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大エプ③ 賢者の集まり
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次の日。
大通りは観光客向けに開店しているが、裏通りの個人店の多くは休みである。
そのため、いつもより人出が少ない。
今日は良い天気だし、何か冷たい物が飲みたいな。
そう思いながら香苗が歩いていると、ちょうどよいタイミングで叔父さんの店が見えてきた。
誰か家に居たら何か貰おう。
スキップしながらご機嫌で向かう。
「おや。香苗ちゃん。元気だね。今日、休みなのに間違えたの?」
どこからか声が聞こえてくる。
この低くて渋い声は三軒隣りにあるクリーニング屋さんの洗ちゃん(愛称)だ。
店の横には広場があり、手作りのイスが設置され近所の人達の憩いの場となっている。
一応、叔父さんの私有地だが空いているため、公園っぽくなっているのだ。
「こんにちは。間違えてないですよー。もう」
「すまんすまん。一緒にお茶していきなよ。コーヒー奢るよ。缶だけど」
そう言って、クリーニング屋さんと仲が良い酒屋さんの酒ちゃん(愛称)が、『~寄贈』と書かれているベンチに座るよう1人分隙間を開けてくれた。
ちなみに、どこから寄贈されたかは汚れていて良く見えない。
「わぁー。ありがとうございます。喉乾いてましたー!」
人見知りしないのが長所である。
愛嬌だけで人生を何とか乗り切ってきたので、ご近所付き合いは苦ではない。
「ねぇ、香苗ちゃん。おじいちゃん、具合どう?まさか店を閉めやしないよねぇ」
「元気ですよ。まだまだ店は閉めませんよ」
「そうだよ、酒ちゃん。ほら、おばあちゃんも娘さんも孫だっているんだから」
「あぁ、あの出来た孫の丈一郎くんか。あの子が後継者じゃ、まだまだ、たためねぇなあ」
そんな話を、にこにこと聞いていたが、丈一郎はの名前を聞いて大事なことを思い出す。
そうだ、レシピ考えなきゃ。
急に立ち上がった香苗に、ビクッとおじさんたちが肩を上げる。
「ど、どうしたんだい?」
「ごめんなさい!ちょっと思い出したことがあって」
そうか、引き止めて悪かったねぇー、とすまなそうな声を聞きつつ道路へ出る。
その瞬間、後ろで子供の泣き声がしてきた。
「うわぁーん。アイス落としちゃったー」
どうやら暑さでアイスが溶けてしまったらしい。
お母さんも手がベタベタしているらしく困っている。
「大丈夫ですか?よければ、ここ水道あるので手を洗ってください。坊や、ここに座って」
乾燥時の水撒き用に設置した、外の水道を案内する。
「ありがとうございます。子供とハイキングコースに行った帰りなんです」
「そうですかー。今、緑がきれいですもんねー」
お母さんが洗った手をタオルで拭いて、子供のところへ向かう。
「でも休憩する所が無くて。棒アイスは歩きながらだと危ないし、座りたかったみたいで不機嫌なんです」
「あぁ。わかります。何かくわえたまま歩くのは危ないですよね。私も子供によく注意します」
ですよね、と共感し合いながら、バイバイをした。
可愛いなぁ。うちの子もあんな時があった。
そういや昨日の蓮からのアドバイスはなんだっけ。
怒った記憶はあるんだけどな。
まず、あきらめて逃げて召喚……。だったような。
まさに、いまの私である。
レシピを考えるのあきらめて、逃げてる真っ最中だ。
もう、いっそのこと蓮の言う通りやってみようかな。
驚くようなレシピは1度あきらめる。
そして料理から離れてみよう。
あとは召喚か。
誰か手伝ってもらえそうな人。
料理のレシピじゃなくてアイデアくらいなら、丈一郎も許してくれるだろう。
そう思いながら、広場を見る。
すると、酒ちゃんと洗ちゃんの他にも、ぞろぞろと商工会メンバーと自治会上層部が集まってきた。
この地域の権力者たちが勢揃いである。
火曜日にここへ来ることが無いので忘れていたが、晴れて天気が良い日はこの広場が集合場所になっているらしい。
今の時期は、熱中症対策らしく夕方の開催だ。
でも、他の曜日はあまり人はいないな。
「これは使えるんじゃない?」
イスとテーブルを用意したら、テイクアウトも展開できて良いかもしれない。
串などは子供に危ないものは、座ってもらうか外して食べやすいようにしたり。
軽い雨でも利用できるように屋根をつけても良いかも。
常連さん達は今までのまま、室内でのんびりもしてもらえる。
香苗は、どんどんアイデアが出てきて一人で笑う。
肝心のレシピはまだだけど。
「そうだ!召喚する人はあの人しかいない!」
お人好しそうな優しい顔が脳裏に浮かぶ。そう。篠田桃夢先生。あの人なら、良いアイデアをくれるだろう。
この店は塾から学校への途中にあるから、彼は必ず通る。
「そうと決まれば、張り込むぞ!」
おー!と拳を上げる。
1人で笑ったり悩んだり拳をあげたり奇妙な動きをしている香苗を、広場の皆は微笑ましく見ていた。
「香苗ちゃんは、いつも楽しそうだねぇ」
大通りは観光客向けに開店しているが、裏通りの個人店の多くは休みである。
そのため、いつもより人出が少ない。
今日は良い天気だし、何か冷たい物が飲みたいな。
そう思いながら香苗が歩いていると、ちょうどよいタイミングで叔父さんの店が見えてきた。
誰か家に居たら何か貰おう。
スキップしながらご機嫌で向かう。
「おや。香苗ちゃん。元気だね。今日、休みなのに間違えたの?」
どこからか声が聞こえてくる。
この低くて渋い声は三軒隣りにあるクリーニング屋さんの洗ちゃん(愛称)だ。
店の横には広場があり、手作りのイスが設置され近所の人達の憩いの場となっている。
一応、叔父さんの私有地だが空いているため、公園っぽくなっているのだ。
「こんにちは。間違えてないですよー。もう」
「すまんすまん。一緒にお茶していきなよ。コーヒー奢るよ。缶だけど」
そう言って、クリーニング屋さんと仲が良い酒屋さんの酒ちゃん(愛称)が、『~寄贈』と書かれているベンチに座るよう1人分隙間を開けてくれた。
ちなみに、どこから寄贈されたかは汚れていて良く見えない。
「わぁー。ありがとうございます。喉乾いてましたー!」
人見知りしないのが長所である。
愛嬌だけで人生を何とか乗り切ってきたので、ご近所付き合いは苦ではない。
「ねぇ、香苗ちゃん。おじいちゃん、具合どう?まさか店を閉めやしないよねぇ」
「元気ですよ。まだまだ店は閉めませんよ」
「そうだよ、酒ちゃん。ほら、おばあちゃんも娘さんも孫だっているんだから」
「あぁ、あの出来た孫の丈一郎くんか。あの子が後継者じゃ、まだまだ、たためねぇなあ」
そんな話を、にこにこと聞いていたが、丈一郎はの名前を聞いて大事なことを思い出す。
そうだ、レシピ考えなきゃ。
急に立ち上がった香苗に、ビクッとおじさんたちが肩を上げる。
「ど、どうしたんだい?」
「ごめんなさい!ちょっと思い出したことがあって」
そうか、引き止めて悪かったねぇー、とすまなそうな声を聞きつつ道路へ出る。
その瞬間、後ろで子供の泣き声がしてきた。
「うわぁーん。アイス落としちゃったー」
どうやら暑さでアイスが溶けてしまったらしい。
お母さんも手がベタベタしているらしく困っている。
「大丈夫ですか?よければ、ここ水道あるので手を洗ってください。坊や、ここに座って」
乾燥時の水撒き用に設置した、外の水道を案内する。
「ありがとうございます。子供とハイキングコースに行った帰りなんです」
「そうですかー。今、緑がきれいですもんねー」
お母さんが洗った手をタオルで拭いて、子供のところへ向かう。
「でも休憩する所が無くて。棒アイスは歩きながらだと危ないし、座りたかったみたいで不機嫌なんです」
「あぁ。わかります。何かくわえたまま歩くのは危ないですよね。私も子供によく注意します」
ですよね、と共感し合いながら、バイバイをした。
可愛いなぁ。うちの子もあんな時があった。
そういや昨日の蓮からのアドバイスはなんだっけ。
怒った記憶はあるんだけどな。
まず、あきらめて逃げて召喚……。だったような。
まさに、いまの私である。
レシピを考えるのあきらめて、逃げてる真っ最中だ。
もう、いっそのこと蓮の言う通りやってみようかな。
驚くようなレシピは1度あきらめる。
そして料理から離れてみよう。
あとは召喚か。
誰か手伝ってもらえそうな人。
料理のレシピじゃなくてアイデアくらいなら、丈一郎も許してくれるだろう。
そう思いながら、広場を見る。
すると、酒ちゃんと洗ちゃんの他にも、ぞろぞろと商工会メンバーと自治会上層部が集まってきた。
この地域の権力者たちが勢揃いである。
火曜日にここへ来ることが無いので忘れていたが、晴れて天気が良い日はこの広場が集合場所になっているらしい。
今の時期は、熱中症対策らしく夕方の開催だ。
でも、他の曜日はあまり人はいないな。
「これは使えるんじゃない?」
イスとテーブルを用意したら、テイクアウトも展開できて良いかもしれない。
串などは子供に危ないものは、座ってもらうか外して食べやすいようにしたり。
軽い雨でも利用できるように屋根をつけても良いかも。
常連さん達は今までのまま、室内でのんびりもしてもらえる。
香苗は、どんどんアイデアが出てきて一人で笑う。
肝心のレシピはまだだけど。
「そうだ!召喚する人はあの人しかいない!」
お人好しそうな優しい顔が脳裏に浮かぶ。そう。篠田桃夢先生。あの人なら、良いアイデアをくれるだろう。
この店は塾から学校への途中にあるから、彼は必ず通る。
「そうと決まれば、張り込むぞ!」
おー!と拳を上げる。
1人で笑ったり悩んだり拳をあげたり奇妙な動きをしている香苗を、広場の皆は微笑ましく見ていた。
「香苗ちゃんは、いつも楽しそうだねぇ」
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