19 / 38
忘れられた手紙
しおりを挟む
翌日の昼休み、天気が良いので芝生に行こうと春人を誘った。
「どうしたの?何かあった?」
なんて言えば良いか分からず芝生の先を指でつついてたら、春人から話をふってくれた。
凪夜は、ためらいがちに中学受験の頃に俺が倒れた事に対して記憶があるか、春人に聞く。
「うん。覚えてるよ。その頃、凪夜は、かなり落ち込んでたもんね」
「どんな風に?」
凪夜は、そんな落ち込んでいる自分が想像できない。
そんな無駄な時間はもったいないと思う性格だ。
「本当は中学受験したくなかったんだよ。僕には心配させたなかったのか、何も言ってくれなかったけど態度で分かる」
凪夜は、徐々に断片的だが当時のことを思い出してくる。
そうだ。勉強が好きな訳でもないし進学校に行きたくなかったんだ。
塾も、桃夢先生が好きで、一緒にいるのが楽しくて通ってただけだった。
当時の俺は自分の意見が言えなくて、まわりを振り回してた。
「凪夜の親も徒歩で行ける中学で良いって言ってたのに、成績がすごい良かったから、私立受験組の友達とか担任から受験するって思われてて、否定出来ない雰囲気だったよね」
「じゃ、俺、受験にわざと落ちたのか?」
もしかして押し付けられるのが苦手なのは潜在意識として、その頃の記憶なのかもしれない。
春人が知るわけもなく顔を横に振る。
「それは、僕にはわからないよ。でも、中学受験したくなかった理由は知ってるよ。ここの高校に通いたかったんでしょ。中高一貫に入っちゃうと無理だもんね」
春人は振り向いて校舎に向けて腕を広げる。
「学校を見ていたら思い出した」
「桃夢先生から、ひどい手紙もらったって怒ってたよ。その時、僕には見せてくれなかったけど。部屋にあるかもしれないから探してみたら?」
その時、昼休みの終わるチャイムがなった。
2人はバタバタと弁当箱を片付ける。そうか、何となく分かってきた。
まだ、完全には思い出せないけど、帰ったら桃夢先生からもらった手紙を探そう。そこにヒントがあるかもしれない。
そんなことを考えながら、廊下を走っていった。
金曜日は部活がないので、授業が終わったらすぐにバスに乗り家に帰る。
母親にも、当時のことを聞こうと思ったけれど気恥ずかしくてやめた。
部屋のクローゼットの奥に手紙をまとめている黄色い缶を探す。
その大きい缶はすぐに見つかり、一番下の方に四角におられた紙切れが入っている。きっとこれだ。
開くと塾の勧誘チラシだった。その裏側に、急いで書いたような、いつもらしくない桃夢の雑多な文章が書いてあった。
『凪夜へ。
うまく言えないから、手紙を置いていく。
明日の試験の結果がダメでも、気にするな。結局、まわりの環境がどうであれ、凪夜の意思があれば、未来は大差ないと思う。だから今回みたいな事は、もうしないように。
あと、俺は中学受験で落ち、希望の公立高校に落ちて、滑り止めの森守の山高校に入った。でも大学はなんとか希望の所に行けたし、昔も今も楽しい毎日だ。
他人から見たら失敗の連続人生だが、進んできた道に後悔はしていない。人によって成功は違うのだから、安心しろ。
もし、公立中学に入って高校受験で上位を目指すなら、全力でバックアップする。スケジュールはこのチラシの裏の入塾説明を見てくれ。
だが、その後の国公立難関大学受験対策は無理だから、駅前にある大手の塾へ行ってくれ。
篠田桃夢』
なんだろう。ただの営業じゃないか。
もっと感動系かと思って泣く準備までしたのに。ハンカチは濡れないまましまう。
がっかりして、そのまま折りたたみ缶に戻そうとするが、ふと、違和感に気づく。
この手紙は、試験の前日に書いたものだ。
試験の当日、凪夜が倒れて南沢と桃夢に試験会場から家に送ってもらった時の手紙かと、思っていたのだが実際は違った。
試験前日に何かがあった。
凪夜は窓の外見ると、もう空は暗くなってきていた。
昨日お見舞いに行った時に、ほとんど治ったから明日から仕事に行くと言っていた。
明日、塾に行って先生に直接聞きに行こう。
そう凪夜は思いながら手紙の缶を力いっぱい音を立てて閉じた。
「どうしたの?何かあった?」
なんて言えば良いか分からず芝生の先を指でつついてたら、春人から話をふってくれた。
凪夜は、ためらいがちに中学受験の頃に俺が倒れた事に対して記憶があるか、春人に聞く。
「うん。覚えてるよ。その頃、凪夜は、かなり落ち込んでたもんね」
「どんな風に?」
凪夜は、そんな落ち込んでいる自分が想像できない。
そんな無駄な時間はもったいないと思う性格だ。
「本当は中学受験したくなかったんだよ。僕には心配させたなかったのか、何も言ってくれなかったけど態度で分かる」
凪夜は、徐々に断片的だが当時のことを思い出してくる。
そうだ。勉強が好きな訳でもないし進学校に行きたくなかったんだ。
塾も、桃夢先生が好きで、一緒にいるのが楽しくて通ってただけだった。
当時の俺は自分の意見が言えなくて、まわりを振り回してた。
「凪夜の親も徒歩で行ける中学で良いって言ってたのに、成績がすごい良かったから、私立受験組の友達とか担任から受験するって思われてて、否定出来ない雰囲気だったよね」
「じゃ、俺、受験にわざと落ちたのか?」
もしかして押し付けられるのが苦手なのは潜在意識として、その頃の記憶なのかもしれない。
春人が知るわけもなく顔を横に振る。
「それは、僕にはわからないよ。でも、中学受験したくなかった理由は知ってるよ。ここの高校に通いたかったんでしょ。中高一貫に入っちゃうと無理だもんね」
春人は振り向いて校舎に向けて腕を広げる。
「学校を見ていたら思い出した」
「桃夢先生から、ひどい手紙もらったって怒ってたよ。その時、僕には見せてくれなかったけど。部屋にあるかもしれないから探してみたら?」
その時、昼休みの終わるチャイムがなった。
2人はバタバタと弁当箱を片付ける。そうか、何となく分かってきた。
まだ、完全には思い出せないけど、帰ったら桃夢先生からもらった手紙を探そう。そこにヒントがあるかもしれない。
そんなことを考えながら、廊下を走っていった。
金曜日は部活がないので、授業が終わったらすぐにバスに乗り家に帰る。
母親にも、当時のことを聞こうと思ったけれど気恥ずかしくてやめた。
部屋のクローゼットの奥に手紙をまとめている黄色い缶を探す。
その大きい缶はすぐに見つかり、一番下の方に四角におられた紙切れが入っている。きっとこれだ。
開くと塾の勧誘チラシだった。その裏側に、急いで書いたような、いつもらしくない桃夢の雑多な文章が書いてあった。
『凪夜へ。
うまく言えないから、手紙を置いていく。
明日の試験の結果がダメでも、気にするな。結局、まわりの環境がどうであれ、凪夜の意思があれば、未来は大差ないと思う。だから今回みたいな事は、もうしないように。
あと、俺は中学受験で落ち、希望の公立高校に落ちて、滑り止めの森守の山高校に入った。でも大学はなんとか希望の所に行けたし、昔も今も楽しい毎日だ。
他人から見たら失敗の連続人生だが、進んできた道に後悔はしていない。人によって成功は違うのだから、安心しろ。
もし、公立中学に入って高校受験で上位を目指すなら、全力でバックアップする。スケジュールはこのチラシの裏の入塾説明を見てくれ。
だが、その後の国公立難関大学受験対策は無理だから、駅前にある大手の塾へ行ってくれ。
篠田桃夢』
なんだろう。ただの営業じゃないか。
もっと感動系かと思って泣く準備までしたのに。ハンカチは濡れないまましまう。
がっかりして、そのまま折りたたみ缶に戻そうとするが、ふと、違和感に気づく。
この手紙は、試験の前日に書いたものだ。
試験の当日、凪夜が倒れて南沢と桃夢に試験会場から家に送ってもらった時の手紙かと、思っていたのだが実際は違った。
試験前日に何かがあった。
凪夜は窓の外見ると、もう空は暗くなってきていた。
昨日お見舞いに行った時に、ほとんど治ったから明日から仕事に行くと言っていた。
明日、塾に行って先生に直接聞きに行こう。
そう凪夜は思いながら手紙の缶を力いっぱい音を立てて閉じた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編は時系列順ではありません。
更新日 2/12 『受け継ぐ者』
更新日 2/4 『秘密を持って生まれた子 3』(全3話)
02/01『秘密を持って生まれた子 2』
01/23『秘密を持って生まれた子 1』
01/18『美之の黒歴史 5』(全5話)
12/30『とわずがたり~思い出を辿れば~2,3』
12/25『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/11~11/19『夫の疑問、妻の確信1~3』
10/12 『いつもあなたの幸せを。』
9/14 『伝統行事』
8/24 『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
『日常のひとこま』は公開終了しました。
7/31 『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18 『ある時代の出来事』
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和7年1/25
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる