何でもない日の、謎な日常

伊東 丘多

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レモンケーキ

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 忘れるはずのない出来事に、何かが引っかかって、モヤモヤする。

「そんなことあったような、無かったような?」
「いまさら?いつのこと?気になるから話して」

 病人なのに、膝をたたき催促する。

 だが、催促を断るように、紅茶の良い香りがしてきた。

「ケーキ買ってきたわよ。お茶をいれるわね」
 
 凪夜はティーカップから出ている、フワフワ上に上がっていく湯気をぼんやりと見て、何とか思い出そうとする。
 確かにそんな事があったような。でも、思い出せない。
 桃夢は、その時の記憶は、はっきりあるみたいだから、問題は凪夜の方にあるのだろう。

「この店の美味しいよ。オススメはレモンケーキ。酸っぱいの好きだろ?」
「好きだよ。でも、そっちのレアチーズケーキも美味しそうだね」
「半分こするか?」

 見舞いに来た方が心配されてしまうのは、良くないな。と凪夜は反省する。
 それからは、凪夜は今日の補習授業の内容を伝え、いかに南沢がチャラついていたかを熱弁する。
 内容は、まぁ、分かりやすかったので良かったけれど。とフォローするのを忘れない。

 窓の外がまだ明るいので、早い時間かと思ったら、あっという間に南沢との約束の時間になった。
 夏に近づいてきたのだろう。太陽の入りが遅い。
 南沢がいきなり部屋に入ってきて、座り込んだ。

「桃夢先輩、大丈夫ですか?ほら、今日の補習の内容、まとめてきましたよ」

 ポンッと桃夢の膝の上に置かれる。

「凪夜が、ノート見せてくれたら別に良いや。完璧なやつ」

 桃夢がプリントをパラパラしながら、苦笑いする。
 南沢は虫に刺されていない所を選んで、桃夢の腕をつねる。

「……まぁ、良いや。暗くなる前に帰ろうか?凪夜くん」
「そうですね。仕事中すみません。お願いします」

 階段を降りてから、あら?ケーキあるわよ。と言う言葉の誘惑に南沢は負けず玄関を出ていく。

 例のチャラいスポーツカーに乗り込み、そして、凪夜は家の場所を言いかけると、南沢は笑って言う。

「大丈夫だよ。行ったことあるから分かるよ」
「何で知ってるの?」

 もしかして。と、凪夜の無くした記憶と結びつく。

「ほら、凪夜くんが過労で倒れて、車で家まで送っていったんだよ。桃夢先輩と一緒に」
「やっぱり。それ、いつ頃ですか?俺、記憶なくて」

 昔の事だし他の生徒の合否でもバタバタしてた頃だから、あんまり覚えてないんだけど、と前置きしつつ答えた。

「中学受験の試験の後だよ。いきなり凪夜くんが塾に電話してきて、倒れそうとか言うから慌てて試験会場に向かったんだ」

 やっぱり、その頃か。
 調子が悪くて、倒れたのだろうか。凪夜は、その頃の記憶がおぼろげに、なっている。

「そしたら、絶対受かるって言われてたのに、まさか希望の中学を落ちるだもんな。俺ら、塾を辞めさせられるかと、思って覚悟したわ。結果、おとがめ無しだったから良かったけど」

 別に試験に落ちたのは塾のせいじゃなくて、俺の健康管理が出来なかったせいだろう。
 模試では、余裕で合格圏内だったんだから。

「俺。落ちた記憶はあるんだ。1校しか受けてなかったから、あきらめて公立の中学校いったのは覚えてる」

 それにしても、何でだろう。本当にそれだけだろうか。
 明日、春人に聞いてみよう。


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