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番外編 学生時代の話
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「桃夢先輩!こんにちは」
代わり映えの無い放課後の部室。
いつもの窓際の定位置に陣取り、好きな小説家の新作の世界に入りこんでいた桃夢は、いきなり現実に引き戻される。
うるさいなぁ、と目を上げると、後輩の南沢が顔を覗き込んでいた。
手には良くわからないエジプトの墓の模型を持っていて、何か言いたそうだ。
「どうしたんだ?」
やさしい先輩は聞いてあげることにする。
「頑張って昨日、夜通しで作ってみたんですけど、とても良くできたので見てください。ほら、実は中も見れるようになっていて、すごいでしょう。シャフトはここから斜めにあって、王の間と礼拝の間に棺も置いてあります。あとは………」
南沢は、好きなことは早口で一気に説明するという、オタク特有の技を華麗に披露する。
桃夢はもう、小説の世界には入ることは出来ないだろうと早々にあきらめ栞をはさみ本を閉じて、その模型を手に持ち観察する。
これから限界集落へ探偵が向かう所だったのに、エジプトに行ってしまった。
「あー、すごいすごい」
「わかりますか?この精巧さに。分かる人には分かってしまうんですね。ね?ね?」
呆れて、頬杖をつく。
言葉がくだけるほど仲良しなのは良いことだが、先輩として注意をしなければならない。
「申し訳ないんだけど、『桃夢先輩』じゃなくて、苗字で読んでくれないかなぁ」
「嫌です」
「何でだよ」
すぐさまツッコむ。
ついでに、頬を軽く伸ばす
「痛いです。……とうむ、とぅむ、とぅーむ、だから。嫌です」
「はぁ。なんだそれは」
また、よくわからないことを言い出した。
いつも桃夢の言う事はハイハイ聞くのに、この件に関しては決して譲らないらしい。
「何だと思いますか?」
「分からない」
「少し考えてくれても……」
「無理。正解は?」
こっちは、小説を中断してまで話を聞いてやるのだから、もったいぶらないで教えて欲しい。
「トゥームとは『tomb』と書きます。死者を埋葬するための建物や地下にある部屋を意味するんですよ」
「縁起悪いな!」
すぐさま、苦い顔をして、今度は両頬を限界までのばした。
かなり痛い顔をしているので少し心配するが、それだけ悪い事を言ったのだ。反省して欲しい。
頬ををおさえながら、反省もせず楽しそうに南沢は話す。
「トゥームハンターとかいるじゃないですか。みんなの憧れですよ」
「知るか」
南沢は桃夢の冷たい対応に、ついに悲しそうな顔をして鞄をごそごそし始めた。
横目でチラッと見ると、何か紙を取り出している。
「今から、魔除けの護符作るんで、いりますか?」
「いらないよ!」
桃夢は、これ以上は話したくない、と南沢に背を向け、限界集落へ探偵と行くために本を開いた。
南沢は、しょんぼりとして背中に向かってつぶやく。
「だって興味ある対象には、自分が決めた呼び方をするって決めてるんです。だから、呼びます」
「わかったよ!好きなだけ、呼んで良いから」
そうやって、桃夢はこれからずっと名前呼びが定着してしまうのであった。
代わり映えの無い放課後の部室。
いつもの窓際の定位置に陣取り、好きな小説家の新作の世界に入りこんでいた桃夢は、いきなり現実に引き戻される。
うるさいなぁ、と目を上げると、後輩の南沢が顔を覗き込んでいた。
手には良くわからないエジプトの墓の模型を持っていて、何か言いたそうだ。
「どうしたんだ?」
やさしい先輩は聞いてあげることにする。
「頑張って昨日、夜通しで作ってみたんですけど、とても良くできたので見てください。ほら、実は中も見れるようになっていて、すごいでしょう。シャフトはここから斜めにあって、王の間と礼拝の間に棺も置いてあります。あとは………」
南沢は、好きなことは早口で一気に説明するという、オタク特有の技を華麗に披露する。
桃夢はもう、小説の世界には入ることは出来ないだろうと早々にあきらめ栞をはさみ本を閉じて、その模型を手に持ち観察する。
これから限界集落へ探偵が向かう所だったのに、エジプトに行ってしまった。
「あー、すごいすごい」
「わかりますか?この精巧さに。分かる人には分かってしまうんですね。ね?ね?」
呆れて、頬杖をつく。
言葉がくだけるほど仲良しなのは良いことだが、先輩として注意をしなければならない。
「申し訳ないんだけど、『桃夢先輩』じゃなくて、苗字で読んでくれないかなぁ」
「嫌です」
「何でだよ」
すぐさまツッコむ。
ついでに、頬を軽く伸ばす
「痛いです。……とうむ、とぅむ、とぅーむ、だから。嫌です」
「はぁ。なんだそれは」
また、よくわからないことを言い出した。
いつも桃夢の言う事はハイハイ聞くのに、この件に関しては決して譲らないらしい。
「何だと思いますか?」
「分からない」
「少し考えてくれても……」
「無理。正解は?」
こっちは、小説を中断してまで話を聞いてやるのだから、もったいぶらないで教えて欲しい。
「トゥームとは『tomb』と書きます。死者を埋葬するための建物や地下にある部屋を意味するんですよ」
「縁起悪いな!」
すぐさま、苦い顔をして、今度は両頬を限界までのばした。
かなり痛い顔をしているので少し心配するが、それだけ悪い事を言ったのだ。反省して欲しい。
頬ををおさえながら、反省もせず楽しそうに南沢は話す。
「トゥームハンターとかいるじゃないですか。みんなの憧れですよ」
「知るか」
南沢は桃夢の冷たい対応に、ついに悲しそうな顔をして鞄をごそごそし始めた。
横目でチラッと見ると、何か紙を取り出している。
「今から、魔除けの護符作るんで、いりますか?」
「いらないよ!」
桃夢は、これ以上は話したくない、と南沢に背を向け、限界集落へ探偵と行くために本を開いた。
南沢は、しょんぼりとして背中に向かってつぶやく。
「だって興味ある対象には、自分が決めた呼び方をするって決めてるんです。だから、呼びます」
「わかったよ!好きなだけ、呼んで良いから」
そうやって、桃夢はこれからずっと名前呼びが定着してしまうのであった。
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