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厚い企画書

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 近藤さんの解決策とやらが気になったと桃夢は、次の学校へ行く日まで待てず、午後に店まで来てしまった。

 塾の講義が始まる前の、休憩時間に話を聞きたい。
 そう思って、桃夢の職場である塾から、全速力で走ってきたのだ。

「はぁはぁ……」

 1時間しか休み時間はない。

 たが、登山の成果を出たのか、15分走ったくらいでは、そんなには息が切れない自分に驚く。

「なかなか、やるじゃないか、俺」

 マラソンでも始めるかと思ったが、石川先生の辞めときなさいという天の声が聞こえ、一瞬であきらめた。
 店先の少し色褪せた料理のサンプルを見つつ、「すみませーん」と、中に声を掛ける。

「はーい!いらっしゃいませ~」

 パタパタとかわいい大仏柄のエプロンをつけた女性が小走りにくる。
 見たことがない女性だ。

「あの、私、丈一郎くんの学校に補習講師している篠田桃夢という者ですが、丈一郎くんはご在宅でしょうか?」

 こういう時、学校の教師ではないので、説明が難しい。

「あれっ?桃夢先生?」

 丁度、丈一郎が帰ってきていたようだ。助かった。

「丈一郎くん!待ってたよ」

 いきおいよく肩を組み、店の外へ連れ出しながら小声で昨日の夜に問題なかったか聞く。

 何かやれることであれば、手伝いたい。

「はい。なんとか、店は続けられそうです」

 と言いつつ、中にいた女性を紹介してくれる。

「香苗さんです。おじさんの娘さんで、パートとして俺が来る前の時間に、働いてくれることになったんです。本当に助かっています」
「こちらこそ、働けて嬉しいの。今後とも、よろしくお願いします。」

 香苗さんが、可愛らしくペコっと頭を下げる。

 おじさんとは、守衛の近藤さんの娘さんか。あぁ、確かにふんわりとした所におもかげがある。
 解決策とは、この事だったのか。確かに、客が増えても負担は増えないな。
 丈一郎は見て下さい。と、『企画書』と大きく書いてある分厚い冊子をカバンから取り出す。

「お客さんがたくさん入ってくれるように、食事メニューを考え直しました。土地のものを取り入れたり、土産も地元のハンドメイドを趣味としてる人に頼んで独自性を出すようにしたんです」

 まだまだですけど、と言いながら、成果もあり自信はあるみたいだ。

「今度、パワーアップしたけんちん汁も食べに来てください。あっとおどろく仕掛けがあるんですよ」

 うんうん。良かったな、と思いながら聞いていたら、休憩時間の終了まであと10分しかない事に気づく。

「もう、仕事に戻らないと。今度、良かったならミス研にまた来てくれよ!」

 そう行って、全速力で走りかけると、丈一郎が呼び止めた。

「はい。俺、店が定休日の火曜日に、週に一回だけミス研に入ることに決めました。これからも、よろしくお願いします!」

 そうか、みんなも喜ぶだろう。
 桃夢は、まだまだ一緒にいられることに嬉しくなって振り返ってさけんだ。

「ああ、よろしくな!」


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