何でもない日の、謎な日常

伊東 丘多

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大エプ④ 刑事のはりこみ

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 そろそろ時間だ。

 電信柱の後ろに隠れながら、広場にある時計をチェックする。
 隠れる必要は一切ないのだが、さっき見ていた刑事ドラマの影響が出ている。
 近所の人達の目は多少気にはなるが。
 あ、あの人影はもしかして!
 半開きの口のぼんやりした顔は間違いなく桃夢先生だ。
 香苗は、腕を組みながらゆっくりと前へ歩いていく。

「待ちましたよ。桃夢先生。話を聞いて貰いましょうか」
「うわっ。あー、驚いた。……香苗さんじゃないですか。いつも、美味しいご飯ありがとうございます」

 心臓に手を当てながら慌ててペコリと頭を下げていて、思っていたより驚かせてしまった事に、心が痛む。
 だが、調査のためには仕方ない。

「ここだと、話を聞かれる可能性が……こちらへ」

 小声で広場の端まで連れていく。
 広場の中の茂みへ入り、良いアイデアがないか聞こうとした時、中央から大きな声が響く。

「桃夢ーーー!何してるの?仕事はこれから?隣の方は誰ー?」

 はっ、誰かに知られたらしい。
 声の方を向くと、優しい顔立ちをした女性がこっちへ向かってきている。

「あ、母さん。こちらは隣の店で働いている香苗さん」

 お母さま?これは刑事ごっこはやめて、ちゃんと挨拶をせねばならない。
 深々と頭を下げて挨拶する。

「こ、こんにちは」
「こんにちは!桃夢が最近、食事させてもらってる所ね。私が夕食を用意しなくても良くなったから楽ちんさせてもらってるわー。ありがとう」

 にこにこと笑う。
 実際に、夕食を作っているのは叔母さんなのだが、昼間来た時は作ってるので訂正しなくても良いだろう。

「笑い方、桃夢先生と一緒ですね」

 なんだか安心する雰囲気だ。

「そお?あ、先生と呼ぶって事はやっぱり学校関係で知り合ったの?」
「はい。生徒たちが呼んでいるから、うつってしまって」

 ほがらかにしゃべっていたら、しまった!と大きな声が横からした。

「ごめん。母さん。遅刻しそうだから行く。香苗さん、話はまた今度で良いかなぁ。すみません」と言って、走り去ってしまった。

「何か桃夢に話があったんでしょう?私が話しかけてしまったからよね。ごめんなさいね。手伝えることなら手伝うわよ。一応、顔は広いから!」

 何でも話してしまいそうな優しい声に、ついつい今回の相談事を話してしまった。
 それが、後々、大変なことになるとは思わずに。

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