何でもない日の、謎な日常

伊東 丘多

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夏の前

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「見るも無惨な姿だね。かゆくないの?」

 補習授業が終わり、ミス研の部室まで凪夜と一緒に歩く。
 その間、凪夜は眉をひそめて、桃夢の腕を掴み、全身をジロジロ見てきた

 皮膚には、虫刺されやら引っかき傷やら大変だ。

「いや、毎年梅雨明けから夏は、やたらと虫に好かれちゃうんだよ。急に暑くなって急成長した草の中をかき分けて歩いてたら、あっという間にこんなだ。失敗した」

 桃夢は、自然の生き物はしょうがないよ、と肩を落とす。
 梅雨のジメジメから解放されたと思ったら、今度は虫刺され地獄である。
 山の中を歩いてくるという事は、虫と共に歩いてくる事なのだ。

「小さい子供じゃないんだから、草の中入らない方が良いと思うな。スーツで来てるのにね。隙間から入ってくるのかな」

 凪夜が、聞いてくる。
 それに対し、思い当たる事を桃夢はたくさんあるな、と話す。

「暑くて、ジャケットを脱いで腕まくりしてくるからなぁ。なんなら、スボンも裾を巻いてる」
「はぁ?バカなの?」

 凪夜が、相手が先生なのも忘れて暴言をはく。
 まぁまぁ、と部室から廊下の騒ぎ声で出てきた春人が凪夜をなだめた。

「桃夢先生。こんにちは。凪夜は心配してるだけですよ」

 桃夢は、分かってるよ。と、うなずきながら凪夜の頭をポンポン叩いて、部室に入っていく。

「こんにちはー!」

 部員は元気そうだ。

「おや、先生。腕やら足、痛そうですなぁ」
「そうなんだよ。ちょうど良いから、今日は虫ミステリーを課題にするか」

 あまり使わないので、奥の方にしまってある埃っぽい虫の本を取り出し、机にボンッと置く。虫が苦手な夏葉と春人は、蝶と草花の本を一緒に読もうとひっそりと話をしている。

「最近は昆虫食を良く見ますけど、夏葉先輩は食べないんですか?好奇心で食べそうですけど」

 すっかり部活に馴染んでいる丈一郎が夏葉に聞く。

「見た目が美味しそうじゃないから食べない。将来、虫からしかタンパク源が取れなくなった時、食べるか考えるわ」
「それに、まだ、食材としては高いですよね」

 丈一郎が、確かにな、と納得する。
 それでは、安かったら食べるのだろうか。
 夏葉は、まさかしないよね、と心配そうな顔をして丈一郎に忠告する。

「店のメニューとして出すにはまだ時代が早いんじゃないかな?」
「そうですね。そんな気がします」

 丈一郎は、あきらめたようで一安心だ。
 桃夢も心のなかで、大きくうなずく。
 目の端で、凪夜がちょくちょく桃夢の腕や足を見て、何か言いたげに視線を送ってくる。

「凪夜、そんなに気になる?病院に行ったほうが良いかな?」

 そう聞くと、ふいっと顔をそらされてしまった。
 桃夢は、自分の腕を見る。さすがにこれはひどいな。
 明日、塾へ出勤する前に病院でも行くか。










     
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