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 暇だ。

 まだ生徒たちは帰りの会をしていて、補習時間までは30分もある。
 桃夢は、芝生に寝転び、ひとつあくびをした。
 どうやら体力レベルがアップして登山する時間が早くなったらしい。

 学校までの登山する時に必ず5回は切り株に座って休んでいたのが、2回に減った。
 筋肉は裏切らないという、誰かの名言は本当だったのだ。
 少し、前よりしっかりとした太ももをみて、ニヤリとする。

「大山ぐらい登りに行くか!」

 ここで近くの初心者向けの山を選ぶのが、桃夢が大物になれない理由だろう。

「辞めときなさい。筋肉痛で学校に来れなくなったらどうするの?」

 寝っ転がった桃夢の頭上に声が聞こえる。

「石川先生。こんにちは」

 頭に葉っぱをつけながら、起き上がり丁寧に挨拶をする。
 テキパキとした口調の女性は英語を担当している、この学校の正規の先生だ。

「はい。こんにちは。篠田先生。大山だって油断すると危険な山ですよ」

 石川先生とは、ここへ初めてきた時からなので5~6年前からの付き合いだ。
 桃夢がどれだけ不摂生な生活をしているのか知っている。
 口調も粗野だしだらしない自分にも優しくしてくれる人格者だ。

「はい。すみません。無理なのでケーブルカーを使って豆腐食べて帰って来ることにします」

 素直にあやまるにこした。
 ついでに、大山の方に向かって軽んじてすみません、と軽く頭を下げておく。

「ここの芝生は質が良いですよね。一緒に寝転びませんか?」

 桃夢は本気とも冗談ともとれない口調で話しかける。
 大の大人が、二人寝転んでいる姿は、生徒たちの笑いものになるだろう。
 断られるに決まっているのに、あまりの気持ちよさに誘ってしまった。

 頭上には鳥が鳴いて、クルクル回っている。

 このまま寝そうだが、そろそろ授業の時間だ。
 桃夢は、自分の顔をパァーンと叩き、意識をしっかりさせる。
 石川先生は飽きれて、桃夢の髪の葉っぱを、ポンポンッとはたいてくれる。

「もう、何をしているんですか?それは、そうと。夏休み頃に産休を頂くので、篠田先生にも話しておこうかと」

 そう言われて、石川先生のお腹を見る。もう、出てきてもおかしくない大きさだ。

「順調そうですね。赤ちゃん」
「えぇ、そうなの。不安だったけどここまでくれば安心だわ。」

 そう言って、お腹をさする。

「代理の先生は決まったんですか?」
「決まったみたい。夏休み後には来てくれるって学園長が言ってたわ。篠田先生も、教員免許持ってるんだから、代わりに代理教員してくれても良かったのよ。うち、私立だし」

 いやいやいや、本業があるんで。と、拒否する。

「そうよね。分かったわ。篠田先生とは週に2回しか会えないものね。少しゆっくり話せてよかった。あら。時間大丈夫?」

 まずい!チャイムがなっている。
 桃夢は、荷物をまとめて教室へ走り出した。

「それにしても、さっきは何とか間に合って良かったなぁ」

 補習の時間が終わりミス研へ向かう。

「みんな、元気かー?」

 部室の中は、海外や国内の小説やらアニメのDVDやら資料やら、とにかく色んな物が置いてあり物がとにかく多い。
 そして、相変らず片付ける人はこの中にいない。

「こんにちはー!桃夢先生!」
「こんにちはー」

 返事を元気にくれるが、その元気を片付けには、まわせないのだろうか。

 とりあえず、床に落ちている雑誌だけでも片付けないと、と桃夢は、よいしょと折れているところを伸ばしつつ、重ねていく。

 その中に、ミス研にはめずらしい種類の雑誌がまぎれこんでいるのに気付いた。

「あれ?この鎌倉の情報誌。ここの生徒じゃないのか?」

 表紙に、ここの制服の生徒が笑顔で写真に写っている。
 中の文章ではインタビューを受けているようだ。ネクタイの色は青だから1年生か。

 近くにいた凪夜と春人の1年生に、この生徒を知ってるか聞いてみる。2人は顔を見合わせ、あぁ、あの生徒か。という、何とも言えない顔をする。何か含みがあるみたいだ。

「この学校にはいないと思うが、もしかして不良か?こんな好青年に見えるのに。」

 すると、2人は違う違う、と手を横に振る。

近藤丈一郎こんどう じょういちろうだよ。鎌倉のハイキングが趣味らしくてさ。明るくて良い性格だけど。」

 春人がポツポツ喋り始める。

「クラスは一団となって仲良くしなくちゃならないって押し付けてくる。俺とは性格がが合わない人間」

 続いて、凪夜がハッキリと一刀両断する。

「凪夜は、1人が好きだからね。」

 桃夢は、うんうんと頷く。凪夜はあまり、良い印象がないのだろうか、もう聞かないほうが平和かもしれない。

「分かった。じゃ、先に部活を始めていて。俺、この雑誌読んでから参加するから」

 渡瀬と夏葉が、それでも顧問かよ、と見てくるが、気になるのだからしょうがない。

 床にあった、毒のある植物図鑑をテーブルにバサッと置く。

「これ読んで、何かトリック作ってて。後で発表だからな?」

 一応、お題は出しておこう。やさしい顧問である。

「ふーむ。鎌倉にはハイキングコースがたくさんあるんだなぁ」

 地元に住んでいるが、全く興味がないので、行ったことはない。
 
 近藤丈一郎。高校1年生。
 鎌倉のハイキングコースをボランティアでガイドもしてるのか。

嫌う理由など、まったく見つからない好青年の写真を、ぼんやりと見つめた。





















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