誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多

文字の大きさ
上 下
64 / 65
その後

誰か裏切り者が 12

しおりを挟む
 やっぱり睡眠は大切だ。

 脳疲労自体は魔法で何とかなるような気もするが、惰眠をむさぼるのは別次元で心の休養だと思う。
 忙しい朝が過ぎ、誰もいなくなった家で、ゴロゴロと寝転がりながら至福の時間でをすごす。

 睡眠と覚醒の間を行ったりきたりして幸せな気分でいたら、外がざわざわとうるさくて覚醒の方へ一気に傾いてしまった。

 グランは傾きを戻すのを諦めて、薄目を開けながら外の様子を伺う。
 フォンシルの送迎会をしているのかと思ったが、朝早く出ると行っていたから違うだろう。
 窓から入る日射しの強さから推察すると、もう昼頃だ。

「なんだろう。……魔物でも入ってきたのなら退治しないとなぁ」

 グランは何気なくつぶやくが、それはないと分かっている。
 今、村には用心棒がたくさんいる。
 森の魔物くらいなら、ユーディアやエンジュだって倒せるはずだ。

 昨日のシワシワの服のまま、あくびをしつつ玄関を出ると、何故か家のまわりに人がたくさん集まっている。
 村人だけじゃない。
 中には、あきらかに高価そうな服を来ている貴族らしい人もいるようだ。

「ど、どういう事?」

 状況が飲み込めない。

 自分の身なりを見て、慌てて玄関をバタンと閉める。
 さすがに人前に出られる格好じゃない。

 新しい服に着替えながら、フォンシルがこの状態の何かを知ってるかもしれないと思念を飛ばすが、返事は来ない。

 ……もしかして、

「僕が、原因?」

 いや、それはないか。
 加護は消えても、清廉潔白を心がけている。
 後ろめたい人生は送っていないはずだ。

 …………うん。背負ってしまった反逆罪は、自分の中では無かったことにしよう。
 昔の黒歴史を速やかに消去する。

「考えても仕方ないな!堂々と出ていって、誰かに理由を聞こう」

 たいしたことじゃないかもしれない。

 バンッと、玄関を開けたら村長の長男であるチャロムが座っていた。
「あ。ごめん。ぶつからなかった?」
「グラン!やっと、起きてくれた。お前が魔法で山と川の通路を作ってくれたんだって?母さんは教えてくれないし、話を聞かせろよ」

 …………なるほど。理解した。一晩でバレてたんだ。

 いや、そもそも計画に無理があった。
 手作り風にしたとはいえ、一晩で出来やしないだろう。
 でも、グランだと判明するのには早すぎやしないだろうか。

 ………情報を集めるまで、まだ家の塀に隠れて出ないほうが良いだろう。

「おはよう。グランっ!!」
「良く眠れた?」

「あっ!おはよう。ユーディア、エンジュ」

 庭で水をあげていた姉妹が、側によってきたので、手招きしチャロムと4人で隠れる。
 うん。安心する声だ。

「ぐっすり、眠ってたねぇ」
「おなかすいてない?」

 にこにこと話しながら、ユーディアは寝癖を直してくれて、エンジュはよだれの後を拭いてくれている。
 そうだ。
 髪をとかして、顔を洗うのを忘れた。

 なんて、優しい姉たちなのだろう。

「何か、あったの?」

「そりゃ、あったよ。朝起きたら人がいっぱいいてビックリー」
「そうそう。橋にある看板の製作者の所にグランの名前が大きく書かれてるんだもん」

「はあっ!?」

 家の外に聴こえるくらい、大声で叫んでしまった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

処理中です...