何でもない日の、謎な日常

伊東 丘多

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 雲がなく、いつもより輝いている月のおかげでお互いの顔がよく見える。

 藤森は穏やかな表情で風で揺れている枝をのんびりと見ている。
 桃夢はこんなに早く解決するなら最初から巻き込むな、と文句を言おうとするが先をこされる。

「どうですか?調子は?」

 雑談でもする気なのだろうか。
 きっと、すべて藤森は分かっているはず。
 だが説明をさせたいのだろう。
 それならば、のってやろうじゃないかと桃夢は話し始める。

「きっと問題は1つじゃないはずです。調べたら時代によって話が違う。いくつかの複合的な事で物事がおきていると思う」
「そうですか。どんなことですか?」

 桃夢は意地になって、どんどん話を進めて行く。

「まずは、江戸時代後期の頃だ。鎌倉は観光が盛んになって人も多かった。その頃は、この山にお参りする人も多く資料も多い。このあたりは植物の成長が場所によって差があったと記載があった。あと、お参りすると体調の異変も子供の記憶障害も、この頃からだ」

 藤森は小気味よく頷く。

「どう思いましたか?」

 桃夢は仮説だが、と前置きをして説明する。

「科学的には立証できないが、神社やスピリチュアルな場所は、磁場のエネルギー変動が強いと言う事が多い。小さな子供や体の弱い人は磁力の影響を受けやすいから、その可能性は無いだろうか」

 最初はただのいたずら防止の話だろうと思っていたが、凪夜の事を考えたらこの方が自然だ。

「そうですね。それに関しては金井さんが、特殊な道具を使って、すでに調べてくれています。特に体に影響を与える場所には大きな石を置いて、人が入らないようにしていると報告がされました」

 それは、そうだろう。
 スピリチュアルスポットといえば真っ先に疑うべきところだ。
 ただ何故こんなに桃夢に対しまわりくどいことをするのかが、分からない。

「次は?」

 藤森がうながす。

「人口が更に増え宅地開発が急激に増えた頃、山を切り崩した。その頃だ。頭痛や吐き気など、磁場に出る症状と似ているが、大人にも出ていた。人数も多い。そうしたら、資料にヒントがあった」
「そうですか」

 藤森は自分からは説明しないつもりらしい。

「産業廃棄物が、地面に埋められている写真を見た。きっと、作業員は化学物質を浴びたのだろう。症状は化学物質過敏症と同じだ」

 どうだろうか?まだ、調べ始めてから数日しかたっていないから合ってないかもしれない。
 しかし、昔の事すぎて立証は出来ない。
 調査もまだしていない段階だが、考えられる事が他にまだ見つかっていない状況だ。

「正解です。すでに、それも処理済みですよ。金井さんが夏休みなど人が来ない時期にこっそり撤去したみたいです。兵器など人に見られては困るものもあったので。桃夢先生、こんな短期間にさすがですね」

 藤森は、感心したように拍手し音を響かせ、桃夢を褒める。
 さすがにもう茶番には付き合っていられない、と桃夢は声を上げる。

「俺が頻繁に歩いていて問題ないんですから、この山は異変なんてありません。きっと御神木も移植して良いと思います。成長だって日当たりや肥料のせいかもしれない。何があと必要なんですか?」

 その問いには答えず、藤森は鳥居の側に行き目を閉じ手を合わせる。
 しばらく、そのまま祈りを続けゆっくりと目を開けた。

「祈りが必要でした」

 風が流れる。
 木々が揺れ葉は月の光にあたりにきらめいている。

「あと、この山について知ろうとする事。感謝する事。何度も通って鳥居に手を合わせる事。それらが必要だったのです。だから何も言わず、依頼をしました。言ったらこんなに真剣に考えてくれないでしょう?なにより神は義務感で、お参りされるのが嫌いなんです。私みたいに仕事で信仰をするような人間も」

 褒めてもらっているのだろうか、桃夢はなんて答えたら良いのか分からず、はぁ、と曖昧に返事をする。

 予想外の言葉だった。

「私はまだこの山の神様と仲良く慣れていないんです。霊力があったって、一方通行じゃ意味ないですから。それに、生徒たちも連れてきてくれたでしょう?それも嬉しかったみたいですよ。今も、彼女は話を聞いてくれています」

 藤森は何も無い所を見て、うなずく。

 桃夢には霊感が全く無いので、わからないが藤森には神と交信するような霊力があるということなのだろう。

「俺は神様と仲良いんですかね?」

 理由もわからず、的はずれな質問をしてしまった。

「もちろん。それに、篠田先生をここの道を通るように言った方は誰ですか?」
「学習塾の塾長ですが。」
「ですよね。塾長である祖父も、勝手に山を崩されて拗ねてしまった神が祈りに答えず、適任の篠田先生に任せたのでしょう。そういう場合、住処である御神木が病気になる危険性もあるんで早めに対処しなければ、と悩んでいました」
「え?今なんて?」

 桃夢はさらりと流された単語に引っかかる。

「病気ですか?御神木が弱ると、神がフラフラいろんな所へ行ってしまうので、困るんですよ」

 いや、そうではなく。それの話も、気になるけれど。まず聞きたいことは。

「塾長のお孫さんなんですか?」
「はい。この山の神主は祖父です。祖父の経営する塾は副業ですから」

 とても、情報量が多い。

 小さい頃からお世話になっていた塾長はこの山の神主だったのか。

「あと、他には隠してること無いですかね?」

 ついつい、まだあるのじゃないかと疑って藤森に聞いてみた。

「内緒です」

 まだ、あるのかと、ため息をつき2人は月光を頼りに山を下っていった。
 そして、別れた時、藤森は楽しそうに笑って言った。

「準備を整えたら、御神木をあるべきところに植えます。篠田先生も参加してくださいね」





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