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色づく世界

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その後あたたかい家族に囲まれて、すくすくと育った。
まだ前世と同じように、世界は無意味に感じたが、豊かな暮らしは案外、心地が良かった。
容姿は一緒なので、転生ではなく、話した通り年齢操作した転移なのだろう。
私の目は光に当たると赤紫色っぽくなるので、それを隠すために厚い眼鏡をする必要がなくなった。
あと、日本の家族には感謝はしているが、どこかよそよそしく、親という感じがしなかった。
そんな風に思っている娘は、両親も嫌だったろう。
ちゃんと本音を話したことはない。
別れの挨拶くらいは、したほうが良かったとは思うが。
でも、この世界で育ててくれた伯爵家の両親はとても優しい。
神殿に捨てられていたという設定のエイルを、ちゃんと育ててくれた。
他の兄弟も、血はつながっていないと分かっているのに本当の家族として接してくれる。

そして3才の時に父親と王城に遊びに行った時の事、たまたま同い年の子供が集められていて、そこで、アズールとあった。
普通の幼児なら記憶が残らない時期だから、きっと向こうは忘れているだろう。
でも私はアズールと目があった瞬間、この世界の未来と、彼と私、の運命を感じた。
具体的な事は何もわからない。
でも、確かにその瞬間、世界に生きる意味を見つけて、世界が色づいて見えたのだ。
きっと、昔から思い続けていた、生きなければならないという気持ちは、アズールのためだったと。

慌てて影に隠れて、石を握りしめ、女神にアズールについて聞く。
すると、嬉しそうな声が石から聞こえた。
「出会えた?でも、まだ早いかな。絶対にまた合うから、ゆっくりでも大丈夫よ。」
どうやら女神様には、すべて未来が視えているかのようだ。
それから魔法学院の入学式までアズールには会うことは無かった。
でも、王子であるアズールの話は頻繁に入ってくるし、元気でいるのがわかるだけで、心が嬉しかった。

ちなみに、いちいち女神様と呼ぶのは面倒だと学園に入る頃に気いて、呼びやすい名を勝手につけた。
軽い気持ちで。
でも、その名前をつけた時にルーンはすごく嬉しい顔をしてくれた。その笑顔を見て、名前をつけて良かったなって思う。


そして、今に至るのである。
入学式で出会った13才から交友を深め、3年間かけて仲良くなった。
お互いに挙動不審なくらい意識をしていたのは、お互いに分かっていた。
もう全て通じ合ってきる気がして、あえて言葉にする必要はない。
でも、もう離れたくない、という気持ちは一緒だったと思う。

私の転生のことや女神について、何も話せないのは心苦しいけれど。
「………アズールと二人っきりってことは、きっと、そうよね。」
空を飛ぶ鳥を見ながら、小さくつぶやく。
ぐだぐだと考えてもしょうがないから、気になったことは行動あるのみである。
隣で頑張って魔力を出そうとしては、落胆しているアズールに声を掛ける。
「ごめん。近くを見てくるから、ここにいてね。」
「あ、ああ。気をつけて。」
「うん。すぐ戻るから!」
エイルは、そう言ってアズールの姿が見えなくなるまで走り、木の陰に隠れる。
そして胸にかけてある石に問いかけた。

「ルーンが何かしたんでしょ?」
「あ、ばれちゃった?」
「当たり前。今回はどういうつもり?」
「前に教えてくれたじゃない。日本の文化。〇〇しなきゃ、出られない部屋とか言うの。あれをしてみたの。時間つぶしのために。」
実際にする女神がいるのだろうか。
あれは想像だから楽しいのだ。
日本のバラエティについてルーンは詳しすぎる。

「時間つぶし?早く出してよ。会議もあるし。アズールも何か用事があると思うわ。」
「大丈夫よ。用事が終わったらすぐ出られるから。」
こっちの用事は無視で、ルーンの用事のために閉じ込められなくてはいけないのか。
「せめて、何のためにしたのか教えて?」
理由は分かる気もするが、ちゃんと聞いておきたい。
こうなったら、頑としてでも曲げないルーンを知ってるから譲渡案を出す。

「忘れたの?この世界に魔物が現れるって。」
ちょっと、忘れていました。
13才の時にアズールと会ったその夜、使命の内容について聞いたのだ。
ただ現実味がなくて、わざと忘れていた。
「ちょっとだけ、忘れてた。」
「まず、アズールと恋人になるのが重要なの。この機会になんとかしよう?」
それと魔物出現と、どうして関係があるのだろうか。
聞いても、ややこしいらしく説明できないらしい。
「でも、もう一緒にいられるだけで幸せだし。アズールも婚約を全部断ってるって言うし。きっかけがないっていうか。」
しどろもどろで言い訳をする。

「待てども待てども、お互いに告白しないじゃない。アズールには断れない婚約者が来てるの。その結果に魔王が出てくるのよ。」
石からさけぶ声がする。
「そんな婚約者なんて聞いてないですけど。え?魔王?何それ。」
「私だって、予想できなかったのよ。」
何か、急に未来改変でもあったのだろうか。
しかし、エイルには、いきなりどうこうする自信はないので負けじと反論した。
「まだ、学生だし。今が1番楽しいの。」
「エイル。ともかく恋人にはならなくても良いから、今は落ち着くまで、ここに居て欲しいの。たまに、暇つぶしに試練を出しに来るから。」
ルーンのまれにみる真剣さに、しぶしぶうなずく。
「よくわからないけど、必要なことなのね。」
「もちろん。あ、アズールがこっちに来る。またね!」
シュッの姿を消す。
ルーンが世界に現れる事は、絶対に駄目だという。
何故かアズールなら良いけど、まだ早いらしい。
王子だからだろうか。
言っている事が良くわからない事が多いが、ルーンにも悩みが色々あるのだろう。
「何か見つかったか?遅いから心配した。」 
心配そうな顔でこっちに走ってくる。
「ううん。何もなかった。他のところに行ってみよう?」



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