13 / 38
発表会
しおりを挟む
まだ、梅雨はあけないな。
桃夢はどんよりとしている空を見て、雲の間から太陽を探す。
雨が降っていると、学校へ登山する時に靴がドロドロになるから困るのだ。
最近は、学習して登山用のゴツい長靴まで買ってしまった。経費で落ちないものだろうか。
毎日タクシーで来るのも少ない給料では経済的に無理である。
桃夢は小さい頃から、読んでいない本がないと落ち着かなくて、給料のほとんどを本に使ってしまう。
しかも、好きな作家には応援したいから本屋で買いたい。
あと、専門書というのは高すぎる。発行部数が少なくて、仕方ないのは分かるが、万札が飛んでいくのは支払う時に心臓に悪い。
ただ、読み終えた本は部室に保管するので元は取ってると思うようにしている。
歩く元気もなく、足を引きずるように歩いていると、後ろから、いつも明るい光属性の丈一郎がやってきた。
「丈一郎は元気だな。委員会は終わったのか」
「はい。毎日元気です。週イチですけど、ミス研へに入って良かったです。楽しみが増えました」
今の桃夢には眩しすぎる。しかし、そんな丈一郎の表情に雲がかかる。
「でも、ごめんなさい。先週の宿題が、諸事情により出来なくて」
「まぁ、ゆるい部活だし、それは良いんだけど。悩みごとでもあるのか?」
前のこともあり、心配になって桃夢は聞く。
すると、後で言います。と暗い顔のまま部室に入っていった。
部室には全員揃っていて、トランプをしていた。
ババ抜きは、相手の心理を見るための練習らしい。
ということは、かなりの頻度で負ける桃夢は隠し事が出来ないということなのだろうか。
当てはまり過ぎていて自分にがっかりする。
「桃夢先生、今日は料理の課題の日よね。私は審査員として、判断させてもらうけど良いかな」
今日は、進行も夏葉にまかせてしまおう。
桃夢は入口の横にあるパイプイスに腰掛け「頼んだ」と、手を振る。
任せられた!とばかりに夏葉は笑顔で話し出す。
「では、発表に入ります!まず、渡瀬先輩からどうぞ!」
渡瀬がいきおいよく立ち上がる。
「ここに2つのゆで玉子があります。さあ、どっちを選び食べるのか選んでくれ?」
凪夜と春人がターゲットになったようだ。
だが、2人はどちらも選びたくないと顔に出ている。
しかし、先輩の言う事を断れないという究極の選択を迫られている。何ともかわいそうだ。
「それ、食べられるものなのか?本当に大丈夫か?」
桃夢は顧問として責任があるので、問題があれば止めなければならない。
「もちろんですとも。安心したまえ」
逃げられないと悟った春人はこっちにしようかな、と震えながら左を選ぶ。
見た所、同じようだが違いは何だろう。
2人同時に食べる。凪夜の動きだけが止まった。
どうやらハズレを引いたらしい。
「しょっぱ。水、取って」
渡瀬が近くにあったペットボトルを渡す。
「もし、この水が毒だったらどうする?でも、飲まない訳にはいかないだろう。毒入りの水を飲ませるために、玉子に塩をしみこませたのだよ」
凪夜が水をものすごいいきおいで飲み終える。
そもそも玉子を食べさせなきゃいけない時点で難しい。
そんな上手くいくかなぁ、と凪夜は小さくつぶやいている。
「じゃ、説明をお願いします」
夏葉が渡瀬にうながす。
渡瀬は、うなずき話し出す。
「コンビニで味付け玉子があるけど、その塩分をパワーアップさせたものなのである。卵殻には気孔を通して水分を通すから、殻の上からでも塩分が浸透する。まぁ、確かにやりすぎた感は否めないが」
凪夜は最近、塩分過多だな。
血圧が心配だ。あとで、気をつけるように言おう。
「確かに。次は大きなダメージをおった人、発表をお願いします」
夏葉は凪夜を見る。
「俺は春人と一緒に作ったので、まずは見て下さい」
紙皿の上に、何の変哲もないないクッキーが2つ置いてある。
「誰か食べてほしいんですけど」
さっきの仕返しなのか、凪夜が渡瀬をチラチラみる。
しかし、遠くを見ていて、食べようとしない。
気持ちはわかる。
「あのさ、これは、危険じゃないよ、な?」
凪夜は今は信用ないので、桃夢は春人に聞く。
「えー、どうかな。多分」
あやしいな。目が泳いでいる。
「俺、これ食べていいか?」
卵よりも、命の危険があるような気がする。
生徒に何かあっては大変だ。
桃夢は、生徒を守るため覚悟を決めて、クッキーを食べる。
凪夜の心配そうな顔が不安を煽ってくるが、気にせず、いきおいよく口に入れた。
「か、固い!」
歯が割れそうだ。なんとか食べられるし美味しいのだが石のように固い。
頑張って咀嚼し、何とか飲み込む。
そこで、一回休んでしまっては覚悟がぶれそうなので、もう1つのも一気に食べる。
「うわっ。何だ!」
口から何かドロっとしたものが出てきた。慌ててティッシュでふいてみると、赤い。血か?俺は死ぬのか?
「これは、ホワイトチョコレートに食紅を混ぜたもの?」
夏葉が、凪夜に聞いている。
うん。味は美味しい。
「なるほど。なかなかやるわね。口を負傷させた後、血を出させたように見せかけ、驚かす作戦ね」
夏葉が感心している。
しかし、これはミステリーなどではなく、罰ゲームでは、と思ったが教育者として耐えることにした。
舌が真っ赤だ。こんなになるのは、昔かき氷を食べて以来だな。
「次は、丈一郎くん。どう?」
ペッペッと舌を拭いてる場合じゃない。
丈一郎は何か問題を抱えてるのだ。
「すみません。まだ、俺の個人的な事なんですが、時間がなくて出来ませんでした」
深々と頭を下げている。
「どうしたの?また、お父さんとケンカでもした?」
先輩らしく、やさしい口調で夏葉が聞く。
「このままでは、店を発展させるための俺の計画が破綻してしまうんです。みなさん、何度も申し訳ないのですが、力を貸してください!」
どういう事だ?
桃夢はどんよりとしている空を見て、雲の間から太陽を探す。
雨が降っていると、学校へ登山する時に靴がドロドロになるから困るのだ。
最近は、学習して登山用のゴツい長靴まで買ってしまった。経費で落ちないものだろうか。
毎日タクシーで来るのも少ない給料では経済的に無理である。
桃夢は小さい頃から、読んでいない本がないと落ち着かなくて、給料のほとんどを本に使ってしまう。
しかも、好きな作家には応援したいから本屋で買いたい。
あと、専門書というのは高すぎる。発行部数が少なくて、仕方ないのは分かるが、万札が飛んでいくのは支払う時に心臓に悪い。
ただ、読み終えた本は部室に保管するので元は取ってると思うようにしている。
歩く元気もなく、足を引きずるように歩いていると、後ろから、いつも明るい光属性の丈一郎がやってきた。
「丈一郎は元気だな。委員会は終わったのか」
「はい。毎日元気です。週イチですけど、ミス研へに入って良かったです。楽しみが増えました」
今の桃夢には眩しすぎる。しかし、そんな丈一郎の表情に雲がかかる。
「でも、ごめんなさい。先週の宿題が、諸事情により出来なくて」
「まぁ、ゆるい部活だし、それは良いんだけど。悩みごとでもあるのか?」
前のこともあり、心配になって桃夢は聞く。
すると、後で言います。と暗い顔のまま部室に入っていった。
部室には全員揃っていて、トランプをしていた。
ババ抜きは、相手の心理を見るための練習らしい。
ということは、かなりの頻度で負ける桃夢は隠し事が出来ないということなのだろうか。
当てはまり過ぎていて自分にがっかりする。
「桃夢先生、今日は料理の課題の日よね。私は審査員として、判断させてもらうけど良いかな」
今日は、進行も夏葉にまかせてしまおう。
桃夢は入口の横にあるパイプイスに腰掛け「頼んだ」と、手を振る。
任せられた!とばかりに夏葉は笑顔で話し出す。
「では、発表に入ります!まず、渡瀬先輩からどうぞ!」
渡瀬がいきおいよく立ち上がる。
「ここに2つのゆで玉子があります。さあ、どっちを選び食べるのか選んでくれ?」
凪夜と春人がターゲットになったようだ。
だが、2人はどちらも選びたくないと顔に出ている。
しかし、先輩の言う事を断れないという究極の選択を迫られている。何ともかわいそうだ。
「それ、食べられるものなのか?本当に大丈夫か?」
桃夢は顧問として責任があるので、問題があれば止めなければならない。
「もちろんですとも。安心したまえ」
逃げられないと悟った春人はこっちにしようかな、と震えながら左を選ぶ。
見た所、同じようだが違いは何だろう。
2人同時に食べる。凪夜の動きだけが止まった。
どうやらハズレを引いたらしい。
「しょっぱ。水、取って」
渡瀬が近くにあったペットボトルを渡す。
「もし、この水が毒だったらどうする?でも、飲まない訳にはいかないだろう。毒入りの水を飲ませるために、玉子に塩をしみこませたのだよ」
凪夜が水をものすごいいきおいで飲み終える。
そもそも玉子を食べさせなきゃいけない時点で難しい。
そんな上手くいくかなぁ、と凪夜は小さくつぶやいている。
「じゃ、説明をお願いします」
夏葉が渡瀬にうながす。
渡瀬は、うなずき話し出す。
「コンビニで味付け玉子があるけど、その塩分をパワーアップさせたものなのである。卵殻には気孔を通して水分を通すから、殻の上からでも塩分が浸透する。まぁ、確かにやりすぎた感は否めないが」
凪夜は最近、塩分過多だな。
血圧が心配だ。あとで、気をつけるように言おう。
「確かに。次は大きなダメージをおった人、発表をお願いします」
夏葉は凪夜を見る。
「俺は春人と一緒に作ったので、まずは見て下さい」
紙皿の上に、何の変哲もないないクッキーが2つ置いてある。
「誰か食べてほしいんですけど」
さっきの仕返しなのか、凪夜が渡瀬をチラチラみる。
しかし、遠くを見ていて、食べようとしない。
気持ちはわかる。
「あのさ、これは、危険じゃないよ、な?」
凪夜は今は信用ないので、桃夢は春人に聞く。
「えー、どうかな。多分」
あやしいな。目が泳いでいる。
「俺、これ食べていいか?」
卵よりも、命の危険があるような気がする。
生徒に何かあっては大変だ。
桃夢は、生徒を守るため覚悟を決めて、クッキーを食べる。
凪夜の心配そうな顔が不安を煽ってくるが、気にせず、いきおいよく口に入れた。
「か、固い!」
歯が割れそうだ。なんとか食べられるし美味しいのだが石のように固い。
頑張って咀嚼し、何とか飲み込む。
そこで、一回休んでしまっては覚悟がぶれそうなので、もう1つのも一気に食べる。
「うわっ。何だ!」
口から何かドロっとしたものが出てきた。慌ててティッシュでふいてみると、赤い。血か?俺は死ぬのか?
「これは、ホワイトチョコレートに食紅を混ぜたもの?」
夏葉が、凪夜に聞いている。
うん。味は美味しい。
「なるほど。なかなかやるわね。口を負傷させた後、血を出させたように見せかけ、驚かす作戦ね」
夏葉が感心している。
しかし、これはミステリーなどではなく、罰ゲームでは、と思ったが教育者として耐えることにした。
舌が真っ赤だ。こんなになるのは、昔かき氷を食べて以来だな。
「次は、丈一郎くん。どう?」
ペッペッと舌を拭いてる場合じゃない。
丈一郎は何か問題を抱えてるのだ。
「すみません。まだ、俺の個人的な事なんですが、時間がなくて出来ませんでした」
深々と頭を下げている。
「どうしたの?また、お父さんとケンカでもした?」
先輩らしく、やさしい口調で夏葉が聞く。
「このままでは、店を発展させるための俺の計画が破綻してしまうんです。みなさん、何度も申し訳ないのですが、力を貸してください!」
どういう事だ?
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件
石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」
隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。
紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。
「ねえ、もっと凄いことしようよ」
そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。
表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。
もしもしお時間いいですか?
ベアりんぐ
ライト文芸
日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。
2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。
※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる