何でもない日の、謎な日常

伊東 丘多

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三毒を断つ

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 香苗は、焼きそばと、野菜炒めと、ブリの照り焼きを、次々と作っていった。

 かなりコツを掴んできたようだ。
 この、調子なら本番もすぐに出来るようになるだろう。

 18時になり調理器具などの片付けが終わると、香苗は家に子供が留守番してるからと言って、慌てて帰っていった。
 夏葉も門限があるらしく、テキパキと帰る準備をしている。

「桃夢先生、この料理は持って帰ってくれますか?丈一郎くんのお母さんにどうするか聞いたら、持って帰って良いそうです。私の家は夕飯あるし」

 そう言って、手際よく、ピクニック様の大きい弁当箱に、残りのおかずをつめていく。

「それと、私の作った梅干しも入れておきますね」

 この前の、酸っぱいやつか。しかし、梅干しの量が多い。

「こんなたくさん、良いのか?」
「もちろんですよ。家にたくさんありますし」

 手作りで作っているらしく、売るほどあるらしい。
 家まで送ろうと、桃夢が声をかけると、夏葉は「 子供じゃないんだから、やめて下さい」と笑う。

「まだ明るいから大丈夫。次は火曜日、ミス研で待ってますね」

 夏葉はやり終えた達成感でか、ご機嫌で帰っていく。
 さて、この弁当をどうするか。

「そうだ。この弁当を、食べられる人間がいる」

 桃夢はひらめいた。
 同僚の南沢だ。

 塾が休みの日は、たいてい昼間から酒を飲んで部屋でゴロゴロしているはずだ。

 ご馳走を今から持っていく、と一言、メールを送信する。
 南沢は、手作りに飢えてるから喜ぶだろうな、と鼻歌を歌いながら、いつも持ち歩いているエコバッグをカバンから取り出す。
 そして、夏葉の作ってくれた弁当を手に取ろうとすると、梅干しが入っているタッパーの上に、手紙が置いてあるのを見つけた。

 『桃夢先生。梅干しは、三毒を断つと言います。昔から毒消しとして使われていたそうですよ。二日酔いにもどうぞ。将来、私が店出す時は、是非、協力お願いしますね』

 いつ書いたのだろう。さすが、手際が良いな。
 二日酔いにも良いのか、丁度良いじゃないか。

 もう一度、忘れ物や汚れたものがないか確認し、近藤一家に軽く声をかけ勝手口を出る。
 もう、外は暗くなり始めているが、まだ店の中は明るい。
 当然のように、元気に丈一郎は働いているようだ。

「いつも、この店から、家に帰るときはお腹がいっぱいだな」

 南沢のマンションは、海の方にある。

 少し遠いが、この腹の重さからして丁度良いだろう。
 軽く何度かジャンプをして、走る準備をする。
 スーツと革靴、ビジネスバッグで走り去る男性に、2度見してくる観光客もいるが、気にせずに走る。
 
 そういや、甘いものは食べてないな。団子でも買っていこう。
 そう、思いながら。










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