何でもない日の、謎な日常

伊東 丘多

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みんなと

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 インスタントコーヒーの粉と同じ分量の砂糖を適当にザラザラとコップに入れ、お湯を100cc入れたものを一気に飲む。
 珈琲とは、こんなにドロドロとしているものだろうか。

 いや、これは違う飲み物だ。
 そう思いながらも桃夢は喉に残る苦さと甘さに眉をひそめながら、寝不足と知識の詰め込みによる頭痛に耐える。

 外は、青空が広がり、鳥が元気に鳴いている。
 鳥に元気を分けてもらおうと、窓を開け風を部屋に通す。
 木曜の夜に学園長室で話を聞いた後、資料を借りて、金曜日と土曜日も読みふけってしまった。

 普通に歴史的に面白かったのもあるが、どうやら昔は思った以上に逸話が多い山だったらしい。
 どうやら、子供の記憶が無くなるというのは昔からのようだが、昔から怖い話と言うのは子供を危ない目に合わせないための嘘が多いから信憑性は低いだろう。

 大人での実例はないらしい。
 実際に、体調不良にが考えられるのはやはり山の工事をはじめたあたりだから、祟りと言われるのは必然なのだろうか。

 塾長からの引き継ぎで、教えられた内容と被っている話もあり、あながち嘘では無かったのかと塾長の話を流してしまったことを少し反省する。
 今日は日曜日で休日のため、部員達と参道を調査しにいく予定である。

 渡瀬と丈一郎は受験生と店の手伝いのため欠席だが、代わりに保護者として南沢を助っ人として参加させることにした。

「桃夢先輩。来ましたよー」

 開けたばかりの窓の外から、南沢の声がする。

「悪い。今行く!」

 山の写真を何枚かポケットに入れ、急いで外へ出た。

 遅れないように歩いて向かうと、すでに山道の入口に部員たちは揃っていた。

「南沢先生、本格登山の格好じゃないですか」

 夏葉が腕を組んであきれている。
 地元の山、しかも学校の敷地内で完全防備なのはおかしい、と言われ、南沢が反論する。

「遭難する可能性もあるし、熊も出るかもしれないでしょ?」

 そう言いながら有名アウトドアブランドのリュックについている熊よけの鈴を鳴らす。

「さすがに熊は出ないでしょ。それで桃夢先生は軽装すぎ。」

 横から、凪夜がするどく突っ込む。
 夢は、虫刺され対策しかしていない薄手の長袖シャツとスラックスだ。

「そうかな?」

 すこし、登山にも慣れすぎてしまっただろうか。

 少し離れた所で、春人が一箇所を見ている。

「ねぇ、これ、何だろう」

 何か看板が登山道入口の土に刺さっている。
 桃夢は、その木の板を手で擦ってみると、何か書いてあるようだ。

 そこには参道と書かれていた。
 慌てて、写真を取り出す。やはり同じものだ。
 今まで何度もここを通っているのに気がつかなかった。
 少しまわりを注意して行動しようと反省しつつ、その案内板に頭を下げる。

「みんな、この看板に挨拶してから登ろう」

 それからは、景色を楽しみながらのんびりと歩く。
 桃夢もいつもは1人で登っているが、今日は楽しくおしゃべりをしながら歩いているのでつらくない。

「みんな!何か異変があったら教えてくれ。どんな事でも良いから。特に凪夜は、あの記憶がなくなったあたりでは、体調に注意してくれ」
「分かった。今のところは大丈夫だよ。具合悪くなったら、南沢先生に送ってもらうし。でしょ?」

 凪夜が南沢に向かって、同意を求める。

「もちろん。救急班として来たからな。凪夜くらいおんぶできるから、好きなだけ倒れろ」
「嫌だよ」

 そうな軽口をたたきながら歩いていたら、視界が広がる平地の場所へ来た。

 ここだ。
 鳥居にこの景色を見せるようにひらけている。
 海から遊びに来る神様が来やすいようにしているのかもしれない。

「このあたりは、少し空気が違うね」

 どうやら霊感があるらしい春人が、神妙な顔でつぶやく。

「それに少し植物の生え方が違う。成長が遅いのかしら」

 夏葉も興味深そうに周囲を歩き回る。
 桃夢は普段、通勤する時には見ないような鳥居の奥を探ってみる。
 そこには石が置いてあり、しめ縄が巻いてあった。
 さらにその場所へは立ち入る事が出来ないよう、誰かが囲むように棒を立てたようだ。

 劣化していないしめ縄を不自然な疑問に思い、鳥居の写真を何枚か見ると、昔には石自体無かったようだ。
 最近、置かれた石なのだろうか。

「みんな!気持ち悪いとか無いか?」

 桃夢はやはり何かの違和感に心配になり、部員1人ずつに声を掛けた。

「凪夜はどうだ?」
「うん。前のようなことは無いよ。むしろ、気持ちが良い」

 そよそよと風を感じ、伸びをしている。
 問題なさそうだ。

「南沢は?元オカルト研究会としての意見は?」
「それは、闇歴史なんで言わないで下さい。うーん。そうですね。自分も昔は何度か探索に来ましたけど、その時より空気がきれいな気がします」

 前に比べ、何かが違っているようだ。
 桃夢は、週2勤務を5年ほど続けているので、いつも通りとしか言いようがなく分からない。
 これ以上、調査のしようもなく切り上げることにした。

「みんな、ありがとう!助かった。とりあえず最後にちゃんと鳥居にお参りをして帰ろう」

 はーい。各場所に散らばっている生徒から、元気な声が聞こえる。
 帰り道にご飯でもごちそうしよう。
 桃夢は、家から持ってきた果物をお供え物として鳥居の側に置く。
 母親が買ってきた有り物だけれど。
 そして、いつものように、手を合わせる。

 その時、フワッと風が吹いた。
 きっと喜んでくれたのだろう。
 勝手にそう、思う事にした。













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