何でもない日の、謎な日常

伊東 丘多

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大エプ② 思いつかない

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「あのー、驚くような料理じゃなきゃ、ダメなんでしょうか」

 ついつい、自分の半分くらい年下の子に敬語を使ってしまった。

「もちろんです」

 おおぅ。そうか。
 有無も言わさず、そう返答がきたか。

「微力ながら考えさせては頂きたいとは存じますが………」

 力になれるとは思えないです。と本来は後に続くのだが、丈一郎の前のめり気味の言葉にかき消されてしまった。

「ありがとうございます!良かった」
「でも、この間手伝いに来てくれた夏葉さんは?その子のほうが私より上手よ。多分」

 いや、多分ではなく、きっと上手である。

「あ、夏葉先輩は同じ道を志すライバルなので。あとでビジネス的にトラブルになると困るので、メニューのアドバイスを貰うのはやめておきます」

 はぁ。前を見据えて、視野が広い。
 最近の子供達はしっかりしているな、と思いながら何度かうなずく。

「分かった。いくつか考えてみる」
「はい!お願いします」

 さわやか笑顔でお願いをされてしまった。

 とは、言ったものの、家に帰り、家事をこなした後テーブルに突っ伏しながら後悔する。

「はあぁぁぁ。何にも思い付かない」

 そこに小学校2年生の息子が、アイスをスプーンですくいながら歩いてきた。

「スプーンはくわえて歩いちゃダメよ」
「何度もしつこいなぁ。知ってるよ」

 もう、反抗期だろうか。
 ちょうどよい。藁をもすがる思いで息子にアドバイスを求めよう。

「ねぇ、蓮。宿題が難しくてとけない時ってどうする?」
「えー。あきらめる。ちなみに今その状態でアイス食べてる」
「はい、却下。あと、宿題やれ。……他には?」
「現実逃避する。算数嫌い」
「それも、無理。逃げる以外にないの?お願い!」

 親の威厳なぞ知らないとばかりに頼み込む。

「それでは!賢者を召喚する!!そやつに教えてもらえ!!」
「あ、もう、良いです」

 いきなり指で魔法陣を描いて召喚のポーズをしだした。
 中2病ではなく、今は小2病が流行っているのだろうか。
 聞くのは諦めよう。

 歯ブラシと宿題をするように言いつけ、香苗は紙と鉛筆を取り出し、考えることにした。

「やっぱり今どきっぽく、虹色けんちん汁とか、のびる焼きそば、とかどうかなぁ。奇をてらいすぎか」

 どう想像しても不味そうでしかない。
 しかも、常連客の方が大半を占めているのに嫌がられてしまうだろう。

 店で井戸端会議している近所の長老たちの姿を思い浮かべる。
 喜んで食べるだろうか?
 うん。やめよう。
 商工会の会員に嫌われることの恐怖感は半端がない。
 まぁ、ちょっとやそっとじゃ嫌われないくらいの地位は築いているとは思うが、嫌がられるのは間違いない。

 何も書かれてない紙に、鉛筆の点々だけが描かれて行く。
 このままだと、点描画になりそうだ。
 タイトルは『思いつかない』にしよう。

「うーん。家で考えたって仕方ない。明日、店が火曜日で休みだけど行ってみよう」



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