誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多

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趣味 ⑥

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「グラン。この牢屋を借りるぞ」

 この場所を?
 確かに、森よりは良いが牢屋は牢屋だ。
 皇太子殿下が入る場所ではない。
 そう思うが、グランが戸惑っている間にも、フォンシルは誰も入ってこないように幾重にも結界を張りめぐらす。

「それは良いですけど、皇太子殿下が入るには汚い所では?」
「シーツは清潔だ。それに閉鎖されていて窓もなく、繊細な魔法陣を構築するのにちょうど良い。他の影響を阻害できる」

 どんな、儀式なんだろうか。
 王家最大の秘術。
 性転換魔法。
 ……とても興味がある!

「あの、ここで見てても良いですか?」
「………?」
「ちょっとした、勉強のために」
「そうか。確かにお前がいた方が良いかもな」
「殿下! それは……」

 ずっと黙っていたピーターが口を挟む。

「グランなら良いかと思ったが、ダメだと思うか?」

 ピーターは、深くうなずき返す。
 フォンシルは少し思案した後、顔を横に振る。

「すまないが、外で待っていてくれ」

 確かに、秘術なのだからそれも当然だろうと納得する。

「分かりました。下がってます」

「では、呼ぶまで中に入らないでくれ。万が一、気が散って失敗すると死ぬ」
「えっ? そんな危険なんですか?」
「自分で自分の細胞を作り変えるからな。ここには宮廷魔法師の補佐もいないし」

 なら、何故、今ここでやろうとするのか。

「……大人しく、外で待ってます」
「頼む」

 ピーターが中が見えないように視界を遮断する。
 こっちを気にしながらもフォンシルの後を追い、一緒に入って行った。

 牢屋は魔法でモヤのような帳はかかっているので、中は見えないが、音声は遮断されていないため、邪魔にならないように静かにする。

 目を閉じて、魔力を感知する。
 少しでも、感覚を共有したいからだ。
 すると、徐々に魔法陣から浮き出る魔力を構築する仕組みが分かってきた。

「うん。……理解できるな」

 自分もこの魔法を使えるような気がする。
 本能的なものだが。

 かすかに漏れ出す魔力からイメージを取り出せるのだ。
 もしかして、僕の両親は王家に連なる者なのかもしれない。

 ガタンッ!!

『……っ…………!!』

 しばらく静かだと思っていたら、中からベッドが動く音と叫び声が聞こえてきた。
 フォンシルの細胞が変化を遂げようとしているのか。
 ピーターの声も動揺している。

『殿下っ! 魔力が暴走しています!』
『……っ……ムリだ!! おさえきれない。グラン! 結界をといて中に入ってくれ!』

 極限までコントロールをしていた反動がきたようだ。
 グランの魔法力は王族と同等である見抜いていたのか、この幾重にもかかった結界を破ってこい、と力強く言う。

 確かにグランにとっては、これくらい造作もない。
 スッと手をあげ、結界の切れ目を作り中に入る。

 すぐさま、今にも結界を出そうだった魔力の破片を霧散させ、不快でややこしい力を最適化させていく。

 目の前のモヤを消すと空気がクリアになった。
 奥へ走りフォンシルの無事を確認しようと、グランは近づく。
 すると、べッドの上でフォンシルが苦しそうにシーツを掴み、必死に自分の魔力抑え込んでいた
 ピーターは、必死に耐えてはいるが自分の限界らしく、溢れ出る魔力を制御出来ていない。

「グラン!! きてくれ!」

 フォンシルが、叫んだ。
 
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