誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多

文字の大きさ
上 下
35 / 65

隠された事実 ①

しおりを挟む
 グランとフォンシル、護衛のピーターとの三人での旅が始まる。

 予定だったが………、

「そろそろ、出てきて良いですよ?」

 フォンシルが、前を向きながら、にこやかに声を放つ。

 ピーターは、何かに気付いたようにキョロキョロとあたりを見回す。
 グランは、そのまま様子を見ようとピーターを引っ張り、物陰に隠れる。

「じゃあ、………こちらから、行きましょうか?」
 フォンシルが、そう言いながら魔力を手のひらに集中させると、一気に不穏な空気になる。

 その魔力に反発するように、背後から防御結界と、鋭い魔力の槍がこちらを狙う。
 ただ、それは攻撃というよりは相殺の為に起動させているらしく、殺意は感じられない。
 そもそもフォンシルは、敵意を持たれづらいジャスキル石の加護を持っているので、そこまで思いが強くない場合は攻撃されない。

 魔力は、体内のエネルギーで作られるため、自分の感情なども入り込み、どのような方法で戦闘をしかけてくるのか必然的に相手に伝わる。
 上級者ともなれば、感情さえもコントロール出来るようになるらしいが、きっと彼女は違う。
 本当に戦う意志はないようだ。
 だから、グランは黙ってお互いがどう出るかを待った。

「………っ!!!」
「いくよ」

 フォンシルは、背後にいる存在に対して、一気に光の粒を包むように魔力を飛ばす。

 その存在は、それを跳ね除け闇の槍で一網打尽にするが、全て避けきる事は出来ず軽くダメージを受ける。

「…きゃっ!!」
「さらに、光の剣」

 フォンシルのベージュの優しい色合いの髪が、フワッと浮き上がり、魔力で出来た剣をいくつも空中へ配置する。

 これには慌てたようで、その存在が声をついに出した。

「ま、まってよ?私なの分かってるでしょ?こっちに、戦闘の意思はないよっ!!」
「こそこそとするのは、好ましい行動じゃない」
「ごめん。フォンシル」
「分かれば、良いよ。アダマゼイン」

 フッと、険悪な雰囲気がなくなり、2人は地上で向かい合った。

「……フォンシル様、アダマゼインとお知り合いだったのですね」

 アダマゼインの気配は感じてはいたが、フォンシルが魔王の事を知っているかは不明だったので、グランは、あえて無視をしていた。

「いや。知り合いというよりかは王族と魔族という、運命共同体のようなものだ。魔王などいなくても良いが、居ないと魔物の管理ができない。だから、仕方なく昔から仲良くしている」

 おおっと。
 これは、変な事をいうと良くないな。

 確かに、人間が魔物を排除しようとしても、その反対でも、大きな犠牲者が出てしまうだろう。
 むしろ運命共同体というのは、フォンシルの魔王に対する最大の賛辞かもしれない。

 だがアダマゼインはそうは受け取らなかったようで、頬を膨らませている。

「それ、魔王ハラスメント!まおハラだよー。私だって、頑張ってるのに」
「……そうだな。居なくても良いというのは言い過ぎた。必要悪だ」
「それも、悪口!魔物からしたら、人間だって悪者だからね。……それより、フォンシル、女性になったんだぁ。あんまり外見は変わらないけど、雰囲気が柔らかくなった気がする」

 そう言いながら、女性に変化した体をペタペタと触っている。

 これこそ、ハラスメントじゃないだろうか。
 だが全くフォンシルは気にしないようで、抵抗せずにさわらせている。

「あぁ。今の所、取り立てて変化はないが、何かが違うだろうか?」
「うん。違う。でも、女の子も似合ってるよ」
「……必要だったからで、別にどっちだって私は私だ。何も変わらない」
 さわられても何も言わないのに、何故か褒められたら顔を少し赤くし、そっぽを向いた。

「……で?アダマゼインは、何で一緒に付いてきたんですか?」

 グランは、そこで話が途切れたのを見計らい、ここぞとばかりに詰め寄る。

「ふふふ。見つかっちゃったらしょうがない」
「もしかして、この旅についてくると言う事は、アルフについて知ってたりします?……僕の父かもしれないと、言うことも」
「知ってるも何も……、いや、どうかしら」

 人間不信、いや、魔王不信だ。

「最初から、あやしかったんです。王都にいるはずのアルフがどうして旅に出てダンジョンにいるのか?その近くに魔王城があって、そこの魔王がアルフの息子であろう僕の前に現れたのか。しかも、旅の直後に……そんな偶然、あります?」

 正直に答えてくれるか分からないが、聞かないと何も始まらない。

「魔王は嘘つき、よ?」
「あなたはユーディアを守ってくれました。だから、聞いてます」

「じゃ、何も解決にはならないけど、説明をするわ。……まず、これだけは、言っておく。私は味方」

 という事は、どこかに敵がいるのだろうか。

 それも、ダンジョンにいるような大きな魔力を持った何かが……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

異世界で海賊始めました

*ファタル*
ファンタジー
大学に登校する途中でマンホール(たぶん)の穴に落ちた俺、斉藤一(さいとうはじめ)。このまま死ぬのかと思ったものの、落ちた先には赤い海が広っていた。見知らぬ場所でいきなり溺れかけるが、たまたま通りかかった海賊船ヴァルヴァンク号に拾われ、見習いとして生活することになる。俺、何でか船長に気に入られてんだよなあ。…普通の生活したいんだけど、降ろしてくれません?あ、びーえるじゃないんで。俺、ノーマルなんで、そこんとこよろしく。 /思い付いたのでアルファポリスさんで書かせてもらうことにしました。楽しんでもらえるよう頑張ります。更新は不定期で、1話1000字程度です。見習い時代書き終わりました。船の内部構造については、勉強した上で勝手に創作しております。船の構造と矛盾する部分もあるかもしれませんが、魔法のある世界なので、魔法によって可能になってる部分があります。ご了承ください。

処理中です...