頭の中の白いキャンバスに光を乗せた。

「……ね、るぅ、起きてる? 何だか、ぼんやりしてる」
「あれ? すみくん、だ」
「こんな所で、るぅは何をしてるの?」
「えっと、かくれんぼ?」

 ……そうだ。良太はどこだ。
 今、ここに尚澄がいるという事は、僕が先に見つけられてしまったのだろうか。

「良太に負けちゃった! くやしい」
「企んでたのは良太? るぅに会わせてくれたのは嬉しいけど、こんなホコリまみれの所で隠れるなんて」

 「汚れちゃうよ」と眉をひそめながら、頭を軽く撫でられる。もう、中学生なのに子供扱いされるのが嫌で頭を振って尚澄の手をどかす。

「でさ。良太は、どこいるの?」
「自分の代わりに、友達の勉強を見てもらってる」
「じゃ、今、発見された僕の方が勝ちってことだ」

 えらくもないが、勝つのは嬉しい。
 負けた良太は何をしているのだろうかと、教室の中の様子を見るためにカーテンを手繰り寄せる。
 すると、尚澄が座っていた席の代わりに良太が、足を組んで、唸っていた。定規を使っていることから、どうやら図形の面積を計算しているらしい。
 とりあえず勝ちを報告しにいきたいと、立ち上がろうとするが、ふらついて上手に立てない。

「……大丈夫?すこし、顔色が赤い」
「大丈夫」
「良かった。もう、午後の授業が始まるよ」
「あ。そんな、時間?早く戻らないと」

 慌てて時間を見ると、あと3分ほどで先生が来てしまう。気合で立ち上がると、まだ頭がぼんやりしているようで、やっぱり少しだけ世界が揺れた。
 すると、心配性な尚澄は気になってしまったらしい。

「……るう、保健室に行く?」
「別に、体調なんて悪くないよ。少し眠かっただけ」
「そう、少し顔が熱いような気もするけど」

 気のせいだ。だって、咳も出てないし風邪じゃない。窓際にいたから、体があたたまってしまっただけ。そう、思い込む。

 それよりも、教室の中で額をさわろうとする尚澄が嫌で上を向いて睨んだ。
 自分だけ、いきなり身長が高くなったからって、大人ぶらないでほしい。

「教室帰る」
「……大丈夫なら、良いけど、」
「じゃ、勉強の邪魔してごめん。……良太! 戻らないと怒られるよ」

 数学の難題を解いて説明している良太に、声をかけながら駆け寄る。

「そんな時間か!答えを導くのに、集中した」
「おつかれ。ね、そろそろ、戻らないと」
「……本当だ。たしかに、ギリだな」

 柚流は、良太の腕を掴んで急いで教室を出る。
 
 さっきは、尚澄に冷たい態度をとってしまった。
 謝りたいけど今日は部活の日で、次に会えるのは夜だ。物理的距離が長くなった今、思ったことをすぐに伝えることも出来ない。
 
 早く、会いたい。会って謝りたい。
誰もいなくなってしまった廊下を走りながら、自分の態度を反省した。



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