紡ぐ、ひとすじ

伊東 丘多

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得意なもの

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 公園から家への帰り道。
 道すがら、何を話しているのか分からないほど、上の空で柚流は歩く。

 尚澄も、何か考え込んでいるようだ。
 完全に空が暗くなる前に家につくと、尚澄から家に寄らない? と誘われた。
 親は、妹と弟を学童から連れて帰るため、あと1時間くらい遅くなるそうだ。
 鍵をランドセルから取り出し、ガチャガチャとダブルロックの鍵を開けている。

 柚流も親の仕事が遅いため、鍵を持たされていて自由に帰る事が出来る。
 でも、連絡はしておこうと自宅の窓を確認するが、真っ暗でまだ帰っていないようだ。
 兄達も遠くの大学に行っているため、帰りが遅い。
 それなら、帰宅が遅れても良いだろうと判断する。
 それに、帰ってきて柚流が家にいなくても、真っ先に尚澄の家に確認しにくるのは分かっている。

 そう思って、一緒にリビングに入った。
 そこは、何度も小さい頃から見ていた風景だ。慣れたように、いつものソファーに浅く腰掛ける。
 少しの沈黙の後、尚澄が物思いにふけっているのが気づまりで、何か話題を振らなきゃと、柚流はランドセルの中から小さな袋を取り出した。

「これ、彼女さんから頼まれたアクセサリーなんだ。上手に出来たから何となく離れがたくて、学校に持っていっちゃった」
「お兄さんの?」
「そう」

 いそいそと、袋から取り出したレジンで作ったネックレスやらキーホルダーを見せる。
 柚流は、運動も勉強もいまいちだけど、美術だけは褒められていた。
 最近はレジンという樹脂を固めたものを良く作っている。
 尚澄は感心したようにアクセサリーを手に取る。

「すごいね。中に花とかキラキラしたの入ってる」

 そして、光にかざす。
 すると、回転させながら、反射してキレイだね、と褒めてくれた。
 柚流は、自分の作品を見てくれることが嬉しくて、さっきまで重い雰囲気だった事も忘れ、尚澄に近づいて話す。

「部活さ。どうしようかな、って思ったけど、色々やりたいことが山ほどあるんだ。部活の時間を絵を描く練習とか、他のことにあてたくて」
「そうだね。美術部もあるけど、ほぼ幽霊部員か、落書きしながらお喋りしてたし。真面目ではなかったかも」

 2人は去年の部活体験のために、中学校へ行った時のことを思い出しながら話す。

「運動部は、ちゃんとやってたよね」
「そうそう。厳しそうだった」

 スポーツはどの部活も熱心な先生がいるらしく、強いと評判が良い。
 きっと、運動神経の良い尚澄は、どの部活に入っても活躍するだろう。
 だから、言わなきゃ、後で後悔すると思って言った。

「すみくん、中学校は部活に入って。だって、もったいないよ。僕が帰宅部にするからって、合わせるのやめて」

 柚流は、めずらしく少し厳しい口調で言う。
 強く、言い過ぎた。
 でも、言いたいことが伝わることを願って、訂正せずに尚澄を見る。

「ごめん。僕は、そう思ってる。……帰るね」

 黙っている尚澄に声をかけ、アクセサリーをしまいランドセルを静かに肩がけして持つ。

 その時、タイミングよく「尚澄いるのー?」と、玄関から声が聞こえてきた。

「あら、柚流くん。こんばんは。お夕飯、こっちで食べる?」
「いいえ。親が早く帰るって言ってたんで帰ります。いつも、ありがとうございます」

 そう、早口で言うと、玄関で丁寧に靴を並べていた尚澄の弟と妹に手を振って、急いで帰る。
 バイバーイ! と後ろからかわいい声が聞こえるが、足を止めたくなくて、無視してしまった。

 冷たい態度を、不思議に思っていないだろうか。
 柚流は、駆け足で1分もかからない自宅の玄関の前に立ち、今日のことを後悔する。

 何か尚澄も自分に話があったのだろう。
それなのに、自分の話だけ伝えて帰ってきてしまった。
それに……、

「今日は、何度もすみくんに悲しそうな顔をさせちゃった」

 黒いもやもやで、心の中がいっぱいになる。

 柚流は、その夜、丸い型でレジンをいくつか作り、穴を通し、紐で連結し、割れないシャボン玉の飾りを作った。
 自分でも、上手に出来たと思う。

 さっき褒めてくれた。
だから、尚澄にあげても迷惑にならないだろう。
そう信じて、そっと壊さないように箱に入れた。


 
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