何でもない日の、謎な日常

伊東 丘多

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発表会

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 まだ、梅雨はあけないな。

 桃夢はどんよりとしている空を見て、雲の間から太陽を探す。
 雨が降っていると、学校へ登山する時に靴がドロドロになるから困るのだ。

 最近は、学習して登山用のゴツい長靴まで買ってしまった。経費で落ちないものだろうか。

 毎日タクシーで来るのも少ない給料では経済的に無理である。

 桃夢は小さい頃から、読んでいない本がないと落ち着かなくて、給料のほとんどを本に使ってしまう。
 しかも、好きな作家には応援したいから本屋で買いたい。
 あと、専門書というのは高すぎる。発行部数が少なくて、仕方ないのは分かるが、万札が飛んでいくのは支払う時に心臓に悪い。
 ただ、読み終えた本は部室に保管するので元は取ってると思うようにしている。

 歩く元気もなく、足を引きずるように歩いていると、後ろから、いつも明るい光属性の丈一郎がやってきた。

「丈一郎は元気だな。委員会は終わったのか」
「はい。毎日元気です。週イチですけど、ミス研へに入って良かったです。楽しみが増えました」

 今の桃夢には眩しすぎる。しかし、そんな丈一郎の表情に雲がかかる。

「でも、ごめんなさい。先週の宿題が、諸事情により出来なくて」
「まぁ、ゆるい部活だし、それは良いんだけど。悩みごとでもあるのか?」

 前のこともあり、心配になって桃夢は聞く。
 すると、後で言います。と暗い顔のまま部室に入っていった。

 部室には全員揃っていて、トランプをしていた。
 ババ抜きは、相手の心理を見るための練習らしい。
 ということは、かなりの頻度で負ける桃夢は隠し事が出来ないということなのだろうか。
 当てはまり過ぎていて自分にがっかりする。

「桃夢先生、今日は料理の課題の日よね。私は審査員として、判断させてもらうけど良いかな」

 今日は、進行も夏葉にまかせてしまおう。
 桃夢は入口の横にあるパイプイスに腰掛け「頼んだ」と、手を振る。

 任せられた!とばかりに夏葉は笑顔で話し出す。

「では、発表に入ります!まず、渡瀬先輩からどうぞ!」

 渡瀬がいきおいよく立ち上がる。

「ここに2つのゆで玉子があります。さあ、どっちを選び食べるのか選んでくれ?」

 凪夜と春人がターゲットになったようだ。
 だが、2人はどちらも選びたくないと顔に出ている。
 しかし、先輩の言う事を断れないという究極の選択を迫られている。何ともかわいそうだ。

「それ、食べられるものなのか?本当に大丈夫か?」

 桃夢は顧問として責任があるので、問題があれば止めなければならない。

「もちろんですとも。安心したまえ」

 逃げられないと悟った春人はこっちにしようかな、と震えながら左を選ぶ。
 見た所、同じようだが違いは何だろう。

 2人同時に食べる。凪夜の動きだけが止まった。
 どうやらハズレを引いたらしい。

「しょっぱ。水、取って」

 渡瀬が近くにあったペットボトルを渡す。

「もし、この水が毒だったらどうする?でも、飲まない訳にはいかないだろう。毒入りの水を飲ませるために、玉子に塩をしみこませたのだよ」

 凪夜が水をものすごいいきおいで飲み終える。
 そもそも玉子を食べさせなきゃいけない時点で難しい。
 そんな上手くいくかなぁ、と凪夜は小さくつぶやいている。

「じゃ、説明をお願いします」

 夏葉が渡瀬にうながす。
 渡瀬は、うなずき話し出す。

「コンビニで味付け玉子があるけど、その塩分をパワーアップさせたものなのである。卵殻には気孔を通して水分を通すから、殻の上からでも塩分が浸透する。まぁ、確かにやりすぎた感は否めないが」

 凪夜は最近、塩分過多だな。
 血圧が心配だ。あとで、気をつけるように言おう。

「確かに。次は大きなダメージをおった人、発表をお願いします」

 夏葉は凪夜を見る。

「俺は春人と一緒に作ったので、まずは見て下さい」

 紙皿の上に、何の変哲もないないクッキーが2つ置いてある。

「誰か食べてほしいんですけど」

 さっきの仕返しなのか、凪夜が渡瀬をチラチラみる。
 しかし、遠くを見ていて、食べようとしない。
 気持ちはわかる。

「あのさ、これは、危険じゃないよ、な?」

 凪夜は今は信用ないので、桃夢は春人に聞く。

「えー、どうかな。多分」

 あやしいな。目が泳いでいる。

「俺、これ食べていいか?」

 卵よりも、命の危険があるような気がする。
 生徒に何かあっては大変だ。
 桃夢は、生徒を守るため覚悟を決めて、クッキーを食べる。
 凪夜の心配そうな顔が不安を煽ってくるが、気にせず、いきおいよく口に入れた。

「か、固い!」

 歯が割れそうだ。なんとか食べられるし美味しいのだが石のように固い。
 頑張って咀嚼し、何とか飲み込む。

 そこで、一回休んでしまっては覚悟がぶれそうなので、もう1つのも一気に食べる。

「うわっ。何だ!」

 口から何かドロっとしたものが出てきた。慌ててティッシュでふいてみると、赤い。血か?俺は死ぬのか?

「これは、ホワイトチョコレートに食紅を混ぜたもの?」

 夏葉が、凪夜に聞いている。
 うん。味は美味しい。

「なるほど。なかなかやるわね。口を負傷させた後、血を出させたように見せかけ、驚かす作戦ね」

 夏葉が感心している。

 しかし、これはミステリーなどではなく、罰ゲームでは、と思ったが教育者として耐えることにした。

 舌が真っ赤だ。こんなになるのは、昔かき氷を食べて以来だな。

「次は、丈一郎くん。どう?」

 ペッペッと舌を拭いてる場合じゃない。
 丈一郎は何か問題を抱えてるのだ。

「すみません。まだ、俺の個人的な事なんですが、時間がなくて出来ませんでした」

 深々と頭を下げている。

「どうしたの?また、お父さんとケンカでもした?」

 先輩らしく、やさしい口調で夏葉が聞く。

「このままでは、店を発展させるための俺の計画が破綻してしまうんです。みなさん、何度も申し訳ないのですが、力を貸してください!」

 どういう事だ?

















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